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戦いの果てに

『ムジーナ、なんというかありがとう』


 神に礼を言われる。こいつも自分の思い通りにいかない、もどかしい展開に疲れていたんだろう。


『気にすんなよ。まぁ、なんというか、お互い頑張ろうや』


 和解する。言い合っていたことも今となっては思い出話だ。


『ところでムジーナ。これから転生者を探しに行くって言ってたんだが』


 神とも意見が同調したらしい。


『分かってるよ。俺もそのつもりだった』


 心の中で堅い握手を交わした。





 ムジーナに指示を出す。夜は全然言うことを聞いてくれなかったが、今日は従順だった。


 ユーナを連れてギルドへ。冒険者登録を済ませ都の外に出た。


「ユーナとも戦闘経験を積むって事なんですよね?」


『ん? そ、そういうこと』


「ヤーナさんはなんであんなに離れているんですか?」


 こちらの指示通りに隊列を組んでもらう。いちいちムジーナは疑問をぶつけてきた。


『そ、それはあれだ。あの、魔法の距離を伸ばして命中率を上げる訓練……そうそう。そのためだ。遠方射撃が魔法の基本だからな』


「なるほど……」


 ムジーナを上手く説得できたみたいだ。





 都を出てしばらくするとモンスターの群れに遭う。


 おっさんは後方待機をしてもらい、ムジーナとユーナちゃんに戦ってもらった。

 訓練という名目もあるしね。


「たぁっ!」


 ユーナちゃんは襲い来るモンスターを軽やかにかわして急所を狙う。巫女が舞を見せるような体捌きだ。


『ユーナも強くなってるな』


『ムジーナもだよ』


 ムジーナも辿々しい動きだがモンスターに対抗できている。

 時々攻撃を受けるが、怯まず応戦していた。





「ムジーナ、見違えたね!」


 戦闘が終わるとユーナちゃんがムジーナの元に駆け寄る。


「あぅっ!」


 レベルアップが始まった。


「ォゥーッ!」


 遠くの方で変な鳴き声が聞こえるが、前もって指示していたフォーメーションのお陰で気にならない。


「やっ、み、見ないで……」


 ムジーナが顔を覆い赤面する。

 ユーナちゃんもその姿を見て頬を赤らめるが、しっかりとレベルアップの様を凝視していた。


『これはけしからん……』


 全くもってけしからん状況だが、肝心のイベントは起こらなかった。






『ムジーナ、これは流石におかしい』


『うん。なぜだ?』


 あれから何度か戦闘が起こった。数を重ねるうちに連携は上手く機能し、ムジーナもオットセイもレベルを上げていく。


 しかし


『なぜユーナはレベルが上がらないんだ?』


 一向にユーナちゃんはレベルが上がらなかった。


『いくらなんでもおかしい。自分より強い敵と戦わないとレベルが上がらないはずなのに』


『ユーナちゃんがレベルが上がりすぎてるってことか?』


『あぁ。しかしそれは不可能だ。自分の敵わない敵は当たり前だが倒せない。ユーナよりレベルの高いやつはあの村にいないし』


 また神の予期せぬことが起こっているらしい。


『こちらで成長する余地は残っている筈だ』





『ムジーナ、ユーナちゃんがレベルが上がった理由を聞いてもらえないか?』


「え? あ、はい。ちょっとユーナ……」


 ムジーナに代弁してもらう。これは困った。ユーナちゃんのレベルアップはなんとしても拝みたい。そのために旅立ちを遅らせたんだ。


「えっ? 精霊様が聞いてるの? あの、聞こえますか? 精霊様」


『聞こえてるよ! ユーナちゃん!』


『ユーナ! ユーナ! ユーナ!』


「わっ! また! き、聞こえてるって」


「精霊様が以前マスケットというものを作られましたよね?」


『えっ?』


『あっ』


「あの武器のお陰で危険なモンスターも簡単に倒せるようになったんです」


『しまった……性能をよくしすぎたせいで……』


『なー! なんだよ! 神のせいじゃねーか!』


「ムジーナが心配だったので私だけでもムジーナを助けれるだけ強くなりたいと思い、なんとかここまでレベルが上がりました」


『余計な事をー!』


 ユーナちゃんの献身さには感動するが、どうやら俺たちが墓穴を掘ったようだ。





『なんで余計な事をしちゃうかなー』


『それはこっちの台詞だ! なんの楽しみもないじゃないか!』


『だから僕は口を酸っぱくして女の子を入れろって言ったんだ! もういい加減ゴリラの鳴き声は聞きたくないよ!』


『それはこっちも同じだ!』


 神との口論が再燃する。


「精霊様は何か言ってる?」


「うーん、なんかまた喧嘩してるみたいだから聞かないようにしてる」


『ったく……。もういいよ。落ち着いたら旅に出よう』


『……そうだな』


『なんかいろいろあったけど、ムジーナには感謝しているんだよ』


『神……』


 少しずつ神との関係は良くなっているようだ。


『大丈夫だ、神。旅をすれば強いモンスターも出てくるだろ。今後の楽しみって事で気を取り直そうぜ』


『そうだな』


『ムジーナ、帰るぞ』


(あ、話し合い終わりました?)


『また声を消しやがって』


 ムジーナにおっさんたちを呼んでもらい、代わりに指示を出してもらう。


『今日も取り敢えず休んで明日から旅になると思う。昨日買い忘れた食糧なんかもこれから用意してくれ』


「はい」


『あと、今晩こそはちゃんとユーナちゃんの相手をするんだぞ』


「またそんなことを」


『いや、これは神の命令だぞ。はは、大丈夫。ユーナちゃんもムジーナに気が……』


『……っ!』


「何?!」


 談笑していると突然禍々しい気を感じとる。

 急に空が雲に覆われ、辺りが暗くなった。


『なんだこれは……』


 神も状況に混乱している。


「やぁ」


 突然そばで声が上がる。いつの間にか男が立っていた。






「くっ!」


 皆が一斉に跳ねてその場から離れる。

 モトアキなんかとは比べ物にならない気だ。ムジーナ達では太刀打ちできないと判断する。


『神、なんだこいつは……』


『わからない……この力は』


「やあ。魔王だよ」


『……!』


 この状況で最悪の敵が登場したらしい。


『なぜここに魔王が……』


「なぜって、この世界を終わらせにさ」


『ぼ、僕の世界を?』


『待て神! こいつはおかしい!』


「おかしいって、何が?」


 なんでこいつには聞こえているんだ?


