第1話 転生-リンカーネーション-
僕は僕自身が嫌いだった。思い通りに動かない自分が、嫌いだった
「まぁ今になって考えると、みんなそうだったのかもしれないな」
恐らくほとんどの人間は同じような思いを抱えて生きているのだろう。僕はそれに耐えきれなかっただけだ
「本当に最期まで情けないな、僕は」
この国には僕のような悩みを聞いてくれる場所は多く存在する。少し調べれば大量に出てくる。しかし僕は何を恐れているのか、相談する勇気を持てなかった。そんな僕には自殺する勇気も出なかった
死にたいと思いながらも適当に生きる日々。この人生で知ったことは物語の主人公でもない限り、自分から行動しないとなにも起こらない、ということだけだった
しかし世の中には自分から行動できない僕みたいな奴がいるように、積極的に行動するすごい人もいる。大抵は凄い人は凄い人同士で絡み、僕みたいな人がそこに参加することはない。それでも手を差し伸べようとしてくれる聖人は存在する
僕にも恐らく手を差し伸べてくれていたのだろう。残念ながら、僕が覚えているのは最期に差し伸べてくれたあの人だけだった
「兄ちゃん、なんか元気ないなぁ」
それは明らかに違法な薬を売ってそうな人だった。サングラスに黒ジャンパーを羽織った中肉中背の男性、さらには裏路地から出てくるという不審者4コンボを決めていた
「なんか悩みでもあるんか?」
「・・・いえ」
僕の答えを聞くことなく話を続ける
「そんな兄ちゃんにおすすめの粉が・・・と言いたいところやけど、兄ちゃんにはこっちの方がおすすめや」
そういって押し付けてきたのは、瓶だった
「それは睡眠薬や。体に一切残らない安全な成分でできているから、寝れんのやったら飲んでみてや」
違法な薬には、隠語が使われることがよくあるらしい。睡眠薬というのも何かの隠語だろうか
「ん?なんや効果を疑ってるんか。安心せぇ、中毒になる成分は一切入ってへん。その証拠にそれを飲んだ奴に同じのを売ったことは一度もない」
本当だろうか
「疑い深いなぁ。じゃあ、ワイが一口飲んでやろう。ほんまは一気に飲むんやで」
そういって怪しい人は押し付けてきた瓶を奪い取り、どこからともなく取り出したスプーンに掬って飲んだ
「・・・あかん、かなり眠ぅなってきた。これで安心やろ」
そういって瓶を再び僕に押し付け、どこかに消えてしまった
「すごい人だったな」
仮に違法な薬だったとして、一口とはいえ目の前で飲むことができるのだろうか。そのまま自分が買い手に回るリスクを考えると、本当に中毒成分はないのかもしれない
家に帰った後、瓶を飲むか考えた。おそらくあの人は違法な薬も売っている。それなのにわざわざ睡眠薬を渡してきたということは、そんなに睡眠不足に見えたのだろうか
「よし、処理に困るし飲んでしまおう」
あの人の行動から中毒になることはない。恐らくただの睡眠薬だ。なぜ渡してきたのか分からないのが不可解だが、僕がよっぽどひどい顔をしていたのだろう
そして覚悟を決めて一気に飲み干す。飲み終わった瞬間、胸のあたりが熱く苦しくなる
「なんだ、これ・・・!?」
少しすると胸の苦しみは治まった。その代わりのように体が動かなくなった。その時僕はなんとなくわかってしまった
「睡眠薬って・・・永眠じゃねぇか」
確かにあの人は一切嘘は言っていない。飲んだ人が二度とこれを求めることはない。中毒成分もない。そして飲み終われば安らかに眠る。・・・完全に騙された
そして冒頭に至る。思ったより死ぬまでの時間が長く、今までの人生を振り返ることができた。これで終わるといいな。視界が少しずつ暗くなる
次の瞬間、万華鏡のような視界に切り替わった。よく見ると、一つ一つ違う映像が流れている
「なんだこれは。走馬灯・・・なのか」
じっと見ていると、すべての映像がいきなりこちらを向いた。見たという方が正しいのかもしれない。そのくせ一歩も動こうともしない。その光景に底知れない恐怖を感じる
何かに導かれるように、一つの映像に映る人間の影と目が合う。その時、なんとなく理解した。今見ている人間が恐らくは僕なんだろう
それを認識した瞬間、世界にひびが入り始めた。しかし完全に壊れるわけではなく、ひびが入ったところから、様々な色の液体が流れ込んでくる。液体が視界を埋め尽くし、混ざり合ったところで再び意識がなくなった
目が覚めると、知らない天井、知らない顔、知らない泣き声、そして動かない体。もしかすると転生したのかもしれない。・・・結論から言うと、案の定転生していた
真面目な異世界転生系の予定です。よろしくお願いします
[ちょっとだけ補足]薬物を渡された場合は、無理に処理したり隠蔽したりせずに警察に相談しましょう。捕まることはほぼないはずです
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