魔法の修行
第七話 魔法の修行
白界の城、刺客四人衆にあてがわれた部屋。
白界の刺客の一人、ファンガが消えた事により、四人衆、もとい三人衆は集まって話しをしていた。
「よもや、ファンガが負けるとはな」
巨漢は言った。
「読めてたことじゃねぇか。集団で当たらなきゃまともに戦えねぇザコだったからな!」
ガロンは、仲間の死を嘲笑った。
「……ガロンも人の事言えない。この中で一番弱いんだから」
紅一点は辛辣な物言いをする。
「あぁ? なめてんのかテメェ!?」
「よせ、ガロン。レイティスも喧嘩を売るようなことは言うな」
「……バードラス、あなたも私より弱い」
巨漢、バードラスは、紅一点のレイティスになめた口を聞かされる。
「レイティス、確かにお前の方が高い魔力と、ずば抜けた身体能力を持っている。だがひけらかすのはよくない」
バードラスは、怒るのではなく、諭した。
「ひけらかしてなんかいない……ただ事実を言っただけ……」
レイティスの言葉は、ガロンの逆鱗に触れた。
「調子にのってんじゃねぇぞこのアマ! ぶっ殺してやる!」
ガロンは、完全に頭に血が上っていた。ガロンはサーベルを取り出し、レイティスへと斬りかかった。
対するレイティスは、一切の構えもとらない。
サーベルがレイティスに迫った瞬間、レイティスは囁いた。
「……曲がれ」
ガロンのサーベルが、レイティスに触れるか否かのところで、不気味な光が起こった。すると、ガロンのサーベルは、あらぬ方向へ曲がってしまった。
「お、オレ様の剣が!?」
「……ボクに触れたものは、どんなものでも曲がる……ボクが触れても同じこと。今度はキミ自身をねじ曲げてあげようか……?」
レイティスは、その気になれば、相手の首をねじ曲げて殺すことができた。攻撃にも防御にも使える障壁が、レイティスの武器であった。
武器をねじ曲げられては、ガロンにこれ以上の戦いは不可能であった。
「その様子では、その剣はもう使えぬだろう。ほらこれを使え、ガロン」
バードラスは、新しいサーベルを魔法で出現させ、ガロンに渡した。
ガロンはサーベルを手にすると、構えをとった。
「ありがてぇぜバードラス! こいつで今度こそクソアマをぶっ殺す!」
「仲間割れに使うのなら返してもらうぞ。俺の錬金術の力も無限ではないのでな」
ガロンは、構えを解く。
「冗談だよ、バードラス。けど、誰かをぶっ殺さねぇと気が済まねぇ! 次の『キー・トリガーパーソン』を倒す役、オレのリベンジでいいよなバードラス?」
「言っても聞かぬであろう、お前は。せいぜい殺されんようにな。『キー・トリガーパーソン』も力をつけているであろうからな」
「決まりだな! レイティス、テメェへのリベンジはその後だ!」
ガロンは、嬉々として部屋を出ていった。
「レイティス」
「……何?」
「ガロンの復讐、上手く行くと思うか?」
「『キー・トリガーパーソン』はどうだか分からないけど、裏切りの姫、彼女は力をつけている……ガロン如きに遅れを取るとは思えない……」
「やはりお前もそう思うか?」
「けど大丈夫。ガロンがしくじっても、ボクがいる……バードラスには出番はない」
「失礼、四人衆の詰所はこちらですかな?」
刺客の間に、突如現れる者がいた。
「これはこれは、兵士長殿。このような場所にどのようなご用ですかな?」
現れたのは白界の兵士長、メンデルであった。
突然の闖入者に早速敵意を向けるレイティスを下げさせ、バードラスが対応する。
「率直に言おう、あなた方の仲間に加えていただきたい!」
「兵士長殿が仲間に? そんなことをしたら、兵団を追われるのでは?」
「私は先日、裏切りの姫の命を狙って地界に向かいもうした。大勢の白界の住人と兵隊を連れて。しかし、そのほとんどが討たれてしまった」
メンデルは、多数の白界の住人と兵隊を犠牲にしてしまい、部下の兵隊の信用を失ってしまった。
兵の士気にも大きく影響し、『キー・トリガーパーソン』を倒すなど夢のまた夢となってしまった。
