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13 決意

「さぁ、早くこっちへ来い、ローラ。そうしなければこの体ごとイヴを殺すぞ」


 エルヴィンはそう言って、自分の首に剣をあてがった。


「そんなことしたらお前は体を失うだけだ」


 フェインが冷静に言うと、エルヴィンは薄ら笑いを浮かべた。


「はっ、体なんていくらでもあるだろ。イヴの兄たちだって俺にとっては都合の良い器だ。こいつらもそれを心得ている」


 エルヴィンの言葉にイヴの兄たちは目を合わせ大きく頷く。


(この人はどこまで身勝手で傲慢で残酷なの?生前から何も変わっていない……!)


ローラはエルヴィンの言葉に呆然とする。百年前も身勝手で傲慢で自分のことしか考えないような王子だった。

 ローラを平気で殺そうとしたこの男は、王位継承が相応しくないと判断されて断罪されたのに、死んでも反省するどころか変わらずに身勝手で傲慢なままだ。


「イヴには長く付き合っている大切な女がいるんだとよ。イヴが死んだらその女はどう思うだろうなぁ?イヴが死んでその女が悲しむことがあれば、それはローラ、あんたのせいだ」


 イヴの兄がそう言ってへらりと笑った。


(イヴにそんな人が……!)


 イヴは兄たちのとは違ってちゃんと自分自身を生きている、大切に思う人がいても当然なのだ。そんな人なら尚更、ちゃんと生きて国に帰さなければいけないのに。


 ローラはさらに目を大きく見開いてエルヴィンを見つめる。エルヴィンのことだ、ローラが行かなければ平気でイヴを殺すだろう。


「貴様ら!どこまでクズなんだ!!」


 ヴェルデが怒鳴るとクローが笑みを浮かべたまま肩をすくめた。


「そんなに刺激して大丈夫ですか?イヴの首が吹っ飛んでしまいますよ」


 クローの言葉に連動するようにエルヴィンは首にあてた剣に少し力を入れる。するとエルヴィンが憑依しているイヴの首から一筋の血が流れた。


「やめてください!」


 ローラの悲鳴のような声が響き渡る。


「嫌ならさっさとこっちに来い。お前は俺の手で殺してやる」


 エルヴィンの言葉にローラは両目をぎゅっと瞑る。迷っている暇はない。自分にできることは一つしかないのだ。


 ローラが歩き出そうとするのを見て、ヴェルデは叫ぶ。


「行ってはだめだローラ!」


 ヴェルデの声にローラは立ち止まり、ヴェルデを見た。その顔は少し悲しげで、でも何か吹っ切れたような清々しい表情だった。


(ごめんなさい、ヴェルデ様。ヴェルデ様を悲しませてしまうことはしたくなかった。でも、もうこれしか……)


「これしか方法がないんです。もう、私のせいで誰かが悲しむのは見たくありません。……ヴェルデ様、こんな私に幸せなひとときをくださってありがとうございました。あなたと一緒にいられて、本当に幸せでした。ヴェルデ様のこと、愛してます」


 ふわっと微笑むローラの顔は清らかであまりにも美しく、ヴェルデは息を呑む。近くにいたフェインも、ただただローラを見つめることしかできなかった。


 そのままローラがまっすぐにエルヴィンを見て歩き出そうとしたその時。


「……めだ、だめ、だ」


 エルヴィンの口が勝手に動く。エルヴィンの剣を持つ手がカタカタと震え、表情は苦しそうに歪んでいる。


「な、にを、貴、様」

「だめ、だ、ローラは、お前に、ころさ、せ、ない」


 ドクン!とイヴの心臓が大きく動き、エルヴィンの手から力が抜けて剣が落下する。そのままガクン、とエルヴィンは膝から崩れ落ちて地面に倒れ込んだ。


 それと同時に、イヴの体から黒いモヤが近くへ弾け飛ぶ。


「な!!まさか、そんな!」


 クローが慌てたようにイヴの体と黒いモヤを交互に見た。


「う……っ」


 イヴの体が起き上がり、そこにはエルヴィンではなくイヴがいた。


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