魔法体育祭
第十話 魔法体育祭
新学期が始まり、ゴールデンウィークも過ぎて、生徒も教師も落ち着いてきた頃、雪斗たちの通う中学校は一大イベントが行われようとしていた。
それは、体育祭である。
赤組、白組、そして青組の三つ巴で優勝を目指して戦うのだ。
体育祭まではまだ三週間の時がある。生徒たちはそれぞれ競技に向けた練習をしていた。
雪斗たちは、白組に属していた。そして白組団長は勇二が務める事になっていた。
「白組、ね。私たち白界の住人と浅からぬ縁を感じるわね」
放課後、体育祭準備で校庭に向かいながらヴァイスは言った。
「ねぇヴァイス。キミは体育祭がどんなものか分かるの?」
雪斗は、何気なく訊ねた。
「参加したことはないけれど、お話には聞いたことがあるわ。優勝を目指して、一チーム一チームが競い合うんでしょう?」
「よく知ってるね。白界にもあるの? 体育祭」
「ええ、白界の子供の間で盛んに行われていたらしいわね。願わくは、私も参加したかったわ」
「おう、だったら、ヴァイスも参加すりゃあいい」
勇二が誘った。
「気持ちはありがたいけど、私は部外者、それ以前に姿が見えないでしょう? 組の優勝に貢献できないわ」
「それなら、アシストしてくれりゃあいい」
勇二は、ヴァイスが普通の人間には見えない事を良いことに、少しズルをさせようとした。
「アシストって、一体何をさせるつもり?」
「例えば徒競走、白組の選手の背中を押すのさ。ヴァイスの速さなら、ぶっちぎりで一等を取らせることができるだろ?」
「後ろから押すなんて、ちょっと危ないかもしれないでしょう」
走者が不意に押されたら、転んで怪我をする恐れがあった。
「ふーむ、そりゃ確かに危ないかもしれないな。よし、徒競走は無しにしよう」
その代わり、と勇二は、ヴァイスがこっそり参戦しても大丈夫そうな競技を提案した。
「ヴァイスって空飛べたよな?」
「飛ぶと言うよりも、浮遊できるって感じだけど」
「それができりゃあ十分だ。玉入れって知ってるか? オレにいい考えがある」
「いい考え?」
どうせロクでもないことであろうが、ひとまずヴァイスは耳を貸す。
玉入れという競技そのものは、ヴァイスに覚えがあった。地面に散りばめられた自チームと同じ色の玉を拾い上げ、籠に放るというものである。
「よく知ってるな、その通りだ。飛行でも浮遊でもどっちだっていい。散りばめられた玉を持てるだけ持って、浮かんで一気に籠に入れる。これで白組の一位は揺るぎないものになるってもんだ!」
ガハハ、と勇二は笑った。
「勇二くん、さすがにそれは反則なんじゃ……?」
「固い事言うなよ、雪斗。ただ玉を空飛んで一気に入れるだけじゃねぇか!」
「だから、それが反則だと……」
「それは面白そうね」
ヴァイスは乗り気になった。
「ヴァイスいいの!?」
「ええ、体育祭というものに興味あるし、団体戦なら私が混じってもバレないでしょう?」
「ヴァイス……」
雪斗は、それ以上は何も言わなかった。
「よぉし、それじゃあ今日の放課後、ヴァイスが参加できそうな競技について話し合おうぜ! 静香も来るよな?」
「うん、行けるよ」
「うっし、決まりだな! おっと、そろそろ時間だ。早く行かなきゃセンコーに怒られる。行こうぜ!」
雪斗たちは、校庭へと急ぐのだった。
そして、放課後。
雪斗の席に、四人は集まっていた。
「ヴァイスも出られそうな競技、リストアップしといたぜ」
いつの間にそんなものを作っていたのか、勇二はノートの切れ端にいくつか団体競技を書き留めていた。
その内容は玉入れ、綱引き、棒倒し、大玉転がし、そして騎馬戦であった。
「どうだ? これならみんなに怪しまれずにヴァイスも参加できるだろ?」
勇二がリストアップした競技は、どれも人が入り乱れて、一人一人の姿ははっきりしない、ヴァイスの姿が見えなくても違和感のないものだった。