そこで、メンデルは兵士長の座を追われることになっても、裏切りの姫と『キー・トリガーパーソン』を倒すため、刺客の仲間になることを望んでいた。
「兵士長、いやメンデル殿の言い分は分かりもうした。地界での失敗で、兵はもう使えなくなった。故に我ら刺客の力を頼ったのですな?」
「全くもってその通りでございます! 何とぞ私を刺客の仲間に入れていただきたい!」
メンデルは、跪いて頭を下げた。
「メンデル殿、顔を上げて貰えぬかな?」
メンデルは言われたようにする。
「あなたの願い、聞き入れましょうぞ。ただし、我ら刺客は敵と直接対決するのが主体だ。経験はありますかな?」
「敵との戦いは、兵卒の時からしています。兵士長になった後にも、前線に出てきました」
「バードラス……」
下げられていたレイティスが、話しに入ってきた。
「……本気でこんなの入れるつもりなの? ガロンはおろか、ファンガよりも弱いよ?」
レイティスは、蔑んだ目をメンデルに向けていた。
「レイティス、『キー・トリガーパーソン』討つための頭数は多いに越したことはない。そう言うな」
バードラスは嗜める。
「……付き合いきれない。ボクは寝る。夕食ができたら起こして……」
レイティスは、くあ、とあくびをし、自室へと引っ込んでいった。
「失礼、メンデル殿。我ら刺客は、一癖も二癖もある者の集まりでしてな。兵隊とは勝手が違う事はご容赦願いたい」
「仲間に迎え入れてくれるだけで十分ですとも。どうかよろしくお願い申す」
白界の刺客に、仲間が加わるのだった。
※※※
とても短い三学期は、学年末試験と共に終わりを告げた。
刺客との戦いは、白界の忍、ファンガとの戦い以来行われることなく、白界の住人も兵隊も現れることはなかった。
おかげで雪斗たちは、気兼ねなく試験の準備をすることができた。
雪斗と勇二、静香は、試験結果を見に来ていた。
「うおお! マジかよ!?」
「どうしたの勇二くん、大声出して?」
「六十位代に入れたんだよ、このオレが!」
「よかったね、勇二くん」
「ヴァイスの指導のおかげだな! 雪斗お前は何位だよ?」
「僕は……」
雪斗は、実は自信があった。
付きっきりでヴァイスの指導を受け勉強した結果、勉強のコツのようなものを見つけていた。
いつもは真ん中から数えていたが、今日は上から数えてみた。そして見つけた。三十位内に自分の名前を見つけた。
「おお、やったじゃねぇか雪斗!」
勇二に言われるまでもなく、雪斗は嬉しかった。
「うん、やったよ! そういえば、静香さんは?」
「私は……」
静香は、少し気恥ずかしそうに上位部を指差した。
静香の順位は、なんと五位であった。
「すげぇじゃねぇか、静香!」
勇二は、まるで自分の事のように喜んでいた。
「……ヴァイスのおかげだよ」
三人の勉強を見たのはヴァイスだった。学校の教師よりもとても分かりやすい指導をしてくれたので、三人は全員得点アップすることができた。
「もういっそのこと予備校講師になっちまえよ、ヴァイス! 大儲けできるぜ!」
「ちょっとちょっと、ヴァイスは普通の人には見えないでしょ」
雪斗は、突っ込みを入れた。
「みんな成績アップして勉強も一段落したことだし、これからは魔法の訓練をしましょう?」
ヴァイスが提案した。
「おう、そうだな。あれ以来白界から仕掛けて来るものはないが、備えておくのは大切だよな!」
勇二は賛成した。
「あれから白界の襲来がないけれど、刺客が負けたから諦めたって事はないかな?」
雪斗は、ヴァイスに訊ねた。
「それはあり得ないわね。敗れたと言ってもまだ一人目、しかも刺客四人衆最弱だった可能性が高い。裏にもっと強い者が控えているかもしれない、いえ、確実に控えているわね」
「やっぱり、戦いは避けられないんだね……」
雪斗は、項垂れた。
「なあ、一つ気になってた事があるんだが、いいか?」
「何かしら、勇二?」
「オレは新しい魔法を覚えることはできねぇのか?」
「残念だけど、全く新しい魔法を覚えることはできないわ。あなたたち特別な『トリガーパーソン』は『トリガーパーソン』の突然変異的なもの。魔法は一つに限られるの」
