クレアはリリスの正体を知る
ずっと待っていた? 一緒に暮らす? そういう話をする為に私を呼んだの? 話についていけず、仮にも魔族の王様相手にどう返したら良いのか。私がおどおどしていると、ルシファーが前に出た。
「クレアは私の婚約者です。困ります」
「なんだ、お前は? 人間の癖に凄まじい闇属性の魔力を感じるな。先祖の血が色濃く出たは良いが、聖属性は女にしか現れぬから、反転でもしたか? 次の魔王はお前だな」
「……なっ!? 私は人間の王国の第一王子、ルシファーと申します。魔族ではありません!」
「人間であるか魔族であるかどうかは関係ない。先祖の血を色濃く引き継ぎ、反転しているなら尚更、お前が次の魔王だ。なんだ丁度、次世代もいるのだ。クレアもここで暮らすと良い」
「俺が次の魔王……?」
次から次へと魔王は私の知らない情報を淡々と告げて行く。混乱する私に構うことなく、戸惑っているルシファーを横目に魔王は話し続けた。
「それに、後にいる女も普通じゃないな。人間か? 違うな……お前は……? まさか人間がやったのか? 出来損ないを作りよって! まだ人間はそんなことをしているのか」
「え? 私を出来損ないって言いましたか? どう言う意味ですか?」
出来損ないと言われれば誰だって怒るだろう。リリス、怒りを鎮めて、相手は魔王よ! と焦りを覚えた。不味い、殴り込みシナリオに突入か!? という私の心配を余所に、リリスはむしろ必死な顔をしている。誰か他にもリリスを出来損ないと言う人がいたのだろうか。リリスは答えを求めるように、真剣な顔で魔王に問いただした。
「お前は自分のことを何も知らないのか?」
「リリスは孤児なので……」どうかリリスの不敬をお許し下さい、と心の中で呟く。
魔王はリリスに憐むような目を向けて言った。
「お前は魔族だ」
「え……? 私が……魔族?」
「そうだ。お前が腹の中にいる時に親が光属性の魔法を浴びせられ続けたのだろう。不完全な状態で先祖返りしているではないか。
聖属性ならまだしも、光属性は魔力の派生だから、完全には戻せないどころか普通の魔族なら弱って消滅してしまう。お前は腹の中にいた事で母親の肉体に守られて消滅を免れたのだろう。その代わり光属性の魔力を浴びせられ続けたことで魔族の特徴を失い、状況に適応するため闇属性から光属性に反転したのではないか?
孤児なのも、親がそのせいで死んだからだと考えられる。人為的に魔族を先祖返りさせるには、聖属性なくしては不可能だ」
「信じられません……私が魔族って……!」
「魔族は光属性を浴びせられ続けると弱るのは周知の事実。儂もアンジェラがいなくなってから溢れかえる闇属性を抑えるために、ダンテ、クレアの父に光属性の治癒魔法をかけてもらうことで、この身が闇に飲まれるのを抑えてきた。しかしそれは儂の身体を削るだけで、治癒は効かない上に精神の安定までは施せない。儂の体はもう限界だ」
「待って下さい、魔王陛下! なんのことを言っているのか全く分かりません!」
リリスが頭を抱えて酷く狼狽え叫ぶように言った。
「ふむ、それもそうだな。では話は後にしよう。先に着替えてくると良い。クレアもまた後で話をしよう。なあに、不安そうな顔をするでない。ちょっとした昔話をするだけだ」
そう言って魔王は私の頭をひと撫ですると来た道を戻って行き、私達は魔王の側近である魔族の男に連れられて、部屋に案内された。一人一人、個室をあてがわれ、私は一息ついて部屋にあるソファーに腰掛けた。
「ここまでの道のりは疲れましたでしょう。晩餐会は七時を予定しておりますが、ご準備のために再度五時頃お伺いします。それまでごゆっくりお休み下さい。丁度ティータイムですので、後ほどお一人ずつお茶と軽く摘めそうな物をお持ちしに参ります」
「ありがとうございます、えっと側近様?」
「レヴィアとお呼び下さい、次期魔王陛下のお妃様」
