第91話
「がはっ」
口から大量の血液が漏れ出て、サクラの腕を赤く染める。
「あ、あ、あ」
「何やってるんだお前!」
ナナが大剣を持ってエルに向かって突き進む。無数の武器と斬撃がナナに浴びせられるが、ナナは大剣を盾に突き進む。
サクラの顔は青ざめ、拳はわなわなと震えている。サクラの拳から放たれたヒビ割れは俺の体を蝕み、へし折り、引き裂き。
「腕を抜けサクラ!」
「っ!」
サクラが腕を引き抜くと同時に、臓物が重力に従って落ちる感覚が。
傷が熱い。
流れ落ちる血が冷えた空気に触れて、ゆっくりと熱が奪われていく。傷を伝う血液が、温度を失う。
「・・・!」
いつの間にかリーリャンの膝に寝かされていた。腹には穴が空いたまま、傷が炎で焼かれ塞がれていた。
「お、お前様!」
「目覚めたか、これを飲め」
リーリャンが自分の腕にナイフを刺し、血液を俺の口に流し込む。
「フェニックスの血液は治癒能力を高める・・・噂だけどな」
「俺は、死ぬのか?」
「・・・」
リーリャンは黙ったまま俺の腹に目を落とした。自分の腹に手をやると、穴がぽっかり空いていた。
「もう長くはない」
「お前様・・・我が、我のせいで!」
「大丈夫、大丈夫だ。まだ動ける」
俺はサクラの頬に手を伸ばし、その涙を拭う。
アドレナリンが出ているせいか、痛みは感じない。ただ冷たい、寒い。
俺は立ち上がる。ボーディガンとエルの二人を相手取り、ナナは一人で奮闘していた。防戦一方に見えるが、二人の動きを制限していた。
「ナナを、手伝わなきゃ」
「あぁそうだなお前様!」
「傷は深い、無理はするなよ」
風が吹く度、腹の穴が冷える。
俺はゆっくりと歩き、ボーディガンの無数の斬撃が飛び交う空間に近付く。
「無策じゃ無理だ!」
リーリャンが何かを叫んでいたが、俺には届かなかった。足が勝手に進む。
斬撃飛び交う空間に足を踏み入れると同時に、無数の斬撃が俺に向かって飛んできた。
「・・・」
見えない斬撃が俺に触れる瞬間、その斬撃全てが反転した。俺に向かって来た斬撃はボーディガンに向かう。
「ボーディガン様!」
エルが身を呈して、ボーディガンを斬撃から守る。無数の斬撃が、何度もエルの体を浅く切り刻む。
「なんだ?」
「こいつ、全身で反転を!」
「隙ありであります」
ナナの大剣がエルを引き裂こうとした瞬間、ボーディガンの腕が持つ武器で防がれた。
「ボーディガン様!」
「集中しろL、今やこいつは脅威となった」
「脅、威・・・」
ぼんやりと言葉が頭の中で反響する。
無数の斬撃をボーディガンが止め、無数の腕が武器を持って俺に襲い掛かる。
「やらせるかぁ!」
「こんなもの!」
サクラとリーリャンが俺を両サイドから守る様に、ボーディガンから伸びた腕をたたき落とす。
「お前様、今こいつらは脅威と言った! 何か今のお前様なら、アイツらに一杯食わせる事が出来るはずだ!」
「僕とサクラで道を開く! 進め、進む事だけを考えろ!」
「・・・あぁ」
「【重力を増やすギフト】」
俺の体に一瞬負荷が掛かるが、そう思った瞬間には体が軽くなっていた。自動的に反転が発動し、俺の体に掛かった重力を反転させた。
「二度も三度も!」
「もう慣れた!」
高負荷を受けながらも、サクラとリーリャンは身を呈して武器の攻撃から俺を守る。
「・・・【武器を生成し飛ばすギフト】」
「お前様!」
俺に向かって無数の武器が、まるで弾丸の様に飛んで来る。だが俺の体に触れた瞬間、武器は反転しあちこちに飛んでいく。
「っ! やはり、か」
「ボーディガン様! ボーディガン様!」
エルが悲鳴を上げる。ナナの大剣を首に押し付けられ、地面に組み伏せられている。両手からはじっとりと血が流れ落ち、大剣を掴んで必死に押し止めている。
「焦るなL、俺が・・・」
「なぁ」
俺はボーディガンの目の前に立つ。
「それ、邪魔だよ」
ボーディガンに向かって腕を伸ばす。ボーディガンは無数の腕を伸ばし、俺を止めようとする。だが、その腕が俺に届く前に。
俺の指先はバリアに触れた。
「【反転】」
バリアの内と外が反転した。バリアは捻れて形を保てなくなり、破裂する様にバラバラになった。
「っ!」
「やっと、表情が変わったな」
ボーディガンの顔色が変わる。指輪の一つが光を失い、地面に落ちる。
今までの余裕は消え、俺を敵として認識した顔だった。