しかし、騎馬戦だけは怪しまれそうだった。ヴァイスが上に乗るとして、馬役の雪斗たちだけしか見えないという懸念があった。
「なら、雪斗が侍役やりゃあいい。オレらでしっかり支えてやるからよ」
「馬役なら、雪斗を守れるわね。適材適所だわ」
「私も、雪斗くんを守れるなら……」
上に乗る役が、何故か雪斗になる流れになっていた。
「ちょっと、主旨変わってない? ヴァイスに楽しんでもらうのが目的でしょ」
「私は、どんなことでも雪斗を守る。それが私の存在意義だからね」
「ヴァイス……」
「よぉし、騎馬戦は雪斗が侍役だ。オレたちは雪斗を守るぜ、相手チームからな!」
「もう騎馬戦は僕が上でいいけど、他の競技はヴァイスが力を発揮するようにしようよ」
後に挙げられた競技は、どれもヴァイスの姿が見えなくとも問題ないものだった。
しかし、そのどれもが、女の細腕では過酷そうなものだった。今更かもしれないが、ヴァイスは姫である。体育祭などのスポーツイベントには縁遠かったと思われた。
「玉入れ以外はパワーがいるぜ。提案しといてこう言うのはあれだけど、ヴァイスの力の大元は魔法から来るものだろ?」
勇二の言葉に、ヴァイスは不敵な笑みを浮かべた。
「勇二は私が魔法なしじゃあ弱いと思っているようね? だったら試してみる? 私の力を」
「じゃあ腕相撲しようぜ! 腕っぷしには自信があるからな!」
「面白いじゃない、受けて立つわ!」
勇二とヴァイスは、腕相撲で力比べをすることにした。二人は机の上に向かい合い、腰を落として対決の体勢を取る。
「合図は雪斗、お前が出してくれ」
「僕が?」
「あら、それならフェアでいいわね。タイミングは雪斗に任せるわ」
二人は戦闘態勢のまま、雪斗の合図を待った。
雪斗は、突然の指名に戸惑ったが、合図を出すことにした。
「それじゃいくよ。レディー……ゴー!」
雪斗が合図をすると、勇二は速攻をかけようとした。しかし。
「うおおお!」
勇二は力を込めるが、ヴァイスは余裕の表情をしていた。
「勇二、それで力を入れているつもり?」
「くそっ、全力でいくぜ!」
勇二は、更に力を込める。しかし、ヴァイスにはびくともしない。
「その程度のようね。終わりにしましょう」
ヴァイスは、力を込めた。
「おわっ!?」
勇二は、がんっ、と一気に机に押し込まれた。
「うおお、痛えぇぇ!」
「私の勝ちね。どう? 魔法を使わなくても強いことが分かったでしょう?」
「ああ、悔しいがヴァイスの強さが分かったぜ……」
おお、いてて、と勇二は机にぶつけられた腕を振る。
「そのパワー、綱引きで活かせそうだな」
「あら、私は力だけじゃないわよ?」
ヴァイスは、スピードにも自信があった。
「スピードか。それも何かの役に立ちそうだな」
勇二は考える。
「よし、大体ヴァイスの力を借りる競技が決まったな。体育祭本番まで練習するとしようぜ」
「ちょっと待って、勇二くんはどうするの?」
雪斗が訊ねた。確かに、勇二はヴァイスの力を借りていない。
「オレはいいのさ。自分で言うのもなんだけど、オレはスポーツ万能だからな」
勇二は、帰宅部であるのがもったいないほど、スポーツに恵まれた運動神経を持っていた。
「うーん、でもヴァイスに体育祭を楽しんでもらうのが目的だし、勇二くんもヴァイスのサポートを受けた方がいいんじゃないかな?」
「そうは言うけどな雪斗、残る競技はオレのパワーとスピードがあれば一位間違いないぜ」
勇二は、一人でやると言って聞かなかった。
「徒競走以外団体戦だよ? 勇二くん一人の力じゃないよ」
「うーん、それもそうだな。でもどうやってヴァイスが参加するんだ? ヴァイスが出られそうな競技はもう無いぜ?」
「それなら、私が棒倒しで勇二の背中を押すわ。これなら怪しい事はないでしょう?」
