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婚約発表2 ルシファー

「我が息子であり、第一王子のルシファー・エルドラド、そしてクレア・モレッティ公爵令嬢よ。国王の名において、二人の婚約をここに宣言する」

「「共に人生を歩んでゆく未来を、私たちはここに誓います」」


 二人で国王と王妃に向かって誓いを立てる。チラリと横目でクレアを見ると、俺の視線に気が付いたクレアが微笑みかけてくれた。義務感から婚約を承諾してくれたと思っていたが、少なからずクレアも喜んでくれているのかと思うと、俺の心がふんわりと温かさで包まれる。


 嬉しくなって、俺も口元が緩むのを感じた。俺は今どんな表情をしたのだろうか? クレアが俺を見てハッとした顔をして、目を逸らしてしまった。明日からは笑顔の練習をすることにしよう。


「二人の婚約発表に足を運んでくれた我が国を支える貴族達には、ルシファーの父として感謝を申し上げる。今日はパーティーを楽しんでくれ」


 国王のパーティー開始の言葉をもって拍手が会場に鳴り響いた。これでクレアは俺のもの……婚約者だ。もう誰にも手出しはさせない。俺とクレアが再度礼をすると、楽器の演奏が聞こえ出した。パーティーの始まりだ。


 俺はクレアの手を取って、アダムがいるテーブルに移った。そこにはアダムの他に側室、アダムの母が座っている。俺とクレアが近づくと、目礼してすぐに椅子から離れてしまった。国王と王妃の元へ行くか、他の懇意にしている貴族のテーブルを回るのだろう。相変わらず態度の悪い奴だ。今日は俺とクレアが主役だぞ。祝いの言葉一つも言えないのか。


「ルシファー兄様、モレッティ公爵令嬢、ご婚約おめでとうございます! お二人であれば、この国も安泰です。お二人の未来が素晴らしいものでありますよう、お祈りいたします」


 一方、その側室の息子であるアダムはどうだ。こんなに礼儀正しく祝いの言葉が言えている。あの性悪な側室とは大違いだ。


「ありがとう、アダム」

「ありがとうございます、アダム殿下」

「お二人はとても仲が良いのですね。最近会ったばかりとは思えないほど、距離感が近いように思いました」


 ちょっと棘があるように聞こえたが、気のせいか? 俺はクレアにもっと前に会っているのだから仲が良いのは当然だ。クレアは覚えていないだろうけど……。距離が近いのだって、クレアが俺の婚約者だからだ。別に良いじゃないか、クレアだって嫌がっていないのだから……嫌がっていないよな?


「距離が近いですか? すみません、弁えるようにしますね」クレアは椅子に座ってもまだ手を握っていた俺の手を離した。


 おい、アダム! なんて事を言ってくれたんだ! クレアが……クレアの手が離れてしまったではないか! いや、人前で手を繋いでいるのはクレアにとって印象が悪いというアダムなりの忠告だったのかも知れない。俺が軽率だった。これは俺が悪い。


「俺が悪かった。すまない、クレア」

「いいえ、ルシファー殿下のお陰で私も緊張せずに済みました。アダム殿下、ルシファー殿下は私が緊張していると思って手を握っていてくれたんです、失礼いたしました。ルシファー殿下もご配慮いただき、ありがとうございました!」


 俺の顔を立てつつ、アダムにも気を使ったその発言。素晴らしい。クレア以外に将来の王妃にふさわしい存在はいない。


「ルシファー兄様はモレッティ公爵令嬢にお優しいのですね。僕もモレッティ公爵令嬢みたいに素敵な婚約者を見つけなければなりませんね」

「素敵だなんて、照れますわ」

「そうだな、クレアほどの相手を探すのは難しいだろうが、アダムなら心配ないだろう」

「ルシファー殿下……」


 クレアが俺をキラキラした目で見ている。口が滑った。いや、それで良いのか。クレアの澄んだ瞳に見つめられているのが恥ずかしくなり、俺は誤魔化すように話題を探した。


「そうだ、クレア。最近上質な紅茶が手に入ったんだ。たまには王宮に来ると良い」


 紅茶が手に入ったというのは嘘だ。クレアがうん、と頷けば今すぐに入手するつもりでいるだけだ。俺が紅茶を自分のために手に入れるわけがない。俺は飲めれば何でも良い。でも、クレアが王宮にお茶をしに来てくれるというなら話は別だ。あらゆる手段を用いて最上級の紅茶を手に入れて見せよう。


