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砂鳥物語-現の鳩  作者: 千羽鳥


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一章 魚人の町に落ちる影:共存の障壁となっているのは?

 僕はずっと昔、歴史記録管理室というところにいた。

 自分たちにとって都合の悪い歴史をかき集めている、なんて言われても、僕たちは歴史を集めてきた。

 そう、僕らの書く歴史は疎まれていた。


 そして国政の機関の中でトップクラスの権力を持つ僕たちの存在を、煙たく思う人もいた。

 だから数多ある歴史書をこっそり複製して、各地に点在させる形で保持しようとした。

 そのときに協力してくれた保持員の中に裏切り者がいたことに、僕は気づけなかった。


 僕は歴史書流出の責任を問われ、追放されてしまった。

 見つかった複製も、もちろん処分された。

 不穏な空気を感じ取った同志たちは、歴史書の原本を置き去りにして逃げた。


 今となっては、どれくらい歴史が失われ、どれくらいの同志が命を落としたのかも分からない。

 歴史記録管理室の本部は何者かに襲撃され、機能しなくなり、やがて解体した。

 長いこと旅をしながら歴史を記してきた。

 色んな、争いの歴史を。


 皮肉なことに僕たちの戦いも、その一つになった。



 ある時。出会った人たちと意気投合してアモーレに加入した。

 アモーレの創始者とは考え方が違ったけれど、互いを否定しないように気をつけている。


 やがて生き残った同志たちが集まってきた。歴史を伝承や寓話に変えて守ってきた人もいる。

 歴史と作り話を区別できないようにしてしまったことを、しなければならなかったことを、同志たちは恥じている。

 それでも愛とはほど遠い歴史に比べれば読める。なんて、そう思うこともあるんだ。


 アモーレの人数が増えて派閥というものができても、僕らは争ったりしない。

 同志たちがパロマ派と呼ばれるようになったのは、少し前のこと。

 アモーレは僕たちが歴史を記録・保持することを、愛のある行為と認識した。


 もう襲撃を受けたりしないだろう。なぜなら僕らは、伝承や寓話を持ち歩くただの変わり者だからね。

 それでも、もし襲う人がいたら――。

 アモーレは愛のある行動を取るだろう。



 僕にとってそれは、特別な出来事ではなかった。

 争いに心を悼めていた僕はもういない。

 貧民街の八地区と魚人の町は争っている。近隣の町で耳にしたときに思ったことは、いつものことだな、くらいだった。

 心が麻痺しているというより、靴底みたいにすり減ってなくなってしまったようだ。


 八地区の人間はもともと魚人の町に住んでいた。でもなぜか、町の外に追い出された。魚人はなぜか人間を目の敵にしているんだ。

 まだいいほうだ。普通なら、殺されているだろうから。


 草原の国の北部は人間以外の種族が多い。南とは逆だ。

 じゃあ元から北部にいた人間はどうなったのか。不思議に思ったのはずいぶん前のこと。

 爪弾きにされた幸運な人間は南に逃げられたけど、不運な人間はもっと北に追いやられる。もっと不運な人間は死ぬ。


 どうして人間がこんな仕打ちを受けているのか、はっきりした理由は分からない。

 先に何か悪いことをしたのか、種族として劣っているからか、考えが合わないからか。

 共存の障壁となっているのは、なんだろう。

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