第1話 開廷5分前、俺はまだコーヒーをこぼしてた
模擬裁判、開廷5分前。
俺は、紙コップのコーヒーを膝にぶちまけていた。
「うわっ、熱っ! なんで今日に限って白パンなんだよ俺!」
記録係ってのは、裁判の流れを全部メモる係。
でも今の俺は、裁判よりも膝のカフェラテ色に集中していた。
「如月さん、もうすぐ始まりますよ〜」
と、司会の女子大生が爽やかに言う。
俺は爽やかさに殺されそうになりながら、ノートPCを開いた。
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事件名:未成年による万引き事件(模擬)
被告:高校2年・男子(仮名:タカシ)
争点:懲役か、更生か、それとも…?
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裁判長の司城さんが、開廷の合図を出す。
「それでは、模擬裁判を始めます。皆さん、よろしくお願いします」
…って言った瞬間、傍聴席の一番後ろから声が飛んだ。
「え、これって本当に裁判なんですか? なんか、文化祭の劇みたい」
俺は思わずキーボードを打ち損ねた。
誰だよ今の。傍聴人A? いや、傍聴人Zくらいの破壊力だぞ。
裁判長が一瞬固まり、検察官の佐久間さんが眉をピクリと動かす。
弁護士の水谷さんは、ニヤリと笑った。
「いいですねぇ、こういうの。議論が荒れる予感しかしない」
俺は議事録に書いた。
《傍聴人、開幕早々に空気を破壊。議論、荒れる予感しかしない》
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このあと、タカシの万引きが「家庭環境のせいか」「社会のせいか」「そもそも万引きって何なのか」って話になって、
議論はどんどん迷走していく。
でも、俺は知っている。
この傍聴人、ただの素人じゃない。
空気を読まない天才か、空気を壊す革命家か。
どっちにしろ、今日の模擬裁判は、記録係の俺にとっても“事件”だ。




