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復讐の狂戦士

第九話 復讐の狂戦士


 場所は白界の刺客の部屋。バードラスらが集まっていた。

 集まった目的は他でもない。『キー・トリガーパーソン』たる雪斗を倒すための作戦会議である。


「皆集まったな?」


 バードラスは確認する。


「いや、まだだ。レイティス殿が来ていない」


 メンデルは言った。


「また長い昼寝でもしているんだろうさ。あいつがいなくても話し合いはできんだろぉ?」


 ガロンは、うずうずしていた。


「それで、『キー・トリガーパーソン』のガキと裏切りの姫を殺るんだろ? オレに任せろよ!」


 以前の戦いで大きな傷を受けたガロンだったが、回復していた。


「まあ、待てガロン。お前の傷は癒えたといっても『キー・トリガーパーソン』たちも腕を上げている。以前のようにただぶつかっていっては、また返り討ちに遭うぞ」


 バードラスは(たしな)める。


「だけどこのまま黙っていられっかよ!? このオレ様が死にかけたんだぞ!?」

「ガロン殿、それではこうしてはどうかな。私も戦地へと赴く。そうすれば戦力差は多少なりとも上がる」

「けっ、兵隊の兵士長ごときに何ができる。実力はオレたち刺客の足元にも及ばねぇってのによ」

「確かに力では遠く及ばぬやもしれぬ。だが、サポートに回ることならできる。エフとシーの『トリガーパーソン』の足止めをして、ガロン殿戦いの邪魔にならないようにするのだ。それならばいかがかな?」


