3-16 幽霊船
昼食を終えて、またログインする。
少し待つと、みんなが姿を見せた。
ポルというプレイヤーが船旅を共にしていることを、俺はみんなに説明した。
「ピエロがいるのかい? オイラ、見てみたい!」
サクは興味津々と言った様子だ。
「ノノカも気になりますです」
ノノが腿に両手をくむ。
「えー、でも、なんか怖くない? ピエロがいるなんて、気持ちが悪いって言うか、なんて言うか」
キナは顔をくもらせていた。
「そいつが強い女って言うんなら、一度手合わせ願いたいけどな」
キルは好奇心たっぷりの笑顔を浮かべる。
「やめておいた方がいい」
俺は顔を落とした。続けて、
「マジ勝てないから」
「ふーん、俺ならどうだろうな」
キルは挑戦的な瞳をたぎらせる。
セニャが両手を開いた。
「ねえみんな」
セニャに視線が集中する。
「なんか、船が静かすぎない?」
「うん」
メイが眉をひそめている。
「多分、この船、いま止まっている」
俺は耳を澄ました。
波の音がしない。
「風がやんだから、とかか?」
この木船は、風を帆に受けて進む帆船である。
「違うと思う」
メイが人差し指を立てた。
「たぶん、ゲームのイベントが始まったんだと思う」
「嘘!」
サクが素っ頓狂な声をあげる。
「あわわ、それじゃあ、敵が出たりしますですか?」
ノノが両手を振っておびえていた。
「みんな、武器を持って」
メイの指示に従い、俺たちは武器を手に持つ。
いきなりの臨戦態勢だった。
「どこに行く?」
俺が聞いた。
「とりあえず、操舵室」
メイが歩き出す。
一度こちらを振り返った。
「みんな、ついてきて」
「姉ちゃん了解」
「わわ、分かりましたです」
「うち、な、なんか怖くなってきたんですけど」
「キナ、前歩け」
キルと俺は最後尾を守って歩くのが、いつものパターンだった。
船内の扉をくぐり、前部のデッキに出る。
ゲーム内には夜が訪れていた。
雨などはなく、しっとりとした夜である。
船は帆をたたんでおり、風や波の音はしない。
やはり止まっていた。
そして暗闇の中でも、その巨大でボロボロな船ははっきりと目に映った。
俺たちが乗っている船、そのすぐ横に、バカでかいオンボロな船が隣接して止まっている。
「ゆ、幽霊船!?」
キナの声がわなないた。
「何、これ?」
セニャもさすがにおびえた様子だ。
「おおお、オイラ、おしっこがもれそうだ」
どこの遊園地のお化け屋敷よりも、幽霊船はまがまがしいオーラを放っている。
「ちっ」
キルが舌打ちをする。
「やべーな」
俺はつぶやいた。
俺たちのいる船のデッキの上に、転がるようにして倒れている船員のNPCが何人もいた。
俺は駆け寄って膝をつき、呼吸をしているか確かめる。
息は、ある。
寝ているだけのようだ。
「むにゃむにゃ、お魚はもういい」
寝言までつぶやいている。
「トキ、どうだ?」
キルが声をかける。
「大丈夫、寝ているだけだ」
俺は立ち上がった。
前を行くメイが、操舵室の扉を開けた。
中に入って行く。
セニャがその後に続いた。
操舵室は狭くて全員が入れない。
外で待っていると、暗い顔をした二人が出てくる。
「ダメ、船長さんも船員も、床で寝てる。死んではいないけど、触っても起きない」
「どうしてだろう、みんな、眠らされちゃったのかな?」
俺たちの顔が幽霊船をまた向いた。
「アレのせいってことか?」
キルが銃口を向ける。
「きっとそうだよね」
セニャが唇をひきつらせた。
「おおお、オイラ、嫌だよ。あんな気持ちの悪い船にいまから行くなんて、嫌だよ?」
サクはぶんぶんと顔を振る。
「の、ノノカは、みなさんと一緒なら、どこへでも行く所存でございます」
ノノがサクの肩に手を置いた。
サクが彼女を見上げる。
「ノノ、本気かい?」
「サク、ノノを守ってくださいまし」
おびえていたサクの表情が、一転して男の顔つきに変わる。
「あ、あったりまえだい! ノノは、オイラが守る!」
俺は苦笑してしまった。笑いながら、
「みんな、幽霊船を調べよう」
「うん」
メイが頷く。
「分かった」
セニャがスタッフを掲げた。
「うちも、行って、みようかな~」
キナは表情がビクビクとしている。
しかし泣いたりはしない。
自分なりに恐怖と戦っていた。
「どうせ中にボスがいるんだろ? 俺のキャノンでぶっ飛ばしてやる」
キルが好戦的に歯を噛み合わせる。
「でも、どうやって向こうに渡るんだろ?」
セニャが顔を傾けた。
「とりあえず、あの短い橋が必要だな。乗船の時に使ってたやつ」
俺は顎を右手の指で撫でた。




