表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ある日」という日常のヒトコマ  作者: みここ・こーぎー
38/65

2-7 御剣ルウ①

 現在時刻は十三時十三分だ。


 リアムを連れまわせる時間まであと四時間ほどだろう。

 そもそもの問題として、この件に関してリアムが必要かどうかという疑問があるのだが、御剣理昇みるつぎりしょうがリアムを知っていた以上はできるだけの時間は手元においておきたい。仮に知らなかったとしても俺の口からリアムという言葉を出した以上、調べられている可能性がある。そして調べられていた場合、人質に取られることも考慮しなければならない。


 よりめんどくさいことになったようだ。


 しかしあの会話では理昇が本当に「リアム」について聞いていたのかは確かにわからない。だが、俺との関係性を持った以上、リアムを人質に取られても嫌なのでその辺をはっきりとさせておきたい。


 この四時間でリアムの安全の確保と念頭においていきたいと思う。

 続いて、理昇が俺に対して嫌悪感を持っている事情についてもだ。


 電話も盗聴されている可能性があるので迂闊に使用できない。

 そのために俺と姉とリキマルはテレパシーでの会話になる。兄は筆談だ。ここまでやって実はなんでもありませんでしたということになったらマヌケ一直線だ。いや、何もなかったことを喜べば良いのか。


 とりあえず、俺と姉とリキマルで外に出ることになった。

 家では兄とリアムがお留守番だ。兄はロリコンではないので、さすがにリアムの貞操の危機はない。というか四時間以内に俺が帰ってくることを前提で手を出したのであれば、さすがに褒めてやるとしか考えが浮かばない。大丈夫だろう。

 本当は俺とリキマルだけで出かけるつもりであったのだが、姉がリキマルにくっついて離れないのでいっしょに連れて行くことになった。俺以外にこんなに懐くなんて珍しいくらいだ。物怖じしないし人見知りなんてしない姉であるが、相手のことをかまわずにべったりと張り付くことはまずない。相手の嫌がることをしないのが姉であり、相手といっしょに楽しくなろうとするのが姉だ。とばっちりを受けるのは兄か俺か……俺だ。むしろ俺しかいない。


 俺の知りたいことをリアムにいくつか聞いてはみたのだが、どうも要領を得ない。知っているのか知らないのか、お茶を濁される。

 それにあまり話そうとしないことはもとより、何かを恐れているのか時折に震えている。無理に聞き出すのはさすがにかわいそうだ。頭の中を覗く事もできなくはないが、そこまでして子供に精神攻撃を仕掛ける必要もあるまい。地道に探せばいい。なにせ、俺は最強だからな。


 俺はまた余所行きの赤い戦闘用長外套の格好で外へと出た。

 リキマルは俺の部屋着で外に出ようとしたので本気で止めた。どうにか俺が普段着ている女物の服を無理やり着せるというちょっとおかしい状況にもなったが概ね問題はない。リキマルはざらざらに揃ったようなセミロングの黒髪に赤のツーピースと茶色のジャケットを羽織った。似合ってるとは口が裂けても言わなかった。俺の服を奪われるからだ。しかしリキマルは「わかってますわかってます」と言わんばかりに俺を見て頷く。その隣でリキマルにべったりな姉も頷いていた。

 思考に鍵を掛けようかしら。あまり読まないで欲しい。


 リキマルの履きなれていない茶色のブーツが鳴る。厚いファーの折り返しがついているかわいいやつだ。この時期はいまいちなのではないかと思ったが、雪が降るまでカウントダウンの場所があるのでそこまでおかしくはないか。

 ブーツを鳴らしながら姉と並んで歩いている。姉から俺のことを聞きながら歩く。そのほとんどはどうでもいいことばかりだ。昔は俺と姉はまったく同じ容姿をしていたとか、何をするにもいっしょだったとかそういうことだ。