 メンデルの『キー・トリガーパーソン』には遠く及ばないながらのサポートであった。


「……おはよー、ふあああ……」


 レイティスが、眠気眼(ねむけまなこ)で刺客の間にやって来た。


「レイティス、今起きたのか? 作戦会議をするとあれほど言ったではないか……」


 バードラスはため息をつく


「だって眠いんだもん……会議はまだ途中?」

「いいや、終わったぜ。オレ様のリベンジでな!」


 レイティスは、また大あくびをする。


「……それじゃあボクの出番はないってことだね。ふああ……まだ眠いや。寝る」


 レイティスは、話し合いに参加せず、また一眠りしようと自室に引っ込んでいった。


「へへ。今度こそはぶっ殺してやるぜ、キーも裏切りの姫もな!」


 ガロンは、復讐に燃えていた。


    ※※※


 鋼川の河川敷。


「ライトニング!」


 勇二の雷が轟く。


「ウインドシールド!」


 静香の風の盾が、勇二の雷を止めた。


「やるじゃねぇか静香! オレの渾身の雷を止めるなんてな!」

「守ることには自信があるから……」


 勇二も静香も、ここ数ヶ月で魔法の腕を上げていた。その力は、白界の兵隊に匹敵するほどだった。


「なあ、静香の魔法って守り一辺倒だけど、工夫すれば攻撃することもできるんじゃねぇか?」

「えっ、攻撃?」


 静香は、思いもよらなかった。


「そうさ、攻撃さ。盾をそのまま敵にぶつけたり、な」

「そんなことが本当にできるのかな?」

「できるわよ」


 ヴァイスが突然話しに入ってきた。


「うお!? ヴァイス、一体どこから?」

「雪斗との訓練ばかりじゃあ、あなたたちが育たないでしょう? 刺客との戦いには、あなたたちの力も必要になってくる。強くなるに越したことはないわ」

「ヴァイス、私の魔法が攻撃にも使えるって本当?」


 静香は訊ねる。


「ええ、できるわ。勇二がやってるように魔法の使い方を工夫すれば、攻撃にも防御にも使える魔法が使えるわ」


 ヴァイスはそうは言うものの、盾で攻撃するなどどうすればよいのか、静香には想像ができなかった。


「どうすればいいのか、分からないって顔ね? ならヒントをあげるわ。盾をいつもの二回りくらい小さく展開してみて」


 静香は、言われたように魔法の出力を抑え、頭を守れるくらいの大きさの盾を作り出した。


「アイスケイク」


 ヴァイスは、氷の塊を作り出した。


「この氷に向かってその盾を投げてみて。フリスビーを放る要領でね」

「こ、こう……?」


 静香は、やんわりと風の盾を投げた。

 盾は、フリスビーのように回転しながら、ヴァイスの氷に向かって行った。

 そして、静香の盾は、ヴァイスの氷にざくっ、と突き刺さった。


「私の盾が、氷に刺さった!?」

「うーん、今はまだ突き刺さる程度か。でも盾の大きさを変えれば両断する事もできるわ。その分重くなるけど、威力は倍増よ」

「すげぇぜ静香! これでお前も雪斗の攻撃サポートできるようになったな!」

「雪斗くんのサポート……」


 静香は、嬉しく思った。戦いはまだ怖いが、雪斗のサポートができることが、静香には喜ばしいことだった。


「まっ、これから鍛練することね。さて、そろそろいい時間ね。今日の訓練はここまでにしましょう」


「えー、もう終わりかよ?」


 勇二は、口を尖らせる。


「勇二くん、帰りに白界の住人に遭うかもしれないじゃない? 魔力は残しておくに越したことはないよ」


 魔法の訓練で魔法を使いすぎて、その直後に戦いになり、魔法が使えなくなるのは本末転倒であった。故に、雪斗の判断は正しいと言えた。


「さあ、帰ろう、二人とも」

「待って、雪斗くん」


 静香が引き留めた。


「どうしたの、静香さん?」

「帰りに本屋に寄ってもいい?」


 雪斗たちは、白界の住人の襲来に備え、自宅にいるとき以外はまとまって行動していた。なので、ちょっとした買い物などでも四人一緒におこなっていた。


「本屋に? 何かの新刊でも出たの?」

「あっ、そういや今日はランニングの発売日だったな」


 ランニングとは、雪斗ら中高生男子に人気の週刊誌である。


「ひょっとして、静香さんもランニングを?」

「いえ、違うわ。参考書を買おうかと思って」

「参考書ぉ!? 静香ガリ勉だなぁ!」

「そうかしら? 私たちもう受験生になったんだから、参考書の用意はした方がいいと思うんだけど……」


 雪斗は、勇二には悪いが、静香の言うことはもっともだと思った。


「それじゃあ本屋に行こうか。時間も遅いし、早く行こう」


 雪斗たちは、商店街の本屋を目指して移動した。

 雪斗の町の本屋は、小さいが様々な本を扱っている。マンガやライトノベルはもちろん、純文学本や様々な資格の本、モデルの写真集など目移りしてしまう品揃えであった。


 本屋に着くと、静香はまっすぐに参考書コーナーへ行った。勇二は雑誌コーナーでランニングを立ち読みしに行った。


