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黒焔の復讐者は禁忌を宿して異世界を往く  作者: 美希昌希
第二章:グロムハルト編
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第039話 先に進む理由

 ケルベロスの巨体が横たわる広間を抜け、一行は比較的安全な坑道で小休止を取ることにした。


 バルディアはヘパイストスの隣に座り、さっきから尻尾をブンブンと振っている。再会できた喜びが全身から溢れ出ているようだ。


「なあ、師匠。ウォルコットから、このダンジョンでドワーフが行方不明になってるって聞いたんだ。何か知らねえか?」


 バルディアの問いに、ヘパイストスは髭をさすりながら首を傾げた。


「ドワーフが行方不明じゃと? はて、わしがここに潜ってから、他の者には会っておらんが……」

「そっか……。師匠も見てねえとなると、いよいよ謎だな」


 重い沈黙が流れる。ヘパイストスさえ見つかれば、事態は解決に向かうだろう。そんな楽観的な考えは、脆くも崩れ去った。


「なあ、お前さん達。一旦地上に戻らぬか」


 ヘパイストスが重々しく口を開いた。


「はあ!? 何言ってんだよ師匠!」

「聞けい。この先、あのケルベロス級の魔物がいつ出てくるとも限らん。そもそもあやつは、もっと下層のボス級じゃ。ここで出現すること自体が異常なんじゃ。この人数で進むのは危険すぎるぞ」


 正論だった。満身創痍でダンジョンは異常事態ときてる。ここで引くのが、ベテランの判断としては正しいのだろう。


「いや、それはできねぇよ師匠……!」


 バルディアが食い気味に叫ぶ。


「他のドワーフたちがまだ奥にいるかもしれねえだろ! 師匠一人見つけてハイおしまいだなんて、できるわけねえ!」

「あの、バルディアちゃん。その気持ちはわかりますが、わたしたちの命にもかかわる問題です。意地を張っている場合では……」

「そりゃ、これがアタシの勝手でワガママなことだってわかってるよ。けどよ……!」


 アヤメの諭すような声に、バルディアは悔しそうに俯いた。


 ——アヤメの言うことももっともだ。この先ドワーフ達が見つかる保証なんてどこにもない。そもそも、バルディアやヘパイストスはともかく、ドワーフと面識のないおれやアヤメが、そこまでリスクを負う義理はない。


 それに、ドライな考え方をするなら、アヤメにとってはこのダンジョンに目的の魔石がない以上、付き合う必要はないわけだ。石の在り処を知るであろう、ヘパイストスの救出にも成功している。

 もちろん、彼女自身はそんなこと考えてもいないだろうが。


 しかし……。


「バルディア、お前の気持ちもわかるよ。ギルドの件があるからこそ、他のドワーフも助けて戻りたいんだよな」

「エミル……」

「おれはバルディアに賛成する。先に進みたい」


 その一言に、全員の視線が集まった。


「ちょ、ちょっとエミル様!?」

「そうでなくちゃな、エミル……!」

「ふむ。お前さんはドワーフと面識もないはずじゃ。そこまで危険を冒す理由はなんじゃ?」

「ああ。何も、ただ闇雲に進もうってわけじゃない。この状況、経験があるんだ」


 タルマ村のダンジョンで起きた出来事を、簡潔に話した。規格外の魔物が上層に現れたこと。その原因が、さらに奥に潜む『謎の存在』だったこと。


「ほお……ということは、お主のその不思議な力は、その『謎の存在』とやらに触れてしまったからというんじゃな」

「ああ。姿形ははっきりとわからなかった。ケルベロスは原因じゃない、結果なんだ。この奥に元凶がいる。行方不明のドワーフたちも、そいつが関わっている可能性だってある」

「ふむ……お主の言う通りなら、悠長に捜索隊を待ってはおれん、か。なるほど、筋は通っておる」


 それは半分はこじつけで、半分は本心だった。


 ——これは道理を通すための詭弁だ。原因が「謎の存在」、つまりダンジョンの奥にあった神獣の核だと決まったわけじゃない。

 だが、このダンジョンの奥にも同じように神獣の核が……いや、ひょっとしたら今度こそ元の世界に通じる「扉」があるかもしれない。


 ——『確か、「扉」を探してる、とか言ってたっけなあ』


 ラグネシアで会った、酔っぱらいの言葉が忘れられない。


 ——おれと似た服を着ていたその男は、「扉」を探してダンジョンを渡り歩いている可能性だってあるんだ。そんな手がかりがあるなら、逃すわけにはいかない。


「もちろん無理にとは言わない。これはおれの都合でもある。いざとなれば一人でも進むつもりだ」

「にしし、元はアタシが言い出したことだぜエミル! 当然アタシも付き合う。行こうぜ!」


 バルディアの目に、さっきまでの不安はもうない。


「弟子がそこまで言うんじゃ、師匠が逃げ帰るわけにはいかんのお。まったく、弟子だけでなく、弟子の仲間まで手がかかるとは」

「……仕方ありませんね。エミル様がそこまで言うのなら、わたしも覚悟を決めます」


 ヘパイストスが苦笑しながら鎚を担ぎ直し、アヤメも覚悟を決めた目で頷いた。


 こうして、四人の意見は一つになった。一行はさらに深いダンジョンの闇へと足を踏み入れることを決めたのだった。

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