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第84話 翌日の問題

若干ですが、文字数多めです。


こちらは本日1話目です。

次話は18時の更新となります。

「……知らない天井だ…」



目が覚めると、所々白いモヤがかかった青い天井が見えた。

うん、ただの空だなコレ。


気を取り直して身体を起こしてみる。

どうやらまだ日が上って間もない時間帯のようだ。

ここは…防壁の矢櫓の上か…

周囲は矢の残骸らしきもので散らかっている。


昨夜のはやはり夢ではなかったのか…



「お目覚めでしょうか?」


背後から声が聞こえたので、振り返るとレインがいた。

いつも綺麗な格好しているのに、今日は所々汚れたり破れたりしている。


「ん?どうしてここに?」


なんとなく分かってはいるが確認する。


「昨夜の戦闘後、ご主人様は気絶するかのようにお眠りになりました。幸い心身ともにご無事なようでしたが、不用意に移動させることは憚られました。そのため、万が一を考慮して傍にて不寝番を努めさせていただいた次第です。」


ああ、そうか。

今まで遭遇したことのなかった戦闘規模だったものな。

言ってみれば、昨日のが()()()()()()ということになるのか。

慣れないことしたせいで、想像以上に疲労感とストレスが溜まったのだろう。


それにしても寝ないで身辺警護させてしまうとはな。

年頃の女性相手に大変申し訳ないことをさせてしまったな。

よくよく見ると、目元に隈らしきものが薄らとだが見て取れた。


とりあえず家に戻るか…

レインにもちゃんと睡眠を取ってもらわなくてはな。




「それでどうだったんだ?」


結局入浴したり仮眠したりして、まともに活動できるようになったのは、昼過ぎであった。


それで、今はまた拠点メンバーで集まり、話し合いを開くところだ。


「案の定だが、通常のゴブリンの残骸は確認できなかった。おそらく通常のゴブリンは全て《眷属召喚》によるものだろう。ただ弓矢に関しては現物を回収できたため、本物であると認識している。」


俺が休んでいる間、OXさんはじめ騎士達が昨夜の戦後処理ということで残骸を回収していたそうだ。

全て回収するとなると、その量は膨大になるため、不必要な要素は除外して集めたとのこと。

矢とか何本あるか数える気も起きないよ。


「弓矢に関して、バンダーの見解はあるか?」


「……前回見た矢同様に、児戯に等しい作りだな。継戦を全く考慮していない。先ほどファナに試してもらったが、どんなに気をつけても20射が限界だった。」


「ほんとこの弓使いにくいのよ〜。そもそも持ちにくいし、持ち手の所なんてささくれだらけなのよ。信じられないレベルね〜。」


なるほど、マスプロダクションによる製品と言ったところか。


弓矢のクオリティーから察するに、全て手作業によるものだと考えられる。

弓矢の出来にムラがあるため、オートメーションではない。

そもそもこの世界にオートメーションによる生産形態はあるのか?


まあ、あのゴブリン達は手作業だけで、既にマスプロダクションの域に達しているということだ。

一体どれだけの人員がいるのか…

技術レベルが上がった日にはお手上げだぞ。


「話の腰を折って悪かったな。先を続けてくれ。」


「……ふん、貴様の放った謎の攻撃で文字通り壊滅した敵本陣を捜索した所、一部欠けているものの、大将と思われる全身緑色人間の死骸を回収することができた。今持ってこさせる…カイン!ルース!持って来い!」