ヴァイスは提案した。
「それならよさそうだ。そうしよう」
勇二は受け入れた。
「そうと決まれば早速トレーニングだ! 体操服に着替えてグラウンドに集合な」
雪斗たちは、競技の練習をするのだった。
※※※
雪斗の部屋で、雪斗は、ベッドに伏していた。
「あー……疲れたぁ」
体育祭の練習は、初日から激しいものだった。
基礎体力を鍛えるため、グラウンドで走り込みをして、腕立て伏せまでして、雪斗はくたくたに疲れていた。
「あれしきの訓練、まだまだ甘いわよ? もっと厳しく行かなきゃ」
ヴァイスも同じトレーニングメニューをこなしていたが、まだまだ余裕といったところであった。
「ヴァイスは、体力お化けだね……普通あんな練習してたら疲れて当然だと思うけど……」
「雪斗を守る役目を担っているんですもの、これしきの事でへばってられないわ」
ヴァイスは、白界の住人から雪斗を守るからこそ、体力は有り余っていた。
もう、一人で参加してもいいのではないか、と思えるほどだった。
「明日は朝から練習が始まるんだったよね? 気が重いなぁ……」
学校側から開かれる朝練が、明日から始まるのだった。
「ちゃんと起きるのよ、私も起きるから」
「うん、じゃあ起こしてね」
「こら、ちゃんと自分で起きなさい。目覚まし時計あるでしょ? 寝過ごしても助けないわよ」
「……ヴァイスの鬼、悪魔」
「なんとでも言いなさい。ほら、もういい時間よ、早く寝なさい」
「うん……お休みヴァイス……」
雪斗は、疲れに微睡むと、あっという間に眠ってしまった。
「雪斗ったら、目覚まし時計セット忘れてるじゃない」
仕方なく、ヴァイスが目覚まし時計のセットを行った。
ヴァイスは、何気なく雪斗の顔を覗いた。雪斗は、安らかな顔で寝息を立てていた。
(よく寝ているわね。命を狙われている身でありながら……)
今、この瞬間も白界の住人にその命を狙われている。夜に襲撃を受けたことはないが、それもいつまで続くか分からない。明日の晩にも攻めてくる白界の者がいるかもしれない。
そうした者から、雪斗を守るのがヴァイスの存在意義である。同じ白界の住人で、それも姫の身で、世界に反逆する立場でいる。
白界が終わりの時を迎えるまで、雪斗を守り通す。たとえどんな敵が立ちはだかろうとも、この命は、全て雪斗へと捧げるもの。ヴァイスはそう思っている。これまでもこれからも。
(今夜は、住人の気配はないわね。ゆっくり眠れそうね)
いつもは白界の住人の気配を探っているうちに朝が来てしまうのだが、今夜は気配が全く感じられなかった。
(寝られるうちに、眠ってしまいましょう)
ヴァイスは、布団に入った。暗いうちに寝たのは、いつ以来だったか。
(お休み、雪斗……)
ヴァイスも微睡みに沈むのだった。
※※※
時は流れて三週間後、体育祭本番。赤白青それぞれの組が声援を送り、体育祭は大盛り上がりであった。
『次は、三年生男子による徒競走です』
アナウンスが放送委員会によってなされる。
「よぉし! オレたちの出番だ! 練習の成果、存分に発揮しようぜ!」
「おぉー!」
白組団長らしく、勇二はチームを鼓舞した。その様は、統率の非常によく取れた軍団のようだった。
競争は進んだ。白組は一位になる走者が多く出た。
(次はいよいよオレの出番だな)
白組団長として、負けるわけには行かなかった。
勇二は、スタートラインに立ち、クラウチングスタートの姿勢を取る。
「頑張って、勇二くん!」
雪斗は、声援を送った。応援された勇二はちらりと一瞥を雪斗に返すと、ニヤッ、と笑った。
「よーい、スタート!」
スタートの合図と共に、走者たちは駆け出した。
勇二のスタートダッシュは上手く行き、一気に先頭に躍り出た。かと思ったら、野球部とサッカー部という、ダッシュの速い赤組と青組の選手が距離を詰めた。
(負けるかよ!)