 雪斗は、特に見たい本があるわけではなく、どうしようかと迷ったが、受験生になった事を理由に、雪斗も参考書を見ることにした。


「あら、雪斗くんも参考書を見るの?」

「うん、何から見ればいいか分からないけど、とりあえず苦手な数学の本を読んでみようと思ってね……」


 雪斗は、数学の参考書を手に取った。そしてページをパラパラとめくった。分からないところばかりだった。


「分からないみたいね、雪斗?」


 ヴァイスは、雪斗の様子を見て話しかけてきた。


「うん、まだ習ってない所が多いからね」

「予習がしたければ、私が教えてあげるわよ?」


 ヴァイスは言った。

 前回のテストで高得点をマークできたのは、ひとえにヴァイスのおかげであった。


「助かるよ、それじゃあこの本を買って……」


 それは、突然の事だった。外から今まで聞いたことのないような騒音がした。

 静かだった店内も、突然の大きな音に驚いた客のざわめきに包まれた。


「この気配……!」

「なんだってんだよ、ヴァイス!?」


 雑誌を売場に放り投げ、勇二も雪斗たちのいる参考書コーナーに走ってきた。


「白界の刺客よ!」

「なんだって!?」


 雪斗たちは、音のした外へと駆けた。


 そこには、見るも無惨な光景が広がっていた。

 二トントラックが、車道に横転していたのだ。


「なんだ!? 事故か!?」


 事故現場には既に野次馬が集っていた。


「誰が跳ねられたんだ!?」


 道路には血溜まりができていた。人が跳ねられたのは確実であった。

 だが、そこには誰もいない。野次馬たちの目に写らなかった。


「コイツぁ、なかなかイイ刺激だったぜぇ……!」


 血みどろになった狂人が、道路に横たわっていた。


「あいつは!」


 雪斗には覚えがあった。後一歩のところまで攻めた白界の刺客。


「ガロン・ズロア!」


 白界の刺客にして、痛みを糧とする狂人の名を、雪斗は叫んだ。


「よォ、久しぶりだなぁ、『キー・トリガーパーソン』の小僧……!」

「私もいるぞ」


 横転したトラックの陰から、もう一人白界の住人が姿を見せた。


「メンデル兵士長……」


 ヴァイスは、その名を呼んだ。


「元、兵士長にございます、姫様」


 メンデルは、訂正する。


「あァ? 見慣れねぇやつがいるなぁ? オマケに妙な力を感じるなぁ」


 ガロンは、静香に目をやった。

 静香は、ガロンの姿を見ると、目をそらした。


「また来やがったのか、このマゾ野郎!」


 勇二は啖呵を切る。


「てめェは、誰だ?」


 ガロンは、勇二のことを覚えていないようだった。


「ガロン、力を得るためにわざとトラックに()かれたのか!?」

「その通りだ、小僧。てめェには借りがあるからな。一気にぶっ殺せるように大きな傷をつけたのさ」


 雪斗の思惑通りであった。轢かれたのはガロンだけだったが、一歩間違えれば無関係の人間も轢かれていたかもしれない。


「さァ、小僧。さっそく始めようぜ。オレのリベンジをな!」


 ガロンは、サーベルを手に取る。


「ここで戦うつもり!?」


 白界の刺客や兵隊との戦いは、今まで人がいないところでしていたが、今は野次馬の群生がいる。そんな中魔法で戦うのは、無関係の人間を巻き込む可能性があった。


「なんだァ? 野次馬が気になるか? ならオレが全員片付けて……」

「サウザンドアイシクル・レインフォール!」


 ヴァイスが魔法で割り込んできた。


「ヴァイス!? 何をしてるのさ!? こんなところで魔法を使ったら……!」

「足止めよ。この辺りに人がいないところはない?」


 商店街の近くに、千万学院高校という高校があった。そこのグラウンドなら、人はいないかもしれなかった。


「それなら、そこへ行きましょう。道は近いの?」

「商店街を抜けて、右に曲がったところにあるよ!」


 雪斗たちは、千万学院高校目指して駆け出した。


「てめェ! 待ちやがれ!」


 ガロンとメンデルは、雪斗たちを追いかけてきた。

 高校への道はすぐそこであった。雪斗が思った通り、遅い時間だったため、生徒の姿はなかった。


「無関係の人間を巻き込まぬよう、人の気配がない場所を選んだか。敵ながら天晴れだ」


 メンデルは、雪斗の行動を称賛した。


「オレはガキをぶっ殺せればそれでいい。さあ、さっさと抜けガキ! 殺し合おうぜ!」

「はあっ!」


 雪斗は、白界人の姿に変身した。


「ガロン、お前は僕が倒す!」

「一人で無理することはないわ。私も戦うわよ」


 ヴァイスは、雪斗と並んだ。


「二対一か。しかも『キー・トリガーパーソン』と裏切りの姫か。はっ! 一石二鳥だ、二人まとめてぶっ殺してやんよ!」

「雪斗、ヴァイス。オレも戦うぜ! 三人でかかれば手っ取り早く済む!」


 勇二もガロンと戦おうとしていると、勇二につららが飛んできた。それはメンデルの放ったものだった。


「ガロン殿の邪魔はさせん。貴殿の相手は私がしよう」