「ねえねえあの一撃はどうやったの?見てたけど、全く魔力を感じなかったし、不思議だったのよね〜。」


聞かれると思っていたことだ。

剣と魔法の異世界なら、不思議でしょうがないだろう。

あれは言わば科学の一撃だからな。


《素材分解》で空気を分解し、残した気体は酸素。

それを急速に冷凍させ、融点を下回らせ個体の状態に持っていった。

それを敵陣にて、外部との接触を絶っていた《分解結界》を解き、内部に仕込んだ火の玉と反応させ大規模爆発を引き起こしてのだ。


酸素の膨張率は数百倍にも及び、なおかつ可燃性が非常に高い。

瞬く間に燃え広がるため、近くにいたら回避しようがない。

さらに魔力由来ではないため、この世界では知識として広まっておらず、対処されにくい。

万々歳な兵器だったのだ。


まあネタバレすると、化学を一から教えないといけなくなりそうなので黙秘させてもらおう。


「まあとっておきの技さ。奥の手だから、人には教えられないよ。」


「ぶ〜!いけず〜。」



のらりくらり酸素爆弾の追及を躱していると、先ほどOXさんの指示を受けたカインとルースが戻ってきた。

2人が両手で持った木の板に何かが乗っている。


おえ、吐き気が上ってきた。

いきなりグロテスクなものを見せるのはやめて欲しい。


OXさん、一部とか言ってたけど嘘だろう。

身体の表面は最早黒一色と焼け焦げているし、手足も膝肘より下は残っていない。

腐臭だろうか、若干変な臭いもする。

最悪な気分ってやつだ。


「……完全な状態ではないとはいえ、やはり通常のゴブリン種ではないな。」


「身体つきなんてヒューマン種となんら変わらないわね。ねえ、ウェス?」

「うん、イース。肌の色ぐらいしか違いないぐらいね。」


「手足に関しても、昨夜見た限りだと変わりませんね。やはり新種の線で間違いなさそうですね。」


「ん〜、《分析眼》でもダメね〜。不明ってなってるのよ、新種で間違いないわね。」


よく皆その死骸を凝視できるな。

これが文化的相違か…

ジェネレーションギャップならぬ、アナザーワールドギャップってやつか。


まあ俺もきちんと分析しないとな。

ということで《情報分解》展開!



名前:ゴ=トール

種族:ハイゴブリン

立場:[敵(死亡)]ゴブリニア西方面副将軍

能力:《繁殖》

   《眷属召喚:ロード以外ゴブリン種》

   《統率者:ロード以下ゴブリン種》

   《領域感知》Lv6《身体操作》Lv3

   《雷魔法》Lv6


《繁殖》

  自身と違う種族との間に子を成しても、その子

  は必ず自身と同じ系統の種族になるスキル。

  必ずしも全く同じ種族になるとは限らず、下位

  存在もしくは上位存在が生まれることもある。



はい、厄介ごと確定!

これ報告したら大騒ぎになるぞ。


所謂ネームドモンスターと呼ばれる名前持ち。

種族はゴブリン種そのものの上位存在であろうハイゴブリン。

おまけにゴブリンの集団の正体と今後起きることが予想できそうな肩書き。


正直見なかったことにしてしまいたいな。


しかし、そうは問屋が卸さないのが《分析眼》持ちのファナであった。

どうやら先ほどから俺の動向を伺っていたらしい。


「あら〜、ジョー君ったら何か分かったようね〜。」


《分解結界》で鑑定系のスキルも弾いてるはずなんだけどな…


「ふふふ〜、顔に出てたわよ。面倒臭いことになりそうってね。」


そんなハッキリと分かるものなのか?

果たして俺が顔に出やすいのか、ファナの読心術が凄いのか。

まあバレたなら正直話すしかないな。



俺は《情報分解》で知り得た情報を皆に話した。


すると皆の顔色がだんだんと変わっていった。

先ほどあれだけにこやかだったファナですら、真剣な顔に変じている。


「……ハイゴブリンの詳細は調べられるのか?」


確認するかのように、バンダーが俺に問いて来た。


そう言えば、種族詳細までは見てなかったな。

即座に《情報分解》を使う。



[ハイゴブリン]

