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1-12 ブラックゴート



 ステータスボードを操作していた。



 正式にギルドを作ることになったのだから、登録ができると思ったのだ。

 普通のMMORPGならできるはずなのだが。

 見つからない。



「トキ、何やってるの?」

 セニャが顔を向ける。



「いや、何でもない」

 俺はステータスボードの右上、バツ印を押して消した。



 ゲーム内の空にはまた太陽の光が差しこんできていた。

 昼になったのだ。



 セニャが両手を開く。

「よし、メイとサクが仲間になったことだし、みんなで狩りに行きましょう」



「承知」

 メイが頷く。



 彼女の容姿は、身長がそれほど高くない。

 セニャと同じぐらいだ。

 髪は肩口で切りそろえられている。

 控えめな印象の二重まぶたであり、肌の色は雪のように白かった。



「えー! また行くのかよ! あの森に?」

 サクは当然だが身長が低い。

 120cmぐらいではなかろうか? 

 くせっ毛の髪に、気の強そうなつり目。

 肌の色は、姉と同じくとても白い。



 二人とも、平民服である。



「あー、サク、自信ないんだあ」

 セニャがけしかける。



 サクはぶんぶんと首を振った。

「んなわけあるかーい! モンスターなんて、オイラの弓でイチコロに決まってんじゃん!」

「ふーん、なら平気よね」

「あ、あったりまえだーい」



 ふと俺は疑問を覚えた。

「サクは弓を持っているけど、矢はどこにあるんだ?」



「へっへーん」

 サクが自慢げに鼻の下を指でこする。

 そして左手に弓を持ち、

 右手で弦を引いた。

 すると、右手に矢が握られている。



「弦を引くと、自然に矢が出るんだよ」

「なるほどな」



 俺は感心した。



「へー、魔法みたいね」

 セニャが頷く。



「どこ行くの?」

 メイが訊いた。



 セニャはあごに手を当てる。

「うーん、洞窟に行こうと思ってたけど、メイは行きたいところある?」

「ある」

「どこ?」

「青ヤギ狩り」

「青ヤギ?」

「うん。この村の西の森に青ヤギがいる。そのモンスターから、青い毛皮が取れる」

「ふんふん」

「青い毛皮を10個集めると、村の服屋で服を作ってもらえるの」

「まあじぃ!?」



 セニャがメイの手を握った。

「行きましょう!」



「もー、服なんてどうでもいいじゃん。これだから女の子は、ふぅ」

 サクはやれやれというふうにため息をつく。



「まあ、良いんじゃないか?」

 俺としても、そろそろこの平民服を卒業したかった。



「リアカーが必要」

 メイがつぶやくように言う。



 セニャが頷く。

「そうよね。毛皮を、えっと、4人分って言ったら、4かける10で40枚になるものね。カバンには入りきらないわ」

「うん。リアカーを買う必要がある」



 セニャは罰の悪い顔をした。

「ごめん、いま僕たち、お金持ってなくってさ」

「出す」

「いいの?」

「仲間」

「ありがとう。メイは良いやつだねえ」

「気にしない」

「でも、リアカーはどこに売ってるの?」

「こっち」



 メイが振り返って歩き出す。



「みんな行くわよ」

 そう言って、セニャがメイの隣に並んだ。



 俺とサクはその背中を追いかけて歩く。



 村の大工屋にリアカーはあった。

 種類がいくつかあり、どれが良いかをみんなで選ぶ。

 引いて運ぶタイプのものに決定し、お金はメイが払った。



「まいどっ」

 大工さんが景気の良い声を張る。



 俺たちはお礼を言って店を後にした。

 誰がリアカーを引っぱるのかと言えば、もちろん俺である。

 さすがに女の子や少年にリアカーを引かせるのは気がひけた。



 さっそく村を出て、西の森へと向かう。

 途中、襲いかかってきたモンスターはみんなで撃退した。

 リアカーを引いている俺はあまり戦うことが無かった。



 青ヤギが生息している林の前に到着する。



 問題があった。



 青ヤギはたくさんいるのだが、その中心に一匹だけ、でかくて黒いヤギがいる。



 そいつのHPバーを見る。

 ブラックゴートという名前である。



 ボスだろうか?



「メイ、あ、あれは?」

 セニャがブラックゴートを指さす。



「たぶん、小ボス。さっきのフクロウと同じ。弱いと思う。邪魔だから倒そう」



「おい待て」

 俺はリアカーの持ち手を離した。

 彼女たちに近づく。

「倒せなかった時はどうする?」

「帰還水晶」



「あ、僕、持ってないや」

 セニャが困った声で言う。



「無いの? 一つあげる」

 メイがカバンを開けて中から水晶を取り出す。

 セニャに渡した。



「ありがとう」



 そこで俺は疑問に思ったことを口にする。

「さっきのフクロウの時も、メイは帰還水晶を使えば良かったんじゃないか?」



「倒せそうだったから。あのフクロウ」



 ……そうか?



