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「ある日」という日常のヒトコマ  作者: みここ・こーぎー
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2-30 時間とか空間とか操るやつにろくなやつがいない⑩

 結界内から障壁を叩いた。

 向こう側に音も衝撃も伝わらないのはわかっているが、それでもやらずにはいられなかった。

 このままだと結界が消え去り、破壊の波が外まで貫いていくだろう。少し前まで森だったはずのこの場所は今では神秘性が漂う巨大な穴と浮遊している岩石に土砂、そして気まぐれな暴風の塊でいっぱいいっぱいだ。考えなくても、広がると大事になることくらいは子供でもわかる。


 状況が「森に張った結界はそろそろ壊れます。あと三秒後くらいかも」みたいなことを言っている気もする。

 リキマルの話を聞いて結界が未完成であるならそちらに向かってもらうつもりだ。


 だが、こちらからの声が届かない。


 このままだと街に被害がでることになる。

 俺達、日守の感覚で一定の被害を出してしまうと、姉を処分せざるを得ない。


 繰り返す。


 姉を殺さなくてはいけなくなる。


 それは防がなくてはならない。


 だが現状ではかなりトレードオフだ。

 姉の生存を優先すると俺の死ぬ確率が極限まで上がる。

 俺の生存を優先すると姉の死ぬのが確定する。


 これをなんとかするには「結界の強度」か「黒幕の発見」の二つのどちらかを見つけ出さなくてはならない。最終的にはどちらも必要なのだが、まずは正面の話からだ。


 姉と俺の生存を最優先にする。


 リキマルだって別に姉と俺を単純に天秤にかけているわけではないだろう。

 おそらく姉を制圧してそれから結界の完成や黒幕の捜索を行なえばいいと思っていたのだろうが、さすがにそうは問屋が卸さない。姉にもなんらかの強化がかかっているのかリキマルの戦闘センスでは姉が攻略できないようだ。時間をかければいつかは倒せるのだろうが、それでは間に合わない。


 だから俺が先に結界を優先したのだ。


 俺を命を賭け札にもう少し心を静めて粘り、結界を完成させていればこの戦いはもっと楽になっていた。しかしほぼ死体のような俺に嫌気がさしたのだ。俺とのリンクで問題なく生存しているのがわかっているにも関わらずリキマルは俺を守るために手を出してきた。

 それが悪いとは言わないが、悪手であったのは火を見るより明らかだ。状況は悪い。


 リキマルの攻撃手段が雑になってきている。

 俺の戦闘経験を活かして攻撃しているようだが、俺の誘導戦術“七歩七手詰み”を無理やり使って攻撃している。それでは意味がない。それは相手の回避や防御の手が極端に少なくなる後方跳びを相手が行い、こちらの左手に視線を集めてから、それでようやく開始基点が揃う必殺技かならずころすわざだ。いきなり攻撃しても相手の動作如何ではあっさりと外される。無効化バリアクラックも弱いのでまずは解析から行なうのが常道であり、最短の道なのだ。


 リキマルが焦っているのは一目瞭然だった。


 俺の記憶アーカイブにある白兵戦闘最強の技を使っているようだが、効果と結果だけに注目してしまいその真価を理解できていない。将棋でいくら飛車が強いとはいえ無策に突っ込めば返しで取られてしまう。それはそういう技なのだ。


 せめて血白布ヴァリアブルフォーミュラがあれば少しは好転するのだが、あれはコートの中に入れておいているので手元にない。強力な技のほとんどはあれを経由しなければ使えないので丸裸もどうぜんだ。


 一方的に不利だ。


 結界を叩く手を止めない。

 もちろん並行して結界の分解するための開錠を続けているがこれがどうにも全数値試算オールアタックを試しているが――――


 カチ、と開錠用のナンバーが判明した。


 ――よし、運がいい。

 俺の誕生日を逆数値をランダムで叩いてつくった鍵のようだ。リキマルの性格からたぶんこの辺りだろうとヤマを張っていたのが功を奏したようだ。

 鍵が判明したからといって即座に開錠されるわけじゃないし、結界が霧散することもない。最終的にこちら側が鍵式を使って始めて成功する。本来なら支配権も奪いたいところであるがこれは新しい命令時に自動的に結界が抹消される設定であるので使えない。