『こいつ、俺たちの声が聞こえている!』





「あぁ、そうか。まだ君たちもその気だったんだね」


 魔王と自称した男は手を広げ説明を始める。

 無防備な構えだが体から溢れ出す気におっさんたちも身動きがとれない。


「君も頑張ってくれたんだけどね。この世界は僕が創ったものなんだよ」


『何!』


「君もその気になってくれたんだけどね。もういいかなって思ってさ」


「む、ムジーナ……魔王は何を言っているんだ?」


 おっさんがやっとの事で声を出す。


「わ、わからないです……でも神様と会話しています……この世界の事を……」


『で、でたらめを! この世界は僕の物だ! 他の神に邪魔をされているがそいつらがいなくなったら……』


「ふふっ、そうだね。モトアキを出したら面白いくらいそれを信じこんでたよね」


『なに?』


「根本的な事さ。なんで最序盤に気付かなかったのかな。自分が動かすべきキャラクターが思い通りにいかない時点で自分も踊らされてるってわかんないかな」


『……!』


 神は反論を止めてしまった。





「自分が創造主のつもりになって不都合から目を背けてたみたいだけど」


 魔王は続ける。


「君も同じ穴のむじなだったって事だよ……ふふっ。あはは!」


『くっ……』


「はははは……笑えよムジーナ」


『う、うるさい!』


『ムジーナ、俺と代われるか? お前たちじゃ無理だ! 俺がなんとかしてやる』


 神と魔王は話を続けているが今のうちになんとか動けるようになっておきたい。


「えっ、は、はい!」


『ムジーナ、待て!』


『何?』


『この男の口車に乗るな。ここは僕の世界だ。魔王なら今ここで倒すのはよくない……』


「まだ物語を続けたいから……かい? もういいんだって」


『なにっ!』


「ちょっと前に始めたんだけどさ、もう流行の過ぎた事だったんだよね。いつまでもこれにしがみついてる気は無いんだ」


 理解を越えた話が続く。魔王は気だるそうに手を向けユーナちゃんに魔法を放つ。


「きゃっ!」


 攻撃を受けたユーナちゃんは一撃で倒れてしまった。


「な、何が起こったんだ……何も見えなかった……」


「ゆ、ユーナ!」


 ダメだ。早く入れ替わらなければ。躊躇している暇はない。ユーナちゃんも早く回復させないといけない。


『ムジーナ! 早く俺と代われ!』


『その必要はない! こいつのいうことは無視しろ!』


「もう、聞き分けがないなぁ。僕はこれからいなくなるから、その後好きなように話を作っていいから」


 魔王が再びユーナちゃんに手を向ける。


『やめろ!』


「やめろ! ユーナに手を出すな!」


 ムジーナが叫ぶとその手に魔法が凝縮されていく。


 小さな炎だがムジーナが初めて魔法を使えた。


「あ、これ……魔法」


『ムジーナ! 気を抜くな!』


 突然魔法が使えたことでムジーナの気が緩む。その瞬間を魔王は見逃さなかった。


「よしきた!」


 ユーナちゃんに向けていた手をムジーナへ変え、禍々しい気を込めた魔法をムジーナの手へ放った。


「し、しまっ……」


『ムジーナ!』


 ムジーナの掌で燻っていた炎は魔王の魔法を受けとてつもない火柱を上げる。

 その炎はムジーナを巻き込み、殺すだけの十分な火力だったが、


「う、あ……あれ?」


 ただ煌々と掌の上で踊っていた。


「来い! ムジーナ!」


「えっ? うわっ!」