「ちっ、仕方ねぇ。雪斗、ヴァイス。ぬかるんじゃねぇぞ!」


 勇二は、ガロンから離れ、メンデルに向いた。

 メンデルは、白界の兵隊の兵士長である。いくら勇二が力をつけたと言っても、分が悪い戦いとなりそうだった。


「静香!」


 勇二は静香を呼んだ。


「サポートを頼む。オレ一人じゃ苦戦しそうだ。こっちも二対一で戦うぞ!」

「分かったわ。防御と回復は任せて!」


 静香は、勇二に駆け寄ってきた。


「エフとシーか。ふむ、相手にとって不足なし! ゆくぞ!」


 勇二たちの戦いが始まった。


「ライトニング!」


 勇二は、軽い一撃として雷を放った。


「その程度の雷撃……!」


 メンデルは、勇二の雷を受けきった。


「今度はこちらからゆくぞ!」


 メンデルは、剣を出現させ、勇二に向かって斬りかかってきた。


「ウインドシールド!」


 静香は、勇二の目の前に風の盾を展開した。強力な風がメンデルの剣を弾き、隙を作った。


「こんなのはどうだ!?」


 勇二は、魔法を工夫し、鞭のようにしてメンデルを縛り付けた。


「ぐわあああ!」


 メンデルは、激しく感電した。雷の出力が止まると、メンデルは地に伏した。


「なんだ、もう終わりか?」


 勇二は、得意気に言う。


「……リカバリー」


 メンデルは、回復魔法を使った。


「なにっ!?」


 勇二は、メンデルが回復魔法を使えることに驚いた。

 回復しきったメンデルは、すくっ、と立ち上がった。


「今のはなかなか効いたぞ。だが、致命傷には至らない」

「くそっ、ならもう一度、今度は気絶するまで電流を流し続けてやる!」


 勇二は、再び雷の鞭を作り出し。メンデルに縛り付けようとした。


「同じ手は食わんぞ!」


 メンデルは、勇二の鞭を断ち斬った。


「なんだと!?」


 勇二は、防がれると思っていなかった。


「さて、反撃開始と行こうか……!」


 メンデルの反撃に備える勇二であった。


 強力な地吹雪が、雪斗とヴァイスに吹き付けた。

 ガロンの持つ唯一の魔法、「エンブリザード」に

よるものだった。


 雪斗とヴァイスは、氷の障壁で地吹雪を防いだ。


「ヒャーハハハハ! それで防いだつもりか!?」


 ガロンの笑い声は、雪斗たちの頭上からした。

 ガロンは、サーベルの切っ先を下にして二人に落下してきた。

 雪斗たちは、別々の方向に逃れ、ガロンの刺突をかわした。


「アイシクル!」

「サウザンドアイシクル・オールレンジ!」


 雪斗は大きなつららを、ヴァイスはガロンを包むようにつららを出現させた。

 ガロンは、一部分が強力な威力のつららを全方位から突き刺された。


「くぅ、効くぜぇ……!」


 一撃必殺の威力を誇るつららは、ガロンにダメージこそ与えたが、それを糧とされてしまった。


「くっ……これでも倒しきれないのか……!?」

「厄介な体質ね。半端なダメージじゃ攻撃力を上げられてしまう……!」


 二トントラックにわざと轢かれ、そのダメージを攻撃力に変え、ガロンは雪斗らに挑んできていた。ガロンの攻撃力は、前に会った時よりも圧倒的に上がっていた。


「こうなったら、雪斗。やつを確実に倒せるように魔力をためて。私が何とか時間を稼ぐわ」

「そんな、一体どうやって?」


 ヴァイスには、切り札的魔法があった。強力な威力を誇るが、連発はできない魔法である。


「説明してる時間はないわ、早く魔力をためて!」


 ヴァイスは、両手を蒼く輝かせると、その姿を消した。すると、ガロンの上空を中心に、現れては消え、また現れては消えを繰り返していった。


 雪斗は、思わず見とれていた。


(何をしているの! 魔力に集中なさい!)


 雪斗の心に、ヴァイスの声が響いた。

 雪斗は慌てて、ヴァイスの言うようにした。

 雪斗は、血のごとく身体を流れる魔力を心に集中させた。


(雪斗は集中を始めたようね。これで致命傷を受けてくれればいいのだけど……)


 ヴァイスは、上空から地面に瞬間移動した。


「はっ、何をしてたんだァ? 痛くも痒くもねぇぜ?」

「安心なさい。痛みは今に来るわ……」


 ヴァイスは、右手に蒼く光る氷の塊を持っていた。


「万を超える氷の刃に貫かれなさい!」


 ヴァイスは、氷の塊をガロンに向けて放った。

 ヴァイスの手を離れると同時に、空中に止まっていた氷の刃が、一気にガロンへと降りかかった。


「タイムフリーズ・ブレイク!」


 ヴァイスは、時間を凍らせ、止まった空間につららを設置していた。

 設置しているのに気がつかなければ、絶対にかわすことはできない。ガロンは、ただ万を超えるつららに貫かれるしかなかった。


「ぐわああああ!」


 ガロンは、つららの矢に全身を刺し貫かれた。それでもガロンは死ぬ気配がない。まるで裁縫の針山のようになっても、ガロンは生きていた。


(これでも倒れないなんて、化け物ね……)