ゴールは残りわずかで、勇二は逃げ切れるか否かのところへ攻められた。
「うおおおー!」
勇二は、叫びながらラストスパートをかけた。叫ぶことにより全身に力が宿り、限界以上の走力が引き出せる。
野球部とサッカー部という強者から逃げ延び、ゴールテープを切ったのは、勇二であった。
「よっしゃー!」
勇二は、ゴールテープを切りながら、両手をあげて喜びを示した。
「やったね、勇二くん!」
勇二は、雪斗のところまで走って、雪斗とハイタッチした。
「どうだ雪斗、オレの足速ぇだろ?」
「うん! 野球部とサッカー部の二人をぶっちぎるなんてすごいよ!」
「ははは、ヴァイスとの訓練も役に立ったかもな」
白界の住人との戦闘を想定した訓練では、走り込みも行っていた。
「足腰鍛えるのも重要だと思うからね。訓練で走ってたのがいい方に転がったわね」
ヴァイスは言った。ヴァイスはいつも通り雪斗の側に控えていた。
『続きまして、全学年による玉入れを行います』
アナウンスが次の競技を発表する。
「おっし、ヴァイスの出番がやって来たな!」
ヴァイスの飛び入り参加の時が来た。手はずでは、校庭に散らばった玉をできるだけ集め、その玉を持って浮遊し、籠に一気に入れる手はずだった。
「せいぜい、楽しませてもらうわ……」
ヴァイスは、魔法を使った。ヴァイスの服が体操着に変化し、髪もポニーテールに結った。
「ヴァイス、その格好!?」
雪斗は驚いた。
「体育祭ではこの格好がマナーでしょう? 動きやすくていいわね」
ヴァイスの体操服姿は、よく似合っていた。
普段のドレス姿とは打ってかわって、露出が増え、白界の住人らしい白い肌の手足が目を引いた。
純白の髪も見るからにさらさらで、ポニーテールが美しいほどだった。
「でもちょっと胸がキツいのよね。サイズを間違えたかしら?」
ヴァイスの胸は、確かに体操服からでも形が分かるほど張っていた。更にそう言われると雪斗ら男子二人は、目のやり場に困った。
「ん? 二人ともどうしたの、あさっての方向を見て?」
「い、いや、何でも……ああほら、玉入れ始まっちゃうよ! 行こう、二人とも!」
「お? おう、そうだな。絶対勝とうぜ!」
雪斗たちは、魅惑の膨らみから目を離し、校庭へと駆けていった。
雪斗たちは、ヴァイス浮遊玉一気入れ作戦の詳細を立てていた。
それは、地に転がった玉をできる限り数かき集め、ヴァイスに渡して、ヴァイスに何度も浮遊して籠に入れてもらうのだ。
この作戦には、静香は参加しない。応援側だからである。
そうこうしている内に、玉入れがスタートするアナウンスが流れた。
『位置について、よーい、スタート!』
玉入れが始まり、選手たちは一斉に地面に転がった玉を拾っては自組の籠に放った。
「よし、雪斗、ヴァイス、作戦通り行くぞ!」
「うん!」
「えぇ」
雪斗と勇二は、手はず通り白い玉をヴァイスの元に集めた。やがて白い玉は山となった。
「よし、こんだけ集めりゃ一旦十分か。ヴァイス頼む!」
「任せて」
ヴァイスは、二人がかき集めた白い玉を塊とし、地を蹴った。ヴァイスは、籠の先まで一気に到達し、白い玉の塊を籠の中に入れ込んだ。
「ヴァイス、また集めておいた。下りてきて入れてくれ!」
「分かったわ」
ヴァイスは、高速で地面に下りた。瞬間移動を利用したヴァイスの得意な技の一つだった。
