第一話 始まりは本の中から
小説を書くのは初めてで、校正に一部AIを使用しています。ご了承くださいm(_ _)m
「やはり元素への適性は見られないな。これでは入団は認められん」
二度目の魔術騎士団入団試験。
試験官レオールの一言が、片瀬蒼汰の希望を静かに打ち砕いた。
「そんな……! 俺は毎日、魔術の勉強をして、元素にも触れ続けてきたんですよ!」
片瀬蒼汰は、誰よりも魔術師に憧れていた。
夜遅くまで魔術書を読み漁り、魔力や元素について学び続けてきた。同年代の誰よりも知識には自信がある。
だが、知識があることと、元素を扱えることは別だった。
元素魔術は、才能がなければ決して扱えない。
「魔力にも日ごとの波がある。また次の試験で会おう」
慰めとも励ましとも取れる言葉だったが、レオールの表情には諦めが浮かんでいた。
悔しさを噛み締めながら試験室を後にする。
「その顔を見る限り……ダメだったみたいだな。よーしよーし」
頭をぽんぽんと撫でてきたのは、水条瀬呂。
二歳年上の幼なじみであり、姉のような存在。そして現在は同居人でもある。
「……やっぱり俺には才能がないのかな」
大きくため息をつく片瀬。
ここまで落ち込むのには理由があった。
彼の夢は――魔法使いになること。
幼い頃、故郷は突如として滅びた。
命からがら逃げ延びた片瀬たちを救ったのは、一人の魔法使いだった。
その魔法使いは見返りを求めることなく、現在暮らす魔術国家アイザにある父方の実家まで送り届け、当面の生活資金まで残して去っていった。
その優しさに触れた日から、片瀬は魔法使いに憧れ続けている。
「よっしゃ! 次の試験は俺がレオールさんの目を盗んでスクロールに雷元素を...」
「千夜のバカ。そんなことしたら魔術騎士団を出禁になるわよ。それに、私たち見習い程度の小細工なんてレオールさんには全部お見通し」
水条の後ろから現れたのは、幼なじみの桜木千夜と緋日楓だった。
二人も同じ故郷の出身だが、本格的に交流が始まったのはアイザへ移り住んでから。以来、六年間ずっと苦楽を共にしてきた仲間である。
「気持ちだけ受け取っておくよ」
蒼汰が苦笑しながら答える。
魔術騎士団の入団試験は春に三回。
それを逃せば、次の試験は初冬まで待たなければならない。
早く魔術師になりたい。
強くなりたい。
幼なじみたちが一歩先へ進んでいく焦りを胸に抱えながら、蒼汰たちは夕暮れの街を歩き始めた。
…
千夜、楓と別れ、瀬呂と蒼汰は家へ戻った。
「ただいまー」
返事はない。
「……珍しいな」
普段なら2人の母たちのどちらかが出迎えてくれるはずだが、家の中は妙に静かだった。
「買い物か?」
「いやー、それにしては気配がないなぁ」
不思議に思った二人は、数年ぶりに蒼汰の両親の部屋へ足を運ぶ。
すると、机の上に一枚の手紙が置かれていた。
『蒼汰が魔術騎士団に入ったら、二人とも寮生活になるでしょう?』
『生活も安定してきたし、お父さんとお母さん達は旅行に行ってきます!』
『二人で仲良くね!』
母より
「……いや、まだ入団すら決まってないんだけど」
あまりにも気の早い内容に、蒼汰は思わず額を押さえた。
「相変わらず自由な人たちだなぁ」
瀬呂は苦笑する。
「全くだ」
今日の試験に落ちたばかりだというのに、この手紙である。
行き場のない苛立ちをぶつけるように、蒼汰は近くにあった置物を軽く押した。
――ガコン。
鈍い音が部屋に響く。
「……ん?」
下の階から何かが動き出す音がした。
片瀬家は一応名家?らしい。
歴史を感じさせる屋敷ではあるが、手入れは行き届いており、一階には小さな広間がある。
その広間の中央。
本来なら家紋が刻まれていたのであろう床には、長い年月によって掠れ、判別できなくなった紋様が残されている。
その紋様がゆっくりと光を放ち始める。
――ゴゴゴゴ……。
低い地響きとともに床が左右へ開き、地下へと続く石階段が姿を現した。
「お、おい瀬呂……こんなのがあるなんて知ってたか?」
蒼汰は目を丸くしたまま尋ねる。
「いや……初めて見るね。蒼汰のパパやママからも聞いたことはないよ」
瀬呂は慎重に階段へ近づく。
次の瞬間、地下から溢れ出す膨大な魔力に思わず息を呑んだ。
