捕まる
両腕を後ろ手に縛られ、ビィは国王の前へ引き出された。
捕まって、ここへ連れて来られるまでずっと暴れながら「離せ、バカヤロウ!」と怒鳴り続けていたが、国王の前で無理やり膝をつかされ、ようやく暴れるのを止めた。だが、口を閉じてうつむいたものの……おとなしくなったのは見かけだけで、内心ではまだ盛大に悪態をつき続けていた。
(ちっ。このデカブツ騎士、力が強すぎるんだよ! 動きは超トロいくせに! 頭だってきっと、トロいに決まっている! バーカ、筋肉バ~カ! なのに……あーあ、まさか、こんなバカに捕まるなんてなぁ。これで、あたしも終わりか……)
こんなことなら、先日、あの高い肉を奮発してたらふく食べておけば良かった、と思う。
仕事仲間は、報酬をもらったらすぐにパーッと使う者が多い。いつ死ぬか分からないんだから、もらった金はさっさと使わないと! というのが、みなの意見だ。
しかしビィは、いつか庭つきの小さな家に住みたいと思って、少しずつ金を貯めていた。
こんな夢を話したら笑われそうなので、誰にも言ったことはないけれど。
(首を刎ねるなら、スパーンと一瞬で刎ねてくれよー)
覚悟を決め、唇を噛み締めて顔を上げる。
一段高い壇上に、険しい顔つきの王冠を戴く男。
目が合うなり、男―――ガレノス王は身を乗り出した。
「良い目をしておるな。悪くない。ほう……少年かと思っていたが、女か」
やや意外そうに漏らし、しばし考え込む。
そのまま、痛いほどの沈黙がその場を支配したが、やがてゆるりとガレノス王は頷いた。
「よし。……お主には、儂の娘の侍女になってもらうか」
「は?」
いきなり言われた言葉の意味が理解出来ない。
ビィは、ポカンと口を開けた。
本来、侍女はお仕着せの黒いロングドレスを着るそうだが、ビィは執事のようなパンツスタイルの黒服を着せられた。
奔放に跳ねたビィの朽葉色の髪は短いので、まるで少年執事のようである。
慣れないかっちりとした衣装に居心地の悪い思いをしながら、騎士たちに両脇を固められて姫のいる部屋へ。
(あたしが……お姫さんの侍女だぁ? 冗談にしても、笑えねぇ)
―――ビィは盗人である。業界で一番か二番の腕だと自負している。
子供の頃から、ずっと他人のものを盗んで生活してきた。親もおらず、ずっと路上暮らしだったので仕方がない。人を殺した経験だってあった。ろくでもない人間だと、自分でもよく分かっている。
そうでないと、生きていけなかったからだけども。
でも、そんな自分が何故、一国の姫の侍女に?
急な話の展開がいまだに解せない。
そもそも、ビィは小動物の世話もしたことがなかった。それなのに人間の世話なんて、出来るとは思えない。
それも、姫さまときた。
だが、ビィの首には広間を出る前に契約の首輪がはめられた。強力な魔法で縛られ、ビィにはもはや他の選択肢はない。
―――広く長い廊下の果て、ようやく、何やら複雑な装飾の施された大きな扉の前に辿り着いた。
騎士の一人が緊張した面持ちで、その扉をノックする。
ゆっくりと扉が開き……開いてすぐに鉄格子が見えて、ビィは目を瞬いた。
(牢……?)
姫の世話というのは嘘で、やはり牢に入れられるのだろうか。
にしては、部屋はかなり豪華である。
「来ましたね。では、さっそく仕事をしてもらいましょう」
鉄格子の向こうで、白いものが髪に混じる年配女性が冷ややかな声で言った。
黒いロングドレスのお仕着せを着ている。有能そうな侍女頭といった風情だ。
内扉と言っていいのか、鉄格子の扉がゆっくりと開き、ビィは騎士によって中へ押し込められた。そして入るとすぐに、扉は閉められる。
「姫さまの遊び相手は誰も務まらず、ほとほと困っていたところです。さあ、しっかり相手をしてくださいませ」
年配女性のスカートの影からひょっこりと顔を出したのは……まだ小さくて、可愛らしい子供だった―――。
ドゴーン、ドゴーーーンッ!!
有り得ない音を立てて、ボールが壁にめり込む。
ビィは顔を引きつらせ、必死に逃げ回っていた。
一瞬でも気を抜けば、アレに当たって死ぬ。
「きゃははは!」
楽しそうな笑い声を上げて、恐ろしいボールをがんがん投げてくるのは……この国の姫、アリストスセラス姫だ。
御年、三才。
ふわふわと波打つ艷やかな白金の髪、明るい翠色の大きな瞳、非常に愛らしい容貌の子供である。
だが。
その力は、とんでもなかった。
三才児どころか、人間の力の範囲を超えている。
(なんちゅー姫だ! 竜の血を引くってのは、ホントだったんだな……!)
……ガラシオス王国の始祖は竜人だそうである。
箔をつけるための作り話だろうとビィは思っていたが、今は認識を改めていた。ただの幼児がこんな力のはずがない。
そのうえ、姫は動きも速かった。
幼児特有の危ういバランスのくせに、時おり、目で追えないほど素早く移動する。
はっきり言って、怖い。
可愛い幼児なのに、見た目とその能力がまったく合っていない。
ちなみに着るように言われた黒服は、特殊な魔法が掛けられていて、衝撃を緩和してくれるらしい。
しかしアレの直撃を受けたら、どれほど衝撃緩和されたとしても、やはり、痛い気がする。また頭は無防備なので、絶っっっ対に頭は守らなければならない。
必死で逃げ回りながら、ビィは早くこの地獄の時間が終わることを祈っていた……。
そんなに長くない話の予定です。10話以内には収まる……はず。