 ヴァイスは、辟易(へきえき)した。


「……アハッ! 気持ちいいぜ! これが死にかけの感じか! 力が湧いてくるようだぜ!」


 ヴァイスは、ガロンを死に至らしめることができず、その特性を最大限に引き出させてしまった。


 しかし、今この時が、ヴァイスが待ち受けていた瞬間であった。


「雪斗、今よ! ためていた力でこの狂人に止めを刺しなさい!」

「準備はできてるよ、ヴァイス! 『アイシクルスピア!』」


 雪斗は、氷の槍を顕現させた。


「くらえー!」


 雪斗は、氷の槍をガロンに向けて投げつけた。


「ぐおうっ!」


 ガロンは、無数のつららの矢と雪斗の渾身の槍攻撃で、ついに致命傷を負った。


「ああぁ……」


 ガロンは、仰向けに倒れた。


「ンギモチいいぜェ……! サイッコウだァ……」


 ガロンの体が、手足の先から雪になっていった。


「ガロンが消えていく……」


 白界の住人の死は、その体を雪に変えていくものだった。

 雪へと変わり、すぐに溶けて水になっていく。何とも儚い死であった。


「それが白界の住人の成れの果てよ、雪斗」


 雪斗は、震えを感じた。白界の住人という、人間とは少し違う存在にも関わらず、人一人を死に至らしめた事に、耐え難い罪悪感に(さいな)まれたのだ。


「僕が、ガロンを殺した……」

「気に病むことはないわ、雪斗。白界の刺客は何人もの『キー・トリガーパーソン』の命を奪ってきた。いつかはこうなる運命だったのよ」


 離れたところで戦っていた勇二たちも、異変を感じて戦いの手を止めた。


「ガロン殿が、やられた!?」


 メンデルは、この上なく驚いた。


「雪斗のやつ、やりやがったんだな!」


 対する勇二は、気色を浮かべる。


「ぐっ……これではもう勝機がない。退くしかない」


 メンデルは、逃亡を図った。


「あっ! 待ちやがれ!」


 勇二が追いかけようとするものの、メンデルは既に転移魔法でその場を離れていた。


「追う必要はないわ。ガロンを倒したことで戦いの大勢は決したわ。これ以上の争いは無用よ」


 ヴァイスと雪斗が、勇二と静香の所へ近付いてきた。


「雪斗くんどうしたの? 何だかもの悲しそうだけど……」


 静香が雪斗の様子の異変に気が付いた。


「……僕がガロンを殺した。人一人の命を奪ったんだ……」


 雪斗はまだ、とてつもない罪悪感を感じていた。


「雪斗、お前は正しいことのためにガロンを倒したんだ。あいつをあのままのさばらせていたら、お前の命が危なかったんだ。これはセイトーボーエーってやつだ!」

「正当防衛?」

「そうよ、雪斗くんは何も悪くない。悪いのはあの人の方でしょう? 雪斗くんとヴァイスの命を狙っていたんだから」


 静香も雪斗を慰めた。


「そう、なのかな? 僕は正しいことをしたのかな?」

「その通りよ、雪斗。あなたは『キー・トリガーパーソン』。白界の住人に命を狙われる存在。今ガロンを倒さなかったら、執拗に殺しにかかられるところだったのよ?」


 雪斗は、ヴァイスの言葉に励まされた。


「そんなことより、メンデルを逃がしたのはまずったわね……彼は恐らく今刺客と繋がっている。また刺客と一緒に、白界から攻め込んでくる可能性は高いわ」

「そこはオレの責任だ。やつにロクなダメージを与えることもできず、むざむざと逃がしちまった。すまねぇ、ヴァイス」


 勇二は、悔しそうに舌打ちする。


「勇二はメンデルの足止めをしていてくれただけでも十分の働きをしたわ。静香もね。よく勇二を守ったわ」


 ヴァイスは、二人の戦いぶりを褒めた。


「そろそろここを離れましょう。すっかり夜になってしまったわ。明日も学校でしょう? 早く帰りましょう」

「いっけねぇ! もうこんな時間かよ!? やべぇ、母ちゃんにどやされる!」


 悔しそうにしていた勇二は、すぐにいつもの調子に戻った。


「私も門限が……早く帰らないと」


 静香も早く帰路に付かなければならなかった。


「色々あったけど、白界の刺客をまた一人倒すことができたわ。みんな、よくやったわ。この調子で行きましょう。と、早く帰らなきゃいけないわね」

「メンデルめ、次会ったらオレが倒してやる! 明日学校が終わったら、みんなさっそくトレーニングしようぜ!」


 勇二たちは、約束を取り決め、家路を急いで進んだ。


    ※※※


 白界の城、刺客の間。


「なんだと! ガロンがやられた!?」


 バードラスは、メンデルの報告に驚愕を受けた。