 クレアと楽しく歓談した後は、二人で街に出かけるのだ。その時はどこに行こうかな。クレアに似合うピアスを見に行こうか。今付けているピアスはたとえ俺の瞳の色に合わせたのだとしても金色はアダムと被るからな。黒いダイヤならもっと良い。クレアの全身を俺の髪色の黒に染め上げ……いや、クレアの好みに合わせよう。押し付けてはいけない。押し付けがましい男は嫌われるとベルゼが言っていた。危ない、危ない。


「ルシファー兄様、それは良いですね。僕もご一緒させて下さい。これを機にルシファー兄様の婚約者と仲良くしたいです」


 アダム……俺はクレアと二人でお茶を飲んだ後に、街へ出かけてみたかったんだ。お忍びとやらをクレアと二人でしてみたかったんだぞ? 心とは裏腹に、正反対の言葉が口を衝く。


「それはいいアイディアだ。是非、三人で一度交流を深めよう」


 俺の馬鹿! いくじなし! クレアと二人っきりが良い、となぜはっきり言わなかったんだ。でもアダムの前でそんな恥ずかしいことは言えない。


 クレアはアダムの金髪と青い目が好みだと調査書には書かれていた。同い年は価値観が合うから安心感があるともあったな。クレア、同い年はやめておけ、と言ってしまいたい。年上の俺の方が頼り甲斐もあるし、安心感もあるはずだ。特にアダムはおすすめできない。こいつは甘やかされていて安心感どころか優しくてしっかり者のクレアに頼り切るに違いない。その癖、理想が高く、知的で上品かつ慎ましやかな女性がタイプと言うのだから。残念ながらそんな女性はこの世にクレアしかいない……なんて事だ! アダムの理想の女性はクレアしかいないじゃないか!


 不味いぞ、二人の好みは一致している。アダムとクレアをあまり接触させたくない。クレアがやっぱりアダムの方が良いと言ってしまったらどうしよう……クレアが俺を置いて、アダムと一緒になってしまったら……。もしくはアダムの事をクレアが好きで、アダムが違う者と結ばれようとしていたら……俺はクレアの為に結婚式に乱入するかもしれないな。


「どうしたの、ルシファー。死にそうな顔をしていますわ」


 死にそう、とクレアの声を聞いて俺は余計な事を連想した。クレアに万が一の事があって、この世からクレアがいなくなってしまったら……! そうだ、世界を滅ぼそう。クレアが俺の隣にいない人生なんて意味がない。クレアがいなくなったら、俺はきっとこの闇属性の魔力に飲み込まれてしまうだろう。その時はクレアのいないこの世界を滅ぼす自信しかない。


 この闇属性の魔力は扱いが難しい。この国でも闇属性を持った人間は今まで数えるほどしか確認されていない。闇属性は魔族が持っている属性だ。人間で発現させる者は滅多にいない。もし発現した場合、いずれも皆行方が知れなくなっている。心を強く持っていないと、闇属性の強大な力に飲み込まれ、自我を失う可能性もあると聞く。行方が知れなくなった者は、もしかしたら闇属性の魔法に飲まれて魔族を装って魔族に紛れ込んでいるのかもしれない。


 大丈夫、クレアは死んでいない。俺にはクレアがいる。俺が闇に飲まれることはない。クレアがいる限り俺はどんな困難にだって立ち向かえる。


「なんでもない。来週の予定はどうだ?」

「来週ですね、分かりました」


 何だか今日は余所余所く感じる。クレアが敬語だからかな。次にあった時、その場に俺とアダムしかいない時は敬語を止めるように言ってみよう。


 退屈だろうと思っていた婚約発表パーティーはクレアが隣にいたお陰であっという間に時間が過ぎていった。パーティーが終わったら急いで紅茶を手配しなければ。来週に間に合うだろうか? いや、間に合わせる。執務の合間を縫って、なんとしてでもクレアが気に入る紅茶を探し出してみせる! 最近は甘さ控えめの物を好んでいると聞いている。俺はパーティーが終わるまでずっと紅茶の有名な産地が頭から離れなかった。

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