ダニエルの回想2
オレが黙り込んでいると、クレアは大きなため息をついてオレを諭すように言った。
「確かにダニエルなら倒せるでしょう。でも一人で行ったら、中級の魔物に瀕死状態にされて帰ってくることになるわよ。そしたら数週間後にある魔力検査で包帯だらけの姿を晒すことになるのよ? そんな人は皆に怖がられて絶対、友だちなんか出来ないんだからね!」
「だから、悩んでなんかないって、」とオレがクレアにバレて焦っていることを隠そうと、クレアの言葉を否定した時。
「だから、一緒に行こう」とクレアが俺の目を真っ直ぐ見て言った。
「は……? 今、なんて……?」
クレアが言った言葉が信じられなくて、オレはポカンと口を開けて聞き返した。
「私と一緒に魔物の討伐に行こうって言ったのよ。私ね、まだ魔力測定もしていないのに、治癒魔法を使えるようになったの。絶対役に立つと思うよ」
「バカ! クレアを連れて行ける訳がないだろう! 魔物は危ないんだぞ!?」
「守られているだけの存在になるつもりはないわ。私の実力をダニエルだって知っているでしょう?」
「でも魔物はっ!」
「ダニエルは怖いの?」
クレアの言葉でハッとしたオレは口を継ぐんだ。そう、オレは怖いのだ。自分で志願しておきながら、後になってやっぱり行かなくて良かったと少し安心したのも事実だ。でも、それじゃあ駄目なんだ。自分で行動しないと、いつまで経っても追いつけない。クレアの隣には立てない……。
「ああ、怖い。傷だらけで帰ってくる人はいっぱいいる。騎士に戻れなくて宿舎を出て行く人だっている。オレは騎士になりたい。でも、怖いんだ」
腕の肉を一部食いちぎられて包帯を巻いている人、目が抉れて亡くなった人、腹が裂かれて倒れた人を見る事なんてざらにある。オレは魔物の討伐から帰ってきた騎士達を思い出して身震いした。
オレが黙り込んでいると、クレアはオレの背中にそっと手を当て上下に撫でながら優しい声をかけてくれた。
「ダニエルは私が知っている中で一番頼もしくて強い騎士様よ」
「クレア……」
こんな弱気なオレでもクレアは信じてくれている。親父にもまだ早いとしこたま怒鳴られて弱っていた心がクレアの言葉でほんのり温かくなる。
クレアはオレが涙目になっているのを見て、ふわっと天使のような笑顔を浮かべると、オレの頬に手を当て、凛とした声で言った。
「ダニエル、魔物を切る自信がないならあなたは私を守る剣になりなさい。私がダニエルを魔物から守ってあげる」
その時のクレアの顔は同い年とは思えないほど大人のような表情をしていて、突然胸が締め付けられるような感覚に陥った。
──クレアはなんて強いんだろうか。
そう思った時にはオレの頭は熱が出た時のように熱くなっていた。オレはクレアを意識していないフリをずっとしていた。でもこの時にオレは自分がクレアを好きな子として見ていることに嫌でも気がつかされた。
「おい、逆だろ! オレが……クレアを魔物から守ってやる」
「そうこなくっちゃ!」
オレはこの時心の中でクレアに誓いを立てた。
オレがクレアを守る騎士になる。オレがクレアの剣となり盾となるのだ。
それならオレにもできる。そしたらクレアの側にずっといられる。そう思ったらいてもたってもいられなくて、次の瞬間には、
「一緒に行こう、魔物の討伐に」と言っていた。
クレアは自分の胸をドンと叩くと、
「私に良いアイディアがあるわ。この件は私に任せておいて。また後で連絡する」と自信満々に言った。クレアの動きは早かった。その次の日、早速朝礼で騎士団長がオレに向かって言った。
「街の外れにある森でクレア・モレッティ公爵令嬢はお探し物がある。なんでも夜にしか咲かない上、子どもだけでないと咲かない花があるらしい。騎士見習いダニエル、お前の初任務だ。お前にモレッティ公爵令嬢の護衛任務を命ずる」
その場では夜中の護衛に向けて今日は夕方まで休んでいろと言われ、オレは夜が来るのを待った。
・・・
・・
・
「よくモレッティ公爵がこんな時間の外出を許してくれたな」
「まあね、将来の護衛騎士が徹底して私を守れるかの訓練だから!」
「で? 夜にしか咲かない上、子どもだけでないと咲かない花だっけ?」
「そんなのあるわけないじゃない。だからさっさと魔物を探すわよ」
「そんなこったろうと思った……」と言いながらもオレは誰かに聞かれていないだろうかと周りを見渡した。
