第一章 第四話 そして、四段重は鎮座する――なお、シロップ漬けとバナナは除く
今日は授業を受ける日。
単位の関係で、今日を逃すのは非常にまずいため、出席せざるを得なかった。
本当は研究室で、開発を進めたかったのだけれども……やむを得ない。
「ようやく、お昼だにゃ。待ちわびたにゃ~!」
「あはは……みかん、相当辛そうな顔をしていたからね。休み時間のお菓子だけじゃあ、足りなかったのかな?」
声をかけてきたのは、結希。
最近少しずつ、仲が深まっている。
まっすぐな気質の持ち主で、個人的に結構好きなタイプだ。
「お菓子は、あくまでも時間稼ぎに過ぎないにゃ。ようやく、しっかりしたものが食べられるにゃ!」
「その、しっかりしたものというのは……まさか、机の下にあるそれか?」
今度は久郎が、話しかけてきた。
常識人の皮をかぶっているが、珍しいものや新商品に目がないところなど、結構似ているところがある。
「そうにゃ! あのゴリマッチョ、料理の腕も確かにゃ!」
「結局、ゴリマッチョに決まったのか……あれは、確かにそう描写するのが適切だろうな」
ゴリマッチョ、正しくは大森剛平。
外見にはオカマっぽいところがあり、そのインパクトはすさまじいものの、料理の腕は確かで、栄養学や医学の知識も豊富だ。私が学ぶことも多い。
「ドリアンでもいいけどにゃ」
「確かにあの圧は、マンゴーよりはドリアン寄りだな」
なお、愛称として万果、あるいはマンゴーを希望している。
だが、久郎が認めるほどに圧の強い人物であり、ドリアン以外の果物が想像できない。
「みかん、さすがにドリアンはひどいと思うよ……まあ、確かにあの外見でマンゴーは、僕も抵抗を覚えるけれども」
結希、それはフォローではなくとどめだと思う。
もしくは「死体蹴り」の範囲かもしれない。
「さっきから、気になっていたんだよな。机の下にある、そのデカブツ」
明が、会話に加わった。
さっぱりした性格で、少しやんちゃなところもある私たちの「トウキョウ仲間」だ。
「ええ。明らかに、異彩を放っておりましたから」
さらに漣も、会話に加わった。
彼女は普段は大人しい性格をしているものの、怒らせると怖い。
彼女も同じ「トウキョウ仲間」の一人だ。
少し離れたところからは、奏とメアの視線も向けられている。
奏は少し引っ込み思案なところがあるが、いざという時の決断力はかなり高い。
メアは、どちらかというと舞先生のように、少し上から目線で接してくるので、正直なところ苦手だ。
「それじゃあ、机の上に出すにゃ……ジャーン!」
取り出したのは、おせちなどに使われる重箱。
四段重で、机の上の圧迫感がすさまじい。
「これは……九寸重か。机の上に二つ並べるだけでも危険だぞ!」
さすが久郎、危機管理意識が高い。
二つ並べれば、机の横幅はほとんど埋まってしまうからだ。
「机を移動させるぞ。結希、久郎、手伝え!」
明の言葉に従って、机が移動される。
不幸中の幸いというべきか、今年のヒーロー科は入学者が少ない。
教室には定員分の机が残されているため、空いた机はいくらでもある。
「単に並べただけでは、食べにくいな……コの字型にするぞ」
久郎の指示に従い、私を囲むように、四台の机がコの字型に並べられる。
正面に二台、左右に一台ずつ。
ほかのクラスメイトも興味を示し、コの字型の外側へ自分たちの机を寄せてきた。
「ありがとうにゃ。それじゃあ、披露するにゃ!」
私は四段重の蓋を外し、上から順に一段ずつ分けて、それぞれの机へ置いていった。
四台の机に、一段ずつ。
すべての重箱へ無理なく箸を伸ばせるうえ、机には十分なゆとりもある。
一段目は、から揚げ、卵焼き、ウインナー、魚の照り焼き、肉団子。
それに加えて、メインディッシュは豚の生姜焼き。しかも、五枚も盛り付けられている。
二段目は、ポテトサラダ、五目きんぴら、ほうれん草のソテー、トマト、チーズ。
さらに、グリーンサラダがぎっしりと詰め込まれている。
三段目は白米。真ん中には、梅干しが一つ。
重箱の大きさに対し、梅干しはあまりにも小さく、ギャップが著しい。
四段目は炊き込みご飯。
冷めても美味しく食べられるよう、具材は厳選されているようだ。
「えっと……確認するけれども、これって何人前?」
結希の問いに対して、私は答える。
「もちろん、一人前にゃ!」
さらに、密閉容器を取り出す。
保冷剤でしっかり冷やされた中身は……みかんのシロップ漬け。
缶詰から移し替えたものだ。
「おいっ! それは共食いじゃねえのか?」
「あくまでも、みかんは名前にゃ。好きな果物なのは、間違いないけれどにゃ」
密閉容器も、手の届きやすい場所へ置く。
四段重にもデザートにも、無理なく手が届く。
最高の状態だ。
「それじゃあ、いただきますにゃ!」
観察者所見
ゴリマッチョ……もとい、大森医師の診察結果は「既存の栄養学では説明できない」というものであった。
また、それだけの食料から得たエネルギーを、高度な頭脳処理に消費していることも確認されている。
よって、みかんには食事制限を設けず、健康上の危険な兆候が現れた場合にのみ介入することが決定された。
この重箱と密閉容器の中身をすべて食べ終えた後、みかんが発した言葉をここに記しておく。
「バナナはおやつに入らないにゃ」
取り出されたのは、一房のバナナ。
一本ではない、一房だ。
私たちはいったい何を観察しているのだろうか?