でも、とヴァイスは続ける。
「使い方を変えることならできるわ。例えば、勇二の魔法、『ライトニング』だけど、あなたは魔法を前方に放って使っているけど、空から落とす使い方もできるのよ」
「へぇ、そうだったのか。でも静香は二つ持っているよな?」
「静香は、防御と回復の二つで一セットって考えられるわね。静香の魔法もそれだけだけど、勇二と同じように使い方を工夫することができるわ」
「私も、同じ?」
「ねえ、話の途中で申し訳ないけど、場所変えない? 下校時間になるよ?」
雪斗が差し挟んだ。
成績表を見ていた生徒たちは、いつの間にか撤退し、廊下には帰り支度をした生徒がいた。
「いっけね、雪斗の言う通りだ! 話の続きは鋼川でしようぜ? 訓練もすぐにできるようにな!」
雪斗たちは、その場から解散した。
※※※
雪斗たちは、鋼川河川敷にやって来た。
二月も終わりに近づき、寒さもいくぶん和らいできた。
「これから春が来て、夏が来るけど、ヴァイスは大丈夫なの?」
ふと、春めく風を感じ、雪斗は訊ねた。
「暑さは魔法で跳ね返せるから大丈夫よ。でも、冬以外の季節を感じるなんて、何千万年ぶりかしらね……」
ヴァイスは、春の陽気を楽しみにしていた。
「今からじゃ考えられねぇけど、夏はすごいぜ? 魔法で跳ね返すっつっても間に合わねぇかも知れねぇぜ? ヴァイス、雪の化身みたいなものだから、夏には溶けちまうかもな」
「溶けたりはしないわ。私は白界の住人、寒さに強いだけのただの人よ」
白界の住人は、物語りにある雪男、雪女の集まりではない。
暑さに弱いのは確かだが、それによって雪のように溶けてしまう事はなかった。
「さて、本題に入りましょう。魔法の訓練するわよ。今日はみんなの魔力を増強するわ」
「魔力の増強? 実戦的訓練はしねぇのか?」
勇二は訊ねた。
「魔力が大きくないと、魔法の工夫をすることができないわ。特にも、勇二のような一つの魔法で様々な使い方をしようとするならね」
「なるほど、土台がしっかりしてなけりゃあ、どんな建物も建てられないって事だな」
「あら、勇二にしては物分かりがいいのね」
「おいおい、オレにしてはって、どういう意味だよ?」
「気に障ったかしら? ごめんなさい。それで、その訓練方法だけど、メディテイション、つまり瞑想よ」
「瞑想?」
雪斗たちは皆違った反応をした。
「そうよ、瞑想よ。精神力を鍛えるにはうってつけの訓練方法よ」
ヴァイスは、太鼓判を押す。
「まあ、その、瞑想をするのは分かったけど、ここでやるのか? まだじっとしてるのは寒いぞ……」
どこか別のところでやるのならいいが、河川敷は体感温度が低かった。
「夢中の境地に達すれば、寒さになんてすぐに慣れるわ。こうも言うでしょう? 『心頭滅却すれば火もまた涼し』って」
「……それって瞑想と関係あるのか? だいたい、火が涼しくなっても氷は暑くならないだろ?」
勇二は、ただただ口を尖らせるだけだった。
「勇二は更に強くなりたいのでしょう? だったら私の言うようになさい。大丈夫、悪いようにはならないから」
「そんなことを言っても、なあ、雪斗……って雪斗!?」
雪斗は、河原の草の上であぐらをかき、目を閉じて瞑想していた。その姿は、修験者のものだった。
「し、静香はこんなんやらないよな……って静香まで!?」
静香は草の上に正座していた。
「勇二くん、これすごいよ? 本当に魔力が研ぎ澄まされているのを感じるよ」
「勇二くんもやってみるといいわ。やってみればバカにできない効果をえられるわよ」
最早この場で瞑想をしていないのは、勇二だけだった。
「だー! 分かったよ! やりゃあいいんだろやりゃあ!」
ついに観念し、勇二も草の上であぐらをかいた。
春めく風が吹いているとはいっても、やはり寒く、地面も冷たい。勇二は、精神集中しようにもなかなか上手く行かない。
それでも勇二は、なんとか集中しようと努力する。
