第二話 「同接二桁。コメント欄、騒がしくなってきました。」
第二話です。
ストックとして5話まであるのでそれまでは一気に出しますが、6話以降は早く出せるよう頑張ります!
「.....12人?」
スマホの画面を見つめながら、朝倉ユウは思わず声を漏らした。
さっきまで3人だった同時視聴者数が、気づけば二桁に乗っている。
「え、増えてるくね?」
ダンジョンの入り口近く。
さっきの戦闘を何とか切り抜けたユウは、荒い呼吸を整えながら壁にもたれていた。
まだ心臓がうるさい。手も少し震えている。
――でも、それ以上に。
「なんか、楽しくなってきたな」
思わず、口元が緩んだ。
コメント欄が、さっきより明らかに動いている。
「今来た」
「さっきのどこ?」
「切り抜きから来た」
「え、ちょっとまって。切り抜き!?」
ユウは思わずスマホを顔に近づけた。
「いや、早すぎだろ!?まだ初めて10分ちょいだろ!?」
「ダンジョン配信は速度命」
「もう回ってるぞ」
「運だけで勝ったやつな」
「最後のやつ余計だろ!」
思わず笑いながらツッコむ。
でも、否定派できない。
あれは確かに――運と、コメントのおかげだ。
ダンジョン配信。
それは、ただモンスターを倒すだけの動画じゃない。
”どれだけ見せられるか”。
それがすべてだ。
強くても、つまらなければ伸びない。
弱くても、面白ければバズる。
「.....いや、これ普通にチャンスじゃね?」
ユウはゆっくりと立ち上がった。
足はまだ少し震えている。
でも、さっきより怖くない。
理由はシンプルだ。
「一人じゃないって、でかいな。」
そう呟くと、コメントが流れる。
「今さら気づいたんか」
「最初から言ってる。」
「ちゃんと拾え」
「はいはいすいませんね!」
軽口を返しながら、スマホを持ち直す。
「はいどうもー、朝倉ユウでーす!」
少し大げさなくらいのテンションで配信を再開する。
「さっきはマジで死ぬかと思いました!生きてるの奇跡!」
「それはそう」
「普通死んでる」
「運ゲー配信者」
「いや、お前ら好き勝手言うな!?でもまあ否定はしない!」
自分で言って笑えてくる。
でも――
「楽しいな、これ」
ぽつりと漏れた本音に、コメントが少しだけ止まった気がした。
「てことで第二ラウンドいきますか!」
軽く手を叩いて、気持ちを切り替える。
このまま帰る選択肢もあった。
むしろ、普通は帰るべきだ。
初心者が、あんなギリギリを経験した直後に続行するなんて――
正直バカだ。
「でもま、配信者的には行くでしょ!」
「出たバカ判断」
「それでこそ」
「死ぬなよ」
「お前らほんと好き勝手言うな!?」
笑いながらも、足は自然と前に出ていた。
ダンジョンの通路を進む。
さっきよりも周囲をよく見る余裕がある。
壁の傷。足元の石。空気の流れ。
「.....さっきより、ちょっと落ち着いてるかも」
「成長してて草」
「気のせい」
「でもさっきよりマシ」
「どっち!?」
ツッコミながらも内心は少し嬉しい。
しばらく進むと通路が開けた。
「お、なんか広いとこ来た」
円形の空間。
中央に――影が1つ。
さっきより明らかに大きい。
「いや、絶対強いだろこれ」
思わず足が止まる。
心臓がまた速くなる。
コメント欄が一気に動く。
「あ、それやばいやつ」
「初心者エリアじゃない」
「逃げろ」
「え、まじで?逃げたほうがいい?」
ナイフを握る手に汗が滲む。
逃げるべきだ。頭では分かっている。
でも――
「いや行ける」
「さっきの避け方できるならいける」
「コメントちゃんと見ろ」
「.....いや、意見バラバラすぎるだろ!!」
思わず叫ぶ。
逃げろという声。行けという声。
どっちが正しいかなんて、分からない。
その時。
ふとさっきの感覚が蘇る。
――右に転がれ。
あの一言で、確実に未来が変わった。
「コメント、ちゃんと見れば」
自分でも驚くくらい、落ち着いた声が出た。
「いける.....かもしれない」
ナイフを握り直す。
一歩踏み出す。
「ちょっとだけやるわ」
スマホに向かって笑う。
「無理そうだったら即逃げるからな!」
コメントが一気に流れる。
「それでいい」
「無茶はするな」
「いけユウ」
「頼むぞ、コメント欄」
小さく呟いて、ユウは走り出した。
同時視聴者数は――27人。
気づけばさらに増えていた。




