2 令嬢と令嬢
ついにロベルト様が帰ってこられたが、私を見てピクリと眉をあげ一言「遠くからご苦労」と言われるだけだった。
魔物の討伐が2週間が一か月に伸びお疲れなのかもしれない。
だってあんなに見つめ合った仲だ、これではあまりに他人行儀ではないか。
その後もお忙しいとのことでずるずる会えない日々が続いている。
お兄様の返事もまだきておらず、不安だけが募っていく中でお客様がきた。
2階の窓からなので見えずらいが、白い髪の太ましい男性と、金髪が眩しい女性。
あと小さい子が二人いるようだった。
ここに来て一か月ほど経ったがお客様とは珍しい。
どういうご関係なのだろう。
遠目でロベルト様が見えたし、よく似た髪色の男性とその方に寄り添う女性、もしかしてドラコニス夫妻ではないだろうか。
どうして私にはお会いしてくださらないのだろうか。
外の光景を見ていると今まで積もっている不安が押し寄せ目が潤んできた。
窓辺から離れ、そばにいたマリーに紅茶を淹れてくれるよう頼む。
「落ち着かれましたか?」
「ありがとうマリー、お客様はどなた?仲が良い方々なの?」
「リリーフロスト侯爵の御子息とご令嬢、そしてご令嬢のお子様方ですね。今回は視察か何かで来られたではないでしょうか」
「そうなの」
目上の方でお仕事のことなら仕方ないわよね。
病のことがあるから部屋から出れないだけであって、待遇は良い。
私は望まれて来たので扱いが悪いわけではない。
そうタイミングが悪かっただけ。誰も悪いわけではないわ。
それに件の方は赤毛だったので同じ方ではないとわかってはいるけど侯爵令嬢には散々困らせられたもの。
会わせないことで守っていただいてるのかも。
一瞬涙が出たが、考えがまとまると元気が出て来た。
前向きに考えられるのは私の長所だ。
下手に動いてまた有る事無い事言われるのはごめんだわ。
このまま会わないで終わってくれれば良いわね。
そう人生は甘くないことを知る。
「マチルダさんのお家はポマルム王国のどの辺りですの?」
「あの、ベルツです…田舎なのでお恥ずかしいですわ」
「そんなご謙遜なさらないで海鮮が有名な音楽が彩る楽しい街ですわよね」
そういうとディアナ様は微笑まれた。
なぜか皆様と夕食を一緒にとっている。
今まで一人だったので、いきなりのことに緊張しすぎて胸が痛い。
ディアナ・リリーフロスト侯爵令嬢は男爵令嬢だからと見下すこともなく朗らかで親しみやすい方だった。
それになんと言ってもお綺麗だ。
緩やかにカールした金髪は黄金の絹のようだし、キラキラした瞳は星が散った夜空のような濃い瑠璃色。
唇は真っ赤な口紅を引かれているのが下品なわけでなく目元の泣き黒子と相まって危険な色香で魅惑が増している。
スタイルも出るとこ出ているのに腰など折れるのではというくらい細く、だからと言って病的というわけでもなく女性の憧れそのもの。
本当に5歳の男女の双子を産んだのだろうか。
その双子のお子様はお酒の席ということでここにはおられずお部屋でまったりされてるとのこと。
会ってはいないが、多分女神の子だから天使に違いない。
ディアナ様のお隣をチラリと伺う。
アドニス・リリーフロスト侯爵子息。ディアナ様のお兄様。
ぞんざいに伸ばされた髪は白髪で、多分目は珍しい金。
ただその珍しさもお肉に埋もれてうっすらとしか見えない。縦にも横にも太く、趣味が悪いのか宝石をジャラジャラと指にも髪にも付け、何個もついた腕輪やネックレスは何重にも巻いている。
マナー違反はないが一言も発せず一心不乱に食事される姿は不快を通り越して恐怖を感じる。
本当にディアナ様と兄妹なのか。
ふとアドニスが手を止めロベルト様を見て、ニヤリと笑った。
その笑顔だけで背筋がゾクゾクし、ブルリと震えた。
ただ声は高くもなく低すぎず落ち着いた色気もある素敵なお声をされていた。
「ねぇロッティ」
「ロッティはやめろと言っている」
「はは。ねぇ約束の結婚式はいつするんだい?
君が約束を先延ばしにするから妹は未婚の母なんて陰で言われ放題だ。
未婚の母が悪いとは言わないよ。人にはいろいろ事情があるのだから。
でも言われ放題は気に入らないと思わないかい。
妹と結婚式するの嫌なのかい?