  突然変異種であり、ゴブリン種そのものの上位

  存在。

  《眷属召喚》により、ロード以下のゴブリン種

  を眷属として召喚できる。

  外見は限りなくヒューマン種に近く、肉体動作

  もそれに酷似している。

  知能が発達しており、発声法さえ理解できれば

  ヒトとの会話も可能である。



俺はまた知り得た情報を皆に共有する。

新情報というよりも、想定している事態が裏付けされることになった。

結果として、より暗澹とした雰囲気に包まれた。


「……今までになく発展したゴブリンの集落がこの樹海内にあるのか…」


誰となしに出た言葉が全てだった。


この樹海内にゴブリンによる別コロニーが存在していることは、ほぼ確実だ。

その別コロニーの住民と遭遇し、挙げ句の果てに殺害したのだ。

相手側に過失はあるものの、身内を失うことになったら話は別だ。

相手はこちら側を敵視、もしくは良い目では見ないだろう。


十中八九衝突は避けられないだろう。

しかし、相手はまだまだ大量の人員、物資があると考えられる。

こちらの不利は明らかだし、少なくない犠牲が出ることも十分に考えられる。


「……あの、ここを放棄するというのは…」


静かに話を聞くだけに留めていた姫様が初めて口を開いた。

すると、俺と目線があったからか慌てて目を逸らした。

同時に口も押さえた。

たぶん実際に言う気はなかったのだろう、若干だが顔が青くなっている。


合理的な判断をするなら、その選択肢が正解だろう。


少なからず逃走を許してしまったのだ。

その中には《眷属召喚》以外の存在もいたという可能性も十分に存在する。

ここの場所が割れているという状況は容易に想像ができる。

そして、再び侵攻されるやもしれない。


この場所を放棄した後の行き先も然程困ることもないだろう。

王家の魔道具を使えば、樹海外へ転移することも可能だ。

樹海内でも、鉱物を発掘するために使っている洞窟もある。


そう、合理的に考えれば困ることはないのだ。



……しかし…



「……放棄したくないんだよな…」



思わず口にしてしまった言葉。

これが俺の本心だ。


この世界に来て、手塩にかけて作った拠点だ。

試行錯誤四苦八苦したことも少なくない。

それにアイネと生活するために作り上げたのだ。

たかがゴブリンごとき譲れるほど安い場所じゃない。

愛着が湧いてしょうがないのだ。



ああそうか。

俺の覚悟、いやすべきことは既に決まっていたのだ。



「逃げたい人がいたら逃げてくれて構わない。勿論王家の魔道具を使うだけの魔石は融通する。その点は姫様に頼むことになるが申し訳ない…皆の命はそれぞれ自分自身のものだ。無理に引き留めるつもりはない、と断言する。」


俺は一息そう言い切る。

考えてみれば、この状況は俺がここに拠点を作ることを決めた時点で起きることが決まっていたイベントだ。

フラグは既に建っていたのだ。

それに他の皆を巻き込む必要はない。


一瞬で訪れる沈黙。

ただその沈黙は決して


そんな中で言葉を発したのは、最も長く一緒にいるメイドだった。


「わたくしはご主人様とこれからも共にありたいと思います。」


無理しなくてもいいぞ、と言おうと思った。

しかし、その言葉は決して口から出ることはなかった。


なぜなら、言い切ったレインの顔は実に綺麗だったからだ。

覚悟を決めたと言わんばかりの、凛とした顔であった。

この覚悟を否定することなどどうしてできようか?


「はいは〜い、アタシも残るよ。だって、来たばかりだもん。それにここ以外に当てもないしね〜。ねえアナタ〜?」


「……そうだな。オレもここに留まる。」


続いて、拠点に来て間もないファナとバンダーも在留宣言する。

理由だけ聞けば、最も即物的で合理的な判断の末の結論のように思える。


しかし、ファナは他の皆が気づかれないように俺にウインクしたのは見逃さなかった。

バンダーも仕方ねえなという慈愛に満ちた目をしていた。

心優しい2人だな。


そして、最後は自然ととある1人の男に視線が集まった。

言ってみれば、派閥のリーダーだ。

彼の選択には大きな影響と重たい責任が存在しているのだ。


「……そんな辛気臭い顔せんでもいい。勿論、ここで逃げることが姫様を守ることにとって最善かもしれん。しかし、ただ1人の騎士として、救って貰った恩を蔑ろにはできん。」


「別に恩だのなんだの考慮しなくていいんだぞ?」


「分かっておる。こればかりは儂の騎士として、そして漢としての意地だ。だから、皆に強制するつもりはない。逃げてくれ。儂は恩に報いたら、なんとしても追いつこう。」


そう言ってOXさんは頭を下げた。

どれぐらい自身の中で葛藤があったのか、その心中を察することはできない。


そんなOXさんに向けて、言葉を発したのはまさかの姫様であった。


「馬鹿にしないでください。私だって前線で戦えはしないものの、自身を守ることぐらいはできます。それにここで逃されては、いつまで経っても変わりません。いつまでもいつまでも逃げて隠れ続けるだけでしょう。そんな人生まっぴらゴメンです!私はここで皆と勝ち取りたいのです。勝利を、そして自由を。あまり貢献できていませんが、私はここでの生活が今まで以上に楽しいのです。自分が生きているという実感が湧くのです。この地を失うことは私は絶対に嫌なのです!」


「ひ、姫様…」


「「「「…………」」」」


珍しくワガママだな、俺はそう感じた。

今までにないほどの圧を持った。

しかし、とても優しいワガママだ。


普段はどちらかというと一歩引いたような謙虚な姿勢を取る姫さま。

そんな姫様の感情が爆発したようなワガママ。

いやはや、叶えてあげたくなってしまうな。




その後、他のメンバーもこの地に残ることを決めた。

理由はそれぞれであったが、誰かに強要されたものはなく、自分の意思で選んでいた。


ならやっていける。

意思の伴った行動には力がある。

ゴブリンごときに平穏は崩されない。



「ならば、勝ち取るぞ!この生活を!」


「「「「オー!」」」」

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勇者?聖者?いいえ、時代は『○者』です!
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