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「ある日」という日常のヒトコマ  作者: みここ・こーぎー
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2-17 「友達のリアム」④

 正直に言ってしまえば鬱陶しかった。


 だが、それとは別に大切な妹であることに違いはない。

 愛している。

 御剣ルウは俺の大事な存在である。

 今でもだ。


 ルウは普通に生まれて普通に育った。

 お前ならわかると思うが、普通の異能者としての家系のひとつだ。俺達はただただ努力を重ねて異能を発現させた。誰にでもできることを、誰にでも使うように、ただただ呼吸をするようにその真価を発揮させる。


 俺の家系は主に体術と武器術、そしてそれらを支えるための具現化術だ。イメージを形にする、と言えば少しはわかりやすいか。手に武器がないのであれば武器を、敵が遠くにいるのであれば飛礫を、防御のために盾を、壁を、火を、水を、風を生み出す。

 そんな普通のタイプだ。お前らヒカミからみれば分化もできていないし専門化もできていないと笑われるのだろうが、状況に応じてなんでもできなければいけなかった。少なくとも、俺達は。


 一通りの技術を修めてから自分の得意や好みからより一本化させていく。


 そうやって強くなっていくんだ。

 俺もそうやってきたし、両親も、そして俺達の一族はそうやって野良の異能者を社会から排除してきた。これまでもそうだし、これからもそうだ。お前達といっしょだ。どこまでもな。


 だがルウはそうじゃなかった。


 ……言葉は悪いが、ルウは出来損ないだった。落ちこぼれだった。弱かった。俺から見ても態度は正しいとはいえなかった。

 訓練は真面目にやらないし、時々すっぽかす。会った事はないが、付き合っていた男友達と遊びに行っていたようだ。おそらく一族の誰かだろう。遠くに行くことはなかったようだから。

 毎日やるべきである三十分の基礎鍛錬すらまともにできなかった。贔屓目で見るのであれば、どちらかといえば才能があった。十を教えれば取りこぼしなく受け取ることができる。教えてやればその論理も理解できた。


 だが致命的にやる気がなかった。


 そのせいである一定以上の水準に上がった頃、まったく訓練を行なわなくなった。

 野良の異能者と戦って楽に勝てる。そう知ったとき、ルウは訓練は無用だと思ってしまったのだ。


 思えば、それでもよかったかもしれない。

 だが当時は俺を含め誰もそんなことを思わなかった。

 俺はルウに訓練をするように言った。

 ルウはどう思ったのかわからないが、後に比べればかなり優しい方法で訓練をやらせようとした。


 理由はそれが“正しい”からだ。

 そうでなくてはいけないからだ。


 俺達はそうやって生きてきたんだ。


 道がそれ以外にないとは言わない。

 だがそれは正しくない。


 ここで“正しさ”を議論するつもりはない。

 ただ言えるのは「このままの精神では、自律できない意思ではいずれ悪魔として排除されてしまう可能性があまりに高い」のは間違いなかった。


 楽に、楽に、楽に流れるルウの精神ではいずれ金が、幸せが、意思が、心が枯渇したらその手にしている異能を使って犯罪を犯すかもしれない。


 いや、ありていに言ってしまおう。


 絶対に罪を犯す。


 俺はそういうやつらを何人も見てきたし、これからも見ることになる。

 最初は小さいだろう。

 スリから始まり小規模の窃盗だ。換金も簡単で、全能感で心も満ち足りる。

 だが比較は続く。

 こんなに優秀な私がなぜこんな貧しいことを行なっているのか。

 法律をかいくぐり、異能を使い、人を害し、社会の陰としていることを納得できなくなる。現行の悪魔定義を盾に好きに生きるだろう。もしかしたら社会的地位を利用して私腹を肥やし他者を貶めるかもしれない。


 俺達はそういうものを排除し続けてきた。

 お前もそうだ。そういうやつを排除し続けている。


 俺はルウにそんなやつにはなってほしくなかった。


 訓練において、正しい強さと健全な精神を会得できるかと聞かれればそれは否としか言えない。だがその自己の力量と他者との差、実戦を通して社会不適合者の末路を知れば、ずっとずっと知り続けていけばそんな考えも減る。迂闊なことをしたら制裁を受ける。それがわかる。


 それがわかる程度まで引き上げたかった。


 もっと言えば、ヒカミの連中に身内を殺してほしくなったというのもある。

 あのままでは可能性が高かったからな。

 お前らはおかしい。


 話が逸れたか。


 つまりルウは甘ったれた子供だったんだ。

 これだけできればいいでしょう? みたいな話だ。悪くない。それは抜群に良いことだと思う。

 だがその判断は自分でするものじゃないし、降って湧いたような悪魔がいないわけでもない。他者との連係ができるまでは訓練させるべきだと判断したんだ。俺も、家も。


 随分と嫌われた。

 確実に嫌われたと判断できる場所はいくらでもあった。

 俺はそれでよかった。むしろ俺が率先してルウに訓練をさせた。矛先は俺ひとつでいいと思ったからだ。当時から俺は十分に強かったからな。ルウが全力で戦って勝てないと思わせるのが目的のひとつでもあったよ。


