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魔導塔の研究室2

「確かに、魔力が失われるとその日に行使できる魔法の回数はその分減りますからねえ」

「はい、それが問題なんです」


 ゲームでもヒロインが魔力を高める訓練をしていた。魔法を行使できる回数が減るということは、トレーニングできる回数が減るということだ。つまり、初期の頃は中々魔力が増えないのだ。中盤から行使できる回数が増えていくので、魔力の伸びも大きくなっていく。


 パウロが考案したのは、火属性の魔法なら最初は小さな炎を出して、次はもう少し大きな炎にして、最後はその炎をドラゴンの形にして見たり、動物の形にしてみたりするというものだ。しかしそもそもの魔力が少ない子どもには難しすぎた。その難しい魔力操作ができるほどの魔力を持っている子どもは攻略対象達とヒロインぐらいだ。普通の子どもには無理なのだ。パウロが考案した魔力増加方法はほぼ大人向けといっても過言ではない。


「興味深いですね。続けてください」


 パウロはまた私の髪をくるくると自分の指に巻きつけ出した。もしかしてパウロは考え事をする時、髪をいじる癖でもあるのだろうか。それはご自分の髪でやっていただきたいものだ。気にしていても仕方がないので、私は話を続けた。


「魔力は体内に宿っているものでしょう? わざわざ魔法として放出しなくても、体内で出来る魔力操作を行えば良いのです。例えば、火属性だけを感じるように感覚を研ぎ澄ませてみるとか、水属性だけを体に巡回させてみるとか、方法は色々あると思うんです。どう思いますか?」


「ふむ、確かにその方法でも魔力操作は可能です。でも、それが効果的であると立証するには、私が試すだけでなく、理論的に説明する為に数式に当て嵌めて……なるほど。クレア様、あなたの考えは素晴らしいかもしれません」


 パウロは私の髪の毛をパッと離すと、後ろから私の顔を横から覗き込んで来た。お互いの頬がくっつきそうなぐらいの距離でパウロが私を見つめてくる。私は自分の顔がかあっと熱くなるのが分かった。顔が赤くなるのを見られたくなくて、私は勢いよくパウロとは反対側に首を捻った。するとずっと後ろに立っていたパウロはクスクス笑いながら、私の斜め前に移動して来た。


「クレア様、これからが楽しみですね」


 パウロはおもむろに私の両頬を両手で優しく包み込むと、おでことおでこをくっつけた。


(ち、近い!)


 恥ずかしくなった私は思わずパウロの両頬に自分の手を添え、パウロを押して離れた。二人でお互いのほっぺたを触れ合っている状態になり、その様子がおかしくて、笑いが零れる。パウロも私に釣られて口元をほころばせた。なんだかふわふわしたような気持ちになり、くすぐったくて話を逸らすように話題を探した。


「えーっと……それで、私はここで本を読んでも良いんですか?」

「もちろんです。魔導塔に来たら必ずここにお立ち寄りください」

「じゃあ、本を借りたらなるべくここに来るようにします」


 早速本を読もうと、テーブルに置かれた本に手を伸ばそうとした時、パウロが

「あっ」と声を上げた。私はなんだろう、と思いパウロに声をかける。


「どうしました?」

「もう一つ試したいな、と思いまして」と言うと、パウロが私に前から抱きついてきた。驚いて言葉を失っていると、パウロはさらにこう言った。


「ついでに私の魔力も注いでみましょう」

「え!? パウロ様!? 待って、その行為は……!」不味いのでは、と言い切る前にパウロが私に魔力を流し込んできた。羞恥で私は一瞬にして思考停止に陥る。それはこの世界で心を許した相手に信頼や愛情を伝える行為とされているのでは、と放心状態の頭で記憶を手繰り寄せる。


 そう私が自覚した瞬間、パウロの魔力が私の中を駆け巡るの感じた。


「んんっ!」


 初めて他人の魔力を感じたことで、体に衝撃が走る! 