 そういえばいつのころだったか。

 俺と姉の容姿が変化したのは。


 考える。


 記憶アーカイブをさらうと俺が十一歳の頃と十三歳の頃のデータを比較する。十一歳の頃はまったくいっしょであるが、十三歳だとさすがに違う。だからといって俺が男めいたとかそういうことではなく、姉が成長していないのだ。

 この真ん中辺りを絞り込んでいけばわかるのだろうが、正直言えばどうでもいい。俺と姉は違う生き物だ。確かに同じ生き物と思える時期があったが、最初から「良く似ている」という名前の「完全に別の生き物」だったのだ。似ているとは同一ではないということだ。


 思考を廃棄する。


 問題はリアムだ。

 理昇の中でのリアムの重要性が知りたい。

 確かにわかったところで別にやることの変わりないのかもしれないが、それでも俺の心構えやもやもやが少しでも晴れるのであれば無意味じゃない。


 理昇に聞いて教えてもらえるだろうか。それが手っ取り早いがまともに応対されるかどうかもわからない。むしろそのままなぜそんなことが知りたいと聞かれて戦闘に入る可能性もなくはない。いくら俺が最強であるといえど、理昇の能力も知らずに接近するとかちょっと怖い。一キロメートル先から『矢』で飽和攻撃を仕掛けたほうが正しく強い。

 さすがに一キロメートルくらい察知できるかな。仮にもデビルバスターズだし。


 そんなわけで理昇の同僚とかに話を聞けばいいという安直な考えの下、歩みを進めている。


 知り合いの覗き屋に聞いてみたら理昇とたっぷり二十キロメートルは離れた場所にひとり同僚がいるようなのでそちらに向かう。念のために理昇が現在位置から動いたら連絡を入れてもらうようにしている。ちなみに今は警察庁にいるようだ。


 十分ほどで目的地に到着する。

 場所は使われなくなった五階建てのビルだ。廃ビルというには風情が足りない。周りには緑が多く、建築資材置き場ヤードくらいしかない。

 元は白いビルだったのが伺えるが、今では薄汚れており見る影もない。誰もいないことくらいは見て取れる。


 ビルの前に到着すると、俺は二人に声をかけた。


「えーと、ここにデビルバスターズのひとり、巽冬阿たつみとうあが住んでいるそうだ。適当に入ればいいそうだ。一応、連絡を入れてもらっている」


 ビルの入り口にでかい鉄板が立てかけられていた。その隣に紐でくくりつけられた金槌がぶら下がっていたので、これをドアノッカーと理解する。最上階まで聞こえる程度の強さで鉄板を叩く。

 しばらくするとひとりの男が出てきた。

 良く絞られているがボリュームのある中肉中背が目を引く。背丈は今の俺より少し高いくらいだ。武術家として十分に練られた体躯に載せられた顔はごく普通の二十代半ばの青年だった。とりわけ特徴なんてない。ただあだ名をつけるならスポックだろうか。ありえんほど首は太いが。


「よろしく。氷上雅弓だ。話は届いているかな?」


「巽冬阿だ。話は聞いている。入ってくれ」


 トレーニングの最中だったのだろう。巽は体から湯気を噴出させている。手には大きめのタオルを持っておりしっかりと汗は拭ったようだ。黒のタンクトップに同色の綿ズボンに裸足という格好で暗いビルの中を入っていく。電気が通っていないのは見てわかっていたが、実際に中に入ると想定していた心構えとどことなく違う。薄らと暗く、ぼんやりと明るい。そんな曖昧な場所だった。


「汚くて悪い。そっちのソファで話そう」


 一階の奥、大きく切り取られた窓辺にソファとテーブルが並んでいる。三人用ではなく、一人用が五つ。二対三で並んでいる。

 巽は二つ並んだソファのひとつに座ると向かいを勧める。俺の右半身に当たる陽光を感じながら俺の隣にリキマルを座らせる。そして姉は一番室内側、には座らなかった。リキマルのソファにいっしょに座った。ぎゅうぎゅうに詰めるように座っているがリキマルも姉も不快な顔はしていない。

