表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エステルは二度目は許さない ~一度目の人生で断罪された令嬢は、舞い戻り無能王子と優雅に踊る~  作者: shiryu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/30

30話 パートナーと次なる舞台へ


 あれから一週間が経った。


 私はグランディール家の離れの部屋で、一人机に向かいながら考えごとをしていた。


 秋の社交界でヴィクターを断罪したときは、ようやく彼に復讐が果たせたと思ったのに……世の中はそう甘くないらしい。


「まさか、ヴィクターが逃げるとは……しかもグスタフまで連れてね」


 思わず独りごちた声が、静かな部屋に響く。


 あの地下牢に投獄されていたはずの第一王子ヴィクターが、数日前に脱獄したという報せは、今や王都中の噂になっていた。


 国王陛下の命で騎士団が総動員され、王都や主要な街道を厳重に捜索しているらしいけれど、何の手掛かりもないまま一週間。


 おそらく、もうこの国内にはいないのだろう。


 みっともなく牢獄に囚われていたヴィクターと財務大臣のグスタフが、鮮やかに脱出してしまうなんて、誰もが想像しなかったに違いない。


 まったく、どうやって逃げ出したんだか……。

 私にとっては、一度殺された憎い相手。


 二度目の人生を得て、ようやく倒したはずだったのに……。


「ヴィクターがここまでしぶといのは、むしろ当然よね。あれほど自分のことしか考えていない男だもの。生きながらえて復讐しようって思うのも……あり得る話だわ」


 そう呟きながら、パラリと机に広げていた文書をめくる。

 ここには彼が残していった不正の証拠や、カーディア公国との密約書簡の控えが山積みになっていた。


 どれも先日の裁判で用いたり、国王陛下へ提出したりした資料の写しだが、まさか実際にヴィクター自身が公国へ逃亡するとは。


(まだ傷が癒えきっていないのに、どこまで強欲なのかしら。……でも、あの男ならきっと、私を恨み続けるでしょうね)


 そのとき、遠くでドアをノックする音が聞こえた。


 「エステル、入るよ」という柔らかな声が、廊下の奥から届く。


 私は「どうぞ」と応じて、ドアを開けた。

 姿を現したのは、第二王子レオンハルト様。


 深い金色の髪を整え、すっかり無能王子という仮面を脱ぎ捨てたかのような、堂々とした印象。


 でも、私の前ではいつもどおりの穏やかな眼差しを向けてくれる。


「お久しぶりですね、レオンハルト。一週間くらい会えてなかったから」

「うん。兄上――ヴィクターの脱獄騒動があって、国王陛下と騎士団の調整に手こずってたんだ。そっちは大丈夫?」


 言葉を交わしながら、彼は部屋へと入ってくる。

 私は小さくため息をつき、「兄上」と呼んだその言葉に反応するかのように、机の上の書類へ視線を移した。


「ヴィクター……今はきっと、この国にはいないでしょう? 王国中を捜索しても何の痕跡も見つからないって話だし」

「そうだね。騎士団の報告によると、ほぼ間違いなくカーディア公国に亡命したらしいよ。グスタフも一緒に行ったみたいだ。財務の知識を持つ彼がついていれば、向こうで何かしら策を練ってくるだろう」


 レオンハルト様の声は重みを伴う。

 やはり公国と繋がりの深い彼らが、手をこまねいているはずもない。


 復讐心に燃えるヴィクターが無事に国外へ逃れたのだとすれば、必ずや私たちへの復讐を狙ってくることは想像に難くない。


「やっぱり……。いつかまた、私たちを殺しに戻ってくるでしょうね」


 自分で口にしてみると、かすかに胸がざわついた。

 せっかくヴィクターを倒したと思ったのに、また彼との戦いが待っているのかもしれない。


 でも、不思議と恐怖よりも冷静さが先に立つ。


「望むところよ」


 そう思わず口をついて出た言葉に、レオンハルト様は少し眉を持ち上げた。

 私は軽く肩をすくめる。


「あの男にまた狙われるかもしれないけど、負けるつもりはないですから。どんな手を使われても、今の私には、二度と屈する気なんてないです」

「さすがだね、エステル」

「……それに、私には頼りになる共犯者――いえ、パートナーがいるんですもの」


 自分で言いながら、頬が少し熱くなるのを感じる。


 まだ明確に答えを出していないけれど、彼は私にとって大切な人になりつつあるのだと、改めて実感してしまう。


 レオンハルト様は私の言葉に驚きの表情を見せ、続いて嬉しそうに笑みを浮かべた。


「パートナー、ね。君がそんなふうに言ってくれるなんて……ちょっと幸せだな。もちろん、僕はいつだって君と共にいるよ。ヴィクターやグスタフが何を企もうと、僕たちならまた乗り越えられる」


 淡い金髪が揺れ、灰色の瞳が穏やかに細められる。


 私はその視線を受けとめながら、胸が熱くなるのを感じる。


「ありがとう、レオンハルト。じゃあ次に奴らが仕掛けてきたときも……一緒に踊りましょうか?」

「うん。新しい舞台がどこで開かれようとも問題ない。共犯者、そして……大切なパートナーとして、踊ろうか」


 レオンハルト様がそう言葉を継いだ瞬間、私たちは自然と見つめ合って微笑んだ。

 外ではまだ、騎士団が慌ただしく馬車を走らせ、ヴィクターの捜索を続けているだろう。


 だけど、私はもう恐れることはない。


 一度きりの人生なら諦めていたかもしれないけれど、私は二度目のチャンスを得て、ここまで歩いてきたのだから。


(復讐は果たした。けれど私たちの物語は、ここで終わらない。ヴィクターがいる限り、まだ次の幕が待っている)


 そう心の中で呟きながら、私はレオンハルト様の姿をしっかりと見つめた。


 ――頼りになるパートナーが、いつもすぐ隣にいてくれる。


 それだけで、どんな苦難も怖くないと思える。


「さあ、エステル。今日は少し時間があるから、これからの計画を話そうか。兄上がどこへ逃げたとしても、ちゃんと対策を立てないとね」

「ええ、そうですね。今度はあちらが復讐しにくる番。私たちはそれを返り討ちにしてあげるだけです」


 私たちは揃って微笑む。


 ここから先、どんな困難が待ち受けていようとも、二人でなら必ず切り抜けられる。


 ――そう確信しながら、私たちは部屋を出る支度を始めた。


 窓の外には柔らかな秋の陽射しが斜めに差し込んでいる。


 新しい戦いの幕開けを予感させるような、澄んだ空気だった。



本作はこれにて終了です!

最後まで読んでいただきありがとうございました!

続編は商業化などしたら書くかもしれません。

なので続きを読みたい方は、応援のほどよろしくお願いします!


本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!

ブックマークもしていただくとさらに嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エステルが自力で運命を変えて行くストーリーはとても面白かったです。 ただ「悪役令嬢の取り巻き」もそうですが、最後がすっきりしない… あきらかにセカンドシーズンを狙った終わり方でちょっとがっかりしました…
2025/06/17 13:50 退会済み
管理
ちょっと興味をひかれて読み始めましたが、おもしろくておもしろくてドンドン加速するように読み進んでしまいました。そしてついに最終回・・・・。終わっちゃったー。寂し過ぎるー。ぜひぜひ続編お願いいたします。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