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婚約しましょう、王子様!悪役令嬢の私があなたを立派な魔王にして差し上げます!  作者: 春夜くる佳


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婚約発表3 アダム

 おかしい。僕は思わず目を見張った。


「チッ」


 側室である母が舌打ちをしている。今日も機嫌が悪いようだ。


「アダム、モレッティ公爵令嬢とは仲良くやりなさいよ」

「はい、お母様」


 ルシファー兄様とモレッティ公爵令嬢が手を繋いで入場してきた。なぜだ? 二人の仲はそれほどよくなかったはず。婚約発表の意思確認も断られて凹んで帰ってくると思っていたのに、いつもより機嫌が良さそうに帰ってきた時点でおかしいとは思っていた。さらに、先月の魔力検査で、ルシファー兄様は闇属性の魔力を発現させたと聞いた。しかも、モレッティ公爵令嬢もその場にいたらしい。僕は密かにほくそ笑んでいた。絶対、怖がられてより嫌われているはずだと。それなのに、なぜ?


 ルシファー兄様が執務室の机の中に隠しているつもりのモレッティ公爵令嬢に関する調査書には、僕が好みだとあった。金髪碧眼で同い年、そして少し抜けている感じが好きとは、まさに僕のことではないか。これならモレッティ公爵令嬢をお母様の言う通り、僕に目を向けさせるのは難しくなさそうだと安心していたのに、あの繋いだ手はどういうことだ?


 ルシファー兄様の性格上、もし返事があれば保管しているはずだ。それがないと言うことは、ルシファー兄様が一方的に手紙を送っているだけで、脈はないことを表している。時々ルシファー兄様が「良い返事が貰えるラブレター文例集」を参考にしながら一生懸命手紙を書いているのは知っている。もしモレッティ公爵令嬢から返事があるとしたら、その文例集を隠している引き出しにあるはずだろうと思ったが、一通もなかった。他にも各所探して見たが、やはり見当たらない。モレッティ公爵令嬢からの手紙が一つも保管されていないのを見ると、ルシファー兄様は嫌われているだろうと思っていたのに……。


 一度も会ったことがない上に手紙も交わした事がない相手のはずなのに、わざわざ毎日調査させて、それを毎週報告させているのは婚約者の調査にしては、度が過ぎている。それだけモレッティ公爵が有力な貴族だという証拠に他ならないとも言える。モレッティ公爵家のクレアとルシファー兄様がもし結婚することになったら、間違いなく王位はルシファー兄様のものだ。その時、僕の扱いはどうなるんだ? お母様が言うように、僕はいらない子になって、危険な任務をこなすための駒になるのだろうか?


 お母様は言っていた。どんな形でも良い。モレッティ公爵令嬢は必ず手に入れろ、と。あの公爵令嬢に何があるというのだろう。お母様は『クレアだけは別格なのよ』と言っていたが、何を持って別格だと言っているのか僕にはまだ良く分からない。


 でもこうしてルシファー兄様とモレッティ公爵令嬢が貴族たちの前で婚約を発表してしまった以上、僕が割り込める可能性は薄くなってしまった。お母様の機嫌が先月からずっと悪いのもその所為だ。


 僕への教育指導は日々厳しくなってきている。せめてルシファー兄様より優秀であれば、王位を継承する可能性がまだあるからだ。ルシファー兄様がたとえ膨大な魔力を保有していたとしても、発現させた闇属性の魔力は一般的に畏怖されている。僕が十歳になった時、闇属性以外の魔力を発現させ、かつ優秀であれば僕が王位を継承する可能性は僅かにある。その上モレッティ公爵令嬢が僕の相手であれば、王位は僕のものだ。


「チッ」


 またお母様が舌打ちをしている。このテーブルが他のテーブルから離れているとはいえ、みっともないからやめてほしい。だから側室なんだよ、なんて言った日には僕は王宮の地下牢に閉じ込められるだろう。よくそんなお母様のことを、侍女達は噂をしている。


 王妃殿下の不在時に、国王陛下を仕事と偽って呼び出し、お酒をたくさん飲ませて酩酊した隙をついた、と。王妃殿下の格好に扮して自宅の子爵家で国王陛下と契りを結んだとか。その一回だけで僕ができたと言うのだから、僕が本当に国王の子かどうかも怪しい。お母様本人は、間違いなく国王の子どもだと僕に言っているから、本当に国王は運が悪かっただけという可能性もないことはない。


 怖くて真相は直接聞けないが、侍女達の言うことに嘘はないのではないかと僕は思っている。お母様ならやりかねない。もし正当な経緯で側室となっていたら、今のように全く見向きもされないということはないだろう。ルシファー兄様の母である正妃は、国王にも非があるとして僕のお母様を罰することはしなかった。子どもが出来たと知って、やり方に問題があったにも関わらず、側室として迎えることも快く承諾した心の広い方だと聞いている。正妃はモレッティ公爵家とは別の公爵家の出身で、生粋のブルーブラッドだ。側室が一人ぐらいいても、どうでも良いのだろう。


 そろそろ国王による宣言が終わって、ルシファー兄様とモレッティ公爵令嬢がやってくる。国王と正妃はこれから上位貴族が挨拶に来るのを受けることになる。ここでのお母様の役割は、正妃が自分から足を運んで貴族のテーブルを回れない分、子爵家出身であることを生かして、下位の貴族のテーブルを自らが回ってもてなすことだ。


 上位貴族全員が国王への挨拶を終えてからがお母様の出番となるはずだが、お母様はルシファー兄様とモレッティ公爵令嬢がテーブルに近づいてきてすぐに席を立ってしまった。自分の母でありながら、マナーがなっていない……。他の貴族のところに行っても、食事も始まったばかりで仮にも側室のお母様が初っ端から行けば気疲れするだろうに。


 せめて僕だけは、と思い、ルシファー兄様とモレッティ公爵令嬢に祝いの言葉を告げる。でも二人の距離感は僕に都合が悪い。少し離れてもらおうと思い、距離が近すぎることを言ってみると、モレッティ公爵令嬢は僕の示唆することを察して離れてくれた。ふむ、なかなか賢い令嬢のようだ。確かに、モレッティ公爵令嬢はそういう意味でも悪くない。お母様の言うことを素直に従うのは気に食わないが、事実モレッティ公爵令嬢は人としても優秀なようだ。


 考察を巡らせていると、ルシファー兄様がモレッティ公爵令嬢をお茶に誘い出した。紅茶? ルシファー兄様、飲めればなんでも良いと前は言っていませんでしたか? わざわざ婚約者の為に上質な紅茶を手に入れるようなタイプではないでしょう。そこで僕は気がついた。


 あれ? もしかして、ルシファー兄様はモレッティ公爵令嬢に純粋に好意を持っているのか? モレッティ公爵令嬢とお茶をしたいがために、まだ用意もできていない紅茶を用意したと言って誘っているのだろうか? なるほど、これは面白い。是非僕も参加させてもらおう。


 お母様、まだ僕にもチャンスはあるかもしれません。


 僕がルシファー兄様の婚約者と仲良くなりたいと言うと、ルシファー兄様は承諾してくれた。ルシファー兄様の口元が少しヒクついた気がしたが、気のせいではないだろう。ルシファー兄様のことだ。本当は二人っきりで、なんて思っていたに違いない。


 でもそうはさせませんよ。僕の将来もモレッティ公爵令嬢にかかっているようですから。僕はあどけない笑顔を振りまいて、三人で一緒にお茶をする約束をまんまと取り付けた。

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