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みみつきとひと

「あ…起きた…」


「へ……?」

次に視界が開けた時、俺の目に飛び込んできたのは小夜だった。


「小夜!!!」

思わず考えなしに上半身を起こすと、目の前の小夜と頭をぶつけてしまう。


「「いっ〜〜〜!!」」


二人しておでこを抑え痛みにを必死に外へ逃がしていく。


「悪い、小夜!!大丈夫か!?」


「ひゃ…!?」


小夜の左手首を掴み前髪をあげてまじまじとそれを見つめる。

少し赤くなってはいるが痣にはならなさそうだ。よかった…。


「あ、あの…」

眼前の小夜が目を泳がせながらもじもじと何かを言い渋っている。


「近い、です…!」


ぎゅっと目をつぶり意を決して言ったであろうその言葉に、俺は慌てて小夜から距離をとった。


「ご、ごめんごめん!思いっきりぶつかったから心配で…女の子に傷なんかつけちゃったら申し訳ないし」


「ご心配いただき感謝です…でも、恥ずかしい」

こっちまで恥ずかしくなるほど顔を真っ赤にしながら、最後は消え入りそうな声で呟いた。


「うん、うんうん!次からは気をつける!」

と言いながら、俺はもう一度小夜の姿をよく見返した。


セミショートの黒髪に銀縁眼鏡、小柄でうさ耳が生えている。

うん、いつもの小夜だな……………うさ耳?


「うさ耳……?」

思わず声に出ていた。

するとその言葉を耳にした小夜が慌ててうさ耳を手で抑えた。


「あっ、違っ、これは…違うんです……」


最初は恥ずかしがっているのかと思ったが、何か様子がおかしい。

顔は青ざめて身体中をカタカタと震わせている。

それはまるで何かに怯えているかのようだった。


「えーと…何が違うのかよくわかんねーけどさ…

俺、何もしないし、大丈夫だよ」


「へ……?」

小夜の潤んだ瞳がこちらに向けられる。

拍子抜けといったような表情だ。


「それ、耳…似合ってると思う

小夜って前からうさぎっぽいとこ合ったしさ、

だから…」


と話しかけている最中、小夜の瞳からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出した。


「えっ!?」

慰めてたつもりだったが、地雷でも踏んだか?と慌てていると小夜が口を開いた。


「うぅ…ミミツキに対してこんなに優しいヒトがいるなんて…わたし、知らなかったです…ぐすっ」


ミミツキ?聞き慣れない単語に首を傾げながらとりあえず泣いている小夜を落ち着かせようと背中をさする。

背中に手を置いた時、一瞬警戒したようだったがすぐにその警戒も解かれた。



「…落ち着いたか?」


「はい…色々とご迷惑をおかけしました。」

ぺこりと小夜がこちらに頭を下げる。

その拍子にぴょこりとうさ耳も揺れた。


「いや別に、なんか事情があるみたいだし、気にしないでいいよ。」


「…あなた、本当にヒトですか?

