時を超えて運命を
私とモレッティ公爵はルシファーと彼の従者を玄関まで見送った。終始ご機嫌な私だけがこの場で浮いている自覚はある。従者もニコニコしてはいたが、どこか余所余所しい。ルシファーの表情から感情は読めなかったが、聞いていたはずの面倒なお嬢様じゃなくて良かった、というところか。モレッティ公爵はなんだかお疲れの様子だった。
その後モレッティ公爵は仕事が山積みだと言って執務室に向かった。私も部屋に戻ることになり、その間ルシファーと会う直前の事を思い出していた。
そう、私はついさっきまで薄汚れた部屋で乙女ゲームをしていたはずだった。
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何回ゲームを最初からプレイし直しても、必ず魔王に殺されるルートに入ってしまう。このゲームにはデッドエンドしかないのか!
「糞ゲーだな!」
据え置き型ゲーム機から提供されているこのゲームのタイトルは『時を超えて運命を』。時を超えてというのは、ヒロインがこの国の教育課程の開始年齢、十歳から六年間の時をかけて攻略対象と交流を深めるからだと言われている。運命というのは、ヒロインが運命の相手を探すということから来ているようだ。
結婚適齢期である十六歳を迎えると、平民のヒロインは強い魔力を持っていることから魔王討伐のメンバーに抜擢される。同じ討伐メンバーである攻略対象とヒロインは、中世ヨーロッパ風の世界で冒険を繰り広げながら愛を育む。魔王を討伐すると、その二年後にヒロインと攻略対象が結ばれるという乙女ゲームだ。
ヒロインが攻略対象として選んだ相手は必ず悪役令嬢のクレアが気に入る相手となる。ヒロインが誰と結ばれてもそれまで妨害してきたクレアは、僻地へ追放される。不安因子が消えた所で攻略対象とヒロインは晴れて結婚式を挙げるのだ。
お相手は王子、騎士、賢者の三人から選ぶことができるのだが……。問題は魔王を無事討伐してクレアが追放された後、攻略対象達が結婚できる年齢になった幸せの絶頂期に起こる。
晴れて主人公であるヒロインが王子と結婚しても、魔王討伐の功績で辺境伯に出世した騎士と結婚しても、賢者と結婚しても、誰ともエンディングを迎えない修道女エンドを迎えようとも構わず全て、デッドエンドになるのだ!
いずれも結婚式を教会で上げている又は教会で祈りを捧げている最中に、突然教会が壊滅したはずの魔王軍に侵略されて、何も出来ずにデッドエンドとなる。
更にこの後、なぜか討伐済みの魔王が現れ、問答無用で世界を滅ぼす。爆発音が鳴り響く中、魔王は何かを呟くが、聞こえない。魔王が血の海で一人佇む中、魔王の美しい顔がアップになって『DEAD END』と画面に現れる。完全にバグっているとしか思えない。
「何で結婚式挙げている最中に、倒したはずの魔王が現れるのよ!」
私はコントローラーを床に叩きつけた。これまでは攻略サイト無しで進めてきたが、もう我慢がならない。スマホでゲームの名前を検索し、いくつも攻略サイトを読み飛ばす。
どうやら皆はハッピーエンドで終えられているようだ。結婚まで辿り着いただとか、討伐完了というコメントばかりで府に落ちない。私の買ったゲームソフトだけが不良品なのか?
サイトの製品情報と自分の持っているパッケージと見比べると、デザインが少し異なる。表紙にベータ版と書かれているのも怪しい。気になって匿名掲示板に書き込んでみる。
フォームを入力して送信ボタンを押す。
暫く様子を見てみると、ベータ版とは正式版をリリースする前の段階でユーザーに試用してもらうためのサンプルであるとの返答があった。
出荷時に間違えて紛れ込んだ可能性があり、ベータ版には不具合が残っているのが一般的だ、と別の人も回答をくれている。結婚式の最中に魔王軍が押し寄せてきたことは一度もないという追い討ち付きだ。
「この作品のベータ版は一度もユーザーに出回っておらず、制作者だけが持っている物だからむしろレア……とかどうでも良いよ!」
私はなんとかしてこのベータ版でもハッピーエンドを迎えられないだろうかと試行錯誤を繰り返した。もはや攻略サイトは当てにならない。ここからは己との戦いだ!
「どこで選択肢を間違えたのかな? それとも見落としがある……?」
もしかしたらヒロインがヒロインらしく振る舞う事に問題があるのかもれない!
「よーし、じゃあ次はヒロインが悪役令嬢のように振る舞うってのはどうかな!?」
私はカチカチとコントローラーのボタンを押して選択肢を進めた。
「あれ? え……ちょっと、騎士様。ヒロインの『体が魔族に乗っ取られたかもしれない』じゃないわよ! こら、待ちなさい! 教会に連れて行かないで! いや、駄目……出た、魔王軍。これ、また殺されるパターンじゃない!」
修道女になってもいないのに、教会に連れ込まれ、今までのエンディングと同様に魔王軍が教会を包囲し始めた。
「もう、やだこのゲーム!」
苛立ちが限界に達し、魔王が出現した所で私はゲームのリセットボタンを強く連打した。
「あれ? リセットボタンが機能しない。なんで?」
ゲーム機のリセットボタンを押す度に画面がチカチカと点滅し、停止状態となる。渾身の一撃! と心の中で呟きつつ、私は思いっきりリセットボタンを指が折れんばかりに叩きつけた!
「やだ、眩しい! 前が見えない! 何これ、爆発でもするの!?」
突然点滅していた画面から、部屋に溢れ返るほどの強い光が放たれる! ゲーム機からはプシューと音を立てて煙が上がる音がしている!
「やだ、これ大丈夫!? 爆発したらちゃんとマンションの火災保険適用される!?」
独身で結婚する予定は未定の社畜歴十年目、三十二歳。死因は乙女ゲームをプレイ中によるゲーム機の爆発、などというニュースのナレーションが頭によぎる。
マンションの一室にはポテチの空き袋とビールの缶がいくつも散らばっており、ゴミに引火したことが原因か──
そんな死因は嫌だ!
そう思った瞬間、バンッと何かが弾ける爆発音がして、視界が暗転した。
すると暗闇の中でぼんやりとさっきまで画面に映し出されていた悲しげな魔王の顔が見える。黒髪に黒い騎士服の魔王がこちらを見ている。金色の目だけが暗闇で爛々と光っている。
(私なら貴方にそんな顔はさせないのに……)
ここまで来るとゲーム依存症に近いな、と私は自分に呆れた。もはや幻覚まで見えてきた私は、実は爆発に巻き込まれて既に吹き飛んだ後なのかもしれない。
そう考えていると、魔王の口が動くのが見えた。
──時間よ、巻き戻ってくれ。
「え、なに? 時間?」
私は思わず聞き返してしまった。ゲームでは一切聞き取れなかった魔王の艶やかな低い声の幻聴まで聞こえ出したのだ。そろそろ本当に私の頭はヤバイかもしれない。
魔王の悲しげな美しい顔を見て呆けたように私は暗闇で突っ立っていると、目の前が真っ白になった。
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