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あの春の続きを、まだ知らない  作者: ラーラーリールー


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13/13

エピローグ

夏休みに入ると、大学は少し静かになった。


毎日あった講義がなくなって、会う理由を自分で作らないといけない。


付き合う前なら、多分遠慮していた。


「忙しいかな」とか。


「迷惑かな」とか。


考えすぎて、結局何も言えなかったと思う。


でも今は少し違う。


ちゃんと言うようにしていた。


それは美咲も同じだった。


『来週空いてる?』


『映画行こ』


『今日電話しない?』


そんな何気ないやり取りが増えた。


特別なことじゃない。


でも、それが少し嬉しかった。



八月。


暑すぎる午後。


駅前のカフェ。


「暑すぎ」


美咲がアイスを机に置く。


「夏苦手」


「毎年言ってる」


「覚えてた?」


「まあ」


笑う。


付き合って二ヶ月。


少しずつ、“恋人”が自然になってきた。


前みたいな遠慮は減った。


でも。


だからこそ、小さいぶつかりも増えた。


その日もそうだった。


「そういえばさ」


美咲が言う。


「昨日LINE短くなかった?」


少し止まる。


「バイト疲れてて」


「そっか」


そう言いながらも、少し空気が違う。


前の俺なら、多分ここで黙っていた。


気まずくなるのが嫌で。


でも。


今回は違った。


「ごめん」


先に言う。


「適当になってたかも」


美咲が少し驚く。


「……いいのに」


「よくない」


正直に言う。


「また変にすれ違うの嫌だから」


少し沈黙。


それから。


「そういうとこ、前と違う」


美咲が笑った。


「いい意味で」


少しだけ安心する。


大きな喧嘩じゃない。


でも。


こういう小さいことを話せるようになったのが、多分成長だった。



九月。


夏休みの終わり。


夜。


近所の川沿い。


花火大会帰り。


人混みを抜けて、少し静かな道を歩く。


「疲れた」


「人多すぎ」


「でも楽しかった」


浴衣姿の美咲が笑う。


少し見慣れなくて、まだドキッとする。


「そういえば」


美咲が立ち止まる。


「もう半年くらいだね」


「何が?」


「再会してから」


少し考える。


春。


大学。


偶然の再会。


あの時は、こんなふうになると思ってなかった。


また話すようになって。


怖くなって。


少しずつ近づいて。


ちゃんと好きになって。


また隣にいる。


「不思議」


美咲が言う。


「もう会わないと思ってたのに」


「俺も」


夜風が少し涼しい。


夏が終わり始めていた。


「でも」


美咲が小さく笑う。


「会えてよかった」


その言葉に、すぐ頷く。


「……うん」


本当にそう思った。


もし大学が違ったら。


あの日、話しかけてなかったら。


何も変わってなかった。


後悔だけ残ってたと思う。


少し沈黙。


それから。


美咲が自然に手を出した。


「手」


少しだけ驚く。


でも。


今は迷わなかった。


ちゃんと握る。


少し温かい。


「なんか変だね」


美咲が笑う。


「高校の時、こんなことあんましなかった」


確かに。


あの頃は恥ずかしくて、ちゃんと手も繋げなかった。


「今の方が、ちゃんと付き合ってる感じ」


その言葉が少し嬉しかった。


歩きながら思う。


恋愛って、ドラマみたいな大きな出来事ばかりじゃない。


何気ない会話とか。


少しのすれ違いとか。


「お疲れ」のLINEとか。


隣を歩く時間とか。


そういう小さい積み重ねなんだと思う。


そして。


ちゃんと向き合うことが、多分一番難しい。


でも。


今なら少しだけできる気がした。


駅前。


別れ際。


「また明日?」


美咲が聞く。


「会いすぎじゃない?」


「嫌?」


少し笑う。


「……嫌じゃない」


「よかった」


改札に向かう前。


美咲が少し振り返る。


「悠真」


「ん?」


少し照れながら笑う。


「今の方が、ちゃんと好き」


少し恥ずかしくなる。


でも。


悪くない。


むしろ。


少し嬉しい。


「……俺も」


その言葉に、美咲が笑う。


春に止まっていた時間は、もう動いていた。


そして多分。


今度は、ゆっくり続いていく。


終わりじゃなくて。


ちゃんと、続きとして。


― END ―

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