 体の奥底から魔力とはまた違う何かが溢れる。光がパアッと私の体を包み込み、部屋中に光が溢れ返る。パウロの魔力が私の体に馴染むと光も同時に治まった。


 魔力操作を行ったときのような疲労感がある。ハァハァと肩で息をする私に向かって嬉しそうにパウロははしゃいだ声を上げた。


「素晴らしい力だ! 見ましたか、今の眩い光を! 魔力とは比べものにもならないほどの力強さだ! やはり私の考えは正しかった! 今のであなたの中の力が高まる気配がありました。感じませんでしたか!?」


 感じてません! と言いそうになって違う、違うと思い直す。相手は八歳、わたしも八歳!


「ハァハァ……確かに、ふぅ。魔力のようなものを感じます。それに、絶対量も心なしか増えた気が……?」

「それはこれから検証していきましょう。ああ、楽しみだ! そうだ、忘れるところだった」


 興奮した様子のパウロがポンッと私の胸元に付けられたバッジに触れる。ポワンと私のバッジが光ると、じんわり温かくなった。


「私の魔力をバッジに注がないとこの部屋は愚か、このフロアにも入れません。これであなたは私の研究室にいつでも出入りできるようになりました。クレア様なら連絡も必要ありません。いつでも来ていいですよ」

「ありがとうございます、パウロ様」


 私は心の中でガッツポーズを決めた。目の前にパウロがいなければ大声で『よっしゃー!』と色気ないセリフを叫んでいたことだろう。ヒロインは好感度MAX近くにならないとパウロの研究室へ入室許可がもらえない。どこで私はパウロの好感度を上げたのだろう、という疑問が湧く。


 さっきの魔力を渡された行為で好感度が上がったんじゃないかって? あれは恥ずかし過ぎるので記憶から抹消済みだ。あれはなかったことにしてある。


 何はともあれ、最強の先生をゲットすることに成功した。安心したら疲れたな、と思っていると、私のお腹が返事をした。


グ〜〜


「あっ……」


 私はお腹を押さえて顔を赤らめた。パウロはクスクスと笑い声を上げると、

「お昼を過ぎてしまっていましたね。今から一緒に食堂に行きましょう。私が食べさせてあげます」と悪戯っ子のような表情を浮かべた。


(お昼も無事ゲット!最高か!)


「パウロ様! これからよろしくお願いいたします!」


 お腹に手を当てながら、私は元気良く答えた。しかし、奢ってくれるという意味で言ったかと思ったパウロの言葉は、文字通りパウロが私にアーンをして食べさせるということだった……恥ずかしい。拒否しようとしたら、パウロが文献には口移しの方が良いって書いてあったな、なんてボソッと呟いたので、急いで口に含んだのは言うまでもない。勿論奢ってもらった。


 パウロは食事や身の回りのことに無頓着だ。ヒロインがパウロのルートを選んだ場合、パウロを甲斐甲斐しく世話をしたり、一緒に勉強をしたりすると好感度が上がる。なのに、なぜ私が世話をされているのだろう……実は世話をされるのも、するのも好きだった? まあ、私が下手に手を出さない限り、パウロのルートに入ることはないのでこのままでも問題ないだろう。


 パウロに庇護欲を抱かせると守りたいと思われて惚れられてしまう。そうなった場合、結婚式の前に媚薬を盛られて、婚前交渉を結ぶことになるので気をつけなければならない。これ以上仲が深まらないようにしなければ。


 それさえ気を付けていれば、パウロほど頼もしい教育係はいない。私は普段一般教養は家で教育係から教わり、魔法についてはパウロに教わることになった。これで私の勉強面は安心だ。


 熱心に魔導塔に通っていたら、モレッティ公爵が息抜きは必要だと言って、王宮でルシファーとお茶会をすることが後から許可された。追放されてしまった場合に備えて動けるように、とは勿論言わなかったが、騎士団にいる友達になったダニエルの仕事も手伝ってみたい、と試しに言ってみたら、意外にもすんなりとそれも許可が下りた。


 私が以前引き籠った際にモレッティ公爵に言った、色々な人と関わって見解を広めたい、というのを覚えてくれていたようだ。隙を見てダニエルに剣術も教えて貰って、身体強化も図ろうと考える。


 この日から私は、王宮と騎士団と魔導塔を行き来する日々を過ごした。

もしも「続きが気になる」「面白かった」などと思って頂けましたら、

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どうぞよろしくお願いします!

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