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婚約しましょう、王子様!悪役令嬢の私があなたを立派な魔王にして差し上げます!  作者: 春夜くる佳


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お茶会1

(なんでこうなった……)


 私は今王宮に向かっている。婚約パーティーの最中にルシファーがお茶をしようと誘ってきたのだ。断る理由はない。今まで交流がなかった分、ルシファーとの交流が増えるのは良い事だ。でもなぜアダムまで……。


 婚約パーティーは原作で語られてはいなかったので、戸惑いの連続だった。婚約破棄をしているのだから婚約発表パーティーは開催されていなかったので、私が知らないのは当たり前だ。原作で攻略対象の内の一人として出現する第二王子、アダムと出会ってしまったことも不覚だった。原作ではクレアもヒロインも攻略対象と会うのは十歳の魔力検査の日が最初だ。ヒロインが出会うよりも先に私と出会ってしまったことでまた何か変化を起こしてしまったのではないかと心配が過ぎる。良い変化だと良いけれど……。


  国王と王妃に誓いを捧げる際に、ルシファーが微笑んで来た時には驚いた。あまりにも甘い笑顔を浮かべるものだから、思わず顔を背けてしまった。私の反応は間違いなく不自然だったことだろう。でも、なんだって会ったばかりの婚約者にあれほど嬉しそうな表情を見せたのだろう。将来魔王になる人だとは思えないぐらいに優しい表情だった。


 それにしても、交流を深める目的でなぜかアダムとも一緒にお茶をすることになったのは気がかりだ。このお茶会はまるで原作でヒロインがアダムと出会った時に交流を深めるワンシーンのようだ。


 アダムはヒロインがちょっと構ってあげなかったらすぐ拗ねるタイプだ。ひたすら構ってあげていれば良いだけなので、チョロい男ではある。しかしそれは攻略対象である時だけだ。攻略対象が別な時は、ただただ邪魔なだけ。下手な扱いをすると度々勉強を邪魔されて、成績を落とし、ヒロインの攻略対象の好感度が落ちる、厄介者だ。


 アダムと交流を深めようとすると、ヒロインとアダムが仲良くなるのを邪魔するかのように、クレアの元婚約者であるルシファーが立ちはだかる。たとえ相手がアダムでなくとも、ルシファーはヒロインが攻略対象と仲を深める際に必ず出没する。 


 原作の場合、ルシファーが出てくるイベントはヒロインにデメリットしかない。攻略対象の好感度がそのままな状態をキープするか、下がるかの二択しかないからだ。攻略対象との好感度を維持したければ、ルシファーの機嫌を損ねてはならない。言葉の選択を慎重に行う必要はあるが、ルシファーの機嫌を損ねさえしなければ良いとも言える。


 時期も違うし、原作通りの事が起こるイベントだとは限らない。似たような展開だと思えば上手くやれそうだ。それに今回は原作と違って私の攻略対象は、原作では攻略対象者として選択肢のなかったルシファーだ。アダムを攻略する必要はない。


 入室すると、まだルシファーは来ていないようだった。ここも原作とほぼ同じだ。ただ、原作ではルシファーが先に来ていて、その後からアダムがやってくる。ここではアダムを原作のルシファーのように扱えば良いと判断した。


「モレッティ公爵令嬢、よく来ましたね」

「ごきげんよう、アダム殿下。お待たせしてしまいましたか?」

「ええ、多少は」


 おや? 原作のルシファーと同じような事を言うんだな。本当にアダムとルシファーのポジションが入れ替わっているみたいだ。アダムはちょっと抜けた優しい人だったと思っていたが、少し生意気そう。構われなかったらすぐ拗ねる性質がまだ子どもだから顕著なのだろうと思うことにして私は席についた。


 私と第二王子は同い年、つまりまだ八歳だ。ここは私が大人になって対応しよう。但し、慎ましやかで知的かつ上品な振る舞いをすると王妃にふさわしいとかでロックオンされるので注意だ。


「それは申し訳ございません」


 私は適当に機嫌良くさせておこう、と考えた。ルシファーの好感度が落ちては困る。アダムはガラスのように繊細なハート、よし、上手く言葉を選んで話せそうだ。


「モレッティ公爵令嬢はルシファー兄様と仲が良いのですか?」


 来た! この質問に何度悩まされたことか。原作では『そんなことない』とヒロインが謙遜すると、扉の外で待機している侍女が話を聞いていて、その侍女の噂話からアダムの耳に入って好感度が落ちる。『そうだ』と言えば、まるで悪役令嬢が想いを寄せる相手とヒロインが仲良くするのが気に食わないとでも言うかのように、ルシファーの機嫌が悪くなる。ルシファーがアダムにあれこれ言うせいでアダムのヒロインに対する好感度が落ちる。さらにアダムとの好感度が下がると、なぜか悪役令嬢と攻略対象の仲が深まる事になる。このように、否定も肯定もどちらも好感度を下げてしまう。


 しかし、私は知っている! ここは話を逸らすのが正解だ!


