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やがて、春を知る  作者: マスターオブあんかけうどん


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番外編:王子様にはなれない

カーティスは常々、セリアとアリスは周りが言うほど似ていないと思っていた。


確かに見た目はほとんど同じだし、声も似ている。

彼女たちの実の両親でさえ間違えることがあるので、やはり基本的にはほぼ同じなのだろう。


それでも、やはりカーティスにとっては全然違う。


食べ物の好みが違う。

セリアは素朴なものが好きで、アリスは甘いものが好き。


趣味も違う。

セリアは読書が好きで、アリスは街歩きが好き。


笑い方が違う。

セリアはクスクスと抱き込むように笑うが、アリスはカラカラと全身で笑う。


カーティスはどちらも可愛いと思うし、どちらも愛しいと思う。

だが、それはいずれ家族になるからこそ抱いている気持ちであって、恋ではない。

幼少期から共に育ってきた相手に、今さら胸をときめかせるのは難しい。


白状すれば、生家の若いメイドの方が気になっていたことすらあった。

誓って言うが、実際に何か行動に移したことはない。

ただの少年特有の年上への憧れである。


だからこそ、アリスとの婚約が決まった時のセリアの狼狽ぶりには心底驚いた。

カーティスからすれば、本気で「アリスなのか、意外だな」という感想しかなかったのだ。


あの時彼女が見せた、どちらでも構わなかったのかという絶望。


カーティスはその場でそれは違うとは言えなかった。

それこそが彼女を傷つける嘘になってしまうから。


だがそれも、彼に言わせればある種セリアへの信頼の証だった。

彼女は自分が与えた誠意をきちんと誠意で返してくれる人だった。

双方の努力で関係を構築できる女性が生涯の連れ合いになる可能性を喜んですらいたのだ。


だからこそ、カーティスはセリアには嘘だけはつけなかった。


そして見送りも許されないまま、セリアはブレウィンバラへと嫁いでいった。

アリスはメソメソと泣き続け、カーティスは少々先行きが不安になった。

こっちだって泣きたい。

それでも、自分たちには自分たちの役割がある。

カーティスは決して後悔だけはしない。してはいけないのだ。


とはいえ、時が過ぎればアリスなりに前を向いたので胸を撫で下ろした。

しばらくお茶の度にクッキーを取られた甲斐があるというものである。


季節が変わる頃には、義父から実はセリアは熱烈に惚れ込まれての輿入れだったことを聞かされていた。

それはもう、言葉にし難いほどに情熱的な求婚だったらしい。


だからこそ、初めて会ったランドルフには驚いた。

背が高いので大抵の人を見下ろすようにしているし、薄い色の瞳でじっと見てくるのが正直恐い。

声は低いし話すのは遅いし、そもそも口数も少ないし表情も少ない。

はっきり言って、フォガンタムには多くない性質だろう。

この人が熱烈な求婚をしたなどと、誰が信じるだろうか。


だが、しばらく席を共にすればすぐに納得した。


彼は常にセリアを視界に入れていて、あまりに彼女の一挙手一投足を気にしているので堪えきれずに笑ってしまった。

とにかくセリアの世話を焼きたくて仕方ないのがあからさますぎる。


それでいて姉妹を二人きりにするために自分を連れ出すなど、やたらと気が回る。

ひたすらに婚約者のための行動を惜しまないのだなと感心した。


これだけ愛されているなら万事うまくいくだろうと思えば、セリアはその愛情をまともに受け止めていなかった。


セリアは本来、自分に向けられた感情を理解できないほど鈍くはないはずだ。

自分が見てきた彼女を思えば、これは自分がつけた傷が膿んでいるのだとすぐに分かった。

だからこそ、すぐさまランドルフに助言をした。


セリアは昔から自分が我慢したり、譲ったりすれば良いと思うところがあること。

放っておくと悪い方に考えた挙句に一人で結論を出してしまうこと。

だから言葉は惜しまない方がいいこと。

そして、自分はそれができなかったこと。


どうやら彼は助言を受け入れたらしく、ブレウィンバラへ戻るころにはセリアの表情は晴れ晴れとしていた。

これでやっと、彼女の結婚を心から喜べる。


彼女の隣に立っていたかもしれない自分とはお別れして、改めて、今隣に立つアリスを見る。

鼻歌まで歌って、今日はご機嫌らしい。


アリスは基本的に我慢をしない。

おかしいと思ったらおかしいと言うし、嫌だったら全身で嫌だと言う。

嬉しかったら笑うし、悲しかったら泣く。


朝食はフレンチトーストだったし、工房に行くのに声を掛けたらご覧の通りだ。

あまりに分かりやすい。


こうなったから言えることだが、アリスの方が自分には合っていたのかもしれない。

俺には女の子は複雑すぎる。特にセリアみたいな子は。

カーティスはなんだか笑えてきた。


「アリス」

「なに?」


そっと、その小さな耳に唇を寄せる。


「好きだよ」


ランドルフに当てられたのか、ちょっと言ってみたくなった。


まぁどうせ、何言ってるの?と言って笑うだろう。

セリアだってあれだけランドルフに求愛されても平然と受け止めていたのだし。


そう思っていたのに。


アリスは顔を真っ赤にして固まった。

何も言葉が出てこないのか、目を潤ませたうえに唇まで震わせている。


そんなアリスを見て、カーティスまで顔が熱くなってきた。

なんだよそれ、初めて見たぞ。


義兄の真似は二度としないと心に誓う。

どうやらカーティスは王子様にはなれないし、アリスはお姫様にはなれないらしい。


番外編までお付き合いいただき、ありがとうございました。

ひとまず、彼らの話はここで一区切りにしたいと思います。

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