ルシファーは言いたい1
俺は今緊張している。今日こそは伝えるのだ。もうすぐクレアが王宮にお茶会に来る。クレアが十六歳になり、二週間が過ぎた。先週のお茶会ではクレアが可愛い過ぎて気を取られ、言いそびれてしまったので、この一週間、俺は毎日毎日セリフを考えていた。
「ところでクレアが十六歳になって二週間が過ぎたな。だから結婚しよう」
これでは駄目だ。二週間あったらもっと早く言えよと幻滅されるのが目に見えている。俺がヘタレでごめん、クレア……。そうだ、ならば……。
「美しい私の愛する……ぐはっ!」
恥ずかしい! あ、あ、愛するなんて! いや、事実だ。事実だが、こんな直接口にするなんて……! やり直しだ、やり直し!
「クレア以外に将来王妃となるにふさわしい人材はいない。俺の人生の伴侶となることを許そう」
うわ、なんだこの厚かましいセリフは! むしろ俺が土下座してでも頼み込みたいぐらいなのに、おこがましいにも程がある!
そうだ、ここは相手にメリットを匂わせ、ノーと言えなくさせる作戦はどうだ?
「俺と結婚すればこの世界の半分をって俺は魔王か! 駄目だ、思いつかない! クレアが俺に惚れるぐらいのセリフが思いつかない! そうだよな、だって俺なんて闇属性だし、根暗だし、人一倍努力しないと役に立たないし……俺なんかにクレアほどの存在がふさわしい筈が……」
「今日も一段とネガティブっすね、殿下」
「ベルゼ! いつの間に!」
執務机で頭を抱えていたせいでベルゼの存在に気がつかなかった俺はベルゼの声を聞いて慌てて顔を上げた。
「クレア様がいらっしゃったので呼びに来たんですよ。さあ、応接間に行きましょう」
「本当か! い、い、今から行く!」
ベルゼは俺を微笑ましそうに見つめると、クスクスと笑い声を挙げた。
「大丈夫ですよ、殿下。クレア様は殿下をお慕いされています」
そうだと良いな、と思いながら俺はクレアの元に急いだ。
・・・
・・
・
あれこれセリフを考えていたのに、クレアを見た瞬間に全てが吹き飛んだ。クレアに会えたことが嬉しくて、クレアの名前を呼ぶのが精一杯だ。
「クレア」
「ルシファー! 会いたかったわ」
「……っ!」
クレアの俺に会いたかった、と言う言葉がじんわりと心に染み込む。生きてきて良かった。その言葉だけで今まで血反吐に塗れ、血豆を手に作って王子教育に耐えてきた甲斐がある。俺は少しでもクレアに相応しい相手に成長できただろうか?
「伝えたいことがあるの」
顔を赤らめているクレアを見て俺は動揺した。
伝えたいことだと!? まさか手を繋いだだけで俺たちの子どもが……!? いや、そんな馬鹿な。あり得ない。
落ち着け、俺。でもクレアと俺の子どもか……クレアに似た女の子が欲しいな。クレアに負担がなければ男の子もいたら良いな。おっと、その前に結婚だった。ああ、早く結婚したい。今すぐ結婚したい。
「けっこ……ゲフンゲフン。伝えたいこととは、なんだ?」
危なかった、今結婚しようと言いかけた。こういうのはムードが大事なのだ。ベルゼから耳が腐るほど聞いている。甘い雰囲気が漂っていると成功率が高いらしいと聞いたので、早速茶菓子を用意させよう。
俺はベルゼに目配せして、茶菓子を用意させに行かせた。甘い茶菓子があれば成功するというなら俺でも出来る。これでクレアと結婚式を挙げられるのは確定だ。
ベルゼがニヤニヤしているのは気に食わないが、察してくれた事だろう。そうだぞ、ベルゼ。とびっきり甘い茶菓子を持ってこい!
