10話 無職の職業勇者
岩壁に囲まれた場所。まだ辺りは暗く迷路のようにも思える場所に転移した。ゴツゴツした地面や壁が月の光に当たり薄気味悪さを醸し出す。
どこか重い空気が漂う。
「……やっちったな。悲しませただろうか……」
目の前にぐんぐん押してくるような迫力ある巨大な蛇の石像があった。
「……」
息を呑んで眺める。俺はふと隣を見るとカナリデがいた。
「え!?」
カナリデ……!? なんで、パーティは確かに解除してあるのに……!
俺は視界の画面をよく見る。すると奴隷契約と書かれていた文字を見つける。
そうかこれか……! あの異様に手早かったやつ、確かに奴隷契約もした。これも転移の条件に入っちゃうのか……。
「良かった从ニと一緒に来れて」
「ごめん、奴隷商の所からそうだった。モールモータさんのせいにする訳じゃないけど言われるがまま流れに任せて君を巻き込んだ。申し訳ない」
俺は頭を下げて謝った。
「むうー!!」とカナリデが言ってるのと同じくして地震が起こる。
「あれ? 私の怒りの揺れじゃないんですか?」
「うわっ!」
目の前にあったでかい蛇の石像が割れ動き出す。
《ビッズ・スネークフィング》Lv50
HP■■■■■ MP■■■■■
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牙の多いい大蛇のモンスターが現れた。
Lv50の所が赤文字で表示されている。
「な……レベル50!!?? これは高すぎるだろ!!」
「危ないですよ!」
大蛇は真正面から突撃してきた。それをカナリデが剣で止めようとするも引きずられ転がされる。
「くっ……」
立ち上がると大蛇は尻尾を構えた。
「バァンッ!!!」
尻尾での強い叩きでカナリデは岩壁に吹き飛ばされた。
「あっ!!」
「……ッ!」
これは敵が強すぎる。レベル差もありすぎる。
マップを見ると通路があり逃げれる事が分かる。
これならカナリデを逃がせれる!!
でも相手が追ってくるよな……そう言えば麻痺状態にできる魔法があるとか言ってなかったか?
「あいつを麻痺にする魔法使えるか!?」
離れていたカナリデに大声で伝える。
「はい! 使えます!」
「頼むやってくれ!!」
カナリデは剣を自分の前に立てる。
「スルパタ」
そう唱えると剣が電気をバチバチと帯び出して、その剣を大蛇へと振った。電気の斬撃が大蛇に当たり体に絡みつく。
「掛かりました!」
逃がせれる……。
小学生の頃に言ってしまったこと……。
『ご飯を食べる時は先ずはご飯に箸を立てるんだって!』
『あいつとは関わるな』
『ほらろくな事を言わない。俺らを惑わすな!』
『もうあなたの話聞きたくない!!』
こんなどうしようもなくダメダメな俺でも……。
「確かに誰かの役に立ちたい。俺も役に立って死ねるなら最高だ! 後は俺が時間を稼ぐ。今のうちに君は後ろの道が外に繋がってるからそこから逃げて!!」
何故か、カナリデは後ろの道でなく俺の方へ走ってきた。
「いやこっちじゃなくて……」
「バチン!」
「……」
カナリデは俺の頬を両手で叩いて挟んだ。
「死のうとしないでください……!! あなたはどうして死のうとするんですか!?」
「……ぇ…………」
それは……。
……自分が悪いことをした。
……ミスをした。
……嫌がらせを受けた。
……嫌がらせをしてしまったことを後になって気づいた…………。
『从ニってほんとバカだよな』
『俺等に近づくなっ!』
『ごめん从ニくんだけは生理的に無理』
……もう、人生が……生きてるのが……全てが…………辛かった。
死にたい……死にたいよ……死にたい…………死んでしまいたい……。
何故か、それは頬に感じる痛みからか、目から熱い涙が流れていた。掠れた声で俺は言う。
「……もう……辛いことを経験したくないから……だから、死にたいんだ……!!」
「なら……これからは私もその辛い経験を一緒に受けますから、一緒に苦しみますから、お願いですから……死なないでください!!!!」
俺の心は跳ね上がる。
肩を捕まれ掠れた声で言われる。
「本当に……お願いですから……死なないでください! 死なないでください!! 死なないでくださいぃ!!!!」
俺は涙が止まらなかった。
「何度だって、言いますよ」
俺は……死にたかった……死にたかったのに……。
涙を流し苦しむ俺の姿を見てカナリデはぎゅぅと抱きしめる。
そして優しく言った。
「死なないでください私が側にいます」
……。
「どうして君がそこまで言ってくれるの?」
……カナリデは俺の目を見てしっかり話す。
「あなたが世界を救う、無職の職業勇者だからです」
「…………」
…………俺は目を見開き息を呑んだ。
「いいですか?」
「…………わかった」
俺は鼻をすする。カナリデはニコっと笑顔を返す。
「あと君って呼ばないでください……お願いですから」
「……分かったカナリデって呼ぶよ」
「はい……! じゃあパーティ登録してください」
「今!?」
「はい」
俺は涙を拭い、画面から登録申請を送った。そして、カナリデはそのちょっと小さな指で承認ボタンを押した。
画面にパーティと出ている名前が増えた。それが妙に心を温かくした。
「よろしくお願いします从ニ!」
「うん……よろしく」
はにかんで言う俺に笑顔を見せるカナリデのその表情が、暗かった夜を太陽で照らし出し世界を輝かせているようにも見えた。




