第一話 カイゼン、欠損奴隷を買う
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「カイゼン、本当にこれを買うのか?」
「ああ」
俺は目の前のガラクタを指さした。
「こんなもん誰が買うんだ?」
「だから俺が買うんだよ」
「いや、そういう事じゃなくて……」
ガルドが頭を抱える。
俺の目の前にあるのは片足のない少女と、壊れたトカゲ型の玩具だった。
片足のない少女は感情のない目で俺の顔を見てくる。
彼女が何を考えているのかはわからない。だが彼女はこの異世界では壊れた玩具と価値は変わらない。
この異世界で欠損奴隷は珍しくない。考えてみれば自然だ。中世ヨーロッパと同じ文明では医療が全く発達していない。病気や傷を負った時の治療はバカ高い金を請求される教会くらい。大体の平民はそれを払えずに死んでいく。破傷風になった傷口が広がる前に足を斬り落とす。異世界ではよくあることだ。
「俺が買ってやるんだよ。どうせ死ぬしかない命だ」
「……そんなことを言ってもな」
「ガルド。お前さんが欠損奴隷を見捨てられなくて買ってくるのはお人よしだからだ。でも金は減る一方だろう?」
「……」
「このままじゃあ、ガルドは親父さんから継いだ奴隷商人を廃業しちまう。それを困って俺にこの話を持ち掛けてきたんだろ」
「そうだ」
「この国では欠損奴隷は何て呼ばれてるか知ってるだろ。ガラクタだ」
「ッ!」
俺たちの話を聞いている片足のない少女が少しだけ、悲しそうな顔を見せる。ったく俺は異世界からやってきた元ジャンクショップ店員だ。ガラクタってのは大概、ガラクタじゃない。
「見せてやるよ。俺が買った“ガラクタ”がどんなバカ高い商品に化けるかを」
俺が啖呵をきると、ガルドは少しだけ目を潤ませて俺を見てくる。
ったく男の泣き顔なんて見ても嬉しくないんだよ。
感情のない少女は白髪でお人形のような顔をした小柄な少女だった。
だが少しだけ表情が変わり、俺の方をぼーっと見つめてくる。
俺は出来ないことはやらない主義だ。
「ジャンクショップカイゼン、開業ってな」
俺はガルドとアルセラにそういう。
ああ、アルセラは白髪の感情のない少女だ。
俺はこうして、壊れたトカゲ型の玩具とアルセラを買った。
トカゲ型の玩具とアルセラ合わせて、銀貨五枚。いかにこの世界では命が安いかわかる。
途中、マイコンの街の市場を冷やかして、何か面白い掘り出しものがないか探す。
「お、魔石の端材か。銅貨一枚でどれくらい? お、全部いいのか」
「これは嬢ちゃんが結ったアンデス森の蔓か。銅貨三枚でこれくらい? ラッキー!」
「これは、アラングレイン遺跡の掘り出し物か。へー謎の細工が彫り込まれた薄い板? 買った!」
俺はアルセラを背負いながら、マイコンの街の市場でジャンク品を購入する。
まだ何を作るかは決めてない。でもジャンク品ってワクワクするんだよな。
それぞれでは機能しない、欠けたそれぞれの物。それを組み合わせて、予想外の物を作る。それが楽しいんだよ。
俺はマイコンの正門をでて、森の中に入っていく。
青く燃ゆる木々が風に揺られて、そよそよと囁く。近くの茂みから何かが揺れる音がする。背負われているアルセラが少し緊迫した空気を出す。
ああ良いんだ。こいつらは俺の子供みたいなもんだからな。
森の中を少しだけ警戒しながら、歩を進める。見えてきた。
俺がガラクタを集めて作った一軒家だ。
「変な家……」
おんぶしているアルセラが一言だけ呟いた。この家は森の中に突然出てくるとおとぎ話に出てくるような家じゃない。これはジャンクな廃棄物を作り合わせて作ったガラクタ城って感じの家だ。突然足が生えて荒れ地を走り回るわけじゃないけどな。いつかそういう機能を付けてもいいと思ってる。
遺跡の廃棄物である、よくわからん柱や彫刻がついたものを正門にしている。そこには閂が掛けられる扉がつけてあり、それを下ろしてやる。中に入ると昭和レトロな看板のような物が多数張り付けてある。文字に意味はない。この世界では通じない漢字や古代文字をガラクタで文字にして張り付けたんだ。意味はあるかって? こういうのは雰囲気なんだよ。
中は洋室が三つ、キッチン、井戸場に面したキッチン。厠の3kだ。3kとはキッチンと三つの居室を組み合わせた間取りになっている。そんなに住人が増えるとは思えなかったのでこれくらいの家を建てたんだが、奴隷を買ってくるってなると人が増えるな。まあ俺のジャンクスキルがあれば家の改築に必要な解体はすぐできる。
俺はアルセラを下ろして、マイコンの市場でアルセラくらいの少女のための古着を投げてやる。
「ほら、自分で着替えられるだろ? それとも着替えさせてほしいか?」
「……お願い」
ったくガキはませてるなあ……ってあれ? 着替えさせるの? かなり恥ずかしいんだが。だがアルセラは骨と皮とまでは行かないが、顔立ちは人形化と見まがうばかりの美少女なんだが……。
「ヤなこった。自分で着替えろ」
「……」
なんかジト目で見つめてくる。はあ、しょうがないなあ。俺は裸をなるべく見ないようにしながら下着、村人姿の白い布地とカーキ色のズボンをはかせた。
ったく、これだからガキはよくわからん。アルセラは無反応でそれを受け入れていたしな。
俺は買ってきたガラクタを机に並べる。壊れたトカゲ型の玩具。魔石の端のかけら。
アンデス森の蔓。アラングレイン遺跡の掘り出し物。皆さんは何を作るかわかるか?
