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12.説得される善良令嬢

ブクマ&評価ありがとうございます。

励みにさせて頂きます。

「おつかれさん。どうにか間に合った。」


 食堂が開く直前にやっと、200食分のパンケーキが焼きあがった。パンケーキは多少冷めてても美味しいので問題ないはずだ。


「これから、デザートのホットケーキを焼きます。それから、パンケーキを食べた後にホットケーキはちょっと、という方のためにクレープというデザートもお出ししようと思うのですが、大丈夫ですか?」


「おう。デザートは任せる。それに今日のウエイトレスも免除だ。今まででもなんとかギリギリ回せていたんだ。今日もなんとかなるはずさ。」


 まあ、私のウエイトレスは役立たずだからな。居ても居なくても同じなのだろう。


「それから、このパンケーキの報酬はデザートのホットケーキと同じ値段にさせてもらえないだろうか? アイデアを出して助けてもらった上に超特急で作ってもらったんだが、これくらいが限界なんだ。」


 本当はパンと同じ値段でいいつもりたっだのだが、それよりも随分、高額な報酬になった。パンと同じ値段にして、無理矢理、恩を押し付けるよりも、ここは引いてすっきり終わらせるほうがいいだろう。


「わかりました。それでお願いします。ですが、私がここに居る間はこのアイデアを取り上げないでくださいね。」


 元々、親友アレクサンドラのアイデアだ。勝手に使われたら困る。


「もちろんだ。好評だったら、最低限、材料はそちらのルートで買わせてもらうし、こちらで出したバリエーションも使ってもらってかまわない。手が足りなければまた手伝ってもらうことになるだろう。まあ、その時の値段は要相談ということで頼むわ。」


 元々、王宮食堂では利益なんか出ていないのだ。毎回、毎回、パンの値段を上回る金額を払っていたら、赤字になってしまうだろう。


「はい。もちろんです。」


 その後もクレープとホットケーキを焼きに焼きまくった。もう円形のものは見たくないくらいだ。


 私の予想は当たっていたようで、物珍しさからパンケーキがどんどん売れていき、デザートはクレープを買う客が多かったので、早く焼け回転率の高いクレープが大活躍。その後パンケーキが売り切れ、食い逃した客がホットケーキを買っていった。


     *


「ああ、間に合わなかった!」


 パンケーキの評判を聞きつけ、食い逃した客に私の知っている人間が3人。リラ様とケイ様とトニー氏だった。思わず笑ってしまう。


「もうリラ様があんなことを言うから、逡巡しているうちに食い逃してしまったじゃないですか・・・。」


「ケイ。男らしくないぞ。」


「ええ、ええ、そうでしょうとも。リラ様より男らしい人間は騎士団中探してもいませんからね。」


「そうだ。そうだ。世間では俺のライバルになっているけど、コマした女性の数の桁が違う。」


 3人とも商売の邪魔です。とは言いにくい。


「ホットケーキはあと2枚です。いらないんだったら、後ろの方の譲ってあげてください。」


「「「食べる!」」」


 だから、あと2枚ですって。聞けよ人の話を・・・。


「リラ様! ここは男らしく譲ってあげましょう!!」


 どうせ、私のボディガードを兼ねているのだ。今日も帰り道に送ってくれるようなことを言っていた。娼館の前に屋台を出すときにたらふく食べられるだろうし・・・うまくすれば・・・。


「ええ・・・やだー。食べたい!」


 この人、本当に50歳を越えているのだろうか、とてもそんなふうには思えない。しかも、全然男らしくないし・・・。


「もしかすると、食堂のマカナイでパンケーキが食べられるかもしれませんよ。」


 まあ、料理長に無理言えばなんとかなるだろう。自分の分を上げてもいいし・・・。


「「・・・・・・・・贔屓だ。」」


 トニー氏とケイ様がポツリと漏らす。


「まさか、もう落したんですか?」


 トニー氏がリラ様に詰め寄る。


「俺に近付くな! と言っておいて卑怯です!!」


 ケイ様がリラ様に心底、軽蔑した眼差しを向ける。


「そ、そんな訳、無いだろう。私たち友達だよね。・・・ねえティナちゃん、なんでそんな冷たい眼差しなの・・・?」


 私も彼らに釣られて、冷たい視線を投げてしまった。


「「杞憂だったのか。よかった。」」


 それが功を奏して、秘密の恋人ということがバレなかったようだ。


 結局はケイ様とトニー氏は就業時刻が迫っており、マカナイの席には行けないということでホットケーキを選択した。リラ様は渋っていたが・・・。


     *


「おおっ。師匠久しぶりです。」


 リラ様がマカナイ用に誂えた席に入っていくと若い料理人たちから、そんな声が飛んできた。


「師匠?」


 まさか、リラ様が料理人たちの師匠なのか?


「そうなんです。我が国では王宮の料理人とはいえ、自分の身は自分で守れるように新兵並みに訓練を受けさせられるのです。そのときの教官がリラ様なのです。」


 ああ、びっくりした。それなら分かる。料理人とリラ様じゃ、余りにも不似合いだ。


「本当なんですか?」


「ああ、本当だとも。女性でも希望すれば訓練に参加できる。戦争になれば、真っ先に狙われるのが彼らだからだ。」


 どうやら、先の戦争では女性や料理人が狙われたらしい。そこで最低限、自分の身は自分で守れる程度の訓練を積んでもらっているらしい。


「ですから、師匠に散々殴られたり蹴られたりして痕が残りましたが、これは勲章として大事に残してあります。」


 リラ様も殴ったり蹴ったりするんだ。しかも、痕が残るなんて酷い。酷すぎる。


「おいおい。私は治しに貰いに行けと言ったよな・・・。どうして治しに行かなかったんだ。」


 リラ様は私の視線が恐いのか振り向きもせず、料理人たちに詰め寄っている。


「そんな陛下や王太子に治療してもらうなんて、恐れ多い。」


「はあ、だからか。マクシミリアンやユーティーが、がっかりしていたのか。奴ら、君たちに触れ合えるのをとても楽しみにしていたんだぞ。だから怪我人を量産したというのに、何にもならないじゃないか!!」


「そんなことは、先に言ってください。」


 ワザと怪我人を増やしたような発言をしているのに怒りしないなんて・・・。結構、慕われているのかも・・・。


 マカナイの席では、活発にパンケーキの感想やバリエーションの話題が飛び出すと思っていたのだが、リラ様と若い料理人たちの昔話で盛り上がったのだった。

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