こんなにミミツキに優しいなんて、まさか同種では…」

急に怪訝そうな顔をして俺を訝しんだかと思うと急に俺の両耳に手を伸ばし思いっきり引っ張りだした。


「いってぇ!?おい、何してんだ!?」

思わず大きな声を上げると小夜は慌ててその手を離し、申し訳なさそうな顔をした。

ただでさえ小柄な顔をさらに小さくさせながらうさ耳もどこか元気なさげに垂れていく。


「すみません、こんなに友好的なんて怪しいと思って

ヒトのふりをしたミミツキかと思ったんです…でも、違ったようですね」


「あのさ…さっきから言ってるその、ミミツキってヤツ?何なんだ?」


「えぇぇ!? ご、ご存知ないんですか!?」

小夜から出たとは思えないほどの大きい声が森に響き渡った。


「う、うん…そうなんだよ。

ていうか俺、この世界のこともよくわかってないっていうか…」


「それは、記憶喪失ということですか…?」


「えーっと、なんて言うか…」


なんて説明するべきか。

目の前の彼女は間違いなく小夜ではあるけど、転生後の小夜だ。

俺に対する記憶、即ち前の世界での記憶は持ち合わせてない。

そんな彼女に「俺はお前を守るために別の世界から来た」なんて言ったら混乱させるだろう。

いや、頭のおかしい人間だと思われるに違いない。


「そうなんだよね!!!オレ、キオクソウシツ!ウン!」


「それは…大変ですね」


「ハハハ…」

健気に心配してくれる小夜に対して罪悪感を抱きながらも俺は機械のようにウンウンと頷いた。


「……もし良ければ、わたしのお家にいらっしゃいますか?」


「え…」


「いや、その…ミミツキの住処なんて汚い場所にヒト様が居られるか!と思う気持ちももちろんわかるのですけど、衣食住くらいなら…」


「ま、待って待ってストップストップ!」


今の小夜の言葉で何となくミミツキという言葉の意味、それとミミツキとヒトとの関係性が見えてきた。


「俺は小夜……君の住んでる家を汚いとは思わないし家に迎えてくれることにすごく感謝してるから

何が言いたいかっていうと…」


「……」

小夜が俺を見つめている。何となく不安そうな、でも期待をしているようなそんな表情に思えた。


「俺はこの世界によくいるようなヒトたちとは違って君とは対等でありたいと思ってる。」


「……!!!」

表情の変化はなかったが、小夜の瞳がキラリと輝いたように思えた。



----


「こちらです」


小夜の家は森を抜けた先の小さな町にあるらしい。

町には小夜と同じようなうさ耳や猫耳のついた人間しかおらず、皆一様に俺の姿を見ると怯えた様子で建物に入っていった。

その光景を見た小夜は困ったような顔で俺に笑いかけるのだった。


「あまり、気になさらないでくださいね」


「…ああ」

いや気になるわ、という言葉は飲み込んで頷く。


「あの、貴方の…お名前は覚えてらっしゃいますか?」


「俺は……圭人」


「ケイトさん……ケイトさんはミミツキについて覚えていないと言ってましたね。」


正しくは知らないんだけど。


「ミミツキというのは私や先ほどすれ違った彼らのようなケモノの耳を持った種族のことを指します。

ミミツキの血縁の濃さによってはケモノがそのまま人型を成したような者も存在します」


レンガで舗装された道を歩きながら小夜は説明を続ける。

まだ小夜の家まではかかるようだ。


「ミミツキは元になったケモノの特技を受け継いでいて、皆身体能力に優れています。

ヒトは……そんなミミツキを同種と認めたくないようです。」


「……」


「ヒトはミミツキを差別、迫害するんです。

ヒトの都市に住んでいたせいで無実の罪を着せられ捕らえられ…遊び半分に嬲り殺しにされたミミツキもいると聞いています。

だから私たちミミツキはミミツキ同士で町に住んでます。

それが安全で安心だから」


「たまにヒトの都市へ行くときは耳を隠していくんですよ。

そうしないと都市に入れてすらもらえないこともありますから…」


先ほどの小夜がうさ耳を見られた時の怯え方に合点がいった。


暗い顔をしていた小夜が顔を上げ、こちらに向けて笑顔を作る。


「たくさん歩いて疲れちゃいましたね。

中でお茶にしましょう。」


町はずれの小さな赤い屋根の家が小夜の住む家だった。

木製の扉を開けるとワンルームを少しだけ広げた程度の室内が見えた。


「どうぞ」


「ああ、ありがとう。

おじゃまします」


土足で家に上がるのは違和感があるが、どうやらそういう文化らしい。

先ほど通った町や小夜とその他の町人の格好を見るにこの世界は随分と西洋ファンタジーといった雰囲気だな。


室内に入るとまず右手に小さなキッチンが見えた。

よく使われているようで洗われたお皿やコップが立てかけられている。

部屋の真ん中あたりに木製のテーブルと椅子が二脚置かれている。

テーブルの真ん中にはレースのクロスが敷かれており女性らしさを感じさせる。

テーブルと椅子の奥にはもこもこの布団が存在感のあるベッドがドカンと置かれていた。


「今お茶を入れますね。

そちらの椅子に座ってくつろいでください」


言われるがままに椅子へ腰掛けると目線の先に出窓がある。

出窓には自家栽培しているのであろう植物が鉢の中で青々としている。


「あのさ……今更なんだけど」


「はい、なんでしょう?」

キッチンでお茶の支度をしている彼女が返事をする


「君の名前を教えてほしいなって…思って」


お茶のいい香りとともに彼女はこちらにやってきた。

そして俺の前に白いティーカップに注がれたお茶を差し出す。


「セレナーデ…セレナと呼ばれてます。」


セレナはにこりとこちらに微笑みかけた。


その顔は二人でお互いを鼓舞し励ましあっていたあの時の小夜と同じ顔をしていた。

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