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プロローグ

プロローグ


 そこには、白に包まれた世界があった。


 世界は、いくつか存在すると言われたら、信じられるだろうか。そして世界には寿命があるということも。


 寿命を迎えつつある世界は、雪に包まれて白へと変わり、静かに消えてゆく。


 白に消えゆく運命にある世界を、白界(びゃっかい)と言った。

 白界の住人は、何万何億の時を生き永らえてきた。その方法は、他の世界の(キー)を奪うことであった。


 今もまた、白界の住人は鍵を探し、他の世界へ足を踏み入れていた。


    ※※※


 とある雪の降る夜、少年が書面を持って肩を落としていた。

 その書面とは、模試の結果であった。


 国語六十点、数学四十二点、社会六十六点、理科四十七点、英語六十九点。何とも平凡な点数だった。


(一高E判定か、はぁ……)


 模試の結果に名前が書かれてあった。


 白石雪斗(しらいしゆきと)、これが彼の名前である。

 華奢な体で、髪型も少し長めの、一見少女にも見える少年だった。


 雪斗は、模試の結果にがっかりしていた。それなりに勉強を積んだつもりであるのに、結果が振るわなかった。


(どうしよう、こんなの母さんに見せられないよ……)


 母親に見せなければならない模試の結果だが、どやされるのは間違いなかった。


(ふう……寒いし、帰ろうか……)


 雪斗は家路につくことにした。


(うん? 何だろうあれ)


 雪斗は何かに気がついた。街灯がまだついてない路地に青白く光る何かが空間を漂っていた。

 雪斗は、誘われるように光のところへ歩み寄った。


「ちげぇ、こいつもちげぇ……」

「本当にここらにいるのか? この世界の『キー・トリガーパーソン』が」


 真っ白な装束で、真っ白な髪の男二人組が、松明のようなものを持って、それを道行く人に向けていた。


(『キー・トリガーパーソン』? 何を言っているんだ、あの人……)


「ああ?」

 二人組の内一人が雪斗に気が付いた。

「はっ、いや、あの……!」

 雪斗は、絡まれないように適当に言葉をつくろってこの場を去ろうとした。

「こいつ、オレらの事が見えてんのか?」

「おい、お前、これを見ろ!」


 もう一人の男が、仲間の男に松明を見せた。

 松明の火は、激しく燃え盛っていた。


「この反応、間違いねぇ。このガキ、『キー・トリガーパーソン』だぜ!」

「マジかよ!? 噂は本当だったんだな、この世界のこの辺りで(キー)の気配があるって!」


 二人組は喜色を浮かべた。


「決まりだな、おいガキ。白界(びゃっかい)のためだ。その命、世界のために捧げてもらうぜ!」


 白い男は、手に剣を出現させた。


「死んどけや! このガキ!」

「う、うわあああ!」

 雪斗は、一目散に逃げ出した。

「逃げ場はねぇぜ、ガキ!」

 もう一人の男に、逃げ場を塞がれてしまった。


 雪斗が絶体絶命となった瞬間、バキィン、という鋭い音がした。


「これは、障壁の魔法!?」


 突然発生した氷の障壁に、男の剣は弾かれていた。

 同時に、雪斗の両腕が蒼く輝いていた。


「僕の腕が……!?」

「さすがは『キー・トリガーパーソン』、一筋縄では行かないか。なら……!」


 男は、剣に冷気を纏わせ、氷の刃を作り出した。


「コールドブレイド! 食らいやがれ!」

 男は、氷の刃を振るった。

「止めてよ!」

 雪斗は、再び無意識に氷の障壁を展開し、来る斬撃に備えた。

「今度は防ぎきれるかな!?」


 パリン、と音を立てて、雪斗の障壁は打ち砕かれてしまった。


「もらったぁ!」

 男の刃は、雪斗を断とうとしていた。


(誰か助けて!)


