俺と違和感の正体
王宮に来て一ヶ月が経った。
稽古にも少しずつ慣れ、最初のように倒れることはなくなった。稽古後も当たり前のことではあるが自分の足で部屋に戻れる様にもなった。稽古の成果が出てきたのか力がついてきたように感じる。
もちろん稽古だけではない。王宮生活にも慣れててきているという自負はある。
フリフリの服を着た彼女たちと話していく中で気を許せるようになったことが大きいだろう。聞くに彼女たちはメイドという役職の者らしい。俺の面倒を見ることが仕事ということもあり、良く世話を焼いてくれる。
正直まだ人に色々やってもらうことに抵抗はあるが、以前よりも受け入れている自分がいる。慣れとは恐ろしいものだ。
しかし、慣れてきたからこそ気になるものが出てきた。
それは周りの目。
最初の一、二週間は稽古と生活に慣れることに必死で気づかなかったが、周りを見る余裕が出てきた今はそれがやけに気になるのだ。
最初は見知らぬ顔を見たせいかと思っていたが、どうやら違うらしい。俺は疑問に思いながらも深くは考えていなかった。いつかそれが無くなるだろうと、気のせいだろうと思っていたからだ。
しかしある日その原因がわかる日が来た。
稽古終わりにメイドさん達と歩いていたとき、急に目の前に現れる男がいたのだ。その者は文官の服を身に纏った初老の男。観察する様子を隠す気がないのか目の前でジロジロと俺に嫌な目線を向けてくる。
俺はどうすればいいのかわからず固まっていると、俺とその男との間にすっと人が入った。
「カ、カロンッ!」
その者はカロン。俺の世話をしてくれているメイドの一人だった。
カロンは俺の方を見てにこっと笑うと、一変して前の男を厳しい顔で見る。
「ハリュー様、道を塞いで何用ですか?」
「ふん、メイド風情が私に向かって発言するでないわ」
ハリューと呼ばれた男は気を悪くしたようで睨み付けるように俺の前に立つカロンへ顔を向ける。
しかしカロンへ視線を向けたとき何か思う事があったようで、片方の眉をくいっと上げ首を捻る。
「ん~? その顔どっかで見たことがあるな。しかし私が普通のメイドなんぞ覚えているはずがない。おかしいのぅ」
「その様子ではジーク様に用はなさそうですね。
さ、ジーク様部屋に戻りましょう」
「う、うん」
カロンの初めて見る厳しい顔に戸惑いつつも俺は素直に男の横を通る。その時ちらっと男を見るとまだ何か考えるように眉を寄せていた。
まあ、何も言ってこないに越したことはない。俺達はそれ以上その男に関わらないように足早に歩く。
変な人に出会ったものだ。そう思っているとき、突如廊下に声が響いた。
「そうかそうか! ふはは、わかったぞ!」
声に反応して振り返ると、口角を上げた男と目が合う。その目は爛々と輝き気味が悪い。
何故、何故そんな目で俺を見る?
「はは、どっかで見た顔だと思ったらお前はあのカロンかっ! カロンをこんな小僧につかせるとは……王は余程こいつが大事らしいなぁ?!
ならば大臣たちから直々に指導を受けているという噂も真かもしれんのう!!
ロイゼの幼子よ! 私の事を王に進言してはくれまいか? 私は、私はこんな役に留まる人間ではないのだァ」
歩み寄ってくる男を見ながら俺は視線に込められていた意味を理解した。
俺に向けられていた視線は珍しかったからじゃない。あれは、あの視線の本当の意味は『欲』だ。
俺はしっかりと理解してなかった。
自分の出生が周りの者にどう思われているかを、大臣たちから教えてもらうという事の異常さを。
今となってはハリューと呼ばれてた目の前の男の事など眼中に無い。
俺は、俺には……
「知識が必要だ」
ポツリと呟いた言葉。けど優秀な彼女たちはしっかりと聞いていたらしい。
この日の夜からメイドさんたちによる座学の時間が設けられた。
お待たせしてしまってすみません。またのんびり更新になってますね……。
更新ペース頑張って上げていきます!
お読み頂きありがとうございました