 魔王が声をかけると炎が魔王へ向かっていく。その炎は魔王を包み込むと更に勢いを上げた。


「み、見事なり……」


 ジュワッ


 魔王が最期の一言を終えると火柱と魔王の気配が消える。


『じ、自滅しやがった!』


「ムジーナ!」


 何事も無かったかのようにユーナちゃんが駆け寄る。


「全ては僕の掌の上なんだよ」


 魔王の声が聞こえた気がした。






『なん、なんなんだよ……』


 神の震える声がする


『もう滅茶苦茶だ! どいつもこいつも! 邪魔ばっかりしやがって!』


『か、神……』


『こんなのやってられるか! くそっ! くそっ!……』


 神の声が遠くなっていく。


『神?』


 気配が消えた。あれ?これってもしかして


『おふううううう!』


 体の力が抜けていく。神がエターナルをしたみたいだ。


 風船がしぼむような急激な力の放出を感じる。これはきつい。


「あぅっ!」


「きゃっ! あっ、いやっ!」


 あ! 来た! 魔王を倒したからだろう。レベルアップが始まったらしい!


 俺の力が移ってくように皆のレベルが上がっていく。


 ユーナちゃんが悶える! 特等席だ! この際自分の事はどうでもいい! 眼福! 眼福……


 あ! おいおっさん! そこをどけ! ユーナちゃんが見えない! 頼む! くそ! せめて声だけでも……


「オウッ! オウッ!」


 しまった! ヤーナを離していなかった! なんだよこれ! 何も楽しめないじゃないか!


「オーウッ! オーウッ!」


 ヤーナの声は辺り一体の音を飲み込み、どこまでも響いていた。

 いつまでも。いつまでも。


『くそったれー!』


 全員のレベルがカンストした。





 *  *  *


『ハマレに戻ろうか』


「……うん」


 レベルアップが終わると次第に空虚な雰囲気が辺りを包む。


 神がいなくなった今、もとの世界に戻る手だては無い。


「私たちはこれから旅をするつもりだがムジーナ達はいいのか?」


「はい。僕たちは村に帰ります……」


 魔王を倒したおっさん達は歴史に名を残す冒険者になるのだが、それはまだ先の話。


 俺も旅に同行すれば何か戻る方法を見つける可能性もあったが、もうどうでもよくなった。


『ということで俺はこの中でのんびりさせてもらうよ』


「いや、そうはさせないよ」


「えっ?」


 ムジーナと入れ替わる。鎧の重みを腰に感じる。


『たまには出てきて動いてもらうよ』


「なに?!ムジーナそんな能力を……楽をさせてくれないのか。いや、いい。それならユーナちゃんとイチャイチャするもんね!」


 ユーナちゃんに飛び付く……


「ぐあっ! 頭が痛い!」


『そうはさせませんよ』


「精霊様、一緒にレベル上げしましょうね。お手伝いしますから」


「くそー!」


『あはははは』


「あはははは」


 まだ楽はさせてもらえないみたいだ。ハマレに戻ったらまた一からやり直そう。


 俺たちはハマレへ帰る汽車に飛び乗った。



(了)

筆が走ったので一気に書ききりました。

好きなことを思い付くまま書きなぐったのでとても楽しかったです。


訪れて目を通してくれた方には感謝の気持ちしかありません。

お読みいただきありがとうございました

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