表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

13 『始祖』

 夜明け前の午前四時。

 海斗とフリッカ、そして茜は天高いバビロンの頂上よりも高い位置を飛行していた。


「しっかし、こんな骨董品よくまだ動く状態で整備されてたな」


 連続する爆竹音をあげるようにうなる二本のローター音を聞きながら、海斗は関心と呆れのないまぜになった表情で眼下に広がる海面を睥睨した。


「すごいでしょ、名前は忘れたけど自衛隊の置き土産らしくてね。辛うじて仕えそうだったのを回収、整備したんだって」


「ってことは軍用ヘリかよ。どうりでバカでかいわけだ」


「妹に感謝しなさいよ。これ、すんごい大飯ぐらいだから、そうそう飛ばせないのよ? それをこーんなに遠くまで飛ばせだなんて……」


 無茶するわ、と窓に視線を向けながら頬杖を突く茜。

 まだ薄暗い時間だ。

 見えてもだだっ広い海面だけだろうに視線を外そうとはしない。

 大方目を合わせたくないだけなのだろう。

 が、海斗としては聞いておきたいことがある以上、このままというわけにはいかない。

 フリッカは初めて乗るヘリに、なぜか椅子の下に収納されていた非常食のパックを興味深そうに眺めている。

 今なら目を離しても余計なことはしないだろう。

 そう判断し茜の袖を引く。


「おい、そろそろ説明しろ。なんでお前がついてくる」

 

 ちらりと視線だけ向けた茜は、まるで大本でも読むかのように答える。


「出発するとき言ったでしょ。あたしはこのきちょーなヘリをあんたがダメにしないか監視するためについていくの。まさか好意に預かっておいて文句は言わないわよね?」


「んな脅しみたいな好意があってたまるか」


 げんなりと肩を落とす。

 思い出すのは一時間前。

 スミスから将制の報告を受けとり、一体全体どうやって調べたのか膨大なデータに四苦八苦していた時のことだ。


 生い立ちから細かな癖まで、関係なさそうな個人情報の数々に、まさかこれも遠回しな嫌がらせなのではないかと思いながら、重要なものとそうでない物を選別し続けることしばらく。

 居場所の最有力候補を知った海斗は途方にくれていた。

 旧近畿地方奈良県中心部。


 直線距離にして一五〇キロもある遠方だ。

 塔間同士は比較的安全な航空経路が確保されているが、そこから外れればそこはすでにゲマトリアが闊歩する危険地域。

 人間社会が幅を利かせていた名残すらない未踏破地域となる。


 身一つでやってきた海斗にそんなエリアに行ける足があるはずもなく。

 かと言って歩きで行けば時間がかかる云々以前に命のストックが一〇はいる。


 途方に暮れているところに救いの手を差し伸べたのが、ローター音をがなり立てロープで緊急降下し現れた茜だった……というのが事の成り行きだ。


「そんなことよりそろそろ叔父様がやろうとしていることを教えてくれない?」


「ヘリの整備員さんにわざわざ話す必要があるのか?」


「あら? 別にここで引き返してもいいのよ?」


「訂正、好意みたいな脅しはやめろ」


 理屈と正論で武装して来る相手なら何とでも言いくるめる自信はある。

 だがこうも有無を言わさず、思考より感情に任せる相手は苦手とする人種であった。


「別に話してくれなくてもいいけど、あたしは最後までついていくつもりだからそのつもりで。あ~もし不慮の事故とかあったらどうしよう。でも仕方ないわよね。だって何も知らなかったんだもの」


「ぐっ」 


 しかも都合のいいところだけ筋を通してくるのだからたまらない。

 こういう相手を強かとでもいうのだろうか。

 