まず、壊れたトカゲ型の玩具に魔力を通す。
「ガオー!」
「いった! こいつ手を噛みやがった!」
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
魔力を通すと怪獣みたいに鳴いて、手を噛むトカゲ型の玩具。
だが魔力を通すと動くみたいだ。こいつはアルセラの傍に寄っていくとアルセラの手に縋りつく。何だこいつ。玩具じゃなくて魔人形みたいだな。魔人形って言うのは魔術師が作った人形に魔石を埋め込んで動く、魔術仕掛けの人形だな。
「……何であたしの手に近づくの?」
「魔力を込めてみろ」
アルセラは恐る恐るトカゲ型の魔人形に魔力を込めると少しだけ大きくなった。
うーん? 何でアルセラの事は噛まないんだ?
俺がトカゲ型の魔人形に魔力を通す。
「ギャー!」
「いって! こいつ解体してやろうか?」
「ギャー!」
「きー!」
俺とトカゲ型の魔人形がにらみ合っていると、真ん中でくすくすと笑う声が一人。
「ふふふ、カイゼン様とお人形さんは仲がいいのね」
「全然仲良くない。こいつを解体してやる」
「まあまあ」
「ギャー!」
アルセラは無表情な顔をゆがめて、嬉しそうに笑っていた。
まあこの魔人形がなぜアルセラにだけ心を許すかは知らんが放っておく。
俺は魔石の端っこを持ってきて、アルセラから魔人形に食わせるように言う。
その間にアラングレイン遺跡の謎の細工が彫り込まれた薄い板を取り出す。
「ジャンクスキル。ジャンク鑑定」
アラングレイン遺跡の魔人形の制御盤。
・荒れ狂う魔人形の魂に救済と安らぎを。これを取り付けた魔人形は主人の意思に従うようになる。
何で最初のテキストはフレーバーテキスト何だよ。荒れ狂う魂に救済と安らぎをってどこのエクソシストや。まあこれはちょうどいい感じだな。ちなみに俺はこのテキストを知って買ったわけじゃないぞ。こういうのは買ってからジャンク鑑定するもんなんだよ。
アルセラから魔石の端っこをもらっていたトカゲ型の魔人形は見た目こそ変化はない物の、かなり魔力を増していた。
「おい。アルセラの言う事を聞くなら、ちゃんとした制御盤を付けてやる」
「ガオー?」
「アルセラが主人でいいが、俺の言う事を聞け」
「ガオー!」
何でおれには徹底反抗するんだよ。ったく同じお人形さんみたいな感じだから仲がいいとか? いや? 俺の頭に一つの仮説がよぎるが、それはないと首を振る。
俺はトカゲ型の魔人形に近づき、ジャンクスキルを発動させる。
「ジャンクスキル。ジャンク合体」
アルセラが少し驚いた顔でそれを見ていた。トカゲ型の魔人形は中のゼンマイや歯車、魂となる魔石までが部品として宙に浮いていた。制御盤は頭じゃなくて魔石と近しいところに付けてやる。そうした方が魔力効率がいいからだ。
隣のアルセラを少し見ると腕が震えていた。
そうか怖いのか。ってなるとアルセラはやっぱり。
俺はそれを敢えて言わずにジャンク合体を完成させる。
トカゲ型の魔人形は少し驚いた顔をして、俺に喋りかけてきた。
「驚いた。お前、アラングレイン朝の偉大な魔術師か?」
おいおい、このスーパーベリーベリーイケメンをそんな奴と一緒にするなよ。
そんな胡散臭い奴になった覚えはないぞ。
「良いか、おれはカイゼンだ。覚えておけ」
「分かった。胡散臭いカイゼン」
「誰が胡散臭いんだ!」
俺はまだ震えているアルセラの耳元でこういった。
「いいか? 俺はアルセラを解体しない」
「……本当ですか?」
「ああ、俺はアルセラの過去にも干渉しない」
「……ありがとうございます」
まあアルセラの事はとりあえずおいておこう。
このトカゲ型魔人形の名前はどうしようか。
アルセラに聞いてみるか。
「アルセラ、こいつの名前は何にする?」
「うーん。コモドンってどうですか?」
「良いんじゃないか? 可愛らしい」
「やった、やった、おいら、今日からコモドン」
こうしてコモドンにアンデス森の蔓を手綱代わりに巻きつければ……。
「義足じゃなくて乗り物を作ればいいのさ! はっはっは!」
「カイゼン様、流石です」
「胡散臭いカイゼン。発想だけはいい」
「誰が胡散臭いじゃああ!」
金貨一枚にも満たない、生命体のジャンク品がバカ高い利益を生むぞ!
うひょー!
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