ぐだぐだ先延ばしにするからそう思ってしまったよ。
まぁ言いたいことは、全部君が悪いよねロッティ」
「お兄様、ロベルト様は悪くありませんわ。
全部悪いなんて乱暴な言い方は良して。
陰口などおっしゃる方が悪いのです。ロベルト様気になさらないでくださいませ。
私はあの子達ももちろんあの子達の父親も愛しておりますので、何も恥ずべきことはありません」
はぁ〜大きなため息をアドニスが吐き、場を凍らせる。
「でもね、やっぱり思うところはたくさんあるわけなんですよロッティ。
それにさ気が長い僕でも、これは結構待ったと思うんだロッティ。
今回来てみたら、カワイイ女性のお客様もいるわけだよ。
いい加減、約束から外れて来てると感じるわけだロッティ。
ロッティ、これ以上ぐだぐだするならあの条件のんでもらうよ」
それまで静かに聞いていたドラコニス一家が一斉に立ち上がり、目の色を変えて抗議する。
「悪いと思っている、だからあれだけは本当にやめてくれ。
失っては生きていけないんだ」
ロベルト様の必死の訴えにアドニスははいはいと返す。
誰一人喋らず、食器の当たる音も少なめで静かな夕食をとった。
気まずさの中顔を上げた時ディアナ様と目が合い、困ったように微笑まれた。
その後はなんとなく解散し、今自分の部屋に戻って来た。
マリーに食後の紅茶を淹れてもらいながら考える。
「何故、私はあの場に呼ばれたのかしら?」
「ディアナ様がお呼びになったからときいております」
やっぱり。
あれはディアナ様の助けてという合図だったのでは。
ロベルト様は、いやご家族総出で何かアドニスに弱みを握られているご様子。
ディアナ様は兄と言うだけで強く出られない……もしくは陰で暴力を振るわれておられるのでは!?
今でも愛してると言われるぐらいお好きな方がいるみたいだし。
でもお相手の方は何も言わないのかしら。
5年も妻子をほったらかしにできるものなの?
…身分違いの恋?もしくはお相手に何かあったのでは。
だから弱みを握っていて、身分も高いロベルト様を選んだとか?
そんな!?ディアナ様とロベルト様が結婚しても良いことない気がするわ。
そうよ、こんなの誰も望んでない。
ふとアルフレッドとマリーが言っていたことを思い出す。
「質実剛健、我が贅沢より民の食事」
「病が流行っている」
そう言うことか!
流行病で困窮し侯爵家にお金を借りたんだわ。
返済するか結婚するかと言うことね。
条件は借金の返済に関するもの。
今までの疑問が一本の答えになった。
そうよね。そうよね。ロベルト様。愛する私にかっこ悪いところ見られたくなかったのですね。
ディアナ様、ロベルト様不肖ながらこのマチルダお役に立てるよう頑張ります。
まずは病のことから探ろう。
かかるかもしれないなんて考えてはダメ。
なんたって私は幸運の星がついているのだ。
運は良いと自信を持って言える。
これまで願って叶わなかったことはない。
だから大丈夫。
そうと決まれば、明日街に行く許可をもらおう。情報は大切とお兄様もおっしゃっていたし、今日はもう寝て明日に備えよう。
意気込みを新たにベッドへ入った。
と意気込んだものはいいものの、街行きの許可は降りたがたいした情報は集まらない。
カフェに入り、ケーキを突きながら外を眺める。
なんだかなぁ。
この街は賑やかで病のやの字もないように見えた。
聞き込んでも「そういやそろそろ風邪が流行るよな」ぐらいだ。
私実は騙されているのだろうか。ただ私を騙しても何の得にもならない。
考えながら食べるケーキは味気なかった。
マリーをジト目で見る。
「原因不明の病なんて流行ってないわ」
「それはそうですよ。この街ではなくドラコニス領の端にある国境近くの村話ですから」
マリーはしれっと言ってのけた。
そこ重要なんですけど。
でもそうか、馬車で通りすぎる時感じた静けさは病からなんだ。
お兄様に手紙を出して正解だった。
お返事はまだ返ってきていない。そうよね。原因不明の病なんだもの。お兄様も時間がかかるはずだ。
はーっと小さくため息をつく。
原因究明したいが場所が遠すぎる。
なんかパッと治ったりしないかしら。
ダメ元で神様に祈りを捧げた。
カフェでケーキを食べながら祈りを捧げたあと、露店を横目に見ながら何か面白いものはないかと散歩する。
ふと何の変哲もない小石が積まれた店を見つけた。
私の勘がこれだと言っている。
「これは何?」
「魔欠石です」
「まけついし?」
「そのままの意味ですね。はい。魔力石のなり損ない。魔力が欠乏してる石なので魔欠石です」
「なり損ないなら何故売っているの?」
「こうぎゅっと力を込めますと、ほらうっすらですが魔力石に変わるでしょ。力の入れ方や握っている時間でより魔力石に近づくのです」
これは大発見ですわ
私は魔術は得意ではないが魔力はたんまりとある。
これを使えば高価な魔力石が安価で量産できるのだ。
部屋でこっそり量産できるし、苦労を悟られず、ディアナ様のお力になれる。
持参金がわりに渡して、借金返済に当ててもらおう。
そしたら全て丸くいくじゃないか。
二、三個試しに買ってみた。
よくお兄様が言っていたもの。
儲け話には裏があると。
今後の計画を練りながら、慎重に進める。
とりあえず帰ってから試そう。
もし本当に魔力石にかわるなら、盗られでもしたら大変だ。
それに時間をかけた方がいいと言っていたし。
逸る気持ちを抑えつつ、屋敷へ戻った。
爆美女ディアナと
タプタプお兄やんと
影薄い(仕事頑張ってるんだよたぶん)ドラコニス夫妻