「たく、なんのために突き放したと思ってんだ」


 どうにも調子が狂うと思いながら、ローター音にかき消される呟きをもらした。

 気分的には詐欺師か占い師の甘言に振り回されている感覚だ。

 もしくは達の悪い悪女に捕まった男、といったところだろうか。

 密かに破天荒で扱いやすいという茜の評価を改めることにした。


「つくまでしばらくあるしな。その間でいいなら」


「……勝った!」


 ため息交じりに譲歩する。

 するとはじめて窓から体を離した茜は胸の前で両手を握りガッツポーズを決めた。

 

「あぁ?」


「銀河から聞いたのよ。昔の兄さんは意地っ張りのひねくれ者だけど、押しに弱くて恩をあだで返せない人だった。とにかく強気で主導権(イニシアティブ)を取れば先に折れるってね。こんなにうまくいくと思わなかったけど~ザマァ」


「……」


 評価を改める。悪女はどうやら自分の妹の方だったらしい。


            ※


「結局、叔父様はなにを企んでるわけ?」


 茜は開口ひと言目から核心をついてくる。

 どうやらさっきまでの演技はもう続けるつもりはないらしい。

 そのことに内心ほっとしつつ答えた。


「お前も調律師の質は今より昔の方がよかったことは知ってるよな?」


「なによ藪から棒に。まぁそれくらいは当然知ってるけど」


 訝しげ長柄、説明するうえで必要なことと判断したのか、「ん~」と下唇に指を当て言葉をまとめる。


「昔は今より科学技術が発展していなかった。今じゃ当たり前のことも昔は摩訶不思議な現象で、それらに対抗する手段として退魔の技術が発達したのよね?」


「ずいぶんざっくりしてるけど、まーそんなところだ。付け加ええるなら術や祈りといった神事も当時は『科学』の分野だったからっていうのもある。代表的なのは錬金術だ。今でこそ原子構造が解明され、石から金は作れないことはわかっているけど、当時は水銀や賢者の遺灰を触媒にすれば作り出せると本気で考えられていたからな」


「そう聞くとすごい時代よね……」


「でもバカにできないぞ? 天文学、物理学、心理学。すべての学問の元をただせば、だいたいそう言った怪しげな術の研究データの蓄積が基礎になっていることが多い。しかも中には現代科学ですら解明できない技術だって多くある。そう言った手探りで探った先人の知識を受け継ぐことで、人間は蒙昧な世界の闇を少しずつ切り開いてきたんだからな」


 よく人類はすべての生物の中で最も優れた脳を持つといわれる。

 だがこれには語弊がある。

 たしかに脳の容量では群を抜くが、単純な脳と体格の割合で言えばイルカの方が優れているし、人間にはできないコミュニケーション手段を持ち複雑な社会構造を作る者もいる。


 要するに、人間が賢い生き物たらしめているのは、社会構造の中に知識を蓄積し共有する術を持つゆえだ。

 そういう意味で過去の技術というものは、どんなに突拍子のない物でも無視できない宝と言える。

 例えばだ、と海斗は鉄板に阻まれ見えない回転するローターを見上げる。


「身近なところで行くと日本刀とかだな。鋼と鉄という性質の違う金属を合わせる多層構造は、ローターみたいに強度が必要な現在技術にも使われている。それだけでも驚きだが日本刀は鎌倉時代に絶頂期を迎え、以来刀剣の質は劣化していくんだ。つまり古刀ほど最新技術ってことになる。そんなものを科学の知識もない人間が経験と勘だけで理解し作ってたわけだから、マジ物のオーパーツだよ」


