2-終 時間も何も残らない
「なんてね」
時神が一転して薄ら笑いを浮かべる。
明らかな気分の変化に時神が“やり直し”を行なったことに気づく。
「まあ僕はこの辺で帰らせてもらおうかな。あまり暇な身でもないんでね。君達を相手にするのも疲れるんだよ」
俺の言葉を待つよりも早く時神が消えた。
完璧に消えた。その場から何も残さずにいなくなった。
「……さすがにリキマルと姉さんを相手にするのは辛いと見えるな。二人とも時間を止めたところで死なないからな。弱点らしい弱点もない。ついでに能力を奪われる。時神と同じ能力が得られるなら、時神に勝ち目はないだろう。逃げたのもその辺りが原因か」
「わさ」
時神が聞いている仮定で嫌味を口にすると姉が首を縦に振った。
どうやら姉から見ても強いやつには見えなかったようだ。
結界を張っているので、時神は出れはしない。しかしこの結界はいつまでも維持できるものではない。定期的にメンテナンスさえしてやれば百年や二百年くらい持たせられる強度があるが、時神が二億年後に時間跳躍した後で同じ時間に戻ってこればこんな結界なんかないも同然だ。
だからといって結界を張らないとうい選択肢はない。
どうせ後でこの一帯を修復させるのでそのついでに時神が消えた辺りに結界を張りなおしておくことにする。
しかしこうやってやつの能力の一部を理解すると、時神本人の実力の低さが浮き彫りになる。
あれだけの能力を持っていて俺を殺せない。
危険度では最大級だが、倒せない相手ではない。一手の間違いも許さない相手ではが、それはそれでなんとかできそうだと楽観視できる要素もある。精神的な負担は少ない。
だから――
「雅弓、怒ってる?」
姉が俺を呼んだ。
俺を見上げる。伏し目がちだがそれでもちらちらと視線を合わせてくる。一秒と視線を合わさずに逸らしているその行為はいつもの姉からは考えられないほどだ。
「いや、そんなに」
俺は姉の顔面を右手で掴むとこめかみを中心に力を込める。「そんなに」の部分を現すために腕の神経や筋が浮きあがるほど力を込めたが、姉はまった意に介さなかった。手を離すと――
「よかった」
と、嬉しそうな、そして少しだけ悲しそうな声で安堵の息を吐いた。
……そうだな。
時神がいなくなった。今日は襲撃はない気がする。たぶんあいつはそうする気がする。
わざわざくだらない方法で姉を俺にぶつけてきたようなやつだ。またああいうセコい方法を使うだろう。
リキマル様々だな。
「雅弓」
リキマルが俺を呼んだ。
振り向けば音もなく忍び寄ったリキマルがこちらを強い意志で見ている。
「たぶん、時神は私と戦わない気がする。能力を奪われなくないだろうから」
「あいつの性格と頭の良さから考えると、過去に同じことがあったんじゃないかな。コピーされたとか、あいつにキレた誰かがあいつを殺すために全力を出した。そしてたぶんだが、そいつからの攻撃を受けている。過去に戻って俺が生まれないようにするほうが早いはずなのに、やらない。あまり姿を見せないのはそいつと戦っていると睨んだ」
「私もそう思う。だから少しでも時間操作系の能力者を作りたくないから殺しているんだと思う」
「それが強力な能力者をつくるための温床になっていること、気づいていないんだろうな」
まず俺がそうだ。
俺はあの馬鹿にダメージを与えるために結界を組んだ。それをリキマルが使用した。俺はこれから対時神用としてこれを世界に流すだろう。効果はある。それから誰かがまた別のことを繰り返しながら少しずつこの分野が開拓されていく。
時神に悟られないようにする明確な目標があるから普通に行なうよりも効果があるだろう。
ま、それから時神は世界中の時間操作系の能力研究者を殺しにいかないといけなくなるだろうな。暇じゃなくなるだろう。
…………暇じゃない?
ふとあいつのどうでもいい捨て台詞を思い出す。
いや、どうでもいい。
あいつがこの数年間で主観時間を何百年使おうと知ったことではない。
俺はリキマルに結界を指示する。時神が消えた辺りをしっかりとカバーできるくらいの大きさでさらに強力にするよう、構成に手を加えていく。
「リアムちゃん……」
姉がぼそりと呟いた。
俺はなんて言っていいのか、少しだけ悩んだ。
「姉さん。リアムの魂に感謝と見送りの言葉を」
「……リアムちゃん、さようなら」
「御剣理昇、ワークミッツ、さようなら」
ついでとばかりに感傷を口にした。
もしかしたら、可能性としては、御剣理昇が生まれ変わりを起こすこともあるだろう。ワークミッツも。俺はそのときのための言葉を少しだけ考えた。
結界越しの星が綺麗だった。
次の課題
十二万文字以内
目的を明確にする
プロットの作成




