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第七話 試供品出撃

 ギガントッタラーが立ち上がる。

 地面に埋まっていた巨体が、土砂を崩しながらゆっくりと起き上がっていく。

 その姿を見上げ、ゲッカは動かなかった。


「……おかしい」


 千獅雄が振り向く。


「何が?」

「ギガントッタラーは、完全に停止していた」


 ゲッカは目の前の機体を見つめる。


「電源も落ちてた。自己修復機能も動いてなかった」

「じゃあ、なんで……」

「分からない」


 ギガントッタラーの頭部が動く。

 二人を認識したのか、モノアイが赤く光った。

 次の瞬間。

 右腕が振り上げられた。


「千獅雄、逃げて!」

「分かった!」


 二人が左右に飛び退く。

 轟音。

 ギガントッタラーの拳が地面を叩き、土砂と木々が吹き飛んだ。


「うわっ!」


 千獅雄が転がる。

 立ち上がった時には、ゲッカがすでに走り出していた。


「こっち!」

「待ってくれ!」


 二人は谷を駆け上がる。

 背後から、巨大な足音が迫ってくる。


 ドン

 ドンッ!

 ドオンッ!!


 木々が揺れる。


「こいつ、俺たちを追ってきてるぞ!」

「戦闘モードだから」

「それは分かるけど!」


 ゲッカは周囲を見回す。


「このままだと追いつかれる」

「じゃあ、どうする?」

「……カリテンダーは?」

「今、救難信号を送った。すぐに研究所から博士が運んでくるはずだ! もっとも、使えるかどうか⋯⋯」

「いつ?」

「分からない!」


 ゲッカが少しだけ眉を寄せる。


「……困った」

「冷静に言うなよ!」


 その時。

 上空から轟音が響いた。


「来た!」


 千獅雄が空を見上げる。

 雲の切れ間から、一体の巨大ロボットが姿を現した。

 試供品として送られてきた、もう一体のカリテンダー。

 完成してから初めての出撃だった。


「カリテンダー!」


 千獅雄が叫ぶ。

 カリテンダーは二人の前に着地した。

 地面が大きく揺れる。

 重要部品が不足の試供品とは思えないほどの圧倒的存在感。

 千獅雄が操縦席へ向かう。


「ゲッカ、ここで待っててくれ!」

「私も乗る」

「え?」

「ギガントッタラーのことは私の方が分かる」


 千獅雄は一瞬考えた。


「……分かった」


 二人はカリテンダーへ乗り込んだ。

 操縦席に座った千獅雄が、システムを起動する。

 だが。

 警告音が鳴った。


 《出力不足》

 《出力不足》


「……駄目か」


 千獅雄が画面を恨めしそうに睨む。


「博士!」


 通信を開く。


『聞こえとるぞ!』


「やはり無理です。カリテンダーの出力が足りません!」

『うむ』

「どうします!? このままじゃやられるだけです!」

『そこは安心せい、最低限の戦闘能力はある。それに、お前なら出来る⋯⋯はず?』

「いい加減過ぎますよ!」


 その時。

 ギガントッタラーが迫ってきた。

 ゲッカが前方モニターを見る。


「来る」

「分かってる!」


 千獅雄が操縦桿を握る。

 カリテンダーがもたつきながら走り出した。

 ギガントッタラーの拳が迫る。


「右!」

 ゲッカの声。

 千獅雄が反射的に操縦桿を倒す。

 カリテンダーが紙一重で拳をかわした。


(少し鈍いけど動く! 部品も足りないのに!?)


 しかし、考える暇もなく本能的にそのまま懐へ入り込んだ。


「今!」

「おおおおっ!」


 ゲッカの指示に合わせて拳を叩き込む。


 ドン!