「姉ちゃんは、そういうところバカなんだよなー」

 メイがサクにチョップする。



「痛っ、姉ちゃん、なにすんだ!」

「サク、うるさい」



 俺は苦笑しつつ、頭の中で練った作戦を伝える。



 三人が頷いた。



 全員、武器を装備する。



「いいか? みんな、やばいと思ったらすぐに帰還だ」

「分かったわ」

「うん」

「わ、わわ、分かった」

 サクはあからさまに緊張、というかビビっている。



「それじゃあセニャ、行ってくれ」

「あいあいさ!」



 セニャがヤギの群れに近づいていく。

「ヘイスト」

 彼女自身にかけた。

 頭に緑色の玉が灯る。

「ファイアーボール!」



 火の玉がブラックゴートに命中する。

 怒った黒ヤギがこちらに走ってくる。



「うひぃぃぃぃ、こわっ、こわっ」

 セニャが全速力で逃げてくる。



 他の青ヤギたちが襲ってくると邪魔なので、黒ヤギを引き離す必要があった。



 俺とメイが前に立つ。



「ファーストアタックは、私が受ける」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫」



 メイはやけに生き生きとした笑顔だった。

「HPに、ステータスポイントを極ぶりしてるから」



 ……そうなのか!



 黒ヤギが突進してくる。

 メイが盾で受けた。

 彼女のHPは全然減らない。

 さすが、盾である。



 俺は黒ヤギの後ろに回った。

 包丁で切りつける。



「メエェェェェ!」

 怒ったような黒ヤギの声。



 その脇腹に、セニャが火の玉を飛ばす。

 サクも矢を撃っている。



「メ、メエェェェェエ!」

 黒ヤギが大声を発し、その角にバチバチと電流が起こった。



 なんだろう?



「メイ、離れろ!」

「承知!」



 俺たちは距離を取る。



「メェェェェエ! メェェェェエ!」



 黒ヤギの角の放電は大きくなり、やがてその体が電流で飲み込まれた。



「な、なんだ?」



 やがて電流は消え、中から出てきたものは、黒い毛皮をした人型の化け物だった。



 頭には大きな角がある。



「スケープゴート、しちゃう?」

 化け物は、低い声で、意味の分からないことを言う。



 俺は戦慄した。

「みんな、帰還水晶だ!」



「おっと、させないよお?」

 化け物がこちらへ走ってくる。

 帰還水晶を使うひまがない。



 ここは!



「おたけび! ガァァァァア!」



 この、おたけび、は敵には効くが、人間には効果が無い。

 そのことはさっきの原っぱで狩りをした時に検証済みである。




「なに!?」

 化け物が足を止めた。

 勢いあまって前に倒れていく。



「好機!」

 メイが化け物に馬乗りになり、首に剣を突き刺す。

 何度も何度も突き刺す。



「バカ、逃げろ」



「ヘイスト」

 セニャがメイに加速の魔法を唱えていた。



「感謝」

 メイの頭の上に緑色の玉が灯る。

 彼女は連続攻撃を繰り出す。



 ……こうなったら!



 俺も化け物に近づき、その頭に包丁を突き刺した。

 何度も何度も繰り返す。

 化け物のHPはごりごりと削られて、やがて無くなった。



「くそ、人間ごときに」

 赤い光になって消える。

 その場に硬貨が落ちた。



 メイが一枚の硬貨を拾う。

「金貨」

 にっこりとほほ笑む。



 俺はため息をついた。



 逃げずに戦ったメイを叱る気分にもなれなかった。

 実際、化け物はたいして強くなかった。

 さっきは、俺が勝手にびびっただけなのだ。



 セニャとサクが近寄ってくる。



「何か良いもの落ちた?」

 メイは立ち上がり、金貨をセニャに見せる。

「これ」

「おおー、金貨じゃない。銅貨1000枚分ね」

「うん。これ、どうすればいい?」

「それは、えーっと、トキ、どうすればいいかなあ?」

「村に戻ってから、小さく崩して4等分するか」

「そうだね!」



 それから俺たちは、青ヤギを狩りまくった。



 ブラックゴートと違って、青ヤギは変身したりすることもなく、倒しやすかった。



 メイはサクが気になるのか、いつも近くで守りながら戦っていた。



 ふと気づいたことがある。

 セニャのヒールをする比率が、メイに対しては圧倒的に少ないのだ。



 メイはHPの自然回復が早かった。

 ステータスポイントをHPに全振りしていると言っていたが、そういう効果もあるようだ。



 二時間も狩って、またゲーム内の夜がやってきた頃、青ヤギの毛皮は40枚集まった。



 また俺がリアカーを引いて、村へ戻った。

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