どうせ聞かれていたとしても、騎士団長はクレアの考えることなんて想像出来ただろうし、気にすることもないだろう。でも警戒は怠らないようにする。
今オレたちの半径2キロ以内に大人は一人もいない。いてはならない。その範囲は魔物の鼻が効くからだ。他の騎士達は2キロ離れた先でオレたちを追跡してくれている。周りを大人達で守られているとしても、すぐには助けに来られない距離だ。自分の身は自分で守らなければならない。
「それで、将来の護衛騎士が徹底してクレアを守れるかの訓練だと言ったから許可してもらえたのか?」
「ううん、お父様にそう説明したら、最初はダメって言われたの。だからお父様なんて大っ嫌いって言って泣いてみたの。そしたら今度はお父様がポロポロ泣き出しちゃって、二人でごめんなさいって言い合ってえんえん泣いてたら、ダニエルが絶対私を守るならって許可してくれたわ!」
「意味が分かんねえ状況だな……それよりハードル上がってんじゃねえか。絶対傷一つ負うなよ……」
「そういうならちゃんと守ってよね!」
それだけで許可されるわけがない。きっとクレアの治癒魔法はそれほどまでに威力があるのだろう。最悪、治癒魔法で対処できると思ったから許可してくれた事が予想される。それだけクレアは凄いんだ。
オレも早くクレアに追いつかなければ。そう決心するようにクレアの方を見ると、その時クレアの腕に虫刺されがあることに気がついた。
「おい、虫に刺されてるじゃないか」
「あら、本当ね。これぐらい何でもないわ」
そんなわけあるか! クレアの白く綺麗な肌に虫が…… 虫、オレ、殺す。
この後に襲いかかってきた魔物をオレはこの時の勢いで一撃で倒した。
クレアはその時、
「あれ? 重傷を負わないなんて……いや、でも良かったのか? じゃあ、ヒロインとダニエルは検査の日に出会わないの?」
と何やらうろたえていたが、その後に現れたもう一匹の魔物を光の矢でしっかり倒していた。
治癒魔法が出来ると言っていたので、クレアが特化しているのは水か光属性のどちらかだと思っていたが、クレアは光属性との相性が良いのかもしれない。確かどちらも治癒魔法など防御系に特化していて、光の矢のような攻撃魔法は使えないと聞いている。きっとクレアなりに工夫しているのだろう、とそれを見て流石はクレアだと思うと同時に、オレはよりクレアに追いつきたいという気持ちが強くなるのを感じた。
・・・
・・
・
こうして中級の魔物を倒したオレは晴れて騎士の称号を得ることとなった。オレはさっき司祭が言った魔力値を噛みしめるように、満足げに呟いた。
「火属性、魔力値1,500」
これでクレアを守ると自信持って言える。このまま順調に行けば、オレだって将来は賢者パウロの6,000にだって届くかもしれない。今の時点でこの魔力値なら決して恥ずかしい数字ではない。次に会った時にはちゃんとオレから言葉にしよう。
将来、クレアをオレに守らせてくれって。
あれ、これだとプロポーズみたいだぞ? ルシファー殿下に知られたらまずいセリフだ! なんだ、えっと! 他に何か言い方があるはず! あ、そうだ!
オレが十六歳になったら、お前の護衛騎士にしてくれ。
そう、これだ!
……うん、これでいい。
クレアはルシファー殿下の婚約者で公爵令嬢だ。きっとクレアは十六歳になったら二歳年上のルシファー殿下と結婚して王妃になる。クレアはオレの手が届くような相手ではない。だからせめて、クレアが王妃になる時は、オレがその隣で騎士としてクレアを危険から守っていたい。
でもいつかオレが今は大人しい魔王を討伐でもしたら辺境伯にしてもらえる可能性はある。そしたらオレでもクレアに手が届く。騎士になることしか興味がなかったオレは、この時初めて貴族が羨ましいと思った。
オレが辺境伯になれたら、その時はルシファー殿下からクレアを……。
大層な夢だな。いや、それぐらいはやらねばクレアは手に入らない。それまでこの気持ちには蓋をしておこう。魔王の討伐なんて今はまだ夢のまた夢だ。それよりもっと間近な功績をこれから沢山積み上げよう。
オレはルシファー殿下の腕を取って帰って行くクレアの背中を見て、目の前にいると言うのに、ふと思った。
次はいつ訓練に来るのだろう。早くクレアに会いたい。
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