四章 加筆:間違った歴史
いくらか経って、ふと気がつくと、僕は白い家に立っていた。
忙しそうに治療をするのはイサナ。ホークの姿はない。
もうしばらく経って、僕は死んだんだったと思い出した。
何も未練がなかったはずなのに、暗い顔をしているイサナを慰められないのが悲しい。
みんな怪我をしている。みんな、暗い顔をしてる。
拒絶の石壁に行ってみると、とても閑散とした様子だった。
最期の戦いから雪が積もったのか、血の痕はない。
しかし、まるで僕が白い家の床に紋様を残したように、僕の槍が境界に突き刺さっている。
川のほうに行ってみると、相変わらずエトレたちがてきぱきと働いてる。
どうやら僕が死んでから思ったより時間が経っているようだ。
ホークは無事なのかな。それを聞いて回ることさえ、今の僕にはできない。
♢
僕はやれることがほとんど何もないから、ずっと八地区を歩き回って過ごした。
思えば生きていた頃、死ぬちょっと前は、こんなふうにぶらぶら歩くことさえなくなっていたなぁ。
魚人の町にも今なら堂々と見て回れる。
僕は拒絶の石壁に向かった。
途中、
「魚人を憎むなら私を憎め」
ラディレとイサナを見かけた。
ラディレは自分が僕を殺したと思っているようで、そのことをイサナに伝えに来たようだった。
イサナは丸腰でラディレに向かっていって、簡単に転がされてしまう。
彼のこんな顔――憎しみに満ちた顔なんて、初めて見た。
「聞きたいことがある。お前は、本当に人間たちから迫害を受けているのか?」
「……そんな人、ここにはいません」
冷たい雪の上に転がったまま、イサナは答えた。
「そうだったのか。魚人たちはお前の心配をしていた。お前がここまで逃げた日に、何人かの魚人が追いかけてきたのだ。人間に追い払われる直前、ここの者たちはお前に刃を向けていたと聞いた」
もしかして、魚人たちはイサナを殺されたと思って、復讐するために八地区を攻め始めた?
「魚人の町では再びここに攻め込む準備が始まっている。私が説得しよう。ところでお前は、戻ってくる気はないのか?」
イサナはすぐさま首を横に振る。
「ボクは魚人が嫌いでした。その考えは改めます。でも、やっぱり好きではないです」
「そうか」
ラディレはそれだけ言うと、不意に突き刺さった僕の朱槍を引き抜いた。
「魚人たちには親しげに話していたパロマ殿がなぜ人間側について戦うのか、それが疑問だった。しかし、そうか……。彼にも守るものがあったか……」
空を仰ぎながら、そうか、そうかとくり返す。
「イサナ。私は説得が済んだらこちらに戻る。そしてパロマ殿の代わりにこの槍でお前を守ろう。殺したかったらいつでも殺せ。無論、私は抵抗するがな」
私に勝てるようならお前は守られなくても大丈夫だ、と続け、ラディレは魚人の町へと戻っていった。
♢
なんということだ! 僕は、間違った歴史を記してしまった!
書き直そうにも、身体が無い。ペンを執れない!
そうだ。死んだなら、のんびり見守っている場合じゃない。
直さなきゃならないんだ。間違っている歴史を――。




