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第31話 優秀な秘書

午前十時、サンフランシスコ到着。


機体を降り立った瞬間、日本の蒸し暑さとは違う乾いた風が頬を(かすめ)めた。






その足で、ダウンタウンへ直行する。


昼は大口の投資家との会食、午後は二件のスタートアップ訪問。


(あずさ)が組んだスケジュール通りに、俺は淡々とプレゼンをこなし質疑応答を回した。


言葉のひとつひとつに未来のビジョンと、それを実現する確信を込めていく。



相手の表情を読み取りながら、時にユーモアを交え、時にデータで論理を固めた。





――――手応えは、充分感じる。



「さすがだ!ミスター胡蝶(こちょう)、大いに期待しているよ!」


現地の投資家がテーブルを挟んで立ち上がり、笑顔で手を差し出して来た。


その表情は単なる社交辞令じゃない、本物の興奮と期待に満ちている。


俺も立ち上がり、力強くその手に応えた。




「ありがとうございます。

我々の技術が、あなたのビジネスに新たな可能性をもたらすと確信しています」



握手を交わしながら、投資家はさらに続けた。


「次に会うときには、もうすでに市場を席巻していることを期待しているよ」



彼の目は、すでに未来を見据えていた。


俺はそれに静かに頷き、その言葉を胸に刻む。


シリコンバレーでの最初の大きな扉が、開かれたのだと確信した瞬間だった。




だけど…





それに、にこやかに返しながら、内心はどこか空っぽだ。





頭の片隅には、やっぱり花凛のことが残っている――――




一緒にハンバーグ作ってた時は、あんなに笑ってたのに…

次の日から既読無視とか‥‥




それを思い出すたびに、俺は無意識に眉が寄っていた。








それに反して、仕事はとても順調だ。


面白いように事が運び、梓の組んだスケジュールは全て完璧だった。





初日のやるべきことが、ようやく一段落した夕方―――



ホテルに戻るかと思った矢先、梓が手元のタブレットを俺に見せてくる。




凱斗(かいと)、少し時間あるから、スケジュールにここ入れておいたんだけど」




「……ゴールデンゲートブリッジ?」




「うん。せっかく来たんだし、仕事だけじゃ勿体ないと思って。私なぜかあそこだけ、行った事ないのよ」


彼女はさらりと言って、黒塗りのSUVに乗り込む。


早く乗って!と言わんばかりに、後部座席から手招きした。







海外出張は、佐田(さた)と行くことがほとんどだ。

今回初めて、梓と同行した。





佐田が「秘書として経験を積ませたい」と言ったのと、梓本人の強い希望があったからだ。



彼女は入社当初から語学も堪能で、スケジュール管理や交渉の下準備など、実務面でも抜群に優秀だった。



俺が少しでも口にしたことは全部拾って形にする。

そんな秘書は、そうそういない。



ただ、それ以上に―――


彼女は、俺の“右腕”である以上に、俺の“脳”の一部のように機能していた。


彼女のおかげで俺は、目の前の仕事に集中し常に最高のパフォーマンスを発揮できる。


梓という存在は、もはや俺の成功に欠かせない必要不可欠な要素に思えた。







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