「一般家庭の地下にこんなのがあっていいかぁ?」
一応名家ではある。
警戒する瀬呂とは対照的に、蒼汰の瞳は期待に輝いていた。
「これだけの魔力だ。もしかしたら……俺でも元素魔術を扱える足がかりが見つかるかもしれない!」
そう言うなり、蒼汰は階段を勢いよく駆け下りていく。
「まったくぅ……そういうところは昔から変わらないねぇ」
頼もしさと危なっかしさが入り混じった背中を見つめ、瀬呂は小さく笑った。
「待ってよ、蒼汰ぁ!」
そう叫び、瀬呂も地下へと続く階段を追いかけた。
数分ほど石階段を下り続けると、二人の前に巨大な空間が姿を現した。
そこは、まるで図書館だった。
壁一面を埋め尽くすほどの本棚。
天井まで積み上げられた無数の魔導書。
長い年月が流れているはずなのに、その空間だけは静寂を保ち続けていた。
「すごい数の……魔導書か?」
「間違いないねぇ。この地下の異常な魔力濃度は、おそらくこの魔導書が放ち続けているものだ」
瀬呂は近くの棚から一冊を手に取り、ゆっくりと開く。
しかし次の瞬間――
パラ……。
ページは乾いた音を立てながら崩れ落ち、紙は砂のように砕け散った。
「うわっ……。いつの時代の本なんだ、それ」
「相当古い物だねぇ。高そうだし、今は不用意に触らない方がいいね」
アイザには遺物を修復する専門の魔術師がいる。
高額な依頼にはなるだろうが、この状態では彼らに任せるしかない。
そう判断した二人は、本棚には触れず奥へと歩みを進めた。
その時だった。
「――っ!」
突然、蒼汰が頭を押さえて膝をつく。
「お、おい!?」
「くっ……なんだ、この感覚……!」
頭の奥を拡げられる様な激しい痛みに、脳が悲鳴を上げる。
「大丈夫かぁ? 私は何ともないけど……」
瀬呂には何の異変も起きていない。
だが蒼汰だけは、本能が訴えていた。
――この先に、自分を変える何かがある。
「まって!! 蒼汰ぁ!」
制止の声も聞かず、蒼汰は痛みに耐えながら歩き続ける。
一歩進むたびに頭痛は激しさを増し、視界が揺らぐ。
それでも足は止まらない。
そして。
部屋の最奥。
一冊だけ異質な魔導書が静かに佇んでいた。
「あの本……だけ……何か様子がおかしい……」
「おい! それ以上行くな! 様子がおかしいのは本じゃない、お前だ!」
瀬呂の叫びを振り切り、蒼汰は震える手を伸ばす。
白く燃える炎のような
霧に流れる水のような
奪い去る風のような
大地を踏みしめるような
世界を凍てつかせる氷のような
雷鳴が轟くような
すべての元素を宿したかのような、圧倒的な魔力。
蒼汰は、その一冊を静かに手に取った。
次の瞬間――。
蒼汰の脳裏に、見覚えのない記憶が激流のように流れ込んできた。
『師匠……なんで……』
泣きじゃくる銀髪の少女。
『すまない、イデア。こうするしかなかった。力及ばぬ私を、どうか恨んでおくれ。村の人々は何も悪くない』
深くフードを被った青年が、苦しげに少女へ語りかける。
『いや……』
『私を置いていかないで……!』
その悲痛な叫びと共に、視界は白く染まり――
「――はっ!」
蒼汰は息を切らしながら我に返った。
「なんだ……今の……」
見たこともない景色。
聞いたこともない声。
それなのに、どこか懐かしい。
ふと自分の身体に意識を向けると、今までとは比べものにならないほど魔力が身体中を滑らかに巡っていることに気づいた。
「蒼汰!」
瀬呂の驚いた声が響く。
「目の前に倒れている子……最初からいたのか?」
「え……?」
「私には、本の中から現れたように見えたんだけど」
蒼汰はゆっくりと視線を落とす。
先ほどまで魔導書が置かれていた場所。
そこには、一人の少女が静かに横たわっていた。
透き通るような銀色の髪。
淡く揺らめく魔力をその身に纏い、まるで眠り続けていたかのように穏やかな寝息を立てている。
「この子は……」
先ほど流れ込んだ記憶が頭をよぎる。
自然と、一つの名前が口をついた。
「……イデア?」
その瞬間だった。
少女の瞼がゆっくりと開く。
蒼く澄んだ瞳が、真っ直ぐ蒼汰を映した。
少女はしばらく蒼汰を見つめると、小さく唇を震わせる。
「……私を、記憶しているの?」
その一言が。
片瀬蒼汰とイデア。
二人の長い冒険の始まりを告げる言葉となった。




