ヒロインとの遭遇 2
二十時頃にもう一話投稿します!
事情を知らない者が聞くと『アダムが私と仲良くなりたそうだったから呼び捨てにしている』と勘違いされかねない発言をリリスがしたのを聞いたアダムは、
「いや、だから僕は王子だけど、厳密には第二王子だから……。呼び捨てにしろって意味じゃなかったんだけどなあ。困ったなあ……」と眉を顰めた。
アダムが困るのも当然だ。王子様と言ったら今はルシファーのことを指す。アダムはあくまで第二王子なので間違いではないが、リリスが平民だろうとなかろうと、ルシファーを王子と認めていないと捉えかねられないような発言は危険だ。複数の王子がいる場合、『王子様』と役割で呼ぶのではなく、単純にアダム殿下とお呼びするのが無難だろう。
ダニエルは困った顔をしたアダムを見て、ふむ、と状況を確認する素振りを見せると、私にも質問を投げかけた。
「クレアもこのリリスって子と初対面だよな?」
「うん。知らない子だよ。魔力検査の日に光属性を発現させれいるのは見たけど、でもそれだけ」
ダニエルは私の言葉でようやく状況を理解したようだった。ダニエルは何かを言うか言うまいか考えているようで、私にチラリと目配せしてきた。よく分からないが、許可を求めている気がしたので、私は小さくコクリと頷きを返す。するとダニエルがリリスに話を切り出した。
「クレアは公爵令嬢だ。お前は平民だろう? お前はクレアをモレッティ公爵令嬢と呼ぶのが適切だ。気を付けろ」
(今のダニエルのセリフ、凄く護衛騎士っぽかった! ダニエル、カッコイイ!)
私の代わりにダニエルが状況を察して注意してくれたことに、私はホッと胸を撫で下ろした。アダムを見ると、アダムもダニエルを突然現れた救世主、とでも言うかのような目で見つめている。勿論、私もだ。
同じ平民同士なら注意しても問題は起こらないもんね! さっすがダニエル! 最高よ! もっとリリスにこの世界の常識を教えてあげて、騎士様、将来の辺境伯様! 原作では平民とか関係ない、実力だとか言ってたけど、ここでは私の味方をしてくれるのね、と目が少し潤みかけた。
ああ、そうか。ここは教会の教育施設じゃなく王宮だからか! ダニエルも私に気を使ってくれているんだなあ、とぼんやり考えていると、意を決したようにアダムも援護し始めた。
「そうだよ、リリス嬢。あなたは平民だから、流石にクレアが良いと言っていないのに名前で呼ぶのは失礼に当たるよ……それにクレアが話しかけてもいないのに、リリス嬢が先に話しかけてはいけないよ。気をつけようね」
アダムまでリリスに注意するのは意外だった。私が関わった事で、攻略対象達の教養レベルも上がっているのかもしれない! 注意の仕方が優しいのはアダムらしいな、と微笑ましくなる。
リリスと親しくなりたくはないが、このままだとリリスが一方的に二人から責められているようにも見える。私が二人に言えと言ったと取られるのも嫌だったので、ここはフォローも入れるのも仕方ない。
「えっと、リリス嬢? 平民には敬称に馴染みがないから仕方がないのよね? えっと、私の事はモレッティ公爵令嬢とでも呼んでもらえるかしら?」
他人から呼べと言われて呼ぶのは癪だろうと思い、私から改めて呼び方を申し出た。こう呼ぶと楽だよ、安心して呼んでご覧、と私としては誘導したつもりだ。それなのに、リリスはうさぎのような赤い目にピンクの髪を振り乱して泣き叫んだ。
「モレッティ公爵令嬢だなんて……他の人はクレアと呼び捨てなのに? 私が平民だから仲間外れにするんですね。ひどいですう!」
「えっ、ちがっ! そうじゃないわ!」
私はグスグス涙を流すリリスの前で呆然とした。これでは私が虐めたと思われてしまう。何も変なことは言っていないのに……モレッティ公爵令嬢と呼んでね、と言っただけでなぜこんなに泣かれなければいけないのだ。しかも仲間外れって……いつの間にリリスは私の仲間になったのかな?