 もっと良い方法があった。

 今ならわかる。けど当時はそれしかできなかった。そして十年後にはもっとよい案を思いつくだろう。あのときにあれしか最善の手が思いつかなかった。何もしなければ今でも生きていたかもしれないが、矯正できるかどうかはわからなかった。


 そんなとき両親が死んだ。

 運が悪かった。突然、母親が血を吐いて死んだ。肺癌だった。胸に心臓に負担をかける魔術を使用していたため痛み止めの魔術を併用していたのがまずかった。本人は最後まで病気を知ることなく死んだだろう。数日後に子供の悪魔と戦っている最中、父親が死んだ。たぶん“良い攻撃”が来たんだろう。即死を選んだみたいだ。


 まあ両親の死とルウの問題が大きかったと思うんだが、俺とルウはそのまま一族を追放された。追放はされたが異能者としての生活を奪われたわけじゃない。俺はそのまま伝手を使って今の職場の前身の組織に配属された。


 それからずっとルウに訓練をつけていた。かなりつらい訓練だったと思う。昔よりもきつい訓練であったことは確かだが、それよりも本人の心が死んでいたのか俺が憎かったのか。一瞬一瞬が血を吐いているのかと錯覚するくらい苦しそうだったよ。もちろん、それでもやらせていた。


 知っていると思うが、警察庁の特殊部門のひとつである特殊災害処理班の派生で特殊災害対策課として動き出した俺の職場なんだが。言ってしまえば公的人間殺害機関ということでひと悶着あったんだが、それは置いておく。あまり関係はないだろうし、守秘義務もある。そのときに家を離れることが多かったので、それからルウの訓練が自然消滅したんだ。

 なんとなくわかったんだ。

 ルウに悪魔討伐は向かない、と。ようやくだ。

 というか、警察に勤めてなければこんなこと思いもしなかっただろうがな。


 それからは普通に過ごしたよ。

 あくまでも俺が考える普通だが。

 普通に会話して、飯を食って、遊びに行って、たまには友達になれそうな同僚を連れてきて、ああワークミッツだ。そうやってできるだけ何事もないように生活した。本当は同じ職場で働いてくれたほうが嬉しかったんだが、こんな流れでもいいやって思った。


 いまさらだが、ルウの自由にさせようと思った。


 ルウはその間ずっと家で過ごしていたよ。

 たまに友人らしき人物がくることもあったようだが見たことはない。いや、待てよ。ウサギ耳のヘアバンドをつけた少女と友達になったとか言っていた。良い傾向だと思ったが結局は長続きしなかったようだが。


 そしてある日、ルウは自殺した。

 母親のときのように突然だった。

 いつものように送り出され、帰ってきたら死んでいた。それだけだ。


 首を掻っ切って、おおよそ自殺らしくない方法で死んだよ。

 うちにもお前と同じエスパー系のやつがいてな。確実に、間違いなく自殺だそうだ。部屋中のいたるところを触っても「死にたい、自殺するべき、今すぐに」というルウの心が残っていたそうだ。


 ギリギリでそれ以外にも残っていた心の残滓があった。

 それが「友達のリアム」だ。


 俺はそれからそのリアムという人物を…………


 お、おい、どうした。もういい、って。


 ……ああ、そのとき以外いエスパーは入ってきていない。家中、といっても小さなマンションだがどこもそうだと言っていた。

 エスパー?

 そうだな、風変わりな女でいつもふわふわしているな。精神的にも物理的にも。あまり話し合いや会議とかに使える・・・人物ではない。普通と違った感性を持っているのは間違いないと思うが。本人がどう思っているか知らんが。


 ……家? そうだ。今はひとりで住んでる。ああ、いや、最近はワークミッツがいることもある。


 ……なに、時神? 誰だそれは。

 普遍的な高校生みたいなやつで、時間とか空間とか操っているスマートを装った少年? いや、知らん。見れば思い出すくらいはあるかもしれないが、そういうやつと対面したことはない。ところで「スマートを装う」というのはあまりスマートな言葉とは思えないが、あ、そう、そういうやつなんだ。時神とやらは。

 しかし時間か。その手があったか。それがあれば過去を変えることが……ぐぅッ!?


 待て、なぜ矢を抜く……痛いだろうから? そんなことを聞いているんじゃない。なぜ私の束縛を解くと聞いている。


 おい、ちょっと待て!!


 どこへ行く!!



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