 ……なんか、仲間外れ感がある。


「さて、何を話せばいいんだ? 聞いていることといえば、「氷上雅弓が俺に何かを聞きたがっている」ということくらいなんだが。ヒカミの人間が知りたいようなことはあまり知っているつもりはないんだが、いったいどういうことなんだ」


 妙にこちら側を意識しているようだ。

 今まで「ひかみ」の名前が何かをしてくれたことなど少なかったが、さすがに知っている奴は知っているということだろうか。便利だな、家柄って。


「そう難しいことじゃない。御剣理昇についてなんだけど。ああ、もちろん話せないことがあれば話さなくてもいいし、嘘だってついてもかまわない」


「噂ではお前は人の思考を読めると聞いている。意味がないだろう」


 知っているんだぞ、と言わんばかりの顔だ。

 全部読めるわけじゃないし触れていないと精度が激減するのだが、別に言う必要はないか。とにかく俺の知りたいことを答えてくれればいいだけだ。


「で、理昇について、何を話せばいい」


「理昇とリアムの関係性について」


 めんどくさいので本音全開で行く。あまり婉曲なことをやっていたら意味が暈けてしまうし、何より相手に不信感を与える。いきなり家にやってきて同僚のことを聞いているだけで、どうせ何もしなくても不信感は高い状態にある。何をやってもかわらない。直球だ。


「リアム……? 聞いたことないな」


「一応、性別は女なんだが。何か覚えてないか?」


「うむ……」


 巽は考え込んでしまう。


 さて、最初は外れかな。

 次は何を聞くべきか。俺はそんなことを考えながら隣でいちゃいちゃしている二人をできるだけ見ないようにした。


「理昇には浮いた話はないからな。悪魔を斬り殺すだけの機械みたいな男だよ。妹が半年ほど前に死んでから特にそんな雰囲気になってしまったな」


「妹が半年前に死んだ? 名前はリアムか?」


「いや、リアムじゃない。確かルウとか言ったはずだ。あいつは過保護だったからな、俺も直接会ったことはないからそもそも実在するかどうかすら怪しい。だがあの日のあいつの落ち込みようは異常過ぎたから、本当だったんだろう」


 巽は思い出しながら悲しそうな目をした。見ていられなかった、とでも言いたそうな表情だ。俺だって姉が死んだら悲しむし落ち込むだろう。


 俺も不意に同情してしまったとき、意外な人物が声をあげた。


「ルウ? ルウちゃんって、猫っ毛のルウちゃん?」


 リキマルの胸に顔を擦ってマーキングしていた姉が会話に加わった。


「猫っ毛……ああ、そうだ。一度、理昇が髪の問題で俺に話を振ってきたな。「お前みたいな髪になりたいのだが良い薬でもあるのか」と。確かそれが妹の件だったはずだ。女の髪はわからないから別のやつを紹介したが」


「あ、そういえば前に言ってたわさ。お兄ちゃんが良いシャンプー持ってきたけど、勿体なくて使えないって言ってたわさ」


 交友関係広いな、うちの姉。もしかして記憶を探ったらいろいろ見つかるんじゃないかと思ったが、雑な記憶状態だろうなのでやめておくことにする。あと、姉の思考を読むなどという失礼なことはできない。他の奴らは別にかまわないが。


「なんだ。そっちの娘のほうが詳しそうだぞ」


「みたいだ。まさかこんな近くに知り合いがいるとは思わなかった。というか、別にルウとやらに関してはどうでもいいのだが。とりあえずリアムについて何か知らないか?」


「わさ! ルウちゃんと一美はお友達だわさ!」


 身内の発言により、俺は無表情でちょっと嫌な顔をした。

 もしかしてここに来る必要なかったんじゃねえかな。

 いや、さすがにそんなことはない。うちの姉はただ「ルウ」とやらと友達だったのであって、リアムとは初対面だし、やはり理昇について他にも聞くことがあるのでここに来てなんの問題もなかったのだ。そうなのだ。


 俺は事実を自分に言い聞かせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