氷エリアからの脱出
「おっかしいなあ、仕様としては間違ってないんだが…」
俺は眉をひそめながら、能力音波計の表示を睨った
波形は合ってる
出力も制限内
理論上は――問題ない
なのに
――キィィ……ン……
氷の世界が、低く唸るように鳴った
純が顔をしかめる
「ほら! まただ! これ絶対“聞こえない音”の範囲超えてるだろ!」
滝も耳から手を離し、音波計を覗き込む
「陽仁……これ、音だけじゃなくて……空間ごと揺らしてねぇか?」
「これはもしや、 いるって合図かもしれねぇな」
――パキ……パキパキ……
足元の氷が、脈打つように震え始める
一定のリズム、偶然じゃない
滝が顔を上げる
「……応答してる。智嬉が……俺たちに反応してるんだ」
純は耳から手を離し、周囲を睨む
「おいおい、合図にしては派手すぎねぇか? 地面ごと揺れてんぞ」
「でもな」
俺は音波計の数値を確認しながら続ける
「ノイズじゃねぇ。返ってきてる“波”だ。
しかも……一定の間隔で、こっちに合わせてきてる」
「あ! 智嬉!!」
滝は慌てて駆け寄ると、氷の壁からぐわぁら!!
と拳で割った音がすると…
やはり、智嬉だった
氷が爆ぜるのではなく、内側から押し割られるように砕け散る
冷気と氷片が舞い上がり
俺と純は思わず腕で顔を庇った
「お、おい滝!? 無茶――」
純の声は、途中で止まった
氷の壁の向こう
そこにいたのは――
膝をつき、肩で息をしている智嬉
「っはあーー!! 危なかったああ!!」
と目が覚めるような一声をした
「……」
助けに来た3人が黙る
純が最初に口を開いた
「……お前さ」
滝も目を丸くしたまま
「……生きてる?」
智嬉はきょとんとした顔で二人を見上げ
「え? そりゃ生きてるけど……なに? そんなヤバい顔して」
「いや、俺らはてっきり…なあ?」
と純は滝に肩を叩きながら苦笑する
「う、うん、智嬉が悪夢の中泣いてるんじゃないかって 1人でずっと悪夢に囚われていたら、抜け出させなくなるから…」
智嬉はきょとんとしたまま二人を見比べ
それから、ゆっくりと目を瞬かせた
「……泣いてた、か」
自分でも意外だったのか、智嬉は小さく笑う
「夢の中じゃさ、泣いてる自覚すらなかったよ
ただ……ずっと“守らなきゃ”って思ってて
俺は現実世界じゃ、滝を殺されたくない、前線を斬って戦う戦闘員だからさ」
その言葉に、滝の表情が曇る
智嬉は肩をすくめるように続けた
「前に出て、斬って、止めるのが俺の役目だろ
だからさ……後ろに下がるって発想が、最初からなかった」
氷の冷気が残る空間で
その言葉だけが、やけに生々しく響いた
滝はしばらく黙っていたが
低い声で口を開く
「……だから一人で凍ったのか」
「凍ったっていうか、 なんていうか ここに敵が現れたんだ お前たちも見なかったか? 過去を思い出させる敵」
智嬉は頷く
「姿ははっきりしねぇ。でもな……
やたらと“過去”を突いてくるやつだ」
その言葉に、俺と純は思わず顔を見合わせた
「過去を思い出させる敵……」
滝が静かに繰り返す
智嬉は少しだけ、視線を落とした
「俺の場合はさ……
“守れなかった時の記憶”だった」
氷の床に、ひびが走る
「前線で一歩遅れた瞬間とか
判断を間違えた時の感覚とか
……あれを、何度も何度も見せてきやがる」
「あ! 俺も親父の記憶を見せてきたぞ!」
と滝が智嬉に思い出して話す
純は舌打ちして
「チッいやらしい野郎だな 他人の弱みを思い出せるなんざ」
滝は小さく息を吐き、視線を氷の奥へ向ける
「俺の場合は……親父だった」
智嬉がはっとして滝を見る
「貴明さんの記憶を、か」
「ああ」
滝は頷く
「戦い方も、背中も、言葉も……
全部“まだ届いてない俺”のままの親父をな」
拳を握る音が、静かな空間に響いた
「“お前はまだ足りない”って
言われてる気がしてさ」
智嬉はゆっくり息を吸う
「……それはキツいな」
純が腕を組み、鼻で笑う
「なるほどな。
そいつ、ただの幻覚じゃねぇ」
俺は3人の話を聞きながら、溶けていく氷を見渡し、安堵した
「なあ、早く司令官に報告しようぜ! 寒くて仕方ねえ!」
純が即座に同意する
「賛成。これ以上いたら俺のハチマキが凍る」
智嬉は苦笑しながら、自分の腕をさすった
「悪い悪い。俺のせいで冷房効かせすぎたな」
「冷房のレベルじゃねぇよ」
滝が小さくツッコミを入れながら、転送ポイントを見る
「司令官には全部話そう」
滝ははっきりと言った
「過去を使う敵のこと封鎖領域の仕組み
そして……智嬉が戻ってきたこと」
「ああ、了解だよリーダー!」
と俺は頷き、全員でテレポートを使い司令官室へ再び戻った