「ふぅん、ガロン死んじゃったか。どれだけ傷を受けても死なないマゾだと思ってたけど、マゾでも深傷を負えば死ぬってことなんだね……ふあぁ」


 レイティスは、仲間の訃報を聞いても眠そうにしていた。


「レイティス殿、ガロン殿がやられたのですぞ。それなのに何故そう呑気(のんき)でいられるのですか!?」

「だってガロン、ボクより弱いもの。どんな手を使ったって、絶対にボクには敵わなかったもの……」


 レイティスは、亡き仲間を蔑んだ。


「レイティス、あまりガロンを悪く言うな。やつは態度こそ異常だったが、強い戦士だった。お前から見れば弱くとも、我ら刺客の中でも十分な強さだった」


 バードラスは、ガロンの死を心から悼んでいた。


「……バードラス、なんでそんなにガロンの肩を持つの? まさか好きだったとか?」

「戦士としては買っていた。だが、俺にはそんな趣味はない」


 バードラスは、きっぱりと言い放った。


「ふぅん。そんなことより、次の『キー・トリガーパーソン』の命を狙うのは、ボクでいいよね?」

「いや、俺が行こう」


 バードラスは、刺客の筆頭でありながら、自分が行くと言い出した。


「バードラス、本気かい? キミは大将じゃないか。まあ、強さはボクの方が上だけど」

「レイティス、悔しいがお前の言う通りだ。しかし、だからこそ俺が先に行くのだ。俺にもしもの事があっても、白界の刺客最強のお前が残っていれば、戦える者は残る。お前の強さを信じて後を任せるのだ」


 バードラスは、レイティスの強さを買っていた。


「勝算はあるの? バードラス」

「大将の身でありながら、こんなことを言うのは(はばか)れるが、『キー・トリガーパーソン』が真の力を発揮していれば、俺に勝ち目はない……」


 『キー・トリガーパーソン』が完全なる力に目覚めていれば、さしものバードラスであっても倒すことは叶わない。

 だが、力に目覚めきっていない今のうちならば、バードラスでも十分勝ち目があった。

 裏切りの姫には余裕で勝ち目がある。恐らく二人まとめてかかってくるであろうが、雪斗が覚醒していなければ、バードラスに勝機はあった。


「レイティス、俺がやられることがあれば、白界の刺客筆頭はお前だ。メンデル、お前には新たな刺客になってもらう」


 バードラスは、遺言のようなものを言った。


「私が刺客に……!?」


 メンデルは、驚きを隠せなかった。


「そうだ。俺に何かあれば、刺客はレイティス一人になってしまう。それでは、色々と問題が発生するだろう。メンデルは兵士長の出であろう? 統率を取ることはできるはずだ」


 バードラスは、メンデルの統率力を信じていた。


「ねえねえ、それってボクがメンデルなんかの下で働くってこと? 冗談じゃないよ」


 レイティスは、口を尖らせる。


「レイティス、お前は力こそ刺客の中で最強だが、統率力はまるでない。力でねじ伏せるのは構わんが、個人で動くのではいつか足元を掬われるぞ?」

「このボクに限ってそんなことはない。メンデルなんかの元で戦うのはゴメンだね」


 あくまでレイティスは、個人で戦うつもりであった。


「レイティス、どうしてお前はそう……」

「バードラス、ボクはキミに従っていたわけじゃない。ただリーダーをやるのが面倒だから、キミに従ったふりをしていただけだよ」


 白界の刺客が決められた時、圧倒的力を持っていたレイティスが筆頭にならなかったのは、統率を取るのが面倒であったからだった。


「というか、バードラス。キミどうして『キー・トリガーパーソン』たちにやられること前提で話を進めてるんだい? キミがやつらを倒せば万々歳じゃないか」


 レイティスは、核心を突いた。


「うむ、そうできればよいのだが、恥ずかしい話になるが、俺は自信がないのだ。相手はエフとシーもいる。そこへキーだ。勝てる気がしないのだ」

「あそう、……ふああ」


 レイティスは、バードラスの意気地なさを感じた。


「……眠い。もうボクから言うことはない。寝る……」


 完全に興味をなくしたレイティスは、自室に引っ込んでいった。


「バードラス殿、よいのですか? レイティス殿一人を残すような真似をして」


 メンデルは訊ねた。


「あの女は、猫よりも気まぐれだ。どんなに拒絶されたとしても、支えてやってくれ、メンデル……」

「バードラス殿……」


 それだけを言い残すと、バードラスは死地へ向かう支度をするのだった。

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