第35話
ナナの操る馬車でレニィの街までの道中、俺達は大量の人が街の入口に殺到しているのを見つけた。
「あれはなんだ?」
「見た所兵士・・・それも人間のだな」
「ナナは何も見えないであります! 雨足が強すぎるであります!」
ナナの言う通り、雨足が強く時間も悪い為俺の目からもよく見えなかった。しかしサクラの言葉に疑う余地はなかった。
「なんで人間が・・・」
「関係が悪くなっていたとリーリャンが言っていたな、それと関係があるかもしれん」
「どちらにせよ一大事だ。ナナ、止まらず突っ切ってくれ!」
「了解であります!」
ナナは馬車のスピードを上げ街に近づく、街のいたるところから炎が吹き上がり黒煙が空を覆っている。
「止まれ、止まれぇぇぇ!」
兵士達が俺達に気付き、道を塞ぐように広がる。その手に握られた槍や剣は俺達の方に向けられ、敵対の意思が明確にあった。
「突っ切るであります!」
「頼んだ!」
ナナがさらに馬車のスピードを上げ、兵士達を轢き飛ばしながら街の入口に突っ込む。
街の入口は即席のバリケードで固められており、馬車はバリケードにぶつかり停止した。
「痛〜っ!」
「ナナ! ボーッとしてるな、早く街に入れ!」
「もうちょっとナナを労わって欲しいでありますよ〜!」
兵士達はあっという間に俺達を取り囲む。
「貴様らも魔族だな!」
「そうだと言ったら?」
サクラの挑発するような受け答えに、兵士が反射的に飛び掛る。サクラはその兵士の剣を受け止め、足で踏みつけへし折った。
「魔族と言ったらなんだ? 言ってみよ人間風情が!」
「魔族と誤魔化してはいるが所詮は魔物、殺してしまえ!」
その兵士の一言で、兵士達が一斉にサクラに向かっていく。サクラは爪を出し、一瞬で兵士達の装備をバラバラにする。
「くだらん! 大して強くもない!」
「とりあえず指揮官らしき奴確保でありますね」
ナナは逃げようとしていた肌着の男の首を捕まえ、俺達の中心に放り投げた。
「これはなんだ? どうして人間が魔族の街に?」
「王命だ! 魔族の街を滅ぼし手に入れろとの王命が下ったのだ!」
「クソ、大体この騒ぎは分かったがどうして・・・」
「近々来る大戦の為、そして我ら人間の存続の為に!」
指揮官風の男はナイフを取りだし、俺に向かって大きく振りかぶる。
俺はその手を受け止め軽くひねり上げ、街の外に向かって蹴り飛ばした。
「国に帰れ、そんな理不尽に踏みつけられてたまるかよ」
「大隊長・・・大隊長がいるからには、お前ら魔族はもう助からない」
「大隊長? そいつは強いのか?」
サクラが興味津々に食いつくが、俺が引っ張り街の中に連れ戻す。
「とりあえず俺達のやる事を整理する」
「リーリャンの捜索でありますね!」
「それもそうだが、俺達の荷物の回収。できる事なら事態の解決もだ」
「果たして我らがやるべき事か?」
「この街には数日滞在しただけだが、理不尽に襲われている人達を見捨てられない」
「か〜っ! 我の伴侶は慈悲深いなぁ〜!」
サクラは大袈裟にリアクションし、すぐに狼の姿に変身した。
『乗れ、火の手は遅いが人の足なら追い付かれようぞ』
「ありがとう、街の反対側に孤児院がある。恐らくリーリャンはそこだ」
『捕まっておれよ!』
サクラは俺とナナを乗せ、地面から飛び上がる。入り組んだ建物の間の、小さな出っ張りや窓の突起を器用に使い素早く移動する。
街の中は至る所で戦闘の跡があり、兵士も魔族も共々倒れていた。建物には火が放たれ、細い通路は煙で満たされ。地獄の様な光景が広がっていた。
「あれは!」
サクラの背から身を乗り出す。
俺の見覚えのある公園には兵士達の死体が積まれ、ごうごうと音を立てて燃え盛っていた。孤児院には火の手は回っておらず、俺達は無事を確かめるべく孤児院の中に入った。
「マザー・セリーナ! いますか!」
「誰もいないな」
「逃げたんじゃないでありますか?」
「そうだったらいいんだけど・・・」
俺達は無人の孤児院の中を進む。ふと扉を開くと寝室のようで、子供用のベッドがいくつか並んで配置されていた。
「誰もいない・・・」
「む?」
サクラが何かを見つけた様にベッドを持ち上げる。するとそこには地下に続くハッチが隠されていた。
ハッチを開けると子供達の悲鳴が地下から轟いた。
「大丈夫ですか?」
「その声はリーリャンと来てくださった・・・」
地下からマザー・セリーナが顔を出した。よく見ると奥には子供達も隠れている。
「どうしてこんな所に?」
「リーリャンに隠れているようにと・・・どうかあの子を助けて下さい! あの子は一人でこの騒動を収めようと躍起になっています!」
「どこに行ったかご存知ですか?」
「襲って来た方達の指示役を探しているはずです。確か街の地下に向かったと話しておりました」
「分かりました、しばらくここに隠れていてください。サクラ、ナナ街の地下に向かうぞ」
俺達はハッチを閉じてベッドを戻し、孤児院を後にした。
街の中には焼けた兵士達の死体が数多く転がっている。恐らくリーリャンがやったものだろう。
俺達は燃え落ちる劇場を通り抜け、街の地下に通じる階段にまでやって来た。
「この下に・・・」
俺は息を呑む。まだ見ていない。《《あの》》サイズの死体を。
「行くぞ! お前様!」
サクラが先頭切って走り出す。地下からは絶えず轟音が響き渡り、衝撃で通路が崩れそうになっている。
俺も後に続き地下に降りる。
『ぐぁぁぁぁぁぁぁ!』
そこで目にした光景は、鳥の姿のリーリャンが無惨にもバラバラに切り裂かれる姿だった。
地面に横たわるリーリャンの首を引っ張り、その首に嬉々とした表情で剣を押し当てるその姿。
見間違えるはずがなかった。
「父、上・・・!」