 開錠したら俺に張られている結界はなくなる。

 つまり、俺の身を守る盾が消えるということだ。

 なんの意味もなく開錠するとリキマルの迷惑になる。迷惑で済めばよいほど悲惨なことになるかもしれない。

 少なくともリキマルと話がしたい。

 簡単なハンドサインや視線術は教えているのでわずかにでもこちらを向いてくれれば意思の疎通も取れる。

 とりあえず結界と黒幕の追い込みの状況が知りたい。これだけでもだいぶ違う。

 そして姉を誘導してもらって俺がこの場から撤退し、黒幕を見つけに行くのが最良だろう。

 少なくとも今考えられる範囲で、使える手段としてはこれ以上の手はない。

 ただし、当初の予定を考えるとさすがに劣るものだ。


 リキマルが無理やり連係攻撃を決めようとするが、まともに姉に通らない。振り回す腕は達人の技であるのは明らかなのに、その使用感があまりに幼稚だ。

 攻撃のたびに姉のバリアをより無効化しているが、それが詰めに繋がるのはまだ先の話だ。

 最初から七歩七手詰みを行なうために、しっかりと足元と腹を攻撃していれば今頃は止めになっていただろう。姉もリキマルの技の危険性を理解してきているので似合わない防御を行なってきている。その異能の強さから姉は防御の類が苦手だが、何度も同じ手を繰り返されて理解できないほど馬鹿ではない。


 森に張った結界の強度を予想する。

 当初の、俺の予定ではちょうど今頃に結界が完成するはずだった。

 対時神において、時間は有限であるため結界を構築する時間を最優先と言ったのでリキマルは範囲を狭めてでも結界の作成時間を変えなかった。

 だが隔離対象が姉であることと、“最終的にリキマルが勝利するという事実”、そのためにリキマルは結界を中途半端にして先に姉を制圧してしまおうと考えたのだろう。もちろん、動機は俺の存在だ。俺の存在が状況を悪くしたといっても過言ではないが、この件はリキマルの失敗だとしてもかまわない。あくまでも最終的な判断になるが。


 リキマルは俺が知る限りで一番強い異能者である。

 もちろん戦えばリキマルが敗北してしまう可能性もなくはないが、隙をなくし正道で構えればまず負けない。地力があり能力の数も豊富で習熟度も高い。何より相手の能力を知ればそのままの能力で使える。弱い要素はない。

 だがその強さ故に戦闘経験は薄い。薄くならざるを得ない。

 我慢ができないというべきか。

 強い能力だけを使って戦おうという気質もある。過去に俺がそうだったように。


 だからこういった条件付けの大きい、自分の命に関わらない致命的な戦闘においては弱い。

 行動の取捨選択が甘いのだ。


 リキマルが姉の腕を掴んで、反対の手で殴り始めた。

 姉もそれに習って同じように殴り出す。


 とうとう子供のケンカになってしまった。

 互いに防御力、耐久力が高いのがネックだろう。相手が泣き出すまで殴るのを止めないつもりだ。


 お互いの能力を分解してキャンセルしていきながら殴る事と防御する事だけを優先して戦っている。

 そのためなのか、相殺し続けているのか、辺りの暴風と重力変流とも呼ぶべき嵐が弱まった。

 運が良いとは口が裂けても言えない。

 しかしこれを逃す手はなかった。

 俺は結界を分解して嵐に身を投じる。


 全身を巨大な金槌で殴り潰される衝撃が真上から吹き付けてくる。

 たまらず片膝をついた。

 直後、小学生の腹を蹴り飛ばすくらい容赦のない上昇風が脇腹から入って真上に打ち抜いてくる。


 そしてようやく異能による防御が発動した。

 状況をできるだけ予測して防御壁の向きを変えながら俺にできる最適な、それでいて手間と出力の少ない保護を行なう。全力で行って完全に防御する事も可能だが、それをやってしまうと別角度から攻撃されたら対処できない。姉がこちらに気づいて走ってくると危険なので、その保険として俺自身に隠蔽を使用することも出来ない。

 必要最低限が、現状ではベストだ。


 リキマルとのリンクを回復する。

 驚いていたが、特に何も言ってくることはなかった。そして結界の崩壊までの時間は不明のままだ。最後の最後で大量の力を込めて蓋をしたらしいのでもう少しもつ、かもしれない。そんな言葉を貰った。たぶん持つ、という方向で最速で仕事をこなすべきだろう。


 また姉とのリンクを解除しようと思ったが、それはそのままにしておいた。

 正確には俺からは繋げない。向こうから接続してこようとするのを受け入れるということだ。一応、拒否もできる。本当に接続ができないかどうかはわからないが。


 そして俺は姉に隠れるように自己隠蔽を行なって、そしてこの暴風を飛ぶように身を任せる。

 向かうべきは北西だ。

 そこに黒幕がいる。

 そうでなくては姉の操作ができない。今はリキマルが相手をしているために指示を飛ばしているかどうか怪しいが、俺が戦っていた間は行なっていたはずだ。それか濃霧のある東にわざわざ行かないだろう。


 風の中を泳ぐように推進させる。


 姉に気づかれないようにすれ違いながら。



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