ヴァイスは、再び白い玉を塊にして、空に飛び上がった。
ヴァイスが塊を籠にいれたのと同時に、終了のピストルが鳴らされた。
「おっしゃ、作戦成功だな!」
他の組の籠と比べて、白組の籠が圧倒的に玉がいっぱいであった。
籠から一個一個玉のカウントが行われた。赤組と青組は五十前後でカウントが終わったが、白組は七十まで数えられた。
『一位、七十個白組、二位、五十五個青組、三位、五十二個赤組』
「おおー!」
アナウンスが発表された。結果は白組の圧勝であった。白組陣営は、勝利に歓喜を表した。
「よくやってくれたな、ヴァイス!」
勇二は、ヴァイスを称賛した。
「でも不思議だね。てっきり、勇二くんのことだから、玉の数、百個は入れるかと思ったのに」
勇二は、ちっちっち、と指を振った。
「考えが浅いぜ、雪斗。そんなにいっぱい玉入れたら、他の組やセンコーたちに怪しまれるだろ? だからわざと点差が大きく広がらないようにしたのさ!」
勇二の言うことは、言い得て妙であった。確かに、百点以上で白組が勝ったら、白組が何か、イカサマをしていると疑われる可能性があった。
「勇二にしては考えたわね」
「おいヴァイス、オレにしてはってどう言うことだよ?」
「いいえ、何でも」
『続いては、三年生の生徒による棒倒しを行います。参加者はグラウンド中央部に集合してください』
アナウンスが流れた。
「うおっと、もう始まるのか。遅れたら失格になっちまう! ヴァイス、次も頼むぜ!」
三人は、校庭の中心に向かった。
校庭の真ん中には、各組ごとに高さ三メートルはあろう棒が立てられていた。
棒倒しのルールは、いたって簡単で、自チームの棒を守りつつ、相手のチームの棒を倒しにかかるのである。オフェンスとディフェンスの配分が重要だった。
「みんな! みんなはディフェンスに専念してくれ! オフェンスはオレと雪斗で行く!」
「おいおい、大島、白石とたった二人で倒しに行くってのかよ!? そりゃ無茶じゃねぇのか?」
いくらヴァイスがいると言っても、姿が見えないのでは、雪斗と勇二だけが二人でかかるように見えてしまった。
「勇二」
ヴァイスが勇二を呼んだ。
「作戦変更よ。私がディフェンス役をやるわ。あなたたちでオフェンスに回りなさい」
「ヴァイスがディフェンス? 見えないのにどうディフェンスやるってんだよ?」
「私は普通の人に見えないだけで、存在はしているわ。つまりお互いに触れ合う事ができると言うことよ。大丈夫、怪我させる事はしないから」
ヴァイスの言っていることは、透明人間がディフェンスするような事だった。怪しまれる可能性は十分にあった。
「ヴァイス一人じゃダメだ。他の奴らもディフェンスに回す」
勇二は、組のみんなに向いた。
「鶴田、姫野、斎藤、大川、小山。お前たちはディフェンスに当たってくれ。その他のみんなは、オレと雪斗でオフェンスだ!」
おー、とチームの生徒たちは応じた。
「これで大丈夫だな、思う存分戦える。雪斗、赤組から棒を倒すぞ!」
「う、うん……!」
開始のピストルが鳴らされた。
「行くぜぇ! らあああああー!」
勇二は、叫びながら敵陣に駆け込んでいった。
赤組のディフェンスに押し止められたものの、それをものともせず、勇二は押し合い棒へと向かう。
「くそ、オレ一人じゃ捌ききれないか。雪斗!」
