クレアの想い
私達はその後、考えを整理するため各自の部屋に戻った。私がまさか天使族の女王だったとは思わなかった。そんな存在がいたことさえも知らなかった。
でも好都合だ。私がルシファーの隣にいれば、たとえルシファーが魔王になったとしても正気を失うような事態は起こらないと保証されたのだ。私が隣にいるだけで抑制できないほどになり、ルシファーが闇に飲まれそうになったら浄化魔法をかければいい。何も心配することはない。今まで通りやればいいのだ。
それに、もうすぐ寿命だと言っても、原作で魔王が滅びるより早く魔王に会えた。明日になったら浄化魔法をかけて延命出来ないか試してみよう。そしたらルシファーが魔王になるのも、もっと先の事になるかもしれない。
考えも纏まった所で、そろそろ寝ようかなと思いベッドに入ると私の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
コンコンコン
「……どなたですか?」
「俺だ。二人で話がしたくて……」
私は驚いて扉に駆け寄った。
「どうしたのルシファー、こんな夜更に」
そう言って扉を開けた私はルシファーがカッと赤くなった事で自分の服装に気がついた。
「す、すまない! もう寝る所だったよな。明日に出直す!」
「いや、でも話したいことがあるのでしょう?」
慌ててガウンを取り、半分透けたシルクのようなネグリジェに私がガウンを羽織ったのを見て、ルシファーはおずおずと部屋に入って来た。私は部屋にあったソファーに座るようルシファーを促し、私も隣に座ることにする。
「先程の魔王陛下の話で頭が一杯で気が回らなかった。夜遅くにすまない」
「いいよ、気にしないで。それで話ってなあに?」
ルシファーは目のやりどころに困っているようで視線をうろちょろさせながら口を開いた。
「さっきの魔王陛下の話で気になることがあって……」
「そうね、驚いたわ。まさか私が天使族の女王だったなんて。今でも信じられないわ」
「俺は以前国王陛下から渡された本で読んでなんとなくそうではないかと思っていた」
なんてことだ、ルシファーは私が天使族の女王だと気がついていたのだ。私は口を尖らせてルシファーに抗議した。
「え!? なんで言ってくれなかったの?」
「確証がなかったんだ。俺が持っていた本は最終章だったこともあって、分からないことが多かった。対になる本を探してみたが、それも見つからなかったんだ」
「あっ……その本は多分パウロの研究室にずっと置いてあるわ……」
「どうりで見つからないわけだ。でもその本は王族だけが閲覧できる書棚にあるはずだが……?」
「あ、そ、それは! えっと!」
私が焦った様子を見せるとルシファーは首を振って言う必要はないと示す。私達は互いの顔を見合わせ、クスッと笑いを零した。
もし原作のルシファーもその本を読んでいたとしたら、魔王になった時に王国を侵略したのも、きっとクレアを探しにきたからだったのだろうと納得がいった。つまり、クレアは追放された後、なぜか教会にいるということだ。追放先が分かったことで、私はこれからも教会には極力近づかないでおこうと密かに決心する。
「それにしても、魔王から話を聞けて良かったね。私が天使族の女王なんだったら、都合が良いし」
「でも俺が魔王になったら、クレアは……」
その先の言葉を言いづらそうにルシファーは口を噤んだ。きっと、私が王妃になれないだろうことをルシファーは悩んでいるのだろう。
でも元から私は王妃の椅子に興味がない。私は最初からずっとルシファーを立派な魔王にするために婚約を承諾したのだ。ルシファーの心を病ませないため、ルシファーを幸せにするためにこの道を選んだのだ。
「私はずっとルシファーと一緒にいるよ。たとえルシファーが魔王になったとしても、ルシファーの隣にずっといるって約束する」
「クレア……なんでそこまで……!」
「分からないの?」
「……っ」
ルシファーは私から視線を外し、両手を強く太腿の上で握り、黙り込んだ。私は隣にいるルシファーに近づき、握り込まれた両手の上に自分の手を重ねた。
「愛しているからよ」
下を向いていたルシファーはパッと顔を上げると、私が嘘を言っていないか確かめるように瞳を見つめてきた。ルシファーの目は潤み、涙がこぼれ落ちそうだ。私は思わずルシファーの瞼の上に口づけを落とした。
「私は王妃の椅子になんて興味はないわ。私はいつだってルシファーの隣にいれれば十分なの。私が隣であなたを立派な魔王様にして見せるわ」
「……っ!」
ルシファーの目から涙が溢れ落ちた瞬間、顔を隠すように私に抱きついた。
「クレアがいなくなるのではないかと不安だった」
「それはないわ」
「クレアも俺を魔族だと恐れるのではないかと思ったら頭が真っ白になった」
「ルシファーはルシファーよ。たとえ魔王になってもそれは変わらない」
「クレアとずっと一緒にいたい」
「ルシファーこそ、私が天使族の女王だと知ったから一緒にいたいと言ってるの?」
「違う! 俺はクレアがクレアだから一緒にいたいんだ!」
「私だって同じ気持ちよ」
「クレア……」
「なあに?」
私が微笑むと、ルシファーは私の胸元に埋めていた顔を上げ、私の唇に指をそっと這わせると唇を重ねた。
「……愛してる」
「私も愛しているわ」
ルシファーの頬に手を這わせると、ルシファーがその手を取り、指先に唇を押し当て私の目を真っ直ぐに見つめる。
「結婚しよう。絶対幸せにするから」
「うん! まずは国王に今日の話を報告しないとね」
「明日帰ろう。すぐにでも結婚したい。むしろ今結婚したい」
ルシファーの気が急いた言葉に私はふふふと笑い声が零れる。
「帰ったらすぐに結婚式をあげよっか。そしたらここに戻って来て、一緒に暮らそう」
「……クレア、俺のクレア」
ルシファーはまた私に口づけをすると、私をソファーに押し倒して角度を変えながら小鳥がついばむように何度も唇を重ねた。蕩けた顔をしたルシファーから熱い吐息が漏れる。私の口からも甘い声が発せられる。
ルシファーが指を絡ませ、すりすりと感触を確かめるように触れる。指から感じるルシファーの体温にもっと触れたくなり、私は絡めた指を離し、両腕をルシファーの首に回す。ビクッと体を震わせ、悩ましい顔をしたルシファーが言った。
「それをされると我慢が出来なくなるんだが……」
「もっと触れたいの……」
ルシファーがゴクリと喉を鳴らし、私のガウンに手をかけた、その時。
城内に悲鳴が響き渡った。
「えっ、今のは……!?」
「魔王陛下の声だ。何かあったのかもしれない」
ルシファーは私のガウンから手を離し、私の上から身を起こした。私も同じように身体を起こし、ルシファーを横に押し除けソファーから立ち上がった。
「様子を見に行こう!」
私ははだけていたガウンを整え、腰紐をガッチリと結んだ。思考を切り替えるため、頬っぺたを両掌で叩くとパンッと音が鳴る。
少し残念そうな顔をしたルシファーの手を引いて、私達は部屋を飛び出した。
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