「ふーん。で? それがどうしたの?」


「………………もうちょっと興味持てよお前」


 せっかくの熱弁に冷めた反応をされてがくんと肩を落とす。

 どうやらこの手の職人すげぇネタは女性には共感されないらしい。


「つまり過去の技術が現代技術に劣るとは限らないってことだよ。将制が調べていたものはそんな古く廃れた技術の一つだ」


「廃れた、技術?」


 茜はピンと来ないのかオウム返しで言葉を繰り返す。


「地脈干渉型多重包囲陣っていうんだとさ」


「……たじゅうほうい? な、なんて?」


「俺も専門じゃないから詳しくないけど、地脈にある無尽蔵のエネルギーを利用して半永久的に疑似的に作り出した別次元空間に閉じこめる。簡単に言えば封印技術らしいぞ」


「地脈を利用って、いやいやいや! なにそのトンデモ技術!」


 地脈とは、別名『星の源流』と呼ばれる生命の循環機関である。

 すべての生命は死ぬと同時にこの流れに帰り、生まれる際に一部を拝借する。

 いわば生命の滴だ。

 海流のように循環する地脈は無尽蔵のエネルギーと言って過言ではない。


 そして、この星に生まれた生き物である以上間違いなく地脈から生まれていることとなる。

 絶対にエネルギー量では叶わないのだ。

 それを利用し生物を封印するのは理論上では理に適っている。

 とはいえ机上の空論であることは否めない。


 四十六億年を生き続けたエネルギーの源だ。

 そんなものに地上を一〇〇年程度しか生きられない人間がどうこうできるわけがない。

 もし触れようものなら……飲み込まれる。

 濃い食塩水と薄い食塩水を混ぜるように、自我すら保てず一瞬で染められてしまう。


「そんなものにどうやって干渉するのよ?!」


「だから知らねぇよ。詳しくないってさっきも言っただろ。でも実際あるんだから今は細かいことはどうでもいいだろ」


「そんな滅茶苦茶な……」


 投げやりすぎる物言いに開いた口が塞がらなくなる。

 別に学会発表をしたいわけではない海斗はそんな茜をほっておいて続きを語りだした。


「んでこの封印を組み立てるのが五つの地脈が顔を覗かせ点を結んだ五芒星だ」


 海斗は旧日本地図を広げる。

 大きく星マークの描かれた五つの頂点は、今はない有名な神社の名前が記入されている。


「詳しいことは混乱させるからはぶくけど、特定の場所に聖地を形成し、それらを点に描いた五芒星、その中にできる五角形にまた五芒星を描きまたその中に……そうして描いた多重包囲陣に魔を封じ込める、つー意味を込められているらしい」


「ん、ん~わかるようなわからないような……」


「だから理屈を理解する必要はないって。ぶっちゃけ、これを解読するだけで人生終われるくらい難解なものらしいしな。俺たちが重要視すべきは――これほどの大規模封印にいったい何が封印されているのかだ」


 海斗のひと言に、茜はパチクリと瞬きを繰り返し、地図上の五芒星を見下ろす。


「封印されている何か? これに??」


「当然だろ。まぁ素直に解釈すれば、昔の調律師ですら討滅つしきれず、やむ終えず封印したゲマトリアってことになるわけだが」


「ちょ! ちょっと待ってよ! まさか叔父様はそいつを」


「復活させようとしてる、のかねぇ。やっぱり」


 さすがにげんなりした調子で、海斗は乾いた笑い声をこぼす。


「それでも救いを求めるなら、コンコルディアが観測した局所的災害が始まりのゲマトリアによるものじゃなくて、こいつの影響が有力になったことかな」


 何気なく呟いた海斗に、今度こそ茜は動揺をあらわにして詰め寄った。


「待って! 今あなたなんて言った!?」


「え? いや、だから始まりのゲマトリアが――あれ? もかして、まだ俺が第二バビロンに来た理由とか話してなかったけ?」


「聞いてない! 全く聞いてないわよ!!」


 取り乱す茜はこの時はじめて自分が死地へ向かっていたかもしれない事実に青くなる。


「どうして始祖(アーケオ)ゲマトリアなんてものが出てくんのよ!!」


 その名は多くの人にとって最も聞きたくない単語の一つだ。

 始祖が持つ〝纏い〟が起こした大災害。

 それこそ世界を殺した災害――大粛清である。


 たった十柱で世界規模の天災をおこし、それに引っ張られる形で数千、数万のゲマトリアをこの世に呼んだすべての始まりゲマトリア。

 一柱いれば地図から陸地を消すくらいの芸当は平気でやってのける正真正銘の化物である。


「ひと月前の話しだよ。第二バビロン周辺で巨大なハリケーンが観測された。その規模が自然発生にしては異常なレベルだったからな、コンコルディアは始祖の疑いありってことで俺を派遣したんだよ」