「何、勇二くん!」
「オレがディフェンスをどうにか食い止める。隙を見て棒まで走れ!」
「うん! 分かったよ!」
雪斗も押し下げられながらも隙を窺った。
雪斗は、赤組のディフェンスを掻い潜って棒へ向かった。雪斗は、細身を活かし、どうにか棒まで到達することができたが、いざ倒そうと言うところで、問題が起きた。
「ぐっ……倒れない!」
棒を倒すのに、雪斗には十分な力が足りなかった。
そうこうしている内に、赤組のディフェンスが戻ってきた。棒を守られるのも時間の問題であった。
悪戦苦闘する雪斗に、突如として救いの手が差し伸べられた。
「えっ、ヴァイス!?」
ディフェンスに回っていたはずのヴァイスが、あっという間に雪斗の元までやって来た。
「ヴァイス、一体どうやって?」
「説明している場合じゃないわ。二人で力を合わせるわよ」
ヴァイスの力が込められると、棒はいとも容易く倒れてしまった。
パパン、と赤組敗北のピストルがなった。
「やったわね」
「いや、まだだよ。青組が残ってる」
白組のディフェンスと青組のオフェンスが、ぶつかり合っていた。
「一気に行くわよ!」
ヴァイスは、雪斗の手を取った。
「えっ!? 何をす……!」
雪斗は、言い切れぬまま、ヴァイスとともに空間から姿を消した。二人が再び姿を現したのは、守りの疎かとなった青組の棒の側だった。
「二人で倒すわよ、いいわね!?」
「う、うん!」
二人は、同時に力を込めた。雪斗の力だけではびくともしなかった棒は、ヴァイスと力を合わせることで簡単に倒れた。
というより、ヴァイス一人の力で全てどうにかなった。
「やったわね、雪斗」
「ヴァイス、僕は飾りでしょう? キミ一人でなんとかなったけど、見えないから怪しまれないように僕がやったように見せたんでしょ?」
「あら、やっぱりバレてたかしら? ディフェンスをやってて、見えない所から守りの手があっちゃ、そっちの方が怪しまれると思ったのよ」
「瞬間移動使ったら、余計に怪しまれると思うけど……」
『只今の棒倒しの結果を発表します。一位、白組。二位、青組。三位赤組です』
「よっしゃー! よくやったぜ、みんな!」
勇二に続いて、組の皆も喜びを表した。
「まあ、怪しまれてないようだし、いいんじゃないかしら?」
「ヴァイス……」
『次の競技を発表します。全学年による綱引きを行います。運営係は準備をお願いします』
アナウンスは流れた。体育祭運営係は綱の用意をする。
「これなら、全力で行っても大丈夫そうね。腕がなるわ!」
ヴァイスの力なら、綱を引き千切ってしまうのではないかと思われた。
「ヴァイス、ほどほどにね」
「おう、二人ともここにいたか!」
勇二が声をかけてきた。傍らには、静香の姿があった。
「勇二くんに静香さん。二人揃ってどうしたの?」
「次の綱引きでは、オレたち、エフ、シー、キー・トリガーパーソンチームで当たろうと思ってな!」
「意味あるのかな、それ……」
「白界の住人と戦って、お互いに守りあってるんだ。団結力は他のどんなチームにも負けやしねぇよ!」
「……私は力には自信ないんだけど」
静香が遠慮がちに言った。
「大丈夫さ静香! たとえ力に自信がなくたって、綱引きはチームで戦うもんだ。オレらでカバーしてやるよ!」
チームというより、集団で戦うものなのでは、と雪斗は思った。