「いやいやいやいや、まだルシファーが魔王になるとは決まっていませんし! クレアでお願いします!」
レヴィアはふふふ、と笑い声を漏らして妖艶な笑みを浮かべると、一切の音も立てずに部屋を出て行った。
「モレッティ公爵令嬢と呼ぶのでもなく、次期魔王陛下のお妃様と来たか……嫌なフラグ立ちすぎでしょ……」
それにしても、リリスが魔族とはどういうことだ。こんな話は聞いたこともない。リリスは魔族と言われて嫌がるどころか、喜んでいるようにも見えた。もし魔王の言う通り、リリスが魔族なら魔力が強いことにも納得がいく。魔族は人間と比べると魔力が強いからだ。侵略されれば人間の王国は間違いなく滅ぶ。
リリスのことも気になるが、それよりルシファーが魔王にならない方法を現魔王と話し合う必要がある。ルシファーが魔王になれば恐らく原作のように、ルシファーは二年後に人間の王国を滅ぼしに来る。ルシファーが魔王になるのは一ヶ月後だが、攻略対象達が十八歳になって結婚できる年齢になるまでルシファーは王国を襲いに来ない。魔王になってから暫くは闇属性の魔力に飲まれないよう抗っていたのだろう。なんにせよ、ルシファーが魔王にならないことが全ての鍵を握っている。
魔王の言葉について考えていると、またレヴィアが部屋に入って来てお茶と菓子を置いていった。お腹が少し膨れるとこれまでの疲れがどっと襲ってきた。考えることにも疲れを覚え始め目を閉じると、ソファーの上で私は知らぬ間に眠りに落ちていた。
気配がしてハッとすると、大きな黒い翼が目に映った。慌ててガバッと上半身を起こす。
侍女の格好をした三体の魔族に取り囲まれている。
「……っ!」
「お目覚めですか?」
声がした方を見ると、レヴィアが私の前に立っていた。ずるりと体の上にかけられていたブランケットが床に落ちる。
「あっ!」
そうだ、私は魔王城にいるのだった。いつの間にか眠っていたようだと気がついた。
「すみません、いつの間にか眠っていたようです」
「ご安心下さい。他の皆様も同じように休まれていました。晩餐会の前にご準備をと思い、侍女たちを連れて参りました」
レヴィアは侍女の一人をチラッと見ると、嬉々とした目で魔族の女性が口を開いた。
「次期魔王陛下のお妃様にお仕えできる日が来るなんて、まるで夢のようです! お化粧とドレスの準備をいたします!」
「え! わざわざ、ありがとうございます……!?」
まだ寝ぼけていた私は次期魔王陛下のお妃様という言葉を否定する間もなく、侍女たちに体を掴まれた!
「さあ、私たちに身を任せて……!」
「えっ、ちょっと……! アーッ!」
私の悲鳴と同時に部屋からレヴィアが出て行った後は物凄い勢いで侍女たちに磨き上げられた……。その数時間後、私は美しいドレスに身を包んだ状態で応接間に通された。
「ルシファー! そ、その格好は……!」
目に最初に飛び込んできたのはルシファーだ。丁度席に座ろうとした所で私が入って来たので、ルシファーが私をエスコートしに入口に近づいて来た。
ルシファーは原作でも見た魔王になった時に着ていた漆黒の騎士服に身を包んでいる。王国の黒い騎士服とは異なり、襟が立てられたデザインが魔王っぽさをより際立てている。
「あれよあれよ言う間に着せられてしまって……」
「まるで魔王様だわ……似合いすぎ」
「クレアまでそんなことを!」
喜んでいるのか、嫌そうな顔をしているのか、ルシファーは微妙な顔をする。その表情が面白くて、私の口からふふふと笑みが零れた。
「クレアもその……ああ、俺の目が潰れる……」
「え?」
「いや、なんでもない。クレアは何を着ても美しいな」
「ありがとう、ルシファー」
魔王は私とルシファーの会話をニコニコと聞いている。話が一区切りついたところで魔王が言った。
「全員揃ったな」
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