「どうしてそんな大事なことを隠してたのよ!」


「隠してたわけじゃないんだけど……話してたとして、どうするつもりだったんだ?」


「当然戦う準備をするに決まってるでしょ!」


 噛み千切る勢いで捲し立てる茜に海斗はただ嘆息した。


「だからだよ」


「え?」


「あれは戦って勝つ負けるの敵じゃないんだ」


 実感のこもった口調に茜は押し黙る。

 理屈ではわかる。世界でまだ二柱しか倒されておらず、八柱も残った始まりにして人類最大の敵。

 その討伐した二柱も北米大陸に現れたためアメリカ軍と数多くの調律師が死力を尽くしたからに過ぎない。


 しかも結果だけ見れば勝利であるが、実際はアメリカ軍の九割を消失。

 さらに多くの調律師が犠牲となったことで、点在する塔の防衛力低下の遠因に繋がっているのだから、この戦いを『勝利』と言い切る者はいないありさまである。

 海斗に言わせれば、戦おうとしていること自体が現実を見えていない。


「あんた、随分始祖について詳しいのね?」


「あぁ? そうか?」


「そうよ。なんか知識以上の深みって言うかさ…………見たの?」


 その質問に思わずフリッカを見る。

 興味の対象が操縦席に移ったのか、電子機器に目をキラキラさせている。

 そんなフリッカに運転席の操縦主も、下手なボタンを触らないかハラハラしつつも微笑ましそうに計測器の説明していて実に楽しそうだ。


「ああ、見たよ」


 クッと茜の喉が鳴った。


「……教えてくれない」


「言っとくがもし相手になるとしても始祖じゃない。説明しても意味はないぞ?」


「でも同クラスのゲマトリアなんでしょ? なら知っておいて損はないわ」


 訴える目はすでに恐怖に揺らぎ始めていた。

 仕方ないだろう、始祖と言えば誰しも危険な存在と刷り込まれる恐怖の代名詞だ。


 しかし、実際に見た者は少ない。

 その理由も出会った者がほとんど死んでいるからに他ならない。


 だからこそ想像の中で恐怖は肥大し、個人個人でイメージに差違が発生することは多々ある。

 実際に襲われたことのない日本ではなおさらその傾向が顕著なのだろう。

 数瞬話すべきか悩み、決めるのは茜かと割り切って口を開く。


「先に言っとくぞ。俺はこの話を何度もしてきた。そのたびに言われるのが、想像のほうがまだマシだった、だ」


「え?」


 絶句する茜をおいて海斗は話し始めた。


「茜の知る始祖ってどんな存在だ?」


「え? そりゃ、一歩ごとに大地を割り、その咆哮でビルが吹き飛び、〝纏い〟は『大粛清』を呼ぶ、でしょ? 有名な話だけど」


「ああ、そんな感じだろうな」


「違うの?」


「違う。そもそも大きさだけなら現生種のほうが大きいぞ。〝纏い〟は……間違っちゃいないけど、そのイメージはどっちかと言えば竜種だな。……現在確認されて討滅されていない始祖は八柱。そのうち俺が見たのは《鉄の竜》と《火の竜》の二柱だ」


「二柱も会ったの!?」


「ああ、不幸にもな」


「よく生きてたわね」


「そっちは幸運だったな。――ひと言で言えば無茶苦茶なんだよ。通常ゲマトリアの〝纏い〟は風やら火やら雷やらと自然現象に依存するだろ? で、広範囲になろうとその影響範囲は半径一〇キロかそこら、広くても半径二五キロがいいところだ。ちょうど塔をすっぽり覆うくらいだな」


