51.北の山脈
ユナ宅を後にした私は一旦拠点に戻りギン爺と合流した。
物知りのギン爺なら山の神の情報を持ってるかもしれないからね。知りたい事は色々ある。まずは話しを聞こう。
『山の神ですか? もちろん知っておりますぞ』
『本当に! さすがギン爺、頼りになるわ!』
『ホッホッホッ、もっと褒めてくれて構いませんぞ』
ギン爺の話によると、山の神は山頂にある社にいるらしい。だが、山頂にたどり着くには強力な魔物が生息する北の山脈を踏破しなくてはならない。中でも危険なのが山の神の眷族である雪女だ。彼女の使う氷魔法は強力で、悪意を持って山頂に近づく者を氷漬けにするんだとか。
なるほど、山頂までの道のりは厳しいものになりそうね。それでも、私はやると決めたらやり通す女。どんなに道が険しくともやり遂げてみせるわ!
後は〖鑑定〗を妨害された件も聞いてみるか、ギン爺なら対策を知ってるかもしれないからね。
『それと、町でソーマと言う怪しい男に〖鑑定〗を妨害されたわ。そんなの事が可能なの?』
『〖鑑定〗を妨害されましたか、妨害は強者が使える技術と聞いた事がありますな。敵の情報を一方的に取得できるのは有利ですから、対抗としてこちらも妨害を使い相殺するそうです。〖鑑定〗のスキルLVを一定まで上げると使用可能になるそうですじゃ』
強者が使う技術か、やっぱりソーマはただ者じゃないって事だな……。そんな男が何で田舎町にいるのか本当に謎だ。でも、今ある情報だけじゃ考えたってわからない。〖鑑定〗妨害対策のために、私も〖鑑定〗のスキルLVをあげよう。
えーと、〖鑑定〗のLVアップに必要なスキルポイントは……2000!
めちゃくちゃ高い上に、今あるスキルポイントじゃ1しかLVが上げられないじゃん!
でも、今後を考えたら妨害は必須だし悩むなぁ……決めた! 〖鑑定〗のLVを上げるぞ!
【通常スキル〖鑑定LV7〗が〖鑑定LV8〗に上がりました。〖鑑定LV8〗の効果で通常スキル〖鑑定妨害LV――〗を取得しました】
よっしゃ! 妨害スキルゲットだ!
『ギン爺、私に〖鑑定〗をかけてみて』
『何か掴みましたかな主様? 了解しましたぞ!』
ギン爺の返事とともに〖鑑定〗特有の不快感が襲ってきた。
きたな、この不快感に抵抗する!
私は精神を集中して抵抗し、不快感を弾き飛ばした。
『おおっ! 〖鑑定〗が失敗しました! 成功ですぞ主様!』
『ふぅ、どうやら上手くいったようね』
コツを掴めたぞ、〖鑑定妨害〗は気合を入れると発動、抵抗しなければそのまま〖鑑定〗されるみたいだ。オンオフ選べるのはいいね。正体がバレたくない時もあるかもしれない、状況に応じて使っていこう。
こうして準備を整えた私は、ギン爺を背中に乗せて〖飛行〗で飛び立った。
◇◇◇
北の山脈の下方にある私たちの拠点を離れ、山頂を目指して飛行する。北の山脈は高い標高を誇る大陸一の大山脈であり、一面雪に覆われた銀世界は感嘆の声が漏れるほど美しかった。
そんな北の山脈を〖飛行〗で進んでいる途中、敵に襲われる事もなく、移動は順調に進んでいた。
『北の山脈は危険だって話だけど、今のところは順調ね』
『そうですな。野生の魔物は相手の強さに敏感なのです。基本的にランクの低い魔物は上のランクの魔物を襲う事はないのですじゃ。ワシらクラスを襲おうなんて命知らずはそうおりませんじゃろ』
あれ? ギン爺って結構ランク下のキツネにボコボコにされてなかったか? あれは〖老化〗の状態異常で弱体化してるし、群れでの襲撃で勝算があったから襲ってきたのかな? 野生の魔物は強さだけじゃなく状況を見る知能もある。ランク下だからって侮れないね。
『でもギン爺、その命知らずが現れたみたいよ』
暫くは魔物に襲われる事もなく北の山脈を進む私たちだったが、不意に気配探知が反応を示す。反応のあった地上を見ると、私たちを追いかけるように犬型の魔物が雪原を猛スピードで駆けていた。
犬、それとも狼か? 森ではよく見たタイプの魔物だけど、こんな雪山にもいるんだな。体も大きいし、結構強そうだぞ。
しかも、あの魔物は完全に私たちを獲物として見てる。これは戦闘を避けられそうもなさそうだ。