 今度こそ、雪斗の命が奪われようとしたその時だった。


 ずっしりとした氷柱(ひょうちゅう)が、雪斗と男の間に落ちた。


「えっ!?」

「何っ!?」

 雪斗と男は、同時に驚いた。


 氷柱が降ってきた方を見ると、そこには純白のローブを身に纏い、金のストールを羽織った少女が飲食店の看板の上に立っていた。


 少女は、白金色の長い髪を風になびかせ、金色の瞳を男たちに向けていた。


「白金の髪に、金の瞳。まさか裏切りの姫様じゃないのか!?」

「何だって!? どうして姫様がここに!?」

「裏切りの、姫、様?」


 雪斗は状況を飲み込めずにいた。


 少女は看板の上から飛び下りたかと思いきや、一瞬で雪斗の前に瞬間移動をした。


「ここは私に任せて、この世界の『キー・トリガーパーソン』……」

 少女は、静かに言った。そして金の瞳を男たちに向けた。それだけでも男たちをたじろがせるのに十分であった。


「く、来るのか裏切りの姫!?」

「ふっ、裏切りの姫、ね。確かに私のやっていることは、白界に仇なす事ね」

 少女は、静かに笑った。

「無理だ、姫様に勝つだなんて……!」

「いや、オレら二人がかりならもしかすると……」

 少女はまた笑った。

「あなたたち程度の相手、いくら束になろうとも私には勝てない。それが分からないほど愚かではないでしょう?」


 男たちはたじろぐ。


「ふん、白界の姫だからって、調子に乗るなよ! あんたの首を王様に持っていけば、オレは王様より直々に高位の地位につかせてもらえるんだ。つまり、これは好機だ!」


 男は、剣を持つ。


「その首、いただくぜぇ!」

 男は、剣を振るった。しかし。

「……ぬるいわね」

 少女は、片手に冷気を込め、攻撃を受け止めた。受け止めるだけに止まらず、冷気を男の剣に纏わせ氷漬けにさせてしまった。

「……その程度で私を討とうだなんて、甘く見られたものね……」


 少女は、心の底から哀れんでいた。


「くっ、くそ!」


 男は逃げ出した。少女はそこへ、氷柱の矢を放った。

 氷柱の矢は、男の頬を掠めた。つーっと血が頬を伝わる。

「もう終わりかしら?」

「なめるなよ、今度はオレが相手になってやるぜ!」


 もう一人の男は、槍を顕現させた。


「こいつで心臓を貫いてやるっ!」


 もう一人の男は、槍を突き出した。

 少女は、冷気を地面に向かって放ち、氷柱(ひょうちゅう)を作り出した。


 少女の作った氷柱は、鋼よりも硬く、襲い来る槍を折ってしまった。


 少女が念を解くと、氷柱は崩れた。


「ひっ、ひいい!?」

「やっぱ敵わねぇよ、逃げろー!」

 男たちは、一目散に逃げ出した。

 少女は、右手に冷気を浮かばせ、ふー、と吹いた。

「うおっ!?」


 冷気は地面を伝わり、逃げる男たちの足を凍らせた。


「何だこれ!? 立ち上がれねぇ……!」

「……私に挑むなんて戯れが過ぎたわね。せめて安らかに散らせてあげるわ……」


 少女は念じた。すると空中に数えきれないほどの氷の矢が出現した。


幾千の氷柱(サウザンドアイシクル)


 少女が手を宙にかざすと、足を奪われた男たちに向けて、氷の矢が一斉に放たれた。


「ぎゃああああ……!」

 男たちは、断末魔を上げ、無数の矢に貫かれていった。


 やがて断末魔は止んだ。それと同時に亡骸となった男たちは、全身を粉雪のように変え、風に吹かれ消えていった。


 ぱっ、と今まで点いていなかった街灯が輝いた。


 暗がりで、今までよく見えなかったが、光照らす今、雪斗は少女の姿形がはっきり分かった。


 真っ白な髪を腰元まで伸ばし、衣服も純白である。黄金色の瞳をしており、浮世離れした容姿であった。


 雪の精霊という言葉がよく似合う容姿をしていた。


 そんな少女は、街灯に照らされる雪を見上げていた。


「綺麗な夜ね……」

 少女は、手のひらを空に向け、雪を手に受けた。少女の行動は、どこか儚い印象を受ける。


「ねぇ……」

 少女は雪斗に問いかける。

「あなたは、雪は好き?」

 それは、雪のように儚い問いかけであった。

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