第21話
俺達はサクラの背に乗って、ダンジョンの跡地にまで戻ってきた。ガルガンチュアのいた後にはぽっかりと巨大なクレーターが開き、地下水が流れ出し水溜まりとなり始めていた。
「帰ってきたぞ!」
クレーターのほとりに立っていた数人の見張りが俺達を見つけて声を上げる。すぐに大勢の人間が集まり、俺達を取り囲んだ。
「あの巨大な魔物はどうなった!?」
「なんだったんだアレは!」
「ダンジョンが魔物だったなんて、ギルド本部にどう説明すればいい!」
「落ち着いてください!」
それに声を上げたのはエルサだった。
エルサは震える足でサクラの背に立つと、大きな声で主張を始めた。
「あの魔物はこの方達の活躍で討伐されました! あの魔物は自然魔王ガルガンチュア、放っておけば人類の脅威となる存在でした!」
「エルサ、君の主張は本当だったんだな」
人ごみを掻き分けて、ギルドマスターが進み出る。エルサは深く頷くと、自分の胸に手を当てた。
「魔王を倒しこの世界を救った《《英雄》》達に、しばしの休息を与えて下さりませんでしょうか! お願いします!」
エルサの主張を聞いた人々は互いに顔を見合せあい、どよめきが駆け抜ける。
そこで手を上げたのはギルドマスターだった。
「危機は去り、事態は落ち着いた。次にするべき事は街の復興ではないか? 面倒な本部への報告は私が受け持つ、若いもの達は街の片付けに掛かってくれ」
「まぁ、ギルドマスターがそう言うなら・・・」
「色々聞きたいこともあるがしょうがねぇ」
冒険者やギルド職員達はギルドマスターの指示通り、街の後片付けに向かっていった。
「ギルドマスター、私は一部始終を見ていました。報告の際には私も協力します」
「エルサ、本当にすまなかった。君の主張をもっとちゃんと受け止め、調査を行うべきだった」
「半世紀も前の事ではありませんか、気にしないでください」
「それに君達」
ギルドマスターの目が俺達に向けられた。
「よくこの街。いや、世界を救ってくれた。ありがとう」
「別に、俺達は魔王を倒す目的があったからやっただけだ」
「我は走り疲れた、飯と寝床を用意してくれ」
「勇者として当然の働きであります!」
「ほほほ、英雄達には労いが必要だな。ギルド側からの依頼だったからその報酬も出さねばな」
ギルドマスターはそう言って、エルサを引き連れて街の方に向かって行った。
その場に取り残されたナナが地面にへたり込む。
「めっちゃくちゃ疲れたであります〜!」
「お疲れ様、かっこよかったぜ」
「これで残りの魔王は四人、まだ旅は折り返し地点だな」
「ところで、主様って魔王なのでありますか?」
俺達の間の空気が凍り付く。
ナナは大剣に手を伸ばしながら、じっと俺達を見つめる。
「ええっと」
「もう隠しても仕方ないんじゃないか? お前様」
「落ち着いて聞いてくれ、ナナ。魔王って言っても悪い奴じゃなくって」
「じゃあ魔王なんでありますね」
ナナは大剣を持って立ち上がる。
そしてその大剣を背中に戻し、その場に膝を着いてサクラの手を取った。
「改めて魔王討伐の手伝いをやらせて欲しいであります!」
「・・・サクラを討伐したりしないのか?」
「主と定めた人を襲うほど、ナナは不義理な魔族ではありません! それに、今のナナでは勝ち目が無いので!」
ナナら二カっと笑い、まっすぐサクラを見上げた。
「勝ち目があれば襲うのか?」
「はい! ナナは勇者でありますから!」
「面白い! 我は気に入ったぞお前様、ナナを連れて行こう!」
「えぇ・・・まぁサクラが良いなら良いけど・・・」
「やったー!」
ナナは両手を振り上げ、俺とサクラを抱き寄せた。
「これからもよろしくお願いするでありますよ! 主様、旦那様!」
「おう! よろしくな!」
「そう言えば、どうしてサクラが魔王だって気付いたんだ?」
「これであります!」
ナナは自分の頭から生えているアホ毛を指さした。アホ毛は風になびくように、サクラの方を向いている。
「勇者のギフトを授かった際に、近くの魔王の位置が分かる力を授かったのであります。なので、最初に会った時から気付いていたでありますよ」
「マジかよ、てっきり知らないもんだと思って隠そうとしてたよ」
「大体獣になれる獣人なんて聞いた事ないであります! 特別な力を持つ者であるのは予想が着くでありますよ〜」
「って事は只者でない事はこの街の連中にも知られてるって訳か・・・」
俺は岩石の片付けに取り掛かっている街の住民を見ながら、少し考える。
この街にいる理由も無くなったが、この先どこに行くかも決まっていない。少しばかり魔王に関しての情報を収集したいが、この街に留まるのはリスクがある。
「う〜ん・・・」
「あの」
声に驚き振り向くと、エルサがそこに立っていた。手にはパンパンの袋を持って、気まずそうな顔をしていた。
「報酬を持ってきたらお話が少し聞こえてしまって」
「あぁ・・・えっと」
「いえ、ギルド職員には冒険者様の個人情報を口外しない守秘義務がありますのでご安心を」
「どうも・・・」
「それよりも、魔王に関してお探しなのですよね? 噂話程度でよければ情報、ありますよ」
サクラの耳がピンと立つ。
「詳しく聞かせてくれるかの?」
「はい。ここから北に、魔族の街【レニィ】があります。そこに向かう道中、魔王を名乗る炎を纏った鳥を見たと言う噂を聞きました」
「魔王を名乗る炎を纏った鳥?」
「覚えがあるのか、サクラ?」
「いや、全く知らん! 大体さっきのガルガンチュアとやらも覚えがない!」
「主様は他の魔王と面識があるのでありますか?」
「あるぞ! 忌々しいガリュオーンだろ、風の・・・あの名前忘れた奴だろ。ほら!」
「「たった二人!?」」
「ピー! 魔王なんて皆顔も名前も知らんのが普通なんだー!」
サクラは駄々をこねる様に地面に寝転がり、じたばたと暴れ始めた。
その様子を呆れるように見ていた俺は、エルサさんから袋を受け取った。
「こちら今回の報酬です、どうか旅にご活用ください」
「いいのか? 復興で入り用何じゃないのか?」
「魔物被害なのでギルド本部から復興支援が出るはずです。それに何より、この世界を危機に陥れる様な魔王を討伐して欲しい。そんな私個人の願いも含まれています」
「そうか・・・ありがとう」
「どうかご無事で」
俺は地面に転がるサクラを引っ張り、地図を広げる。ナナという新たな仲間を手にした俺達は、南に進路を取った。




