結婚式
もう行ってしまうのかとローラに言われ、ヴェルデは瞠目する。
「ローラ様、そんな顔でそんなこと言われたら……」
ヴェルデは何かを堪えるように視線を逸らし、首を振る。それを見て、ローラは寂しそうに俯いた。そして、それに気づいたヴェルデはハッとしてローラの肩を優しく掴む。
「ローラ様、何か勘違いしているかもしれませんが、俺は結婚式まで我慢するつもりなんですよ。今あなたに手を出したら、欲に駆られて止まれなくなってしまう。あなたに無理させたくないんです」
ヴェルデの瞳は愛と欲がマグマのように熱く溶け出しドロリと流れ出ているかのようだ。その熱さに、ローラは体の奥から熱せられ火傷してしまいそうになる。
「ヴェルデ様……」
「本当は触れたくてたまらない、あなたにありったけの愛を伝えて注いで抱き潰したい」
その言葉を聞いて、ローラの顔は一瞬で真っ赤になる。それを見て、ヴェルデは妖艶に微笑んだ。
「俺の気持ち、わかってくれました?でも、今あなたに触れたら歯止めがきかなくなる。明日は結婚式です。とても大事な日でしょう」
そう言って、ヴェルデはローラの片手を取り、甲に小さくキスをする。
「だから、もう少しだけ待ってください。……俺だけが我慢していると思っていたけれど、ローラ様も期待してくれていたんですね。嬉しい」
「……!」
あまりの恥ずかしさに、ローラは何も言えずただヴェルデを見つめることしかできない。そんなローラを見て、ヴェルデは嬉しそうに微笑む。
「楽しみにしていてくださいね」
ヴェルデはローラの耳元に顔を近づけてそう言い、今度こそ体を離して立ち上がった。そして、部屋から出て行く。
取り残されたローラは、顔を真っ赤にしながら放心状態でヴェルデが出て行ったドアを見つめていた。
翌日。結婚式はサイレーン国で行われ、ティアール国第一王子のメイナードも出席し祝福した。
「二人とも、おめでとう」
式が無事に終わり、メイナードがティナを連れてローラたちへ声をかける。
「ほんとうに素敵な式でした。ローラ様、とってもお綺麗です」
「ありがとうございます」
ティナが頬を赤らめ目を輝かせてそう言うと、ローラは嬉しそうに微笑んだ。
「色々あったけれど、こうして君たちが晴れて夫婦になれて本当に良かった。その後、ティアール国でおかしな動きはない。安心していいよ」
メイナードの言葉に、ヴェルデとローラは目を合わせホッとする。
「そのうちティアール国に遊びに来てくれ。歓迎するよ」
「ありがとうございます」
メイナードとの会話が終わり、ヴェルデは近づいてくるクレイに気がついた。
「師匠!」
「やあ、二人ともおめでとう。本当に良い式だった」
クレイはフフフ、と嬉しそうに笑う。
「ローラ様、本当におめでとうございます。あなたがこうして弟子であるヴェルデと結ばれ幸せになるのが嬉しい」
「クレイ様……」
「百年前、あなたにかけた魔法のせいであなたを苦しめてしまったと思いましたが、こうして幸せそうな姿を見ることができて本当によかった。長生きをしてみるものだ」
クレイは慈愛に満ちた瞳でローラを見る。
「クレイ様がかけてくれた魔法のおかげで、私はこうしてヴェルデ様と出会えました。本当にありがとうございます」
ローラがそう言って微笑み深々とお辞儀をすると、ヴェルデも同様にお辞儀をする。そんな二人を見て、クレイは目を閉じ、感慨にふけった。
「そうだ、君たちの祝福を授けよう。今の私にできることはこのくらいだからね」
そう言って、クレイは片手を空にかざす。すると空からキラキラと光が二人の周囲に降り注ぐ。光は二人を包むと黄金に輝き、細かい粒子になって消えていった。
「綺麗……!」
ローラは目を輝かせて呟く。
「素晴らしいな」
「さすがはこの国一番の魔術師殿の祝福だ」
会場にいた参列者も、その光景を見て目を輝かせる。そして、いつの間にか拍手が起こっていた。
「何かあったらいつでも訪ねてくるといい、力になるよ。もちろん何もなくてもいつでも遊びに来ていいからね」
クレイはそう言ってウィンクする。ローラとヴェルデは嬉しそうに微笑んで頷いた。
式が終わり、その日の夜。
「あの、ヴェルデ様、結婚したのですから、そろそろ私を呼ぶのに様をつけるのはやめませんか?それから敬語も……」
部屋で寝る支度を済ませソファに座っていたローラがヴェルデに言う。実はずっと気になっていたのだ。正式に結婚したのだから、そろそろ様も敬語もやめてくれていいのではとローラは思う。
「それを言うなら、ローラ様だって俺のことを様をつけて呼ぶじゃないですか。俺にやめろと言うならローラ様もやめてくれないと」
「そ、それは……私の方が年下ですし、まずはヴェルデ様が先にやめてくださればと」
「そしたら、ローラ様もそのうちやめてくれますか?」
ヴェルデの問いに、ローラはためらいがちに頷いた。それを見て、ヴェルデは少し考えてからふむ、と小さく呟く。
「わかりました。それじゃ、これからは様をつけずに呼びますね。よろしく、ローラ」
少し意地悪そうに微笑みながら、ヴェルデはローラの耳元でそっと言う。
(ず、ずるい!そんな言い方するなんて……それに、いざ呼ばれるとドキドキしてしまうわ)
ローラは自分の提案に、ほんの少しだけ後悔をした。ヴェルデはそんなローラの頬を優しく撫でる。
ローラが顔を上げると、ヴェルデは熱のある瞳でローラを見つめていた。
(そういえば、昨日……)
ヴェルデとの昨夜の会話を思い出し、ローラは心臓が跳ね上がる。
「ローラ、昨日言ったこと覚えている?」
「え……」
ローラは紅潮した顔でヴェルデを見つめ戸惑っていたが、しばらくして小さく頷く。それを見てヴェルデは嬉しそうに微笑み、ローラの頬に手を添える。
「愛してるよ、ローラ。俺の愛しい、大切な人」
そう言って、ヴェルデはそっとローラの唇にキスを落す。いつものように優しいはずなのに、どこか性急に感じられてローラは少し驚くが、ヴェルデはキスをやめない。そのままローラの体に手を這わせ、優しく撫で始めた。
「んっ」
ヴェルデはローラの頬や耳、首筋にもキスをし、舌で舐め上げる。ヴェルデの手の感触が艶めかしい。すべての感覚にローラの体は疼き、何かがせりあがって来る。
「きゃっ」
ヴェルデは動きを止めるとローラを抱きかかえてベッドまで運んだ。ローラを見下ろすヴェルデは恐ろしいほど妖艶だ。
「ずっとこの日を待っていた。ローラもそうでしょう?」
そう言って、うっとりした顔で優しくローラの頬を撫でる。ローラは、その色気にクラクラしながらも小さく頷いた。
「嬉しい。愛してるよ、ローラ」
ヴェルデは心の底から嬉しいと言わんばかりに微笑み、ローラへ覆いかぶさる。そうして、二人の熱い初夜が始まった。