(はい、死んだー。私これで死にましたー。悪役令嬢ルートに入りましたー。強制力、怖すぎぃ!)
もうこのまま気を失っても良いかな、と白目をむきそうになっていると、ルシファーが通りかかった。
「何事だ」
「ルシファー!」
私はルシファーに姿を見て喜びの声を挙げた。私の声に少し驚いた表情をルシファーは見せたが、すぐにニコリと微笑み返してくれた。最近は良く笑顔が見られるようになってきた。順調に病みルートから離れていると見ても良いだろう。見るたびに笑顔が素敵になっていくルシファーは流石は将来イケメン確定の魔王様……じゃなくて、将来の国王だと思わずにはいられない。
ヒロインが攻略対象といると、そこには必ず悪役令嬢がいる。同時に、原作ではいつもルシファーもその場面を通りかかる。好感度を下げるか維持させるだけの無駄なイベント発生源と思っていたことが私にもありました!
ルシファーは悪役令嬢の味方とまではいかずとも、いつも中立な立場だった。クレアが悪い時はクレアを咎め、ヒロインに問題があれば、そう指摘する人だ。皆に平等で公平かつ中立な立場のルシファー様のお通りだ!
ルシファーが現れたことに安心した私はホッとした顔で言った。
「ルシファー、それがちょっと困ったことになって、」
するとリリスはルシファーに会えて嬉しくなってしまい、私が話しの途中であることに気がつかなかったのだろう。さっきまで泣いていたはずのリリスはコロリと表情を変え、私が話の途中であるにも関わらず割り込んで来た。
「アダムのお兄さんのルシファー様ですね! 初めまして、リリスです! アダムに呼ばれて──」
(……ん?)
原作でもリリスは自分の存在をアピールするため、何度かクレアの話に割り込むシーンがあった。しかし、実在する世界において、この行為は論外だ。実際に貴族からみたら、リリスは無礼で空気の読めない子の扱いになる。人が話している最中に割り込むのはどの世界でだって失礼だ。この世界を二年経験しただけでも、リリスの無教養さが分かってきた。
こんなに教養がない子の魔力値がなぜ高いのか理解が出来ない。血筋によって魔力を保有できる値の上限が高くなるものの、魔力は魔力操作以外にも教養などを含めた様々な観点から伸びるものなので、自分が働きかけなければ上昇しないはずだ。
最初からリリスの魔力値がある程度高いことはゲームだったから納得できた。しかし自分が実際にこの世界にいると違和感を覚える。ヒロインだから、の言葉で片付けられないぐらいの魔力を現時点で既にヒロインは持っている。扱い方はまだまだ未熟だが。
同じく魔力値の高いルシファーの名誉のためにも言っておくが、実はルシファーはとても頑張り屋さんだ。代々魔力値の高い者同士による交配が進んだ王家の血筋のお陰で人より多く魔力を保有できる可能性があるというだけで、それでも努力なしには得られない。ルシファーの魔力値は血の滲むような努力で出来ているのを私は原作で見て知っている。
誰にも見られないところでこっそり剣の素振りをしていたり、魔導塔に自分の意思で出入りして幼い頃から知識を蓄えているシーンが原作ではさらっと流れていた。ルシファーはいつだって次期国王として相応しくあろうと、頭のてっぺんから足の爪先まで気を張っている。
そしてリリス本人はちゃんと挨拶ができる私偉いと思っているのだろうが、本来ならルシファーは平民がこうして口を聞けるような人ではない。ルシファーはリリスには答えず、その代わりにリリスを連れて来たアダムに話しかけた。
「アダム、お前の連れか?」
「申し訳ございません! この子は平民で、まだ礼儀がなっておらず……!」
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