寒さに耐えつつひたすら集中しようとしていると、勇二の体に変化が生じた。
ぼう、っとごく僅かであるが、光を発し始めたのだ。
「おわっ! オレの体が光って!?」
集中力が途切れた瞬間、光は消え去ってしまった。
「うるさいよ、勇二くん」
「雪斗、お前!?」
雪斗は、勇二の十倍は激しい光を身に帯びていた。
「ヴァイス、雪斗の体は何であんなに光ってるんだ? オレはほんの少ししか光らなかったのに」
「雪斗は、『キー・トリガーパーソン』だから、相応の魔力を持っているわ。暴走を起こしてしまうほどにね」
勇二は、静香を見た。雪斗ほどではないが、静香も光を放っていた。
「静香も大きな魔力を持っているのか?」
「大きくはないけど、十分な魔力があるわね。鍛えれば今の雪斗に匹敵する魔力を練ることができるわ」
「オレもさっき光ったが、オレにも魔力があるってことなのか?」
「魔法を使えると言うことは必然的に魔力があることになるわ。驚く事はないわ、勇二にも魔力はある。さあ、集中して。瞑想の続きよ」
「よ、よし。オレもピカピカになってやるぜ!」
勇二は、あぐらをかき、先ほどのように集中する。
「ねえ、ヴァイス」
「何かしら、雪斗?」
「僕は変身して瞑想した方がよくない? 暴走してしまわないようにさ」
「それはいいかもしれないわね。でも、暴走の危険はあるわよ?」
「今まで瞑想してみて分かったんだ。普通の状態でも、魔力を自由に使えるってね」
雪斗は、手のひらに魔力の球を出現させた。そして雪斗は、手の上でそれをコロコロと転がして見せた。
「これは驚いたわね。そこまで魔力を使いこなせるようになっているなんて……」
雪斗の技は、『キー・トリガーパーソン』の魔力が可能にしていた。
「どうかな? 変身して瞑想してみてもいいかな? 変身してメラメラする感じを落ち着かせる訓練にもなると思うんだけど……」
雪斗なりに考えがあっての提案だった。
「分かったわ、やってみなさい」
「うん、やってみるよ。はぁっ!」
雪斗は変身した。
「暴走しそうになったら、すぐに止めるのよ?」
「うん、でも大丈夫。ただメラメラする感じがするだけだから」
「その好戦的になる感じも抑えられるようになるのよ?」
「大丈夫、これくらいじっとして、瞑想してる内に消えるよ」
雪斗は、あぐらをかいて再び瞑想を始めた。
雪斗の集中力はすさまじく、魔力の輝きは強くなっていく。
(ものの二、三ヵ月でここまでものにするなんて。さすが『キー・トリガーパーソン』と言ったところかしら……?)
ヴァイスは思うのだった。
(もっともっと強く。僕もみんなを守れるようになりたい)
(力が欲しいか、『キー・トリガーパーソン』よ)
また、雪斗の心に謎の声が響く。雪斗は、瞑想したまま心の声に答えかける。
(今の僕に、新しい力を使えるの? 前に力を受けた時は暴走したのに)
(今の汝なら抑えられる。鍵を開く準備は整った)
(だったらお願い、僕に力を!)
雪斗の魔法の鍵は開かれた。
雪斗は、ざっと立ち上がった。
「どうしたの雪斗、急に立ち上がったりして?」
「心に声が聞こえたんだ。新しい魔法を使えるようになった時に聞こえる声がね」
「と、言うことは新しい魔法が?」
雪斗の中には未知の力が宿っていた。新しい魔法の顕現した証拠である。
「使ってみてもいいかな、ヴァイス?」
「まって、威力がどれほどかも知りたいわ。これにうってみて」
ヴァイスは、直方体の氷の塊を作り出した。
「ありがとうヴァイス。それじゃあ僕の側に、巻き込んじゃ大変だからね」
そうね、とヴァイスは雪斗の近くに寄った。
念のため勇二と静香とも距離がとれていることを確認した。
「いくよ、シュネーシュトルム!」
雪斗は、ダイヤモンドの固さの雪が舞い上がる吹雪を巻き起こした。
吹雪は、ヴァイスの作り出した氷を削り、砕いてしまった。
「うん、魔力も暴走しない。ヴァイスのおかげだね」
この魔法は、以前の戦いで使用したとき、魔力が暴走していた。しかし、今は暴走していない。瞑想による魔力強化が効いていた。