「あのね、私……」
モジモジしているクレアの様子は俺の腕でクレアを包み込んでしまいたくなるほどに愛らしかった。コクリと喉を上下させ、言葉を発するのを戸惑っているその首元に手を触れたい。そっと開いた唇に指を這わせ、俺の行為に驚いて目を見開くクレアに俺だけを移したい。
あああああ! 手が疼く! 鎮まれ、俺の両手よ!
俺は両腕を落ち着かせるために腕を組んで、余計な動きをしないように体に密着させた。そこでハッとした。
もしかしてクレアからプロポーズの言葉を言おうとしてくれているのか? それは流石に男の俺から言わせてくれ! その前に、まだきちんと気持ちも伝えられていない。今だ、言うなら今だ。言うんだ、俺! あ、茶菓子がまだだ! でも今しかない!
「クレアのことがす、」
「私、魔族の国に行こうと思うの」
「え?」
俺は勘違いしていたようだ。ちょっと先走ってしまった。やはり茶菓子は必須アイテムだったようだ。こら、ベルゼ! 茶菓子はまだか!
「え? ルシファー今、なんて言ったの?」
「いや、なんでもない。魔族の国に行きたいのか?」
「ちょっと気になることがあって……魔王様に直接伺いたいことがあるの」
俺は腕を組んだまま、うーんと唸り声を上げた。クレアが魔族の国に行く為の護衛要請は騎士団には来ていない。そんな話があれば将来騎士団を率いる俺の耳に入らないわけがない。となると、極秘任務の可能性がある。
クレアが魔族の国に行くのは別に構わない。モレッティ公爵の事だ。クレアに護衛はつけるだろう。護衛する者も予想がつく。恐らく賢者パウロと騎士ダニエルは必ず連れて行かせるだろう。残りの可能性として、俺は第一王子だから同行させるべきではないと考えているだろうから、アダムとリリスもついでにって所か。
このメンバーであればクレアは安全に魔王の元へ行ける事だろう。しかしそこ俺がいないと言うのは気に入らない。クレアが初めてこの国を出るのに、俺だってクレアの初旅行に同行……違った、任務をこなしたい! 極秘……ふふふ、良い響きだな。俺だってクレアと秘密の任務をこなしたい!
「俺も行く」
俺は頭で考えていた言葉がするりと口から溢れた。
「えっ! 駄目よ、ルシファー。あなたは第一王子、将来の国王よ。魔族は普段大人しいとは言え、何が起こるか分からないわ」
「それを言ったらクレアだって将来の王妃だ。俺の……婚約者だ。俺にクレアを守らせてくれ」
「……っ!」
よし、言いたいことの半分は言えたぞ! あとは明確に愛してると伝えて結婚しようと言うだけだ。
俺の守らせてくれという言葉に反応したのか、クレアは両手で頬を包み、顔を赤らめさせ、潤んだ瞳で俺を見た。ああ、もうこの顔は反則だ。抑えが効かなくなる。俺の寝室に連れ込んでも良いですか? もうこの封印されし両手を解き放っても良いですか?
「クレア、国王陛下とモレッティ公爵には俺から説明する。闇属性魔法はあらゆる攻撃を闇に飲み込む。魔族も闇属性を扱う事が分かっている。闇属性を良く知る俺がいた方がいいだろう」
「ルシファーと一緒に行けるなら嬉しいけど……でも、行くのは一週間後なの」
クレアは心配そうに眉を潜めた。
そんな顔をしないでくれ。困らせたいんじゃないんだ。
俺はテーブルに前のめりになり、テーブルに置かれたクレアの手を取った。それだけで心が温かくなる。可愛いクレア、頑張り屋さんのクレア、大好きなクレア、俺のクレア。
「すぐに用意する。片時も離れたくないんだ……クレア。聞いてくれ、俺はクレアを、」と言いかけたその時、応接間の扉が開かれた。
バタン
「お茶請けをお持ちいたしました〜……あれ? まだお取り込み中でした? 結構時間かけたんですけどねえ〜」
ベ・ル・ゼ!
そのテヘッとベロを出すのはやめろ。殺意が湧く。お前には後で俺の執務を半分と言わず、全てくれてやろう。なんなら俺が不在中の執務も全部任せよう。
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