『綱引き第一回戦を行います。第一回戦は、赤組と青組です』
「っと、始まるみたいだな。オレたち白組はお休みのようだな。じっくり見学して戦いに備えようぜ!」
雪斗たちは、校庭の外に退いた。
「位置について、よーい……!」
パコン、とスターターピストルを、教師が鳴らした。
大声をあげ、綱を引っ張り合う赤組と青組の生徒たち。一進一退でなかなか勝負が決まらない。
生徒たちの体力気力も落ち始めた頃、綱の中心の色帯が青組の方に引かれていった。
やがて、制限時間がやって来た。
パンパン、とピストルがなる。
勝ったのは青組だった。
「うーん、青組はスタミナがあるな。長引くと厄介だ、速攻を決めよう」
勝った青組は、そのまま白組との対戦となる。
「位置について」
生徒たちは、綱の前に立つ。
「よーい……」
万歳の姿勢を取る。
パン、とピストルがなる。同時に生徒たちはしゃがんで綱を取った。引っ張り合いが始まった。
「うおおおー!」
勇二は、やはり大声を上げて綱を引く。
「やあああー!」
「えーい!」
雪斗と静香も声を上げた。
全員が全力を出し合う中、ただ一人だけ余裕の表情をしている者がいた。
それは、ヴァイスである。
「ふーん、綱引きなんて言っても所詮はこの程度、か……」
「ヴァイス?」
雪斗が言うと、ヴァイスは全力を出した。
「はああああ!」
ヴァイスは、綱を握って反対側に走り出した。
「うお!?」
「えっ!?」
「ふえっ!?」
雪斗たちまでも、ヴァイスに引っ張られた。
綱の中心の色帯が、一気に白組側に引き寄せられた。
パパン、と慌てて教師はピストルを鳴らした。
結果は白組の、いや、ヴァイスの圧勝となった。
「ヴァイス……」
「ヴァイス、お前どんな怪力してるんだよ!?」
「雪斗を白界の者から守る、そのための力よ」
改めてヴァイスは普通の人間ではないのだな、っと思い知らされる雪斗たちであった。
続く赤組戦も、ヴァイスの圧勝で終わるのだった。
体育祭も佳境を迎え、最後の競技がやって来た。
『次は最終競技、三学年による騎馬戦です。用意をお願いします』
「ついに来たな、オレたちのチームワークを見せる時が!」
勇二は、意気揚々としていた。
「僕が上、なんだよね……」
対して雪斗は、元気がなかった。
「なんだ雪斗。緊張してんのか?」
「うん、ちょっとね……」
「大丈夫だよ、雪斗くん。私たちがしっかり支えてるから」
「いざとなれば、私が雪斗たち三人を守るわ。思い切り行きましょう!」
「大げさだよ、ヴァイス。でも、ヴァイスみんなに見えないし、下三人に見えなくて怪しまれたりしないかな?」
「んなもの、ごっちゃごちゃになったら気にするヤツいねぇよ」
勇二は、あくまで楽観的であった。
そしてしばらくすると、各組の選手たちが、激しい戦地になるであろう、校庭に集まってきた。
「オレらも行こうぜ。勝ち残って見事に優勝だ!」
心を決めた四人もまた、戦地へと赴いた。そして陣形を組む。
雪斗は、三人の上に、馬に股がるように乗った。
「よーい……!」
パン、と教師は最後のピストルを鳴らした。
「うおおおお!」
選手たちは、雄叫びを上げながら首級の鉢巻の取り合いをした。
雪斗は、伸びてくる敵の手を捌くのに手一杯で、なかなか鉢巻を取れない。
(……っく! ダメだ、付け入る隙がない……!)