「ルシファー殿下と言えば、今日は上質な紅茶をご用意いただいているとか。楽しみですね」


 私が直接答えるのを避けると、扉の外でバサッと何かが落ちる音がした。今のは侍女が立てた音に違いない。よし、これで助けが来るはず!


「話を逸らさないでくれ。仲が良いのか、と僕は聞いている」


 あっれえ? おかしいな……話を逸らせば、すぐに攻略対象が部屋に入って来て好感度を下げずに済むイベントなのに。え、答えないと駄目? どうしよう。


 ここでアダムの機嫌を損ねたら、攻略対象であるルシファーの相手に相応しくないと言われて精神的にコテンパンにされた後、ルシファーの好感度が下がってしまう。


 私が攻略対象と仲が良いと言った場合、気に食わないアダムが不機嫌になって、アダムがルシファーにあれこれ言って私に対するルシファーの好感度が下がる上、ヒロインとルシファーの仲が深まる事になってしまう可能性もある。


 でも私の知らない所でルシファーがヒロインと出会っていなければ、多分大丈夫だ。ルシファーが平民のヒロインと出会うタイミングがあるとしたら、攻略対象達とヒロインが十歳の魔力検査で仲良くなった後だ。この場にヒロインがまだ現れていないのが唯一の救いか。


 ここはアダムの機嫌は気にしなくても問題ない。ルシファーの事だけを考えよう。


「ええ、私はルシファー殿下と仲が良いと思っていますわ。ルシファー殿下ほど私に気遣って下さる優しい方はいませんもの」

「ルシファー兄様が……優しい? 気遣う? 誰の事を言っているんですか?」

「ルシファー殿下のことですよ? ルシファー殿下の漆黒の髪に黄金の目はとても凛々しくて、素敵だと思っていますわ」


 私がルシファーをベタ褒めすると、思っていた通り、アダムの機嫌が急降下した。


(やっぱりこうなるか……)


 でも侍女の噂話を聞いてルシファーが傷付くよりは良い。心を病ませない事が最優先だ。たとえ今の発言によって、ルシファーとヒロインの仲が深まってしまったとしても、ルシファーを傷つけるよりかはよっぽど良い。傷ついた心は元に戻らないから。


 すると扉の向こうでゴンッ! と音が鳴る。侍女がやはり外で話を聞いていたか。少なくともルシファーの心が病む可能性は消えた。あとはルシファーとヒロインの仲が深まらなければ尚良し。暫くすると、ノックの音もなく、いきなり扉が開かれた。


「クレア、アダム。遅くなった、すまない」

「ルシファー兄様!」

「私も今来たところですので、お気になさらないでください」


 ルシファーの手にはまだ書類が抱えられている。ルシファーは将来このまま上手くいけば国王になる。きっと既にいくつか簡単な政務ぐらいは任されているのだろう。


 生真面目そうなルシファーにしては珍しく、書類が乱雑な方向に束ねられている。頭のてっぺんを撫でているので、どこかにぶつけるほど急いで来たのかもしれない。焦った表情からその様子が窺える。顔も赤らんでいるので走ってきたのだろう。


「クレア、今日は……来てくれてありがとう……」

「お礼を言うのは私の方です。ルシファー殿下とまたすぐにお会いできて嬉しいです」

「っ……!」


 私が微笑むとルシファーは言葉に詰まって、手に持っていた書類を落としてしまった。


バサバサバサ


「あっ!」ルシファーは慌てて床に散らばった書類をかき集める。


(あれ? この音、さっきアダムの話を逸らした時にも聞こえた気が……? 気のせいかな)


「忙しいのに私に会う時間をわざわざ取って下さったのですね。ルシファー殿下、ありがとうございます」私はそう言うと、床に散らばった書類を一緒になって拾い始めた。


「いや、そうじゃない。俺が……」


 床に落ちている最後の一枚を拾おうと屈んで手を伸ばすと、私の手とルシファーの手が重なった。ルシファーは慌ててその手を引っ込める。何か言いたそうな顔をして、口をハクハクと動かしては、口を閉じるのを繰り返している。体の前に、私に触れた手を拳にして、もう片方の空いた手でその手を覆っている。


「どうかされました? もしかして手を紙で切ってしまわれましたか?」


 私はルシファーが体の前で拳にしている手を取り、両手で包み込んだ。大丈夫かな、とルシファーの手を観察する。私が掴んだせいでルシファーのもう片方の手が行き場を失い、空中で固まっている。するとルシファーは宙に浮かせていた手を私の手の上に置いてきた。二人で向かい合わせになってお互いの手を交互に包み込むという訳の分からない体制になっている。


「違う、そうじゃない。俺が、俺がクレアに会いたかったんだ……」その体勢のまま、ルシファーはおずおずと小声で言葉を口にした。

ブクマと評価があると頑張れます……(´・ω・`)

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