「もう一つ魔法を宿したのよね? 使ってみる?」
「そうだね。どんな効果か分からないんじゃ実戦で使えないからね。ヴァイス、また氷を出してもらえないかな?」
「えぇ、どうぞ」
ヴァイスは再び氷の塊を作る。
「よし、行くよ……!」
雪斗は、集中する。
「スノークラウド!」
魔法の発動と同時に、雪斗の手に氷の槍が出現した。
「これは……?」
雪斗は、何が起こったのか分からなかった。
「これは移動系の魔法よ。雪雲が浮かんでいるでしょう? その雲と雲の間なら一瞬で移動できるわ」
雪斗の脳裏にも、遅れてどんな魔法か浮かんだ。
対象の周りに、特別な雪雲を発生させ、雲の間を瞬間的に移動しつつ、手に現れた槍で対象に刺突を加えると言うものだった。
「この雲、僕の思う通りに動かせる!」
雪雲は、雪斗の思うがままに、ゆらゆらと動かすことができた。
「よぅし!」
雪斗は、四つの雪雲を、ヴァイスの出した氷の塊に四方に展開した。
「行くよ!」
雪斗は駆け出した。そして、氷の塊に飛びかかった。
雪斗の姿が、一瞬にして消え、雲の間に閃光が四筋瞬いた。
雪斗の姿が再び見えるようになると同時に、氷の塊は細かく砕け散った。
「すごいわ、雪斗!」
「これが、僕の力……!?」
ヴァイス以上に、雪斗自身が驚いていた。
「今は出せる雪雲は少ないけど、訓練すればもっと出せるようになるわ」
それは、縦横無尽に飛び回ることができることを示していた。
敵を雪雲で包囲し、雲の間を一瞬で移動して槍で貫き、切りつける。まさに強力な魔法であった。
「ヴァイスー!」
勇二が呼びかけた。
「何かしら、勇二?」
「魔法の工夫を思い付いたんだ。ちょっと見てくれるか?」
勇二は、自信満々と言った様子だった。
「いいわよ、見てあげる」
「見せる前に雪斗に出していた氷の塊を頼めるか?」
「的が必要ってことかしら? いいわ、作ってあげる」
ヴァイスは、勇二の望み通り、氷の塊を出現させた。
「行くぜ、ライトニング!」
勇二は得意の魔法で雷を出した。しかし勇二は、その雷を放つことなく手の中に帯電させたままである。
「ライトニングフィスト!」
勇二は、バチバチと雷を持ったまま、拳を氷の塊を殴り付けた。
雷に打たれたように、氷の塊は砕けた。
「なるほど、雷の力でパンチ力を上げたのね」
「工夫した雷はこれだけじゃないぜ? ヴァイス、もう一個氷の塊出してくれるか」
はい、どうぞ、とヴァイスは氷の塊を出す。
「サンキュー、行くぜライトニング!」
勇二は、雷を再び手に纏わせた。そして両手で雷を伸ばし、鞭のような形に作った。
「縛り付ける!」
勇二は、雷の鞭を氷の塊に巻き付けた。そして氷の塊に、鞭を通して流電させた。
バチバチ音を立て、雷の鞭は氷の塊にダメージを与え続ける。やがて氷の塊は耐えきれず砕けていった。
「どうだヴァイス? じわじわと体力を削って、そうして意識を飛ばす攻撃だぜ!」
「あなたにしては上手いこと考えたわね。てっきりこういうのは趣味じゃないと思ってたけど」
「雷のパンチで一撃ノックアウトできりゃあそれに越したことは無いんだが、戦いの場でそう上手く行くとは思えない。だから雷の使い方を変えてみたのさ」
勇二は、得意気に鼻の下を指でぬぐった。
「いいと思うわ。よく自分の魔法の特質を掴めてる。今のあなたの腕なら、よく訓練した兵隊とも渡り合えるでしょうね」
「マジでか!? これでオレも雪斗の戦いの役に立てるか!?」
「ええ、立てるわ。きっとね」
「おっしゃあ! 瞑想の効果は絶大だな!」
「そうよ、決して馬鹿にできない効果があるのよ。これからも励みなさい。戦いの途中で魔力が尽きてしまわないようにね」
「おう、それじゃあ、あっちでまた瞑想するぜ! じゃな、ヴァイス!」
勇二は駆けていった。
(さて……)
ヴァイスは、草の上で正座する静香を見る。
(静香からも魔力の高まりを感じるわね……)
ヴァイスは、様子を見ようと、静香の側に歩み寄った。
「調子はどうかしら? 静香」
「あ、ヴァイス……」