「うん、幻獣種とかのことよね?」


「ああそうだ。でも始祖のそれは規模が違う。《鉄の竜》は半径五〇キロ、《火の竜》にいたっては半径二五〇キロの範囲に影響を出すぞ。ちょうどワシントン州くらいの範囲だな」


「にひゃ――ッはぁ?!」


「これでも狭いほうだぞ? 一番範囲の影響半径を持つ《氷の巨人》はユーラシア全域に影響を及ぼすらしいからな。……んで〝纏う〟ものだが」


 茜が唾を飲み前のめりになる。


「……………………………………………………よくわからん」


 そのまま椅子に倒れ伏せた。


「ちょっと! ここまで引っ張っておいてそれはないでしょそれはッ!」


「仕方ないだろ。確かに《火の竜》は南極の氷を溶かしきるほど気温をあげて、《鉄の竜》は周辺地域の磁場を狂わせたけど、そんなものは副産物なんだ。もっと近く、本体が見える位置まで近づくと、もはやそこは地球じゃなくなってる。あえて言うなら――」


 一拍置き言葉を選ぶ海斗。


「天変地異を纏っているとでもいうべきだろうな」


「天変……地異?」


 言葉にできない。

 おそらく、それが始祖の全貌が人によってまちまちな理由の一つなのかもしれない。


「でも真に恐ろしいのはそこじゃないんだ。怖いのは……始祖はその〝纏い〟を切ることができることだ。それこそ、スイッチをオンオフするようにな」


 一瞬、どこが問題なのか眉をしかめる。しかし次の瞬間目を見開いて口元を抑えた。

 海斗は一度頷き続ける。

 

「ゲマトリアにとって〝纏い〟は呼吸と同じだ。コントロールできても一生涯離れることがない。だから近くに来れば天候の変化で早期発見しやすいし、塔はその対策に乗り出せる。だが、始祖にはそれが通用しない。だから接近に気づけないんだ。気づかないまま駆逐される。塔ごとすべての人間が瓦礫に飲み込まれるんだ」


「で、でも今回は気づけたじゃないッ!」


「ああ、だからこの塔は運がいい。まだ抗うチャンスがあるんだからな」


「そんな……」


「安心しろ。さっきも言ったが今回の相手は始祖じゃない。まだ救いはあるさ」


「それ、フォローなってないから」


 始祖でないにしろ始祖クラスであると言外に語られ頭を抱える。

 ――竜種。

 もし敵となる相手として最も可能性のあるのはこいつだ。


 世界に数十体しかいないゲマトリアの頭。

 始祖が無差別に暴力を振るう最強のゲマトリアなら、竜種は明確な人類への敵意を持つ最凶のゲマトリア。

 破壊された塔も多く、情報量も始祖と比べればはるかに多く具体的だ。


 だからこそ、たった三人で挑むことがどれほど絶望的かもよくわかってしまう。

 肩を落としついてきたことをわずかに後悔する茜。その時だった。


「カイト、もうじき到着するらしいぞ。降りる準備をせいとのことじゃ」


 フリッカが運転手からの言伝を伝える。

 どうやら話し込んでいるうちにずいぶん時間がたっていたらしい。


「おら、お仕事の時間だ。シャンとしろシャンと」


 すっかり元気をなくした茜の頭に手を置いた海斗は、乱暴な手つきで撫でまわす。ただほとんど鷲掴みにしているため、アイアンクローの頭版のようにしか見えない。


「ちょっ! 痛い痛い! 頭皮を引っ張るな!」


「はっはっは! 今度は怒り出したぞ。お前ホントいい反応するよな。んじゃ、ついてきたからにはビビッてないでしっかり働けよ」


「こんのっ! 小バカにして! ていうか誰がビビってるですってコラァ!」


 やいのやいのと、最後まで喧しい二人を見つめていたフリッカは、楽しげだった表情をふくれっ面にしてひと言。


「……もしやこの和牛。敵か?」


 いったい『誰』にとって『何の』敵なのか。答えを聞くもはこの場にはいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