なかなか鉢巻を取れずにいる雪斗に活路を開こうと、勇二は裏技を使った。
「ライトニング……」
勇二は、ボソッと詠唱した。それに比例するように、いつもより威力の抑えられた雷が発生した。
「痛っ!?」
「今だ雪斗!」
「えっ? ええーい!」
勇二の小さな雷で手を引いた選手の隙を逃さず、雪斗は相手の鉢巻を頭から取った。
「よし! まずは一本!」
「よし、じゃないよ勇二くん。魔法は反則だって」
「後ろから来てるわよ!」
「ウインドシールド」
静香は、風の盾を展開した。
「ええっ!? 静香さんまで!?」
盾の吹かす風が砂塵を巻き上げ、後ろから来ていた選手の視界を遮断した。
「ナイスよ、静香! さあ雪斗、今のうちに……!」
「もうなんとでもなっちゃえ!」
雪斗は、視界を奪われた選手の鉢巻を取った。
「やったぜ雪斗、二本目だ!」
「二人とも、魔法は反則だって」
「サウザンドアイシクル・プチ」
ヴァイスは、手の親指大のつららを飛ばした。そのつららで、相手選手が雪斗に近付けないようにした。
「ヴァイスまで何をするのさ!」
「いいから、今のうちに取っちゃいなさい」
雪斗は居たたまれず、相手から鉢巻を取った。
「ヴァイスやるじゃねぇか! 三本目だ。後一本で勝負は決まるぜ」
下の三人から、雪斗は熱い視線を受けていた。魔法を使え、というものだった。
雪斗はまた、居たたまれない気持ちになり、出力を可能な限り抑えて放った。
「……アイシクル」
雪斗の人差し指からつららが伸び、前に迫った選手の頭と鉢巻の隙間に刺さり、鉢巻を取った。
「こ、氷の針……!?」
魔法とは知る由もない選手は、固まるしかなかった。
雪斗は、つららに引っ掛かった鉢巻を手に取った。
パパン、と試合終了のピストルが鳴った。
「よっしゃー! オレたちの勝ちだ!」
三人は、雪斗を地に下ろすと、勇二が雪斗を抱き締めた。
「ちょっ、止めてよ、勇二くん……!」
「よくやったわ、雪斗」
「雪斗くん、かっこよかったよ」
「おっと、結果発表と閉会式が始まるな。急ごうぜ!」
勇二は、雪斗を放し、全校生徒が校庭に集合するのに混じった。
体育祭結果発表に定番の音楽が流れる中、放送委員から得点が発表される。
『第三位、赤組、六〇〇点』
最下位は赤組である。三年生は、早々に悔し涙を流す生徒がいた。
『第二位、青組、七二〇点』
青組の三年生もまた、涙した。
『優勝、白組、なんと一二〇〇点! おめでとうございます!』
「よっしゃー!」
男子生徒たちは、雄叫びのような声を上げ。
「やったー!」
女子生徒たちは、黄色い歓声を上げた。
ほとんど雪斗たちのおかげで、白組はぶっちぎりの優勝となった。
「やったな、雪斗!」
勇二が雪斗の肩をパンパンと叩いた。
「僕は何も……功労者を言うなら、ヴァイスだよ」
「ちょっとばかり本気を出しただけなのだけれど……」
人間離れした身体能力で、ヴァイスは出場した競技の首位を総なめにした。故にヴァイスこそが功労者だと、雪斗は思った。
「静香の魔法もなかなかだったな。防壁が出す風を利用するなんてな!」
「あれは、私にはあれくらいの事しかできなかったから……」
うんうん、と勇二は腕組みをしながら頷いた。
「だったら、MVPはオレたちだ! 打ち上げ行こうぜ! 腹もへったしよ」
体育祭は、熱中症防止のため、午前で終了した。これからめいめいに昼食を食べる生徒と父兄に溢れていた。
「この様子じゃ、この辺の飲食店は混んでるんじゃないかな?」
「うーん、そうだな、静香の言う通りだ。急ごう! ファミレス行こうぜ!」
雪斗たちは、まだ熱気の残る校庭を後にするのだった。