ヴァイスは、静香のとなりに座った。
「そろそろちょっと試したいと思ってた頃なんじゃない?」
「う、うん。でも私の魔法って、守りが主体だから強くなっているのかよく分からなくて……」
「それなら、私が魔法球を投げるわ。まずは正面。投げる力もゆっくりから投げるわ。どうかしら?」
「うん、それなら分かりやすいかも」
「じゃあ、早速始めましょう」
二人は立ち上がり、対面しながら距離を取った。
「このくらいの距離から始めましょう。盾を出して」
「はーい、ウインドシールド!」
「よし、行くわよ!?」
ヴァイスは、魔法の塊を顕現させ、それを球体にした。
「それ!」
ヴァイスは、球体を静香に飛ばした。
「えい!」
静香は、難なく防御して見せた。
「もっと速くても大丈夫そうね。これならどう!?」
ヴァイスは、球体の速度を一気に速めた。
「まだまだ!」
静香は受け止めた。
「動体視力は問題なさそうね。それじゃあ今度は盾の強度を試すわね」
「うん、お願いします!」
静香は、盾を大きくした。ヴァイスも大きな魔法球を作り出す。
「行くわよ、それ!」
ヴァイスは、大きな魔法球を放り投げた。
「ぐっ、重い……でもこの程度……!」
静香は、受け止めたものの、重量に圧されそうになる。
「せえいっ!」
静香は、魔力を発揮し、ヴァイスの魔法球を弾き返した。
「盾に魔力をかけてで防ぎきったわね。悪くないわ」
「ありがとう、ヴァイス」
「まだまだ実戦練習は終わらないわよ? 今度は全方位から攻撃された時に、盾を捌くことができるかどうか試すわ」
静香の盾は、縦横無尽に移動させることができた。そのため、頭上、背後から攻撃されても防御が可能であった。
「後ろからも攻撃するの? 私に防ぎきれるかな……」
「大丈夫よ。静香の盾に防げないものなんかないわ。自信持って」
「そうよね、やってみるわ」
二人は間合いをとった。
「この間合いならいいわね。一気に行くわよ!」
「う、うん、来て」
ヴァイスは、魔法を発動した。
「サウザンドアイシクル・オールレンジ!」
千のつららが顕現し、静香の全方位に展開した。
「行きなさい!」
ヴァイスは、空中に停滞するつららを打ち出した。
静香は、盾を割って両手に纏わせ、飛んでくるつららを受け止めていった。
左手の盾で前方のつららを一手に受け止め、右手の盾で横、後ろから来るつららを防いだ。
「なかなかやるわね。それじゃあもう少し難しくしてあげるわ」
ヴァイスは、新たに魔法を発動する。
「サウザンドアイシクル・レインフォール!」
ヴァイスは、つららを雨の降るように、上空から一気に落とした。
「さあ、これを防ぎきれるかしら!?」
頭上広範囲に加えて、横からも来るつららに襲いかかられようとしている。このままでは間違いなくつららに貫かれてしまう。
(どうすれば……!?)
考えている間に、つららの群れは静香に迫ってきている。
身の危険にさらされた瞬間、静香の脳裏にこの状況を打破する策が浮かんだ。
(思い付いた!)
静香は、両手の盾を合わせ、魔力を込めると、水上に大きな泡が立つように、風の力を膨らませた。
それは、全方位を覆う、ドーム状の障壁となり、ヴァイスのつららを弾いていった。
やがて、つららを全て弾くと風の障壁は消えた。
「ふう……」
静香は、疲労感を感じ、その場に座り込んだ。
「見事な魔法だったわ。ちょっとやり過ぎたかと思ったけど、静香は防ぎきった。胸を張っていい結果よ」
「……命の危機を感じた時、思い浮かんだの。あのドームみたいなバリアを張る方法をね」
「そうだったの。とっさにあれを思い付くなんてすごいわ、静香」
「でも、ちょっと魔法を使いすぎたみたい。ふらふらする……」
「あら大変、少しそのままじっとしていた方がいいわ」
「うん、そうする……」
ヴァイスは、雪斗たち三人の魔法を見た。直前にやっていた瞑想の効果があってか、強力な魔法を使えるようになっていた。
(これなら、刺客とも渡り合える)
ヴァイスは、確信するのだった。