 しかし。


「うわっ!」


 カリテンダーの拳が弾かれた。


「硬い!」


 ギガントッタラーが反撃する。

 千獅雄はとっさに腕を上げて受け止める。

 カリテンダーの機体が大きく後退した。


「くっ……!」


 千獅雄の表情が変わる。

 先ほどまでの軽い調子が消えていた。


「……まだだ」


 操縦桿を握り直す。


「こんなところで負けられるか!」


 声に力がこもる。


「地球を守るんだ!」


 カリテンダーが再び走り出す。

 ゲッカは隣で、その横顔を見つめていた。


「……」


 (違う、まただ。さっきまでの千獅雄とは違う。目つきも、声も、動きさえも。戦闘になった途端、まるで別人のようになる)


 ゲッカは息を呑んだ。


(カリテンダーが戦える事さえ奇跡的なのに、千獅雄の変貌ぶりは何なの?)


「千獅雄」

「何だ!」

「少し右」

「分かった!」


 ゲッカの指示に合わせ、カリテンダーが動く。

 ギガントッタラーの攻撃をかわす。

 その瞬間、千獅雄が叫んだ。


「今度こそ!」


 カリテンダーが拳を振り抜く。


ガギン!


 しかし、ギガントッタラーの装甲に傷をつけただけだった。


「くそっ!」


 千獅雄が歯を食いしばる。

 ゲッカはモニターを確認する。


「……出力が足りない」

「やっぱりか?」

「このままじゃ勝てない」


 通信から博士の声が響く。


『心配するな』


「何がです!」


 千獅雄が怒鳴る。


『さっき言ったじゃろ。お前なら出来るはず、と!』


 その時。

 カリテンダーの操縦席に、新たな警告が表示された。

 千獅雄が画面を見る。


「なんだ、これ?」


 ゲッカも表示を確認する。

 《未登録特殊兵装》

 《ロック状態》

 《適合反応を確認》

 《限定解除を開始》


「……特殊兵装?」


 千獅雄が思わず呟く。

 表示が切り替わる。


 《延滞マイクロウェーブ》

 《LIMITED RELEASE》


 ゲッカの表情が変わった。


「……!」


 その名前に聞き覚えはない。

 だが、あの時と同じ感覚だった。

 カリテンダーとの最初の戦闘。

 ギガントッタラーの動きが、突然おかしくなった。

 すべてが遅れた。

 そして今。

 カリテンダーの中で、何かが動き始めている。


「千獅雄」

「何だ?」

「その兵装、使える?」

「分からない」


 千獅雄が操縦桿を握る。

 その瞬間。

 カリテンダーの全身に、淡い光が走った。


 《適合確認》

 《出力制限下における限定使用を許可》


「……いける」


 千獅雄が呟いた。


「やってみる!」


 カリテンダーの両腕が前へ伸びる。

 ギガントッタラーが突進してくる。

 次の瞬間。

 カリテンダーから、目に見えない波動が放たれた。


 ――ギン。


 空気が震えた。

 ギガントッタラーの動きが止まる。


「……!」


 ゲッカが息を呑む。

 止まった。

 いや、違う。動いてはいるが、とにかく遅い。

 まるで巨大な機体そのものが、スローモーションのように。

 千獅雄は迷わなかった。


「今だ!」


 カリテンダーが踏み込む。

 拳がギガントッタラーの胸部へ叩き込まれた。


 ドッゴオン!!


 轟音とともに装甲が大きくへこんだ。

 ギガントッタラーが後退する。


「やった!」


 千獅雄が拳を握る。

 しかし、ゲッカは笑わなかった。

 ただ、千獅雄を見ていた。


 (⋯⋯この力は、何?)


 動く事さえやっとだったカリテンダーがまともに戦闘をこなした。そして、この千獅雄の戦闘に対する興奮状態。ゲッカは、やはり何かがおかしいと感じた。

 だが、それを口にすることはなかった。

 その時、遠くの空に一筋の光が走った。

 ゲッカが注意深く確認する。


「……あれは?」


 雲の向こうから、何かが近づいてくる。

 

 千獅雄が前方モニターを見る。


「……敵?」


 ゲッカは目を細めた。見覚えのある航行パターンだった。


「……違う」


 小さく呟く。


「たぶん、迎えに来た」


 ゲッカは思わず小さな笑みを浮かべていた。

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